ダンジョン深層住みです、いつからかは忘れました   作:蓮太郎

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第41話 白装束との邂逅

 

「やあ、来たぞ」

 

 その白装束は2人、いや、1人と1匹に声をかけた。

 

 どう見ても怪しい身なりでフランクな態度故に胡散臭いような雰囲気がどうも拭えない。

 

―なんだこいつ

 

――誰あれ

 

―――なにこれ

 

 1つの身体に3つの意思を宿しているキメラは明らかな不審者に困惑した。

 

 深層にやって来るのはいい。来るだけなら誰でもできるし多くはダンジョンの栄養となるため別にいいのだ。

 

 問題なのは明らかに人では無いオーラを放ち続けていること。人の形をしつつ布で姿を隠しているから新種のモンスターか何かだろう。

 

「お?陸斗じゃないか。もう着いたのか」

 

「まあね。ここに来るだけならサッと来れるから」

 

「大分遊んできたんじゃないか?SNSでこっちに来る事は知ってたが」

 

「まあな。久々に身体動かすから準備運動も兼ねて来た」

 

 何のオーラもない男と神聖なオーラを纏う男(?)が談笑している。

 

 正反対であるお互いの筈なのに仲間関係なのはどういう事かとキメラは思った。

 

――あいつ、あの男と仲良いんだ

 

―少なくとも人ではないな

 

―――得体が知れないってこういう事なんだ

 

―だが、柔らかそうだな

 

 いつも殺そうとしてる男に比べたら白装束はまだ傷をつけやすそうに見える。

 

 しかし、あのようなダンジョンで目立つ格好をした生物が堂々と深層へ潜っている時点で実力者、いや、あの男と同類の可能性は否定できない。

 

「へえ、この子があのキメラか。全体的にデカいな」

 

「こう見えても体重は8tある」

 

「質量どうなってんの?」

 

「ぐるるる…………」

 

 何となく馬鹿にされたような気がしたので歯を剝いて唸ってみる。

 

 この威嚇を受け取り白装束は手をひらひらとさせて敵意はないことを示しつつ、ぽんっと手品でキャンディーを出す。

 

「これでも舐めて機嫌治してくれ」

 

 ぽいっとキメラの方に放り投げた甘いにおいがする菓子を、キメラはそのまま飛びつく様に口にくわえた。

 

 ボリボリと飴を嚙み砕き、その甘さを堪能。それを予測していたかのようにふいと『教祖』は男の方へ向いて語り掛ける。

 

「進捗は順調か?」

 

「変わりない、と言ったら噓になるな。簡易的だがダンジョンで使える監視カメラを作ることは出来た」

 

「マジ?独学でそれ作れるのはお前らしいな」

 

「流石に論文読み漁ったさ。これがあるからな」

 

「その端末、ああ!配信者とやらがくれたのか。通信費も向こう持ちとかヒモ決めてんねぇ!」

 

「茶化すな。金で買えない恩を何とか金に換えてもらってるだけだ」

 

――仲良すぎない?

 

―見ててイラってくるぞ

 

―――それはそれで沸点低すぎじゃない?

 

 談笑する彼らを見て飴を食べ終えたキメラはこのような感想を持った。

 

 肉体面ではあらゆる生物を超越していると言って過言ではない男に得体の知れない白装束は旧知の仲のように察している。

 

―もしかしたら、何か特別な力を持っているのではないか?

 

―――もし食べれたら、新しい力が手に入るかも

 

――やる価値はありそうだねぇ

 

 ならば隙を見て首元に喰らいつく。息の根を止めて肉を喰らうことを想定した目となり男の隙を窺い白装束を食べれるタイミングを測ろうとしていた。

 

 だがしかし、男がチラッとたまに様子を伺ってくるので襲うに襲えない。

 

 腹立たしいが、あの男にまだ(・・)勝てない以上、迂闊に手を出せないのだ。

 

「多分欲しいかなと思って、ほら」

 

「気安く物を投げるな。これ、端末じゃないか。しかも最近発売したって奴の」

 

「広告とか見るんだな。そう!最新モデルの通信機、人脈を駆使して真っ先に手に入れてやった。分解するなり好きにしてくれ」

 

「お前、分かってから入手したな?」

 

「態々、魔力を扱えない君が予備のない物を分解するとは思えないからな」

 

「全く、そういう読みは当たるよな」

 

 新品の端末を男に渡し、白装束はカメラの方を向いた。

 

「確か種族はキメラだったよな?見た目は女性…………女性?」

 

「がう!」

 

「脱ぐな」

 

 上半身は巨乳美女だが股の膨らみで首を傾げた白装束。どちらでもあると自慢するように服を破いて脱ぎ捨てるキメラ。それと同時に鉄板をちょうどいいモザイクのように投げつけた男。

 

 この間、1秒である。

 

「一瞬見えたけどヤバいな。世界中の人間を探してもあのサイズはないぞ」

 

「感想を付けるな。あとお前も服を破るな。数に限りがあるんだぞ」

 

「がう?」

 

「でも作れるんだろ?」

 

「お前らはっ倒すぞ」

 

 まるでコントをしているかのような息の合い方に男は呆れたような表情を見せた。実際、機械を使えばすぐに作り直せるのだから間違ってはいない。

 

 それでもキメラ相手だけに服を作るのは癪であるため自分の古着だけ着せている。もう着ないものを渡して最低限の服装として成り立たせている。

 

 なお、全て胸と尻の部分がパツパツになっており、男の物としては二度と着れなくなっている。

 

「暇つぶしに少しの間だけここで休暇を取らせてもらおうか。まあ精々2、3日程度だ」

 

「居座るのかよ」

 

「がおっ!」

 

「威嚇したって無駄だ。俺だって素で過ごしたい時はあるんだ」

 

 そう言いつつ白装束はソファーに座る。そして顔を覆い隠していた白い布を容易く自分で剥ぎ取った。

 

 布の下にあった顔は、まさに美形と言った風貌。男かと聞かれたら女よりの顔ではある。

 

 今までキメラが喰らった人間のように黒髪であるが、決定的に違うところと言えば『眼球にXの線』が入っている。

 

 その瞳を見ているだけで落ち着くような気がするが、白装束がキメラを見つめていたのできっと気のせいだろう。

 

「言っとくが、男だからな?」

 

「がう…………」

 

 キメラの雌っぽいなと内心思っていたことを見透かされて何か言う前に宣言された。そもそもキメラは未だに上手く人間の言葉を喋ることは出来ないので唸り声と鳴き声でコミュニケーションをとってている。

 

 それが人間の言語を喋ることが上達しない理由なのだが誰も指摘しない。 

 

「ほしい!」

 

「飴か?ほら、いくらでもくれてやる」

 

 ポポポポンと音が鳴ると複数の飴が出現し、それをキメラの方へ何らかの力で飛ばす。

 

 ばらばらの軌道を描いていた飴だったが、キメラの身体能力にかかれば全て口で受け止められる。常人では目にも止まらぬ速度で空飛ぶ飴を捕食する。

 

 だが乳が重すぎてバランスを崩し胸から倒れこんだ。

 

「人の身体に慣れてないな?」

 

「身体の重量バランスがまだ取れてないらしい。片乳だけで1tあるからな」

 

「その重量はバグだろ。ワインとっていいか?」

 

「あそこにある奴は200年物だから好きに呑め」

 

 わーいと子供がお菓子に群がるように白装束はワインを仕舞ってある冷蔵庫を開けてワインを取り出す。

 

 完全に友人の家に上がり込んだ大学生の様に勝手にワイングラスを棚から取り出しつつ魔力を込めてコルクを飛ばす。開封された瞬間に部屋一面に葡萄の香りが一気に解放された。

 

 匂いにつられてキメラもガバっと顔を上げた。葡萄という果実に酷似したものは堪能していたことはあったが、ここまで濃厚なアルコールを伴うものはキメラにとっても初めてだった。

 

「ほしい!ほしい!」

 

「グラス取ってきたら分けてあげよう。ワインの飲み方を教えようじゃないか」

 

 本当なら一気飲みしたいのだが明らかに飲み慣れているような人間らしい者が言うならそれに合わせ頼み方もあるのかもしれない。

 

―そのまま飲んではいかんのか?

 

――でも、加工したものを丁寧に飲んだらもっと美味しいんじゃない?

 

―――ちょっと気になるね。

 

「甘やかすな」

 

「先行投資さ、今後の為のね」

 

 そう言って白装束はワインを飲んだ。

 

―――やっぱり怪しいよね

 

――早く飲みたいよ

 

―だが…………

 

 ワインを飲むことと白装束が怪しいことは意見は一致している。だが、獅子頭の人格は違和感を感じていた。

 

―奴をかなり前に知っている気がする。

 

―――どういうこと?

 

―分からん。昔過ぎて覚えてない。

 

――私たちが誕生する前のこと?

 

―恐らくな。

 

 キメラは白装束を知っているかもしれない。だが、それが何故なのか分からないしいつ知ったのかも分からない。

 

 否、ダンジョンで誕生するモンスターの殆どは白装束のことを知っている気がしている。出会えばそのような感覚に陥るのだが、キメラのような強者を知るモンスター以外は迷わず襲い掛かってくるだろう。

 

 その白装束がダンジョンの創造主を滅ぼした一人だと知らずに。

 

「うまい!」

 

「そうだ、チビチビ飲んでゆっくりと楽しむんだ」

 

「何を教えてるんだ」

 

「我慢の訓練にもなるからな?」

 

 ワインを堪能し、談笑している彼こそがモンスターが警戒すべき最もやべー奴だと知るのはもう少し先のお話。

 

 




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