ダンジョン深層住みです、いつからかは忘れました   作:蓮太郎

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第39話 食べる喜びは一つじゃない

 

「焼き肉食べ放題!焼き肉食べ放題!」

 

「誰ですか!メニュー2周分を一気に頼んだ人は!」

 

「私です!」

 

「皆で食べるとはいえ加減しろ馬鹿!」

 

 飲み会、基本的に居酒屋などで行われる催し物だがキャンプ場で注文したら生の食べ物が届くというシステムの元、大人数で飲み食いするスタイルの飲み会が行われていた。

 

 食料の持ち込みもOKだが、一定料金を出せば規定時間まで注文し放題というプランを選んでいた。

 

 そのプランを選んだ者達はダンジョン探索者でありながら配信者である集団である。

 

 その面子の中には坂神あかねと雁木恵右の姿も見られた。

 

 ちなみにメニュー2周分を頼んだのは食べ放題というイベントに対してテンションが上がり切った恵右である。

 

「全く、若いのはいいですなぁ」

 

「社長がお見えだ!」

 

「社長ありがとー!」

 

「こういう労いしてくれるの大好き!」

 

「もっと給料上げてー!」

 

 小太りで小柄で人柄が良さそうな男性が彼ら彼女らの近くに相見寄ってくると同時に歓声が上がる。

 

 そう、この男こそ配信者という職種に目をつけ、様々な法律を盾として配信者を守る代わりに利益を管理し分配するという会社を設立。

 

 それなりに成功し、リスク管理も200周年式典事件に参加させなかった、というよりも坂神あかねが式典の直前に怪我をしたせいで慎重になった結果、抱える探索者全員を深層探索に参加させなかった。

 

 それが功を奏したのか精神的ショックを負い引退した数名を抜けば無事な社員ばかりである。

 

 元々、パフォーマンスやエンタメ性を注視しつつも命を第一に考えろという理念から問題を起こすものは自然に省かれていき、特にゴシップ好きが居るせいで、自浄作用が働いているため真面目な者が残るという個のご時世奇跡のような会社となっていた。

 

「予算と量は限りあるとはいえ食べ放題のコース。遠慮せず食べなさい」

 

「社長!雁木が既にメニュー1周分を食べつくしました!」

 

「あの子が大食いファイターだったら出禁ばっかりだろうねぇ」

 

「生で食ってますよこいつ!」

 

「加熱しないといけないやつ混じってるって!」

 

「坂神ぃ!もうちょっとしっかり管理しとけ!」

 

「私関係ないですよね!?」

 

 あまりの暴挙が行われた瞬間だったが社長は穏やかだった。

 

 元より探索者というのは上位陣になるほど変わり者が多い。アガリカも華中も上位陣はかなりこだわりが強く、報酬よりも出費の方が多い探索者がゴロゴロといる。

 

 勘違いしないで欲しいが、全員がそういうわけではない。

 

 たまに変なのが混じるくらいで根は真面目な子ばかりだということを理解しているからだ。

 

 それはそれでも恵右が生肉を一気食いした事は問題である。

 

「雁木くん。ご飯は美味しいかい?」

 

「はい、とっても」

 

「それはよろしい。だけどね、一人で食べるご飯よりみんなで食べるご飯もいいと思うよ」

 

「その感覚はちょっと…………」

 

「分からないかい?まあいいでしょう。独り占めもまた個性。ですが、誰かに分け与えるという喜びも知ることも大事ですよ」

 

「分ける喜び?」

 

「そう。自分の幸せを他者に分け与えてこそ人として一人前。メニュー一周分を食べたなら次は一度我慢して皆が食べているところを眺めてみましょう」

 

「おあずけはちょっと…………」

 

「まあまあ、我慢も修練の一つさ。一度、距離を取ってみて、ほら」

 

 社長のグイグイ押されるがままに恵右は皆から少しだけ離れた位置に置いてあった椅子に座らされてた。

 

 ちょこんと座りつつ皆がワイワイと食べている姿を眺め続けている。

 

 流石に食べ放題とはいえ1人で一気に食べたのは悪かったかもしれない。でも楽しみだったのだから仕方ない。

 

 そんな思いで眺めつつも食べ足りない彼女はどうしようかと思い悩む。

 

 自分が大食いなのは流石に自認している。それ故にさっきは迷惑をかけたし少しは我慢しないといけない理屈は分かる。

 

 それでももっと食べたい。喰らいつくしたい。

 

『何が我慢だ、身体に悪い。喰わねば満たされぬことを分かっているだろう』

 

 幻聴だ。欲望が具現化したような幻が居るような気がする。

 

 気のせいと思っていても、座っている椅子の隣に立つような幻覚まで見え始める。

 

 その幻覚は、前に見た夢が鮮明に現れたような、自分の顔をしたモンスターがこちらの様子を伺う。

 

『奪えばいいだろう。最初みたいに喰らいつくせば満たされる』

 

「…………みんなの分を取るわけにはいかない」

 

『甘ったれるな。そのような考えで生き残れると思うか?』

 

「人間社会に獣はいない」

 

『お前が居る。そしていずれ同胞も現れる』

 

 幻聴が思った以上にしつこい。

 

 これは気のせいだと思っても腹が鳴ってしまう。

 

『それみたことか。身体は正直なんだ、さっさと立ってしまえ』

 

 甘い誘惑とはこのことか。漂う肉の匂いから涎が垂れそうになるのを必死に我慢する。

 

 今までなら人目など気にせずに垂らしていたかもしれないが、配信者という社会的地位を得たために人前で醜態をさらすようなことはしないようにと心がけている。

 

 田舎から上京して、ある程度垢抜けたとはいえ純粋な根っこの部分は変わらない。

 

『もう限界だろう?さっさと喰おうじゃあないか』

 

 幻聴の言う通り、皆が食べている姿を見て我慢が出来ない。

 

 もう行ってしまえと体が信号を発した瞬間、横から一つの紙皿が現れた。

 

 いい具合に焼けた肉がタレに浸っており、焼き目はしっかりとついてタレがかかっていようと見えるような丁度いい塩梅となっている。

 

「ほら、食べなよ」

 

 それを差し出していたのは坂神あかねだった。

 

「えっと、いいんですか?」

 

「別にいいよ。生よりも焼いたほうが美味しいと思うんだけど、やっぱり味覚の問題だったりするの?」

 

「いや、焼いても美味しいです」

 

「単純に雑食なだけかぁ」

 

 肉が乗った紙皿を受け渡したあかねはわざわざ椅子を持って来てその横へ座る。

 

「ま、ゆっくり食べなよ。食べ物は逃げないからさ」

 

 ぽかんとしている恵右をよそにあかねはコーラの入った紙コップをストローで啜っている。

 

 7枚くらい確保されている肉を添えられていた箸で1枚つまみ、そして口の中へ頬張った。

 

 美味しい。噛むたびに溢れる肉汁と混ざり合うピリ辛で甘めなタレが舌の上で踊り暴れている。それでも調和を保ったまま上品な味として完成されていた。

 

「あの、なんで分けてくれたんですか?」

 

『小娘ぇ、余計なことを!』

 

 純粋な疑問と幻覚の怒りが自分の中で湧くことを感じながら恵右は聞いた。

 

「なんか寂しそうだったから。前から食べることには執着してるのは知ってたし、まあでもゆっくり食べるのも悪くないと思うよ?」

 

「なんか答えになってないような気がしますけど…………」

 

「うーん?多分それが答えだよ」

 

「どういうこと?」

 

『何を言ってるんだこいつは』

 

 恵右と幻覚は彼女が言っていることを理解できなかった。

 

「ちょっとでも苦しんでる人を助けるのは当然ってこと。ま、自分が第一なんだけどね」

 

「助ける…………そんなに苦しんでるように見えました?」

 

「いや?でも我慢してるとは思ってたよ」

 

「…………だったらこんなことしなくても」

 

「ほら、恵右ちゃんってこの中でも変わってる方だから周りも敬遠しがちになっちゃってるんだよ。だから、一人くらい味方になれたらいいなって」

 

「そんな気遣い…………」

 

「今まで一人で頑張ってきたんでしょ?でも今は違うよ。困ったら周りに助けてくれる人だっている。私も助けられた。だから、頼のんだりしていいんだよ。お肉をくださいってね」

 

「でも社長の指示で」

 

「全部とはいかないけど現場判断だよ!誰に渡すか、それとも独り占めするかもその瞬間で判断しなきゃいけないから!」

 

 そう言ってパクパクと自分の紙皿に乗ってあった肉を食べ始める。

 

 話しているうちに少し冷めた肉を見つめ、恵右も箸を動かし肉を食べ始める。

 

「…………こういうのも美味しい」

 

『ええい、なんで美味しそうにするんだ!私にも食べさせろぉ!』

 

 横で幻聴で悔しがるのを聞くと心がすっとしたような気がする。

 

 あかねも美味しそうに食べながら周りを見渡して楽しんでいる。その様子を見ていたらさらに乗っていた肉がなくなった。

 

 やっぱりもっと食べたい。でも他の人だって食べているんだから我慢しないと。

 

「……………………あの」

 

 恵右は椅子から立ち上がった。

 

「お肉、ください」

 

 先輩に当たる配信者や職員が囲うグリルに近づき声をかけた。

 

 少し前に生肉の状態で食べまくったせいで分けてくれないんじゃないかという不安を持ち、おずおずと皿を差し出してみる。

 

 拒否されないだろうか?そんな思考をよそに男性職員は笑顔で答えた。

 

「いいよ!ほら、生より焼いたほうがいいって」

 

 どさどさと焼きたての肉が紙皿に乗せられる。目を丸くしつつも特に障害もなく分け与えてくれた。

 

「ありがとうございます」

 

 素直に礼を言って先ほどまで座っていた椅子まで戻り、座ってから再び肉を頬張った。

 

 こういうのも悪くない。恵右はそう感じながら肉の味を堪能し続けた。

 

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