その集団は妙な雰囲気を纏っていた。
なんというか、ダンジョンが発生する前の時代でいう『戦前』の古臭く土臭そうな服を纏った老人の集団と言うのか。
腰がやや曲がった老婆までいるが、それらが集団で歩いているのは都会では全く見ない光景であった。
それ故に周囲から一歩引かれつつ写真を撮られたり動画を撮られたりしている。
見られているという自覚はあっても彼ら彼女らには目的がある。
「ここか?」
「分からん」
「昔の地図は頼りにならんな」
「どこだここ」
目的はあっても普通に迷子になっていた。
彼らが持つ地図はかなり昔のものであり、さまざまなビルが立ち店の入れ替え等で景色が変わり続ける都会においてなんの役にも立たなかった。
あれよあれよと都会のジャングルを彷徨い続けながらも、予定よりも時間がかかって目指すべき場所へと到着した。
「ここか」
「ああ、間違いない。ねっとで調べた者がここだと」
「派手な建物でやりおって…………」
とあるビルの前に固まって各々が荷物として持ち込んだ何かを、腰につけていた紐らしきものに巻き付ける。
そして、その紐も取り外してクルクルと振り回しはじめ、奇妙な絵面ができあがる。
彼らが振り回している物は一体何なのか。
都会故に大きいダンジョンを潜る探索者も多いが知識はそこまでない者も居る。
だからこそ気づくのに遅れた。
1人のベテランの探索者が老人が振り回している武器が投石機であるという事を見抜き、明らかに何かヤバい行為をしようとしている集団へ走り出す。
「おい!そこで何をして」
いる、という間に老人たちは投石機から何かを発射した。
キラキラと赤く輝く何かがビルへ飛んでいく。何かのパフォーマンスかと思っていた呑気な市民が飛んでいく軌跡に目を奪われた。
そして…………
ドグォォォォォォン!
ビルの壁や窓に意思がぶつかった瞬間に大爆発を引き起こす。
「うわああああ!?」
「なに!?なんなの!?」
「テロかよ!?逃げろ!」
「貴様ら!なんてことをしたんだ!」
こんな公共の場で老人が爆破テロを起こすという前代未聞な事件を引き起こされて呑気に見ていた者達が一斉に逃げ出す。
一部の探索者はダンジョン帰りであり、またダンジョンへ行くために所有していた武器で手人である老人たちを捕えようと走る。
ダンジョンでおっかないモンスターと戦い続けた者たちである、下手なスポーツ選手よりも速い足で合間を詰めていく。
だが。
「遅い」
「がぁっ!?か……っ」
老人が探索者からの攻撃を避け、通り過ぎる際に懐から取り出した鎌が探索者の喉を切り裂く。
あまりにも手馴れている行為故に攻撃を受けた探索者は自分の身に何が起こったかすらまともに把握できず呼吸が出来なくなり倒れこむ。
「応援を呼べ!こいつらやばい!」
「なんだこのジジイとババア!?」
「ぬるいわ小童が」
1人が瞬殺されたことで武器を振り上げながらも誰かに聞こえるよう大声を上げた探索者ががら空きになった胴体を一瞬で串刺しにされる。
それでも一突きされた程度で止まる探索者ではない。瀕死の重傷であっても明らかなテロリストを見逃すほどやわではなかった。
自身の死を瞬時に覚悟して一人でも道連れにしようと剣を振り下ろす、筈だった。
「…………あれ?俺の手?」
振り下ろした筈の腕が、膝から先がなくなっていた。
「志乃さんや、こいつらもぬるま湯とはいえ『巣箱』に潜る連中の1人だよ」
「油断するな」
「あや、これは油断した」
呑気にに喋っているように見えて、血なまぐさく剣呑な事態を作り出している老人は己の手に持つ斧から血を一振りで地面に落とす。
「儂らが始末せにゃならんのは雁木のとこの餓鬼よ」
「あいつがてれびに出たせいで、うちの村は滅茶苦茶よ」
この老人たちは地方の違法ダンジョン摘発に置いて真っ先に摘発された雁木恵右の地元である村の住民だった者達である。
違法ダンジョンを管理していたのは村の大人たちであり、特に中年当たりの人間がダンジョンへ潜り発生するモンスターを乱獲、密輸と言って過言ではないルートで売りさばいていたため軒並み逮捕されていった。
その際にとある一家が行方不明となっており、殺人事件に関与しているのではないかと疑われている最中であった。
僅かな隙に重要参考人である老人たちが逃走し、全ての元凶となったとされている女性に報復を行おうとしている。
先に言っておくが、この老人たちこそ雁木恵右とその家族を率先して迫害した連中であり、老年になってもダンジョンへ潜りモンスターを狩り続けているベテランである。
そして、モンスターを殺せば殺すほど魂の残滓が蓄積していき、凶暴になっていると言いう事実に気づいている者は殆どいない。
老人たちはテロリストとしてとらえようとしてくる警備員や探索者達を相手取りつつ、全員が布の様な物を突如纏う。
それはモンスターの光の加減で透明になれるモンスターの革を加工したもの。今現在も深層にて隠密行動主体で活動している探索者チームが愛用しているものと殆ど同じものである。
準備さえ整えば深層のモンスターですら大体が欺かれるアイテムであり、それを纏えば人間が見失うのも当然である。
「逃げたぞ!探し出せ!」
「情報を拡散させろ!やべー奴がいる!」
「どこが襲われたんだよ!?救急車!」
「し、死んでる…………なんてこった」
現場は正しく阿鼻叫喚、図塊や殺人をするだけして逃走するとは野蛮にもほどがある。
まして、身勝手な活動から罪のない人を手にかけても何も思わぬ鬼畜を見せる輩の話は即座に広まっていく。
この老人たちの目的は一体何なのか、何故このような強さを持ちながら他人に向けたのか。
襲われたビル、そこそこ動画配信者を抱える事務所がピンポイントで狙ったのは何か。
当然、爆破されあたビルから死傷者も多数おるため、地上における人間が起こした最悪の事件とまで揶揄されるようになった。
そして事件発生から1時間が経過して…………
「恵右ちゃん!?無事!?」
ダンジョンで別々に潜っていた坂神あかねと雁木恵右が合流した。
互いに浅い層、中層と活動範囲がかぶらないよう動いていたのだが、事務所が襲撃されたことをコメントから知り急遽切り上げて戻ってきたのだ。
目に入った惨状に絶句しつつ、このような事件の当事者になるとは思いもしなかったあかねは同じく戻ってきた恵右を心配する。
普段なら感情が食欲に寄り過ぎて無心そうな恵右があからさまに動揺している。
細やかな震え、やや蒼白気味になっている顔、溢れる冷汗が彼女に異常な反応を起こしているとすぐに察することが出来たのだ。
「大丈夫、今偉い人たちが操作してくれてるから」
「……………………」
「ほら、社長もたまたま外出してたから無事ってメールも来たよ!とりあえず無事な人たちは集まろうかって話になってるから、集合場所は警察署だって。多分安全な場所だから行こう!」
「……………………うん」
このままではずっと立ち尽くしていそうな恵右の腕を引っ張りながら、あかねは緊急会議と事情聴取のために警察署へ向う。
下手人は一体誰なのか、恵右は、恵右だけが全てを悟っていた。
「わたしの、せい…………」
自分が逃げ出したせいで追手が過激なことまでやらかしたと、村では自分と家族だけが何とかしたら外に漏れぬはずだった悪意が見知らぬ誰か、知っている人たちを傷つけた。
そのショックが隠せず、そして何故ショックを受けているのか本当の理由も知られず、恵右の胸に重苦しさがのしかかる。
その動揺にまみれた瞳の底に、間違いなくどす黒い何かが渦巻いていた。
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