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ある日、突然―――地球人類総勢70億人は、物言わぬ石となった。
地球上に存在していた人類は全員が、生物と建物を除いた全てが、一切の例外なく石化してしまった。
当時、その地球において、『剣聖の再来』と言われていた二刀流の剣士もまた同じく、石となっていた。
なっていた、のだが――――――
(どれだけ経ったかな…1000を越えた辺りから、もう諦めたが…恐らく3000は行ったか?)
意識は、飛んでいなかった。思考は、止めていなかった。
意思は、石になっていなかった。剣士は依然、起きていた。
人類が石化してから3700年という長い年月が経ったにも関わらず、しかしその男は―――戦国時代に剣聖として名を馳せた大剣豪「宮本武蔵」の血を引く少年、宮本武流は意識を保ち続けていた。
(石化とは、全く難儀なものだ。石の上にも三年と言うが、まさか石の中、しかも幾千年もの時を過ごさねばならんとは。)
だが、これもこれで良い坐禅よな。
宮本武流は、もしかすれば二度と目覚めないかもしれないというのにも関わらず、呑気にそんな事を考えていた。
いや、恐らくは、実際に気にしていないのだ。
自分が二度と目覚めないかもしれない事も、自分が砕け散って死んでいるかもしれない事も、欠片も気に留めていないのだ。
自身が死ぬ事すら、意に介さず。寧ろ、この石化している状況を何処か楽しんですらいる。
現代の宮本武蔵、世界最強の剣士とすら言われていたこの男は、この3700年という長い年月を坐禅に費やしているのだ。
だが―――
今漸く、それも終わりを迎えた。
(―――ん?)
パキッ、と。音を立てて石が剥がれ落ち、深淵の如き暗闇が広がっていた視界に懐かしい日差しが入り込んだ。
それに続く様に、彼の体を覆っていた全ての石が剥がれ落ち、遂にありのままの姿となった。
石化という束縛から、3700年という長い束縛から、遂にかの剣聖の子孫は解放され、再びこの世界に生を受けたのだ。
「やぁ。君が、宮本武流だね?」
顔を上げれば、目の前には如何にも石器時代に生きていた頃の人間の様な格好をした大男が立っていた。
見覚えのある人間が、見覚えのある最強が、取り巻きを連れて堂々と立っていた。
「ん…? あぁ、お前は確か…獅子王司か。そして、隣に立っているのは貫流槍術の氷月…だったか?」
「えぇ、合っていますよ。二天一流兵法の正統な後継者、宮本武流くん。」
目の前に立つ大男こそ、3700年前の世界において霊長類最強の高校生と呼ばれた男「獅子王司」、そしてその隣に立つのは尾張貫流槍術の使い手である男「氷月」。
この世界における一つの陣営―――「司帝国」のナンバーワンとナンバーツーの二人である。
「ふむ…では、此処が最新の日本という事か。随分と様変わりしたものだ。あぁいや、3700年も経ったのだ。それくらい当然か。」まぁ、そんな些細事はどうでもいいとして―――
「取り敢えず、まずは服と武器をくれ。出来るなら、和服が良い。あと刀だ。」
剣聖の子孫、宮本武流。
三七○○年、旧二天一流道場跡地にて再誕。
(新・百物語『剣聖の章』)