ダンジョン深層住みです、いつからかは忘れました   作:蓮太郎

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第77話 負けっぱなしでいられるか。

 

 雁木恵右が住んでいた村の老人たちが引き起こしたテロが発生して12時間後、老人たちの大した目撃情報がないままであった。

 

 だが、たった一人の少女を付け狙っているとなれば話は別だ。

 

 おびき寄せる方法はとうに目途はついているものの、肝心なアイテムが不足している。

 

 なにせ透明になれる布、視覚だけで言うなら深層のモンスターに通用するアイテムを所持しているのだ。

 

 外に出たら間違いなく奇襲される。一番嫌なのは爆発物を使い周囲を巻き込むことを厭わないこと。

 

 既に事務所爆破に止めにかかった探索者殺害という重罪を犯している時点で二度としない要素はない。

 

 だからこそ、ここでどうしても止めなければ恵右をおびき出すために再度テロを仕掛ける可能性がある。

 

 質が悪いことに、恵右からの事情聴取で性格も最悪と認定されているため、別の方へ責任転嫁をしかねない。

 

「私は大丈夫ですけど…………他の人たちと一緒に隠れた方が」

 

「いいのいいの!ここ最近はついてるのかつてないのか分からない感じだから生き残れるって!」

 

「なんですかその自信」

 

 どこまでも能天気そうに寄り添う坂神あかねに困りながらも、雁木恵右はとある場所で待機していた。

 

 確かにトラブルに巻き込まれることは多々あれど、そのたびにしっかり生き残ったり後で何かレアアイテムを入手出来たりと幸運も相当目立つ。

 

 俗にいう、なんか行ける気がするという奴だろうか。

 

 実力だけで言うなら恵右からすると弱いが近くにいると心強い存在。

 

 つまり何となくいける気がする感覚は伝播していくのだ。

 

「とにかく、この体育館は出口が一つだけって話だよね」

 

「他は封鎖したって聞きました」

 

「まあ、確かに封鎖と言えば封鎖かなぁ?」

 

 2人が居るのは体育会系の部活が全国大会で使用するような体育館であった。

 

 周囲を見渡すと、真正面に存在する入場の通路だけがぽかんと空いており、周囲の扉や窓には段ボールが敷かれており、どうみても壁としての役割は薄すぎるのではないかと思われた。

 

 だが、相手は手段を選ばぬ老獪な老人たち、報復の一環として無関係な市民を殺害しても何の感情の変化のない化け物である。

 

 それに姿を消すアイテムまで使用しており、どうせ下手に窓から侵入されるくらいなら壊れやすいもので覆えば侵入もすぐに察知できるという算段である。

 

 ただ窓が割れた時に修理費が嵩むなんて言うわけではない。

 

 SNSでは事件の中心である2人の事務所メンバーがどこに居るかで特定しようという動きはみられている。

 

 皆、上手く隠れており、唯一場所がバレかけているのがこの2人なのである。

 

 何故ならこの体育館に入る姿を目撃されており、インプレッション稼ぎの誰かが写真を載せてしまっているのだ。

 

 失敗かと思われてそうな事態であるが、これこそが狙いであった。

 

「来るかな?」

 

「来ますよ」

 

「その根拠は?」

 

「あいつら、底から性根が腐りきってる」

 

 至極真面目に言うのだから、もうどうしようもない人たちなんだろうと心の中で諦めがついた。

 

 出来たら来ないでくれ、自首してくれと願うあかねであったが、そんな願いが野蛮人に通用するはずもなく。

 

 ひたひたとわざとらしい草履の足音が真正面の通路から聞こえてくる、

 

「居たぞ」

 

「ああ、ここに居たか」

 

「掟破りが、手間を掛けさせよって」

 

「罰じゃ、罰を与えねば」

 

 老人たちが暗がりから透明になる布を纏い、古臭い服と顔の一部だけを見せつけるように現れる。

 

 どう見ても老人の殺し屋にしか見えないのだが、恵右にとって妙に懐かしく、そして哀れな顔ぶれだと思った。

 

「おじさん達とおばさん達はどうしたの」

 

「捕まったわ」

 

「お前が余計な事をしてくれたせいで逮捕された」

 

「儂らが隠しておったダンジョンも取り上げられた」

 

「そうじゃ!財産全て没収された!税金という名目で取り立てよったんじゃァ!」

 

「それって今まで国って存在を知っておきながら払うのを怠ってたのが悪いんじゃ…………」

 

 かつてダンジョンが発生したばかりの混沌の時代において分断された地区に対して国は一定期間の免税を行ったことはある。

 

 出来る限り手を尽くして残存している田舎を救うための措置であったが、真に欲深い者はダンジョンの価値を即刻見出し雲隠れする者も居た。

 

 小さくともダンジョン内から出る資源は一度崩壊しかけた文明を発展させるために必要不可欠だ。

 

 それに下手にダンジョンが現れすぎてモンスターが地上へ溢れて被害が出てしまう懸念もあった。

 

 安定期に入った政府は資源回収を名目に新たな法律を定め、ダンジョンを独占し続け富を溜め込んだもの達を許さないようにしていたのだ。

 

 通信手段が断たれていたという言い訳はできるが、ぶっちゃけ100年以上経って閉じこもっている方がおかしいのだ。

 

 故に外との交流は多少行われており、恵右の村の場合は恵右の母親が外から来ているため知らないはずがないのだ。

 

 それにより摘発された事を恨んでいるのだが、恵右は本当に間接的に関わった程度で無理筋というもの。

 

「ばーーーーーっかじゃないの?」

 

 故にあかねの言葉はどストレートだった。

 

「ずっと不正してた上に恵右ちゃんから搾取して、悪事がバレたから逆恨み?強いだけでいい時代はとっくに終わったのに昔の感覚すぎるっての!」

 

「黙れ小娘」

 

「貴様に何が分かる」

 

「国に見捨てられたご先祖様がどのような苦労して来たか分かってるのか!」

 

「いや、知らないよ。でも頑張ってきたのは分かる、その結果が弱いものいじめが大好きな子孫ができちゃった訳だもんね」

 

「侮辱も大概にしろ!死にたいのか!」

 

「既に人殺してる奴がほざくな!」

 

 長年ダンジョンに潜り得た力や技術を誰に伝承する訳でもなく、誰かのために使うのでもなく、他者を傷つけてまで己の為だけに使うのが腹が立ったのだ。

 

 力ある者といえばあかねの脳裏にチラつくのは200年もダンジョンにいる男。

 

 己の実験のためと言いつつ深層からモンスターを一体も上へ上げていない偉人だか奇人だかよく分からない人…………人?

 

 見た目も滅茶苦茶若いのに対し、老いてなお老害のようなムーブで無駄に強い村人達と比較してしまうのはしょうがないだろう。

 

 何せ生還は絶望と言われた場所で命を救われたのだ。

 

 というか、気配だけでいうなら深層のモンスターの方が一万倍はおっかなかった。

 

「先輩、その辺で。どうせ口で言っても通じないので」

 

 数々の罵倒を浴びせようと自分中心に考える老害にエンターテイナーがわざわざ語る価値もない。

 

 もうちょっと罵倒トークを聞きたかった恵右はさっさと始末をつけようと制止する。

 

「今からは獣狩りの時間です。人間社会に適合できそうもない獣を倒しましょう」

 

『貴様も獣だろうが』

 

 イマジナリーペットが何かあった気がするが、自分は間違いなく人間だと恵右は確信している。

 

 何故なら、目の前の獣と比べたら誰かを尊敬し慕うことが出来るから。

 

「じゃ、お願いしまーす!」

 

 あかねの高らかな宣言と共に体育館の照明が全て消えた。

 

 ダンボールで窓を塞いでおり、老人たちが入ってきた通路も暗いため光が殆ど失われた。

 

『今までの仕返し、しますから』

 

 そう、体育館に誘い込むこと自体が罠だったのだ。

 

 急に暗くなったことで少し動揺の声が漏れた老人だが、恵右の仕返し宣言に腹を立てる。

 

「小娘が、いや、餓鬼に何ができようか」

 

「怯え飢えてた貴様に、儂らが何か躾けなければならんようだな」

 

 もう何も怖くない、だってもう1人じゃないんだから。

 

 暗闇の中、およそ1500平方メートルの体育館で静かに、モンスターに近い人間同士の戦いの幕が開ける。

 




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