ダンジョン深層住みです、いつからかは忘れました   作:蓮太郎

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第56話 そうして手となり足となる

 

「ふぅー…………どうだ!これでものになったでしょ!」

 

「今ので5%くらいだな。もっと精進してくれ」

 

「辛辣!」

 

 ケンと煌木メイはただひたすらに訓練していた。

 

 ようやく適合した義手と義足を動かし、シャドウボクシングやハイキックを繰り出すメイにダメ出しするケン。

 

 彼からしたらそこそこの扱いでは満足していないのだろう。

 

 ただし、義手や義足はできるだけ丈夫かつ軽量にしているといえど重量はしっかりある。よって普段の動きよりも鈍くなっているのは仕方ないのだ。

 

「5%って!ちょっと遅いと言っても前よりはマシだよ!」

 

「前と同じじゃダメだ。俺の作ったやつを使ってるんだ、成果を見せてもらわないと困る」

 

「難しいんだって!一部だけに魔力を回さないのって相当なコントロールが必要なんだって!」

 

「産まれてからずっと持ってるだろう、俺なんかどうあがいても自力で魔力を扱えないんだから贅沢を言うな」

 

「産まれてから一度も怪我すらしたことないような人が言う言葉じゃない!」

 

「持つものと持たざるものの差だ。お互いに持ちえないものを持っているからお互い様だ」

 

「微妙に役に立たないことを…………」

 

「何か言ったか?訓練追加だ」

 

「ひっどーーーい!!!」

 

 半泣きになりながらもケンが投げてくる卵を割らずに義手で受け止める作業を延々と繰り返す。

 

 少しでも力加減を間違えると割れてしまい、なれていない証拠を残してしまう。

 

 神経から直接伝達されて動かしているとはいえ、つけているものがものだけにちょっとしたさじ加減で過剰なパワーを引き出してしまう。

 

 ダンジョンのような個人が問題を起こしても自己責任な場所では良いだろう。だが地上のような他人を巻き込みかねない事態になる事はメイにとってよろしくない。

 

 ケンの評判は別にどうでも良い。本人もそう思っているし野外がどうこう言おうが彼が変わることはないと少しの付き合いでも分かる。

 

 そんな俗世を離れた人間よりも俗世に居る自分の身を気にしなければならないのだ。

 

「ああ、また割れた!」

 

「あと10個しかないぞ。3個以上潰したらキメラから凄まれるからな」

 

「ドデカおっぱいの癖に食いしん坊でスタイルもいいとかふざけてるよあいつ!」

 

 モンスターと教えられても人類では最上位の美貌に嫉妬はする。胸がぺったんこなメイは「こんな巨乳がいるのか!」と多少冷静になった際に思って再度発狂しそうになった。

 

 なんとかとても美人であっても人間ではないと言い聞かせて落ち着かせることはできた。

 

 かしゃ、とまた卵を握り潰してしまう。

 

「魔力が漏れてるぞ。そうなったらパワーが大きくなると何度も言っただろう」

 

「無理ー!ストレス溜まる!甘いもの食べたーい!アニメ見たーい!」

 

「終わったらスイーツでもアニメの違法視聴でもして良いから」

 

「違法視聴はダメでしょ」

 

「俺は口座がないからサブスクは見れないんだよ」

 

 思っていた以上に現実的な理由だった。

 

 地上とのパイプは坂神あかねと『教祖』くらいしか居ないので仕方ない。

 

 とはいえ基本的に住処に人が居なければダンジョンを彷徨いているのでアニメもあまり見なかったりする。

 

「50個投げて、残ったのは8個か。目玉焼きにして昼飯に出すか」

 

「昼飯って、今が昼じゃないの?」

 

 長い時間、陽の光もないダンジョンに居るせいで時間感覚が狂い始めている。

 

 端末があれば時間確認も出来るが、義手と義足に慣れるための苦痛が強すぎるせいで感覚が狂ってしまったのだ。

 

 はぁ、とため息を吐きつつ卵で汚れた義手をタオルで拭き、戻ってくる同居人の事を考えて胃が重くなる。

 

 アレは見た目は美女でも中身はモンスター。体重も8tもあるという事実を聞かされた時は驚くしかできなかった。

 

 身長こそ2mは超えているとはいえど筋肉質な人の形をして常軌を逸した重さを持っているとは思えなかった。

 

 余談ではあるが、たまにベッドに横になろうとしてベットを潰した姿を見て、やっぱり化け物なんだなという認識が確定した。

 

 片足は軽く、義足は重く音を鳴らしながら歩いて椅子に座る。

 

 常に義手を付けているため肩の負担を軽減すべく、義手は机の上に置いて休憩させる。

 

 訓練の内容には体力の増強も含まれている。

 

 身体を動かすことはもちろん、深層の食べ物を大量に摂取することで微量ながら向上している。

 

 短期間で微量なのだから、長期間摂取すればどれほど強くなるのだろうか。

 

「せめてお手玉とか別のやつにしない?食材を無駄にするのはもったいないでしょ?」

 

「放置してたら勝手に孵るからな。それを防ぐために無駄にしなきゃいけないんだ」

 

「勝手に孵るって、温まってもないのに?」

 

「俺の調理風景を思い出してみろ、マグロのトロ部分が泳ぎだしたりするんだぞ」

 

「何で死んでるのに動いたりするの…………?」

 

 何も分からないのでノーコメント。ケンは科学者ではあるが魔力に長けたわけではなく、むしろ扱えないからこそ躍起になり余計に謎を深めていて困っている側だ。

 

 全てが万能に見えても、意外とそうではないのが全てである。

 

「がうー!なまたまもー!」

 

「『なまたまご』、と言いたかったのかい?」

 

「そう!」

 

「少し上達したんじゃないかな?少しずつだ、コツコツと学んでいこう」

 

「えっへん!」

 

 生卵の臭いが充満しつつある中でダンジョンを探検していた『教祖』とキメラが戻ってきた。

 

 しっかりと(オーガ)型モンスターを引きずって帰ってきているので戦利品のつもりだろう。

 

 ちなみに(オーガ)型モンスターも食べられないことはない。普通にスジっぽくて食べ辛いのがケンの評価である。

 

 なお、キメラは歯ごたえがあるものが好きなので好物で分かりあう日が来るのだろうか。

 

「残念ながら、昼飯のメインは目玉焼きだ」

 

「卵焼きではないのですか?」

 

「ゆでたまご!」

 

「意見が三つに分かれた…………」

 

「料理長の判断で目玉焼きに決定だ」

 

「一つしか道はなかった…………」

 

 メイが良い感じのツッコミ役として成長していたことに誰も気づかず、そして昼食の時間となる。

 

「おや、かなり義手の扱いが上達しましたね。これは上に戻れるのは時間の問題ですか」

 

「ぐるる、食べてない」

 

「食べないで!?」

 

「簡単に食べさせる訳ないだろ。卵で我慢しろ」

 

 食卓コントはさておき、義手をある程度扱えるようになったため『教祖』の介助が必要無くなった。

 

 これでようやく気まずい雰囲気から解放されるというもの。流石に宗教家のトップに介抱されるというのは心苦しい。

 

 心苦しいと言うよりも後が怖い。

 

「どこまで動かせるようになったのですか?」

 

「まだまだと言った所だ」

 

「つまり普通に生活できると。あと1日2日で帰れますね」

 

「…………よく分かってるんですね」

 

「親友ですから」

 

「長い付き合いだからな」

 

 口は違い、言葉も違う。しかしタイミングは一致していた。

 

 相当の付き合いが無ければ即答はなかっただろう。それだけの間柄を二人の間に感じた。

 

「がうがう」

 

 その間にはいる不届き物は許されないが。

 

 こう見えて腐女子、ギャルでも腐女子、化粧がまともにできない環境だからこそ男女関係なくそれっぽい沙汰に飢えているのだ。

 

「がう?」

 

「なんだその目は」

 

「…………(理由を察したが何も言わない)」

 

 人の趣味に文句は言わない。多種多様な人間を見てきた『教祖』だからこそ出来ることだが他1人と1匹は分からなかった。

 

「そろそろ地上に帰る算段もつけないといけない、かもしれませんね」

 

 『教祖』はそれだけを呟き、布を顔に纏ったまま紅茶を飲んだ。

 

 ケンにも未だにその原理は理解できていない。

 




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