ダンジョン深層住みです、いつからかは忘れました   作:蓮太郎

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第18話 悲しみは忘れられていた

 

 探索者達は自身の最期を察した。

 

 身を屈めて迫り来るはずの熱と光から本能で身を守ろうとした。

 

 自分達ではどうしようもない運命に抗おうとはしなかった。

 

 それなのにどうだ、いつまで経っても熱は襲い掛かってこない。風は吹き荒れるが、身を焦がすような苦しみは覚悟していても何も起こっていない。

 

 いったい何故なのか?かといって目を開けようとすると未だに閃光が走り続けているため確かめることすら出来ない。

 

 だが、薄っすらと見えるものがある。それは緑色っぽい人形の姿である。

 

 あの蒼い太陽を落とした張本人かもしれない。そう思うが、無差別に攻撃してきた人形を信用するわけにもいかない。

 

 ここがダンジョンである故に、どこかに人を貶める罠や殺すためだけにいる獣が居るように、何らかの悪意が働くのは間違いないのだから。

 

 風が緩やかになった時、堕ちた太陽の炎が収まったと考えた探索者はようやく目を開くことが出来た。

 

 そこに立っていたのは緑と黒のカラーリングをした鉄の人形、いや、よく見るとかつて漫画やアニメで流行ったような人型等身大パワードスーツのような風貌だった。

 

 探索者達の目の前に背中を見せ、副碗と両腕から何やら透明な壁のような物を張っていた。

 

 これが探索者達の運命を分けたのだ。全員を守るためのシールドのような物で核爆発から身を守ったのだ。

 

 元より、あのパワードスーツ自体が爆発を耐えられない設計であろうはずがない。でなければわざわざ自分すら巻き込まれかねないモノを使う必要はないのだから。

 

 ようやく風も収まり周囲を見渡す余裕が出来た。

 

 やはりというか当然というか、地面はガラスのように溶け、モンスターの肉やら血やらが溶けて蒸発したようなにおいが充満する。

 

 それは、前方からだけでなく彼らの横からも臭っていたことに気づくのは目の前にいるパワードスーツから何か聞き出すまで、この状況がどうなって発生したのか理解するまで分からないだろう。

 

「あ、アンタは何者なんだ?」

 

 ようやく口にできた言葉がこれである。丁寧さのかけらもなければぞんざいな口ぶりしか出てこない。

 

『助けられて第一声がそれか。ダンジョンを潜る者として犠牲を出しながら謎を解き明かそうとする姿勢は認めよう』

 

 呆れているような声質だが、男らしいパワードスーツは副腕を背中に畳み込むように仕舞い振り返る。

 

 無機質に光る目の部分から感情は読み取れない。

 

『端末を貸せ。まだ繋がってるんだろ?』

 

「え?」

 

 ここまで探索者達はある事を忘れていた。地上で中継している以上、配信もしくは通信は繋がりっぱなしで状況が常に筒抜けであったことを。

 

 この光景は会場で直接放映されてないだろう。大量の人間が成す術なく喰らい尽くされるシーンを延々と映し出すわけがないのだから。

 

 だが、スタッフはどうだ?もしかしたら個人で配信している者も生き残りにいるのかもしれない。

 

 色々と悲惨な映像を見せられてさぞグロッキーになっているだろう。

 

 それ以上に悲惨な光景が横に、シールドから逸れたところにある事にようやく気付いた。

 

 命の危機が去ったからこその気づき。近くにあるはずの地獄から目を背け続けていたが、遂に顔を目の前の人形から横へ向くことが出来た。

 

 太陽の爆発から身を守られなかった仲間が辿った末路を、焼け焦げて原型しか残っていない人間の姿を、見てしまった。

 

 一瞬、脳が理解を拒んだ。これが自分の末路だったのかもしれないと考えると震えが出る。

 

 そして、目の前のパワードスーツに身を包んだ男は何故自分を含む数人のみを助けたのか?

 

『何故、他の仲間を見殺しにしたのか?と言いたそうな顔だな。本来ならどっちでも良かったんだが、気が変わった』

 

 マスク越しから直接声は伝えられないのか、スピーカー越しに聞こえるような音で伝えてくる。

 

『この深層に長い時間居たが、このようなことは滅多に起こるようなことじゃあなかった。このような大規模なモンスターハウスは今までで二回目だ』

 

 男はそう言い切った。かつて過去にこのような惨劇が起こったのだと知った口ぶりのように告げてくる。

 

『最初はただ単純に上へ上がろうとして。そして今回はあれだ、恐らく栄養を取りたかったんだろう』

 

「え、栄養って」

 

『地上へ出るための足掛かりだ』

 

 ひゅ、と誰かが息を吞んだ。

 

『残念ながら俺はモンスターの生態に詳しい訳じゃない。専攻は科学だからな。だが、長いこと見てきたからこそ言えることがある』

 

『残存勢力、1。逃走したため戦闘を終了します』

 

『ちっ、やはりあのクソキメラ生き延びてやがったか。全く、どこまでもしぶとい…………』

 

 女の自動音声に一度会話を切り悪態をつく。

 

 あの爆発の中で生き残れたのかという驚きは探索者達の中にあったが、男にとってはよくある事のように処理された。

 

『話の続きだ。深層のモンスターはこれより上の階層のモンスターと違って外に出ることは出来ない。しないんじゃなくて出来ないんだ』

 

 念を押すように男は言う。それは探索者に向けてというよりも、その胸に取り付けてあるカメラに向かって喋っていた。

 

『そこについては正直俺も分からん、が俺はその件に関わっている。そこで俺が何故、深層にいるかの話だ』

 

 凄惨な現場でゆったりとうろつくパワードスーツの男。だが、それは突然始まった地揺れで中断される。

 

 広々として地獄絵図となった空間が収縮していく。役目を終えたとばかりにガラスのように溶けた地面は元の姿へと再生し、焼け焦げ溶けたモノはダンジョン内へ吸収されていく。

 

 そう、モンスターだけではない。死肉となり核の炎で焼かれた人間も、身に着けていたはずの鎧も吸収されていく。

 

「ま、待ってくれ!持って行かないでくれ!」

 

「遺品すら残さないというのか!?」

 

『それがダンジョンだ。本来なら時間をかけて全て吸収していくんだが、今回は大人数で入ったことによるモンスターハウス化の罠、というべきか。それを急速に直すのだから死んでるものは全部吸収されるだろう』

 

 諸行無常、生きとし生けるものと文明の手によって生まれたものは大地へ還る。そう言わんばかりにダンジョンは元の状態へと、全てを無かったのようにするよう全てが消えて小さくなっていく。

 

 ダンジョンで落とし物があれば儲けものみたいな風潮があるのはこのためである。

 

 本来ならすぐに消えるということは無いのだが、今回の場合は急速に元の状態に戻すための処置であるためこのように死んでいるものは全て吸収されてしまうのだ。

 

 ゴゴゴと地面も上方にあった入口のところまでエレベーターのようにせり上がっていく。

 

 ずん、と重い音と共に部屋の収縮が終わり、そこに広がるのは最初に想定されていたダンジョン深層の入り口であった。

 

『はっきり言おう、現状ではお前たちはこうなるしかない。隠密という手段でここを探索するのはいい手段だとは思った。だが、モンスターに挑むには、あまりにも地力が無さすぎる』

 

 そう言いつつ男は生き残った探索者を指をさす。

 

『武器が揃ったからなんだ?防具が揃ったからなんだ?それを上手く使えるかどうか、そしてモンスター共を切り倒すそもそもの力すら足りていない』

 

 そして、その指は消えていった人間の死体があったはずの場所をさす。

 

『だから、ああなった』

 

 ここで力が無ければ死ぬ。自然の摂理を説くように冷たく、厳しく言い放つ。

 

「お前は、こうなるかもしれないと、知っていたのか?」

 

『お前たちの大半が死ぬ、ということなら知っていた。知らなかったのは小出しにするはずが、一気に全員行ってしまったことだ』

 

「死んでも、よかったということか?」

 

『後始末さえできたらよかったからな』

 

「お前は…………お前は人を何だと思ってるんだぁあああ!」

 

 現実を認められなかった、そして理不尽にも力を持つ者が非協力でモンスターを倒すために仲間を巻き添えにしたことを許せなかった探索者は愚かにも手に持つ棍棒でパワードスーツを叩きつけた。

 

 ガッ、という音が小さくなった通路に嫌に響く。

 

『この程度の力で傷がつくとでも?』

 

 もちろん、全く効いていない。それどころか棍棒を掴み振り払い、逆に棍棒を奪ってしまったではないか。

 

『せめて、これくらいを、素手で出来るようになってから来るんだな』

 

 ぐしゃりと両手で棍棒を潰し、そして球体に丸めてから殴りかかってきた探索者に押し渡すように返す。

 

『帰れ、そして伝え続けろ。もうかつての恐怖を伝える人間は地上に居ないだろう』

 

 男は探索者達に背中を向けた。そして、天井に当たらないよう低く飛びながら最後に言葉を告げる。

 

『モンスターがいずれ地上に溢れ出るかもしれない恐怖を。そして、備え続けるんだ』

 

 

『俺が、俺達(・・)が間に合うかどうかは分からないからな』

 

 

 生存者、4名。その他96名、死亡及び行方不明。

 

 階段近くに設置してあった表面が溶けた箱には、何も入らなかった。

 




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