事務所襲撃という凶報、最悪なことに死者まで出ている状況で無事だった面々が警察署に集められ事情聴取が行われていた。
探索者であり配信者という立場上、知らぬ間に恨みを買うということは無い訳ではない。
全く無関係だというのに、本来ならあの獲物は自分の物だったと恥知らずが世迷いごとを高らかに叫びながら突撃することだってある。
場合によってはダンジョン内でモンスターに殺されたように仕向けることもある。
大抵は失敗して明るみに出たり、不審な失踪から捜査されることもあり明るみに出ることが多いため実行されることは少ないが。
「分かりませんよ!あんなことされる理由なんて…………」
「動画で見ましたけど、変な連中に絡まれる覚えはない!」
「というか、あんなジジババが何であんなものを?」
口々に無関係なこと、心当たりがないことを告げていくが唯一黙っている少女が居た。
そう、雁木恵右である。
自分達の家族を迫害し続けてきた老害共がわざわざ関わらなくてもいいのに恵右を追ってテロ行為に手を染めたのだ。
閉鎖された世界で生きてきた恵右でも普通に気がくるっていると思うし、特に今の世の中では明らかにモンスターにも劣る蛮行とされている。
もちろんSNS上で何でこのようなことが起こったのかが事件が発生してそこまで時間が経っていなくとも議論されている。
「雁木さん、心当たりはありませんか?」
「…………多分、私のせい」
その言葉に事情聴取する刑事の目つきが鋭くなるが、恵右の言葉にだんだんと同情的な目に変わっていく。
「なるほど、つまり自分が例の法案改正で被害を、いや
「あの村の人ならやる。何でもかんでもよそ者のせいにして殴ってきたり物を盗られてきた」
「…………それが本当なら随分と悪質だな」
「だから、こっそりお金をためてお母さんが逃がしてくれた」
学校を中退して飢えをしのぐためにダンジョンに潜り続けることで地元でも最強と呼ばれるようになっても、あの狂気じみた場では精神力は今のそれよりはるかに削られていた。
逃げるにしても家族の存在があり、そして迫害されていた幼少期のトラウマから逃げる気力も考えもほとんど失われていた。
政府が出来る限り田舎や地方の村に手を尽くそうと、誰も知ならい所であるのなら報告が漏れることもある。
特に200年前のダンジョンが発生したせいで一部の地図が失われたりと空白地帯に、たまたま恵右の祖先となる村があり、そして独自の掟等が発達してしまった。
案外、200年という時間は見つからないものらしい。
だが、かなり時間は経ったが本腰を入れて調査すると思いのほか似たような場所が見つかっており、理不尽ではあるかもしれないが法を守っていないことに対して村の決まり等々言い訳したせいで逮捕された者が続出。
そして、そのことについて高頻度で言及している多少の知名度がある人間こそが恵右であった。
犯人の目途がついたはいいが、これ下手したら警察署が襲撃されるのではないかという危惧も生まれる。
無理もない、日中から大犯罪を犯すような常識はずれが常識な連中がこちらの常識に合わせるわけが無い。
「ひとまず、どこか安全な場所に移送するしかないか…………」
ターゲットにされている人物をを囮にするという考えは最低だが、一般市民に大きな被害が出る以上はやらざるを得ない。
そして何よりも刑事である自分よりも強い探索者があっさり殺害されているため太刀打ちできるイメージが湧いていないのだ。
こうしてできる限り事情を話した恵右は数時間にわたる聴取を受け、警察が事件が起きる大まかな流れを知ることになる。
そして、恵右とその家族が今まで受けていた迫害を全て聞いてしまった刑事たちが一斉に頭を抱える。
マジで何の利益もない見当違いな復讐にみせた自己陶酔とかやめて欲しい、その一点だけ皆の思考が一致した。
裏付けこそ出来ていないが、ただただ話は生々しすぎるだけでなく、実際に違法ダンジョンをその年まで潜り続けいたことで異様な強さまで兼ね備えているという事実。
状況証拠からひとまずそれを断定とし、刑事たちは事件を追う羽目になる。
「……………………」
「恵右ちゃん大丈夫!?」
よろよろと長時間の事情聴取から解放された恵右が最初に出会った事務所の関係者は坂神あかねだった。
「うわ、顔色悪いよ。相当時間たってたし、気分悪くない!?」
「何か知ってるのか?おい、何であんなことが…………」
「ちょっと本当にどういうこと!?」
恵右が出てきたことにより待機していたマネージャーや事務員、他の先輩も集まってくる。
全員がなぜこんなことが起きたのかを知りたいのだろう。何せ仕事場が爆破された上に怪我人どころか死人まで出てしまっているのだ。
仲のいい友人が、仕事仲間が傷つけられて黙っていられるほど彼ら彼女らはやわではない。
突然に深層へ放り込まれるくらいの出来事がない限り反撃してやると意気込んでいる。
深刻そうな顔をして黙りこんでいた恵右であったが、遂に口を開く。
「…………おなか、へった」
ぎゅるるるるる、ぐうううううぅ、くぽっ。
とんでもない腹の音と共に小さく大きな欲望を口に出す。
そうだ、そういえばこんな奴だった。
緊張感が台無しではあるが、元々燃費が悪い恵右にとって長時間の監禁は拷問に等しいのだ。
はああ、と皆がため息をつきながらも仕方なく食料を買いに散っていく。
「ま、まあ無理だけはしないでね?」
ふらふらとしている恵右を介護するために残るあかねは署内になる椅子に恵右を誘導する。
完全にやつれた状態の恵右は、もう何でも食べそうな予感がしていて、最悪飾ってある観葉植物すらも食べていきそうな気がする。
若干見当違いな心配をしていたが、恵右の心の中では何をするべきか決まっていた。
「…………私の」
「え?」
「私のせいです」
ポツリとこぼした言葉、それを聞き逃さないあかねは恵右の独白を聞き続けた。
確かに凄惨な過去ではあった。しかも自分達が不幸になった理由をわざわざ過去まで掘り返して追いかけるほどの狂人の集まりのせいで他人に多大な迷惑をかけた。
「だから、私のせいです。だから、私が始末します」
「何が私のせいだよ!」
覚悟と殺意の言葉はあかねの叫びで一刀両断された。
「恵右ちゃんは頑張ってきたのに、わざわざ嫌がらせするためにこっちへ来たってことでしょ?性根が腐りすぎてるよ!引きこもりすぎて共感性とか無くしてるんじゃないの?少なくとも恵右ちゃんが悪いところなんて何一つない!」
今まで真面目に語ってこなかったせいではあるが、自分の過去に本気で怒ってくれる人は居なかった。
過去の片鱗を見せても引かれるくらいであった恵右にとって、最初から今まで親身になってくれる人間は親くらいしかいなかった。
怒りの感情を見せるあかねを目を丸くして見つめている恵右だが、少し恥ずかしくなったのか目を逸らした。
そしてあかねも少し興奮しすぎたかと顔を少し赤めて目を逸らした。
思うところはあるが、なんだこの空間と2人を知る人間は思ったことだろう。
「ま、まあとにかく全部の責任を恵右ちゃんが背負う必要はないからね?みんなで何とか解決しよう」
「……………………うん」
あかねは優しく手を握り、知ってから知らずか恵右が宿していたドス黒い感情を和らげた。
だが、事態はまだ解決していない。
あの老人どもを仕留めるにはどうすればいいか、知恵を絞ることになる。
感想をいただけると励みになります。