ダンジョンとは一種の宝庫である。その認識は誰も間違っていない。
数々の人間が命を散らしながらも一部の人間が富を持ち帰るという例えも間違ってはいない。
そして、そのダンジョンの所有者は一体誰なのか?
そう話す専門家は至極真面目に話しているのに一笑されることになる。
土地の所有者に決まっている、そう言われてしまうことが多々あるのだ。
なお、ダンジョンが出来た時点でその土地の所有者は様々な権利が発生するとともに多くの制約も課されることになる。
最初に探索する権利、所有者として誰かを招き入れて一部を手に入れる権利、通行料を取る権利、メリットだけを挙げるならちょっとした金の成る木だと思うだろう。
その代わり、国の介入が大量に行われる。
主に収益として得られる金銭の3割以上を納めねばならず、納めなければ脱税として摘発される。
抜け道として存在を知らなかったと白を切る方法もあるが、ダンジョンで採れたアイテムや資源を納品している場所が限られるのですぐに発覚する。
ちょっとでも計算がずれたら役人が押し寄せて足りない分を徴収しに来るため周囲からの目も悪い意味で集まってしまう。
そういった社会的制裁が行われやすいのがダンジョンを個人で保有することだ。
驚くほどめんどくさい手続きを一か月に何度も行分ければならないこともあったりして滅茶苦茶不人気である。
そのため、大体のダンジョンは国営である。
そして突如発生してしまった小規模ダンジョンを潰す作業をするのも国なのだ。
「…………だる」
『いよね~』
そんな小規模ダンジョンを潰すために、イマジナリーフレンド携えて今日も働く公務員がいた。
目は虚ろ、どこかやつれており気なしか整っているはずのスーツもよれている気がする。
いつも通り小銭稼ぎと許可された動画の生配信を行いながらモンスターをばったばったとなぎ倒していく。
無味無臭な配信であるため視聴者が集まるはずがない。
今人気を集めている配信者は常に何らかの企画を行っており、そのような企画力がこの公務員にある訳でもなく垂れ流しかつ喋りも殆ど無い終わっている配信を見る者がいるのだろうか。
『早く帰ってねよーよー』
「俺も仕事なんて早く終わらせたい」
『ダラダラする時間を作るために力を籠めるのもめんどくさーい』
「はあ、どうしてうまくいかないんだろう」
どう見ても人型なモンスターにしかイマジナリーフレンドに同調して公務員の男が合わせて話す。
一見すると独り言にしか見えない不気味な配信でもある。
流石に1人の時以外でイマジナリーフレンドに話しかけることは無いが、常にだらけようと促してくる。
魅力的な誘いに乗りたいところだが、彼は社会人である。
生きるために金が必要であり、今日も固定された給料の為に働いていく。
『体を動かすのは面倒だよー』
「帰ったら寝るから我慢してくれ…………」
『ここで寝たらそんなこと考える必要もないのに…………』
「なに…………?」
よく分らない事を発しているが、既にダンジョンボスを倒してしまっており寝るどころの話ではない。
最低限の体力消耗で、最速で脱出している中でイマジナリーフレンドがそう囁く。
その話、もう少し早くしてくれたら実行も早くできたのではないかと思ってしまうが、イマジナリーフレンドは『怠惰』なのでわざとやっている訳でもないだろう。
自分の脳内にしか映らないイマジナリーフレンドではあるが、そんな感じで理解し始めていた。
『まずねー、ダンジョンで横になって寝る』
「それで?」
『そしたらダンジョン内の魔力を吸収してー、強くなる』
「強くなって?」
『何も気にせず寝れる』
「それは最高だな、不可能なことに目をつぶれば」
『可能なのにー』
所詮は妄想、心が楽になるとはいえ都合のいい事しか言わない友達の話を聞き流しながら男は帰路に就こうとする。
今、この男が妄想と割り切っているイマジナリーフレンドであるが、実はそんなちゃちな存在ではないことを男は自覚していない。
実はこのイマジナリーフレンドはかつてダンジョンが発生して世界を混沌の時代に追いやったモンスターの魂なのだ。
当時の人間に敗北し魂が一時的にちりじりになったが、長年の時を経て様々なモンスターの体内へ蓄積され、そして人間への食事として摂取されることにより一つの怪物へと戻り始めているのだ。
その証拠として、憑りついている公務員の男の強さが普通の探索者と比較すると異常に強くなっている。
モンスターを食事として取り込むのはダンジョンが発生してからすぐ行われたが、それで飛躍的に強くなったという報告はほとんど上がっていない。
否、200年の時を経て世代交代が何度も行われた今だからこそ、人間の体内に本来なかったはずの魔力を備える臓器が発生し、ダンジョンで狩られていった『モンスターの魂の残滓』という妙に長ったらしいエネルギーが蓄積されていく。
現代において、その臓器の名称は未だに議論されており正確な名称はない。
だが、ダンジョンにとってそれは非常に重要な臓器を
無理もない、まさかモンスターを犠牲にして原住民たる人間をモンスターへ徐々に変貌させていき支配してくるなど誰が思うのだろうか。
ただし、モンスターの魂が集まり憑依と言った形で自我を保つモンスターの母数も非常に少ない。
浅い層や中層などの弱いモンスターでは蓄積どころか消耗品程度にされてしまうため、実力も自我も非常に強い個体だったモンスターのみが憑依、転生できるのが現状である。
では、その実力も自我も強いモンスターは一体どうなっているのか?
「今日も宅配でいいか」
『ピザ食べたーい』
「手が汚れる、サンドイッチだ」
『コンビニの方が早くなーい?』
「それもそうか」
本来の目的を忘れて各々が自由に暮らしている。
完全に命令無視ではあるが、ダンジョンを作り上げた黒幕はとうの昔にお亡くなりになっているため咎められるのが薄っすら自我をもつ大きいダンジョンとそこに住むダンジョンボスくらいしかいない。
なお、転生の儀式は知っていても地上のどこで、どんな姿で活動しているかは全く知らないため咎めるにも異常に強い人間の中から探し出さないといけない訳で。
「ぱくぱくもぐもぐ、あ、『30分で食べきったら無料!爆盛りチャーハンラーメン5㎏』のお代わりお願いします」
「出禁で」
「(物凄いショックを受けた効果音)」
『くっ!また出禁か!これで都内の食べ放題店が全滅だぞ!もっと我に食わせろ!』
雁木恵右という『暴食』を宿しながらダンジョンへ潜っている者ですらダンジョン側が識別できていない時点で既に破綻していたりする。
200年かけてもそのことに気づいていないダンジョンの明日はどっちだ。
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