ダンジョン深層住みです、いつからかは忘れました   作:蓮太郎

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第26話 負けっぱなしは嫌だ。

―どうして奴を喰えないんだ。

 

 ここはダンジョン深層、そこからさらに奥深く。獅子の頭、山羊の頭、そして蛇の頭を持つキメラが寝そべっていた。

 

 その逞しい体をよく見ると傷だらけであり、一度全身を切り刻まれたかのような跡が治りかけのようにかさぶたとなって治癒し始めていた。

 

――毎度ひどいよねー。雑に切られて終わったじゃん

 

―――何であんなのがずっといるんですか?

 

 この身体には三つの人格が共生している。そう、見ればわかる通り頭が三つあるため脳も三つある。そこで魔力を通して会話をする。

 

 返答にはタイムラグがあり、即座に返答できるのが獅子頭、続いて馴れ馴れしく返答できるのが山羊頭、いつも丁寧で返答が遅いのが蛇頭である。

 

 このダンジョンで産まれ堕ちてもうすぐ200年、何故か年月は分かるし他のモンスターや鉱石を喰うことで成長してきた。

 

 キメラは強くなった。恐らく世界中のダンジョンで一番強いと自負できるくらいには成長している。

 

 根拠として約200年も生きており多くのモンスターを餌として喰らえること。そしてたまに入ってくる人間を少なくない数食べてきたこと。

 

 そして、『ヤツ』が身にまとっていた謎の金属を喰らうことが出来た。

 

――ほんと、これの性質が無かったら今頃『転生』だよ~?

 

―黙れ、それくらい分かってる。

 

 キメラは食したモノの性質を吸収する性質を持っている。全て使いこなせているかと言われたら、役に立たないものもあるため十分には使いこなせていない。

 

 だが、最も役に立った捕食物がある。

 

 それは誕生して初めて喰らったもの、『ナノマシン』である。

 

 この名称についてキメラは知らないが、ダンジョンが誕生して一か月たたないうちに侵入してきた人間が身に纏っていた金属を齧りつき、欠けた部分を飲み込んだのだ。

 

 なんか蒼い光を放ってたし、身体もズタズタに蒼い光線で切り裂かれたが、その時から体に違和感を感じていた。

 

 それが後に身体の細胞一つ一つが意志を持っていることに気づくのは一度死体となり一週間たった時であった。

 

―――ボク、もう痛いのヤですよ?

 

―それくらい慣れろひよっこ!細切れになった時くらい泣くな!

 

――感覚あったら誰でも泣き叫ぶよ。泣かないならそれは生物じゃないよ~。

 

ーこいつら…………

 

 獅子頭に向けて泣き言を伝える蛇頭。当初、身体が三つに分断され膨大な意思が神経を無理矢理稼働させて元々持ち合わせていた再生能力と共に頑張ってくっついたところ、キメラの身体には三つの意思が宿っていた。

 

 今はキメラと呼ばれているこのモンスター、実は元々は頭は獅子頭だけだった。

 

 分断された肉体で何とか生命維持を務めようと他に散らばるモンスターの死体から流れる血を細胞単位で啜り、何とかくっついたと思ったら山羊頭と蛇頭が増えていた。

 

 モンスターなのだから何が起こってもおかしくないと本能で理解していた獅子頭でも突然のことに混乱し、他の頭を罵倒して身体から去れと命じた。

 

 だが、新たに出来た二つの頭もこれは自分の身体だと主張。一つの身体の主導権を握るため肉体の支配権を奪い奪われ一頭で大喧嘩をした。

 

――あの人間がムカつくのはそうだけど。使命も忘れてない?

 

―――そうだよ、ボクたちが今しなきゃいけないことはダンジョンから出ること(・・・・・・・・・・・)。人間は地上にいっぱいいるしそいつらを食べたらもっと強くなれるんだよ?

 

――そうそう!だからあの人間に構うより脱走方法を探さないとね!

 

―ぐぬぬぬぬ、だが出る手段は全く分からんぞ?

 

 どうやらモンスターにも使命はある模様。だがモンスターの大半が本能のままに動くため階層をうろつくくらいしか出来ていない。

 

 地上へ出る手段を封じられてしまっている今、その鍵を握っているのはあの人間しかいない。

 

―――挑んだところで勝てないよ。今は体が粉微塵になっても復活できるけど、『転生』の方が早いよ?

 

―『転生』など負け犬がすること。あの人間を倒せさえすれば!

 

――それさ、倒したところで本当に地上に出られるかな?あの人間に魔力を感じられないのに。

 

―勘だ。奴さえどうにかすれば地上に出られる。

 

―――別の手段考えた方が良いと思うんだけど……

 

 キメラでも深層から何故出られないか分からない。ダンジョンから知識を送られてきても不明という回答に行きつく。

 

 そもそも、ダンジョンを支配している何者かからの連絡すら途切れて非常に長い時間が経っている。かなりの上位存在である支配者が簡単に諦めるとは思えず、現地での人間にやられたのではないかという確信がキメラの中であった。

 

 それでも止まることは無い、キメラは地上に出て人間を喰い散らかすこと。最も、認められないのが自分よりも強いものがいるということだが。

 

―――人間に『転生』したら地上に出られるのに……

 

―人間人間うるさいぞ!奴らの何が…………待てよ?人間だから出入りできるのか?

 

 獅子頭は何か気づいた。

 

 深層のモンスターは深層から出られない。だが、人間は何度もこの地へ出入りしているではないか。

 

――なーるほど。人間なら通れる。『転生』じゃなくとも擬態で通れるかもってこと。

 

―人間になる、というのは癪だが貧弱な肉体からやり直すことをしなくて済む。

 

―――そ、そうか!ボクたちにも擬態できる力はあるんだ。それに、この前たくさん人間を食べたからそのデータだってある。

 

―今なら『転生』せずとも人間になれるということだ!

 

 メキメキと治りかけの肉体がきしむ。大きな体躯が圧縮されていく。獅子頭を中心に山羊頭と蛇頭が集まっていく。

 

 明らかに無茶な変形と思われるが、これもナノマシンを捕食し肉体に完全に適合させたことで自在に変形させることが出来たのだ。

 

 異様に強すぎて気持ち悪いと思っていた人間しか今まで知らなかったため、他の弱い人間というデータを大量に得たことでようやく成し遂げられるようになったのだ。

 

 メリメリと新たな肉体が形成されていく。四つの獣の足は滑らかな人の手に、そして足に改造されていく。

 

 胴体には内臓を収納し、それを守るための毛皮を失いながら筋肉を凝縮させて哺乳類らしい乳房以外の脂肪は一変たりとも見せぬ身体。そして三つあった頭部は一つに集約されて人の形を作り上げていく。

 

 キメラに雌雄という概念は存在しているが、どちらか一方というものではなく両方の特徴を持ってこそ完璧たる生物を考えている。故に両性、どちらの特徴を持ち得ているのだ。

 

―くくく、はーっはっは!盲点だった!今の人間を隠れ蓑にした俺ならあの結界を通れるはずだ!

 

――結構長かったねぇ。でも擬態に結構体力使ったから食事は必要だよ?

 

―――か、身体を慣らさないといけないからね?

 

 ぐるると尖った歯の隙間から唸り声をあげ、口角を吊り上げる。

 

―待っていろ地上よ、このキメラが貴様らを喰いつくしてくれる!

 

 そうして四足歩行(・・・・)で駆けだそうとして。

 

 ずるべっしゃぁ!

 

 悲しき獣の習性か、慣れ親しんだ四足歩行を捨てたのが人間なのだ。それを忘れて体の主導権を握っていた獅子頭は駆けだそうとして手を地面へ着き、肉球もなくなったことに思いっきり滑らせて顔面を地面にぶつけた。

 

―あっれぇ!?

 

―――だから慣らしてからって言ったのに……

 

――人間が二足歩行ってこと忘れてない?

 

 人間基準で美形となった顔で鼻血を垂らしながら頑張って立ち上がる。それでもフラフラとした安定しない足取りだった。

 

―おのれ人間、ややこしい生態を!

 

――はいはい、ちょっと休んでから頑張って歩けるようになろうね~

 

―貴様らも使う身体だぞ、お前らも訓練しろ!

 

―――えっと、元よりそのつもりだけど……

 

 一つの肉体に三つの人格。姿が変わろうとも喧嘩は絶えない。だからこそ200年近くやってこられたのだ。

 

――しかし、『同胞』が近くまで来ているとはね。

 

―『転生』した奴に情けない姿を見せるわけにはいかん。一刻も早くしっかりと動けるようになるぞ!

 

―――がんばろー

 

 キメラだったものは今日も努力する。

 

 地上に出る使命と夢を達成するために。憎き強すぎる人間を倒すために。

 

 ちなみにその『同胞』は使命を忘れて本能のままに行動しようとしていることをキメラは知らない。

 




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