ダンジョン深層住みです、いつからかは忘れました   作:蓮太郎

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第24話 腕を喰らうは常識か?

 

「かなり広い、実家の近くとは大違いだ」

 

 ダンジョン内へ入っても少女はキョロキョロと周りを見渡す。

 

 田舎や地方のダンジョンの通路は人が3、4人ほどが通れるくらいのもので薄暗く、場合によっては光すらない真っ暗な空間であることもあった。

 

 ここはそんなちんけなダンジョンとは別格だった。光は全く入っていないはずなのに視界は月明かりに照らされているように明るいし、それ以上に通路も10人が通れるくらい広いため大きな武器も簡単に振り回すことだって出来る。

 

 少女の武器は大振りするものではないので特に意味はなさないが。

 

「まだ初めてのところだし、軽く回れたらいいな」

 

 鞄から自分が愛用している武器を取り出し、カリカリと地面に引きずるように引っ張りながら歩いていく。

 

 以外にも、その音がモンスターを引き寄せる。浅い層で出現するモンスターの思考が単純なのはどこでも変わらないらしい。

 

「ゲゲゲッ!」

 

「ゲヒッ!」

 

「うわ、小鬼型じゃん。こいつら本当に弱いくせに群れるから嫌いなんだよねー」

 

 生理的に受け付けることが出来ない鳴き声を出して現れるのは、どの物語でも定番な緑肌の醜悪で鼻の尖った小鬼である。

 

 一体どこで何を間違えたらこんな生物が生まれるのか?それくらい訳の分からない生き物である。

 

 全体的に嫌われている生き物ではあるが、稀に数が尋常じゃないほど増えることがあるので見つけたら駆除を推奨されるモンスターの一種である。

 

 数の暴力で襲い掛かってくるとはいえ、結局は成人男性平均身長の腰くらいまでしか身長は無く、持っている者と言えば基本的に棍棒で思いのほか致命傷の負いにくいものである。

 

 稀にサーベルのような物を持っているが、何故か刃こぼれしており質もかなり悪いためこれも鈍器くらいにしかならない。

 

 それも分からないくらいゴブリンは知能が低い。ダンジョンのゴブリンというのは数の暴力でしか力を示すことが出来ないモンスターなのだ。

 

「邪魔」

 

 放たれた二文字と共に少女が持つソレから強く突きが放たれる。

 

 少女が握っていた物、それは細く鋭い針を大きくしたもの、つまりレイピアだった。

 

 鋭く尖ったそれは吸い込まれるようにゴブリンの目玉に突き刺さる。

 

 悲鳴を上げる前にグリッと先端を回すように手元を捻る。それだけで深く突き刺さったレイピアがゴブリンの脳を的確に混ぜる。

 

 もはや悲鳴は上がらない。文句が無いくらいの即死技を放たれたゴブリンの1匹は息絶えた。

 

「よし次」

 

 目玉に刺さったレイピアを引き抜き、何が起こったか分からないような間抜け面を晒すもう1匹のゴブリンに、先ほどと同じようにレイピアを突き出す。

 

 驚いたのか咄嗟の回避行動だったのか、ゴブリンは尻餅をつき紙一重で突きを回避した。

 

 それで助かる命があれば良かったが、残念なことに所詮は最弱候補のモンスター、空振りと分かり即座に放たれた2回目に同じように目を貫かれた。

 

 そして少女が軽く手首を捻るだけで絶命する事すら知覚できず屍となる。

 

「幸先悪いなぁ、せめて狼とか猪とか良かった」

 

 少女はそう言いながら地面に倒れ伏したゴブリンの腕を持ち上げる。

 

 ゴブリンの剥ぎ取り部位など歯くらいしかない。意外と整ってたりするため稀に入れ歯の素材に使われたりする。なお売り上げはそこまでない模様。

 

「よいしょっ」

 

 ぶちっと引きちぎった。ゴブリンとはいえ先程まで生きていた生物の腕を少女は何を思ったか容易く引きちぎった。

 

 ゴブリンの腕は多少の筋肉はあれど不味い部類に入る。相当上手く調理して食べれると言った具合になるが好き好んで食べるものではない。

 

 骨も同様に骨粉として肥料になるかどうかくらいの価値である。

 

 だが、この少女は違った。

 

「あぐっ、ぐぎぎ、んっ」

 

 何のためらいもなくかじりついた。

 

 ギチギチと柔らかい癖に無駄にかみちぎりにくいゴブリンの腕についた肉を、自慢の咬合力で引きちぎる。

 

 まだ血が滴っている生肉を口の中で咀嚼しながら、千切れた腕を利き手と反対側の手で引きずりつつダンジョンを歩き続ける。

 

 明らかに人型系のモンスターの手を持ちながら歩く姿はいくら顔が整ってようが怪人である。

 

「かむかむ、やっぱりこれの噛み応えはいいなぁ~。それに大きなダンジョンなだけあって味も他のところより一番いい!」

 

 そんなものをしっかりと噛みしめガムのように口の中で遊ばせ、誰も聞いていないのに美味しそうに食レポまでかます。

 

 幸運なことに周囲には誰もいなかった。

 

 口についた血を拭うことなく少女は次の獲物を探して歩く。

 

「いや~、今日も絶好調!足を折ってどうなる事かと思ったけど、まさかリハビリで浅い層に潜ったらレア鉱石ザクザクって!」

 

 

:やっぱり豪運なんよ

:すっげえ量だった

:レアメタルが浅いとこに湧くのすごい

:一攫千金やん

:あの事件から人減ったもんね

:人の命が還っている

:採掘王じゃん

 

 

 場所は少し離れたところに坂神あかねが復帰配信をしていた。

 

 つるはし担いで厚着で探索、足は良くなったとはいえ大事をとって中層には潜らず浅い層で鉱石や植物を集めて雑談していた。

 

 ゆったりと歩きながら式典の話題は避けつつも、今後の目標として万全な状態になったら再び中層へ潜ると彼女は宣言した。

 

 一度足を折ったからってへこたれてはいけない。健康と度胸が勝負の世界で長期に休んではいられないのだ。

 

「ふふふ、休業していた間の補填にぴったし!配信してなかったら人が離れていくから、どうしても給与に響くからね…………」

 

 

:めっちゃ叱られたって聞いたゾ

:不注意が過ぎる

:タイミングも悪すぎる

:生きてるのでヨシ!

:生きてて恥ずかしくないんですか?

 

 

 この件については本人からの報告と、彼女の同僚からかなり浮かれていた様子だったことをSNSで暴露されて火消しは大変なことになった。

 

 とは言っても式典での惨劇が大きく広まったため、むしろラッキーガールとして薄く認知されれうようになった。

 

 気分アゲアゲであかねが歩いていると、ソレに遭遇してしまった。

 

 ポタポタと血を垂れ流すレイピア。口にはべったりとついた血。明らかに生モノを噛んでいるような咀嚼音。そして人間の手のような物を手に持っている。

 

「な、なんだぁー!?」

 

 慌ててつるはしを構えるあかね。明らかにゾンビにありそうなシチュエーションで怪奇な姿をしていたら驚かれても無理はない。

 

 

:新種!?

:こんなところで等身大型か?

:あら美少女、お持ち帰りしたい

:やれ!やれ!

:人間では?

 

 

 コメント欄も突然の少女の出現に戸惑いを隠せていない。それ故に煽って倒そうとさせているが、よく見ると相手もきょとんとしているため戸惑っているのはお互い様ということが分かる。

 

「えっと、もきゅもきゅ、何か用ですか?」

 

「え、いや、なんで?」

 

「何でって、え?」

 

「え?」

 

 

:草

:お互い困惑してて草

:そりゃ返事に困る

:なんで?

:意味が分からないよ

 

 お互いに悪意がないことに困惑し、少女は初めて見る配信者を、あかねは口を血濡れにしている少女に引いた。

 

 なんでここでこんな姿してるんだろうと。

 

「えっと?なんで(ソレ)持ってるんです?」

 

「なんで一人で喋ってるんです?」

 

「え?」

 

「えっ?」

 

 食欲優先の少女は配信を見ない。それ故にあかねのことは知ることもなかった。

 

 どちらも変な人だなと思った初対面。二人の関係が後に大きく変わることになるとは誰も思いもしなかった。

 

 




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