ダンジョン深層住みです、いつからかは忘れました   作:蓮太郎

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第50話 実験台になりますか

 

「さて、落ち着いたか?」

 

「たぶん、わかんない…………」

 

「そう簡単に落ち着けるはずもないか」

 

 『教祖』がキメラを連れて深層を探索中、煌木メイは目を覚ました。

 

 右手と左足を失ったことで身体のバランスがとりづらいようで座るのも精一杯の様子だった。

 

 未だに呆然とした感覚が抜けきっておらず、『教祖』から施された鎮静が効いているためか幸い醜態を晒すことは無かった。

 

「まあ、その様子だといずれ受け入れそうだな」

 

「無理だよぉ…………」

 

「そうか、そんなものか」

 

 ダンジョンに潜って手足の一本を失い戻ってくる話は珍しくない。

 

 命自体を落とすことがあるダンジョンで命さえ持ち帰ることが出来たら儲けものとはよく言ったものだ。

 

 本来は配信などが出来るアトラクションでは無い、命か金かの場所なのだ。

 

 大怪我を負って引退という話も珍しくない。

 

 今回、たまたまメイの身に降りかかったのだ。

 

「どうしよう、これから…………」

 

「地上に帰ってから考えたらいいさ」

 

「そんな、訳ないじゃん!」

 

 ぽすっ、と残った左腕で布団を叩いた。あまりにも弱弱しい力だった。

 

「腕と、足がなくなって、生きていけないじゃん」

 

「身体障害者福祉法があるだろう」

 

「なんですかその法律」

 

「ん?」

 

「え?」

 

「あるだろう、事故とか病気とかで身体の損傷や欠損でハンデを負った奴が保障される法律が」

 

「知らない、けど」

 

「…………法律の勉強とかは」

 

「配信者になる前に法律破らないように勉強するのは当然だけど」

 

 ケンは天井を見上げた。

 

 長い期間ダンジョンに居るせいで法律までは確認していなかった。

 

 当然だろう、200年もあれば法律は変わる。モンスターの地上侵攻もあり一時期壊滅したのも相まって大きく変更された点もある。

 

 特に福祉系は相当壊滅状態であり、当時からある程度立て直したものの、モンスターにやられて介護が必要な人間が非常に増えたことにより配給しなければならない金額も倍増。

 

 それに伴いわざと弱者をダンジョンに行かせて負傷させ、配給を搾り取るなど悪質なケースも少なくなかったため廃止せざるを得ない面もあったのだ。

 

 情報弱者と言ってしまえばそれまでだが、地上のことはあまり気にしていないケンの怠慢であったことは間違いない。

 

「なぁるほどなぁ、まあ税金を無駄遣いするのも厳しいか」

 

「もうどうしよう、こんなのじゃ、私…………」

 

「法律がダメなら保険があるだろう」

 

「女として終わったの!チヤホヤされるために頑張って来たのに、こんな終わりなんて…………」

 

「うーん、難しい話だ」

 

 配信者という不安定な職ではあるが、彼女なりの人生設計図が崩れたことに絶望しているという事は理解した。

 

 しかし俗世の人間のことはあまり理解できていない。

 

 当人が超常現象以外は完璧故に大体のことは何でもできるというメンタル。

 

 才能だけならともかく、さらに肉体が異常に強固で超常現象すら干渉できない生命体となっているのでほとんど無敵である。

 

 それでも贅沢な悩みとは言わない。自分がおかしいという事は正しく理解しているのだから。

 

「単に義手義足を付けるって案はやめておくか。見た目も結局は機械になるから女性向けとは言えんな」

 

「うん…………え、義手?」

 

「細胞から培養も…………うーん、専門外だから難しいな。そこらへん調べたら情報出るか?」

 

「出ない出ない出ない怪しいのしか出ない!」

 

「そこら辺は変わらないか」

 

「最新の技術でも無理だよ…………」

 

「俺は出来るぞ」

 

 なんてこともないように言う男だが、実際にできるのが質が悪い。

 

 メイもケンのことは流石に知っている。それどころか200周年式典の際にモンスター殲滅の身をしたケンの事を批判した身でもあったりする。

 

 世間の流れに乗れば視聴者も集まり、コメントやスーパーチャットも集まりやすく配信もしやすかったからだ。

 

 そんな経緯もあって反応に困る、それどころか批判ばっかりしていたことを知られたら何されるか分からない。

 

 こういった恐怖があって言葉を選ばざるを得ない状況に陥っていたりする。

 

「ち、ちなみに義手って言うのは」

 

「もちろん機械のやつだ。ただ、その体では耐えられるか」

 

「体に影響出る奴!?」

 

「いや、単純に重い」

 

「あ、ああ、そういう…………」

 

「華奢な身体の片腕が20kgの鉄塊をくっつけるんだ、普通に肩が外れるぞ」

 

「定期的に休めたらなんとか…………」

 

「それでも日常的につけなきゃいけないんだぞ。それに別の問題もある」

 

「別の問題?」

 

「君につけた義手義足が他の奴らに没収されないかだ」

 

「えっ」

 

「考えてみろ、俺の技術は件の式典でどんなものか知ってるはずだろ?で、深層から帰ってきた君は見たこともない義手と義足を付けている。欲しがらないか?」

 

「確かに」

 

 ケンも全てを把握しているわけではなく、するつもりもないが地上よりも優れた技術を欲していることは知っている。

 

 高度な技術はどこでも求められ、完全に人体の一部を再現できるのであれば、儲けることも可能だろう。

 

 莫大な金額が動くとなれば、付属品である人間の価値はとても下がる。

 

 襲撃してでも奪いたい、そういった連中は少なくないのだ。

 

 特にダンジョンやらに関わっていると、あらゆる手段でよこどりをしようとする輩だって存在する。

 

 そうなれば身の危険がいつ降りかかるか分からない。道を歩いている時か、配信している時か、ダンジョンに潜っている時か、寝ている時か。

 

 襲われるシチュエーションが大量に浮かび、冷汗が出る。

 

「なんか武器でも仕込めば安全か?」

 

「銃刀法違反になる!」

 

「ダンジョンに剣とかハンマーとか持ち込んでるのに?」

 

 やはり地上のことは分からない。何らかの基準があるのだろうが地上の流行りも分からない。

 

「まあ、そこは保留として難しい所だな。そこそこ強いとかあれば適当に渡せたんだが、まあ、ね?」

 

「こ、こいつ…………!」

 

 弱いのは事実なので何も言えない。これが坂神あかねくらいの中堅探索者であれば適当に渡して終わりだった。

 

 顔を真っ赤にしながら悔しさをにじませていたが、ごとっと鉄でできた何かが置かれた音が聞こえた。

 

「とりあえず最低限の機能のものは作っては見たが、取り付けないと正しく動くか分からないな」

 

「…………?」

 

「魔力の兼ね合いもあって動作に異常がきたすかもしれないし」

 

「…………??」

 

「最悪、何かあったらリク…………『教祖』に頼ればいいだろ」

 

「…………???」

 

 既にブツが用意されているし超上級の人間を頼れという無茶なことを言う男に思考が追い付かない。

 

 何故ここまでするのか?同情か、哀れみか、それとも優れた人間故の余裕か?

 

「実験みたいなものだ。こいつは神経に直接接続するからな、失敗したら感度が相当なことになる」

 

「…………どれくらい?」

 

「さあ、実際にやら無いと分からない。だが、やるか?」

 

 要は実験台。設計者は手足の欠損どころか怪我もしたことがないので痛みは分からないことをメイは知らない。

 

 そして、その痛みを一身に受けるのは自分の身であることはとてもよく理解していた。

 

 しかし一発逆転の鍵はここしかない。

 

 苦痛に耐える自信はない、しかし女としてもう終わりと言って過言ではないメイは何らかのアイデンティティを得なければならないと考えていた。

 

 固執して考えてしまっていた。

 

「…………やる!やってやる、それ付けてのし上がって有名になったらチャラでいい?」

 

「治験みたいなものだからそれ込みでな。しいて言うなら義手と義足(これ)つけたまま天寿まで全うして壊れないことを証明してほしい」

 

「それハイエンドすぎない?????」

 

 この人やっぱり自分の技術が恐ろしく高次元でありながらその自覚が無いのではとメイは思った。

 

「…………やっぱり麻酔とかはしない感じ?」

 

「麻酔したら感覚分からないだろう」

 

「デスヨネー」

 

 覚悟していたことではあったが、煌木メイの受難はこれからだ。

 

 

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