ダンジョン深層住みです、いつからかは忘れました   作:蓮太郎

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第19話 祭りの後の天上の話

 

「では、これより今回の深層探索失敗について会議を行う」

 

 深層から探索者が這う体で帰ってきてから数時間経過し、とあるビルの一室で会議が開始された。

 

 ここに集まるは探索者達をまとめる上層部、それもさらに上の幹部や会長といった重役ばかりが勢ぞろいしている。

 

 円卓を囲むように10ある席に7人が座っていた。

 

「欠席の3人は件の配信の火消しを行っている。ここに我々が集まれるのは3人が頑張っているからであり、無断で休んでいるわけではないことを心に刻んでおくように」

 

 そう、深層攻略で亡くなった者も生き延びた者もそれぞれの配信チャンネルで生配信していたのだ。

 

 生々しく映し出された死、モンスターに捕食される視点の恐怖、そして生き延びたはいいが晒してしまった無様な醜態。

 

 式典の会場には直接放映されなかったが、ネット上で確実に最悪な雰囲気で炎上が広がりつつあった。

 

 下見が甘かっただの、大量の死者が出ただの、注目していた物が大変グロテスクな催し物になっただの。

 

 そして、あの緑と黒の人型兵器は何なのかという問い合わせが殺到している。

 

「まさか、ダンジョン内での核攻撃を見ることになるとは」

 

「公式な記録ではアガリカの大規模ダンジョンに対しての核攻撃が最後でしたな。それでも150年以上前のことですな」

 

「あの技術、やはり欲しい…………」

 

「やはり、奴はモンスターなのでは?少なくとも、あの所業が出来るものを人類と認めることは出来ん」

 

「奴は明確に味方ではないと。だが、行動原理は人類を守るソレだ。そこを突けば引き込めるかもしれん」

 

 会議というよりも感想会、それも反省ではなく組織を強化するためにかの男をどうするかと言ったような話し合いである。

 

 あのパワードスーツらしきものを着た男は、声紋から坂神あかねを救出した『深層に住んでいる男・ケン』とほぼ一致していた。

 

 ボイスチェンジャーを使っていれば前提は崩れるが、今はそういうことにしている。

 

 そうでなければ日乃本の大規模ダンジョン深層に怪物が二人いることになってしまうのだから。

 

「奴の危険性を確認できたことが大きな収穫と言ったところか」

 

「ただ、100人近い犠牲は大きかったですな」

 

「帰ってきた探索者も放射線で汚染されていて未だに除染作業中。危険とはいえ殲滅に合わせた最高の道具でしょう」

 

「事実、生物の殆どが放射線に汚染されてしまえば良くも悪くも影響してしまう。やはり、規制はするべきなのか?」

 

「回収できるなら回収したい所。あれを量産できれば戦力にもなる筈だ」

 

 出来もしないことと理解しながら彼ら彼女らは話し続ける。

 

 あの男が持つ技術力は計り知れない。元々深層のダンジョンから加工したと思われる武器を常日頃振るい、そして殲滅となれば危険ではあるものの人員を使い捨てとしたなら充分な成果を持ち帰ることができるだろう。

 

 ダンジョンという魔境を踏破するにはそれくらいの犠牲は許容範囲と言わんばかりと彼ら彼女らは勧めている。

 

「そこまで」

 

 それまで一言も喋っていなかった女性がぱん、と手を叩き皆を静かにさせようとする。

 

 鶴の一言とはまさにこの事。たったそれだけの言葉と動作で会議室は静まり返る。

 

 言葉を発したのは女性だった。他の人間はそれなりに年を取り老いが見えているというのに彼女だけ妙に若々しい。20代後半のような、最近子供を産んで貫禄が出来た母親のような印象を持つ美女だった。

 

「今回の件で一番の問題は、今生きる人たちがダンジョンに対して危機感が無いということでしょう?」

 

 にこやかに話すその声は、離れているはずなのに素直に耳に入ってくる。

 

「ダンジョンが生まれて今日で200年、長い年月が経ったの。当時の惨劇を覚えてる人はもう亡くなって、過去の映像と言う安全な悲劇しか知らない人だけが残ったのが原因なの」

 

 ゆっくりと、要所で区切りながら彼女は話す。

 

「やってしまったものは仕方ないのだけれど、再び人類はダンジョンの恐怖を思い出したと思うの」

 

 にこやかに笑いながら恐ろしい事を言う。幹部の人間は心の中でそう思うが決して表情には出さなず無表情で見守る。

 

「ダンジョンでの死亡、行方不明率は年々下がる一方。それは安全な探索方法をおおまかに確立しただけであって、実際は本当に危険な場所に手が届きにくくなっただけなのだと思うわ」

 

 いつ用意したのか分からないが、円卓の中心にある空洞から空中にホログラムのような映像が映し出される。

 

 そこに映し出されるのはここ100年間で探索者となる人数の推移とダンジョン内での死者数であった。

 

「この通り、探索者は増えていく一方で死者は少しずつ減ってるの。過去から恐怖を学んだことで学習したからよ」

 

「ですが、今の時代の人間はそれを忘れてしまったと」

 

「そうよ。その結果が今回の事件。まあ、大規模な集団で行くこと自体が初めてなのだから仕方ない犠牲ではあったけど」

 

「この件、他国から様々な苦情が寄せられています。特に、ダンジョン深層のものを取りづらくするなと」

 

「死者が大量に出たからかしら?元々、ダンジョンは死と隣り合わせの世界なのだから現実を見れただけいいじゃない」

 

 死人が出ているにもかかわらず、ダンジョンに対する認識を多少改めてくれたらラッキー程度の精神で彼女は話し続けていた。

 

 しかし、そこには嫌味のような不快になりそうな要素は無かった。初めからそう認識していたとばかりに、呆れたような溜息を吐いた。

 

「最初から反対したのよ?上手くいく保証はないというのに」

 

会長(・・)。現時点で探索者の装備は既に最上級のものでした。だからこそ失敗はあれどここまでの大失態を犯さないと予測していたのです」

 

「言い訳したい気持ちは分かるのだけれど、こればかりは結果よね?」

 

 幹部が発した言葉を一刀両断し、会長と呼ばれた女性は続ける。

 

「装備自体はそれなりに通用するものだったと私も思ってるわ。ただ、一つだけ足りないものがあった」

 

「あのような罠があるという情報でしょうか?」

 

「いいえ、単純な力よ」

 

「あそこに集まった探索者は全てこちらの審査を通過した一流です」

 

「あの映像を見たでしょう?深層の鉱石で作られた棍棒を一秒も満たさない内に鉄屑に変えた腕力を」

 

 その言葉で彼ら彼女らは思い出す。

 

 愚かにも救ってくれた者に攻撃を仕掛け、無傷かつ逆に武器を奪い取られ使い物にならなくなった顛末を。

 

 あの棍棒でも相当な耐久力があったはずだった。それを一息で潰せるのは常軌を逸した腕力でしかないのだ。

 

 だが、あの男はやり遂げた。パワードスーツの力を用いていたとはいえ、紛れもなく鉄球のような鉄屑へ潰してしまったのだ。

 

 パワードスーツか生身の力かはこの際問わない、あれくらいを簡単に出来なければ深層では生き延びることは出来ないのだ。

 

「最初から力を持たない者が入ってはいけない領域だったの。少なくとも、今はね」

 

「それはそうですな。となると、深層に入るのは禁止にした方がよさそうですな」

 

「いや待て、今禁止にすると深層の鉱石が手に入らなくなるのは困る。せめて制限にするべきだ」

 

「隠密ならまだ目はあるでしょう?だから一定の潜伏技巧を持つ人は通して、超人的な力を持つ人間を通す。いわば超人を発掘できたらラッキー程度で資源の回収だけ専念させたらいいんじゃない?」

 

「あの男のような力を持つ者は然う然う居ないでしょう。ダンジョン深層に入るために制限を付ける、この方針で皆よろしいですか?」

 

 幹部の言葉に否定する者はいなかった。

 

 ただ静まり返ってしんとした空気がしばらく漂う。そして反対意見が出ないことを確認して司会役の幹部が口を開く。

 

「では、あの男への対応は」

 

「手を出さないように」

 

「どうしま…………はい?」

 

「アレには手を出さない。余計なちょっかいはこちらからかけない」

 

「ですが、既に顔を世界に知られています。何者なのかと海外からの問い合わせも少なくありません」

 

「そうです。我々も奴の装備や超人的な力を解析できれば深層も」

 

「ダメよ。アレに手を出すのは許しません」

 

「しかし」

 

「これ以上の話し合いは、無意味よ?」

 

 会長はにこやかに笑い続けている。だが、その全身から発する圧はすさまじく、海千山千の幹部達でも背中に冷や汗をかいてしまうほどだった。

 

「さあ、次の話をしましょう?具体的には全世界に愚行を晒した愚か者のことを」

 

「あ、ああ。生き残った探索者の話ですな」

 

 圧から逃げるように無理矢理にでも話を逸らす必要があった。

 

 可能な限り話を蒸し返さないように、会議は進み続ける。

 

「…………頑張ってるのね健五くん」

 

 その呟きにすら、追及は許されなかった。

 

 




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