こっちの世界では1月1日を「元日」とか「元旦」って呼んでるんだってな? オイラその違いが良く分からなくて、夢と一緒に調べたから皆にも教えてやるでぇ~!
元日は1月1日の時間そのものを示す言葉で、元旦は1月1日の朝を示すんだ。だから元旦の「旦」の字は「一」を地面と見立てて、「日」と言う太陽が顔を出してるんだって。日の出と言うやつだな!
これでオイラも皆も賢くなったな! ……既に知っていた子もそういう事にしといてよ~~!
1月10日。その日は冬休み最後の日にして、毎年からなず訪れず厄日である。
別に冬休みの宿題が残ってて明日が憂鬱ではない。出された課題は日中の家を追い出せれいる時に暇つぶしがてら終わらせたし、そもそも憂鬱を感じないし。
ではなぜ厄日なのか、それは一言で済ませば新年の挨拶だろう。
「あら? 出来損ないしては準備が早いじゃない」
首元のネクタイを締め、襟回りを正していたところに背後から声を掛けられる。声の元へと振り返るとそこには煌びやかな晴れ着に身を包み、これでもかと宝石が埋め込まれたアクセサリーを付けた女性の姿があった。
「分かってるでしょうね。今日一日は私達の視界に入る事を許すわ。でもあくまでメイドとしてよ、良いわね」
「分かってます、美希様」
こちらを見くだしながら紡がれた言葉。毎年と言いうか、事あるごとにこの女性は僕に対し嘲笑いながら嫌味を言いうから、今さら反論も出ない。彼女の求める通りの姿勢で言葉を返すが、その様子が気に入らなかったのか、鼻で笑い扉を乱雑に閉めて去って行った。
「____もう出てきて良いよ」
女性の足音が扉越しに聞こえ無くなったを気に言葉を零す。その声に反応し部屋の奥、まだまともに整理できず無造作に積まれた品々の中から二つの影が顔を覗かせる。ケルスとコロクだ。
『ふぅ~~… 見ているこっちがひやひやするわ』
『なぁ、夢。あのキャラの濃いおばs……… 女性は誰なんだ?』
「___彼女は【紫吹
『紫吹ってまさか……ッ!』
「うん、僕の母親」
以前にも話したようにあの人は玉の輿を狙って結婚しており、自分を着飾る事に快楽を覚えるタイプの人間。妹の神楽を溺愛する一方、様々な先天性の病気を持つ僕を忌み嫌う。まぁその方が僕としても接しやすくていい。どうしても両親と言われると前世の親を思い浮かべる僕には……
「ケルス、そこのメガネ取って」
『あいよ~』
しかめっ面を浮かべるコロクを他所に身支度の再開。机の上に置かれていたメガネの両サイドを左右の口で優しくくわえ、中央の鼻先で下から支えると言う一見曲芸にも見える体制で持ってきてくれたケルスに礼を伝えメガネをかける。
そして部屋の隅で罅が入り、下半分しか物を映さない年代物のスタンドミラーへと身体ごと視線を受けた。そこに映し出されていたのは白い髪を揺らし、黒を基調としたメイド服に身を包む幼き子供。メガネの奥に見える赤い瞳がモノトーンな色合いの中でアクセントとなる……………らしい少女メイドとしか思えない僕の姿。
『おぉ~~! だいぶ印象が変わったなぁ~』
床から僕の肩に跳び乗ったケルスが言葉を零す。
幼い子供故に男の子ポイ格好すれば男に見え、女の子ポイ格好をすれば女に見える現在の僕。女装メイドが出来なくなる年代になると追い出されるのだろうなと、頭の片隅に思い浮かべながら最後にカチューシャでそれとなく前髪を押さえ机に向かう。
普段食事に使用している机。そこには今かけてあるメガネのケースや新たな仲間の他に、この部屋異質を放っている真新しいカバンが置いてあった。これは家に使える執事やメイドの仕事用鞄であり、今日一日だけ僕に貸し出された物である。
____そう執事やメイドに専属の抱え調理士がいる事、更には聖地にて立ってるお屋敷と言って違いない大きな家。現世の家庭である紫吹家は風柴町に昔から続く金持ち…… どころか地主の家系だ。これからメイドとしていく場所にもその事は関係している。
まぁ、長々しく話すつもりも無いから簡潔に言うと新年の挨拶と言う体で集まり、金持ち同士のマウントの取り合い。中には親密になるために互いの子供の結婚を取り付けるとか言う噂も聞いた。
メイド服に身を前にコロクが浮かべた疑問の様に、なぜそういう場で変装をするのかと思う人もいるだろう。それは僕がこの家に居ない…… さらに言えばこの世界に生まれた記録すらない。でも今の父親がそう言う空気を味わっておけと無理やり僕を参加させるため、毎年この時期に特注の子供メイド服を渡してくる。
………え?紫吹夢と言う人間の戸籍が無いのにどうやって学校に通えるのか?
その疑問は晴らさない方が良い。既に3人ほどこの地から消されているらしいから。
閑話休題
ともかく今日一日は神楽のメイドとして会食に参加する。当の神楽には邪険にされてあまりそばに居ないのだが……
「行くよ二人共」
『おぅ!』
元日から共にしている新たな仲間【リアックフォン】をスカートのポケットにしまい、コロクとケルスが入ったショルダーバッグを肩にかけ部屋を出る。
普段は使わないどころか近づきもしない表玄関から庭へ。既に待機していた従者に会釈をし、彼らの列にひっそりと加わる。それから一時間も待たずして待ち人達はやって来た。片方は先程、僕に悪態をついてきた母親。そしてもう片方は母親のセンスで着飾ってる妹の神楽だ。
母親のセンスと言って化粧や宝石だらけの自身とは違い、化粧を最低限に装飾品も最低限と言った神楽の素体を生かした品のある格好。いつかメイドが言っていたが母親、美希は自身がやりたい装飾品たっぷりよりも素体を生かしたコーディネイトが得意らしい。
現に従者の制服もシンプルかつ動きやすい物を採用しているにも関わらず、高級感あふれる物となっている。
「お姉ちゃん、言っておくけど今日は神楽って呼ばないでよね!」
「分かってますお嬢様」
僕の姿を見て付かかって来る妹に双子の兄としての僕でなく、一人の従者として返答する。正直言って、前世の時をした事すらない元高校生の付け焼き刃だけど、それでも本職の人に基礎は教わっているからそれっぽくは見えるだろう。
……なんで高校生なのにバイク事故が死因なのか? 16でも自動2輪車の免許自体はとれるし、通学に使っていたから。原付にしなかったのは仮面ライダーへの憧れ。まぁ、その時の選択で今は2輪車に見るだけで固まる程、魂にトラウマを刻まれてるけど……
____どうでもいいか。
関係ない事を考えていると今はもう見慣れた、ドラマやアニメでよく見たリムジンがやって来る。それに乗り込む神楽達に続き、母親の専属執事と共に社内へ。ちなみに父親は伯父さんと共に会場の最終チェックの為に誰よりも先に会場へと向かった為、この場にはいない。
リムジンの端で母娘の仲良さげな会話を眺めながら体感数時間ほど揺られ、目的の会場にたどり着いた。神楽達と共に施設の中に入ると視界に広がるのはシャンデリアで照らされ、豪華な料理が並ぶテーブル。既に室内にはある程度の人が集まっており、中には先に食事を楽しむ今の僕より幼い子供の姿も見受けられた。
僕らの後にも人続々とやって来て、予定の時間となると今年の年明けパーティ主催者の伯父さんが長々と語り乾杯の音頭。そこからは自由行動と言う名の挨拶回り。まぁ、僕は神楽の後ろを付いて行くだけだけど。
「__【リーム】何か取って来て」
「畏まりましたお嬢様」
こちらに振り返った神楽が告げる。そんな彼女に一礼しそばを離れテーブルへ。
ちなみに先程僕の事をリームと呼んでいたがこれはメイドとしての僕の名。白髪赤目な容姿的に日本人メイドと偽るよりも外国人メンドとした偽った方が楽らしい。だからこの場に居る人達にとって僕は、外国人少女リームとして扱われる。
「………あれ、リームちゃんではありませんか?」
神楽が嫌いなピーマンや椎茸が混じらないように注意しながら、小皿にサラダと卵焼きにソーセージと盛り付けている。すると後ろから声がかけられた。姿勢を気にしながらも振り返るとそこには一人の執事を後ろに連れた少年の姿。
「天羽様、明けましておめでとうございます。ご無沙汰ぶりです」
この少年の名は【
「お久しぶり、そして明けましておめでとう。それより、相変わらず神楽に扱き使われているのか?」
「いえ、そんな事はありません」
新年のあいさつを軽くして、こちらを心配してくる相馬君の言葉に返答する。実際に神楽には邪険にされて、料理を取って来いと言うのも出来るだけ僕のソアに居たくないと言う神楽の思いからだし。まぁ、家の中でばったり会ってしまったら罵倒の一つや二つは飛んでくるけど……
「………………君は表情が変わらないから、嘘か本当か分かりづらいよ。それより毎年言ってるけどさ、俺の所来ない? 紫吹家よりも好条件で雇ってあげるし、待遇も良くするよ?」
「折角のお誘いですが、お気持ちだけ。今の環境に不満はありませんから。では私はこの辺で」
相馬君に一礼しこの場を去って行く。彼の提案を受けても良いんだけどその場合、性別を偽っているどころか夢としてもリームとして戸籍が無い事がばれてしまう。それは不味いと前世で培った価値観が言っている。それに今の僕は自分の感情が分からないし不満が無いのも事実なんだから。
大きなズワイガニの足を持ち、大胆にかぶりつくとそのまま足を引き、歯で身を引きちぎる。口の中で広がるカニの味。本来であればその美味に心躍らせるところではあるが、実際に心の中を埋める感情は良く分からない。
「不味い、別の取って来て!」
視線の先では手に持っていた味噌汁を容器ごとリームへ投げつける紫吹家の一人娘の姿。この母親譲りの傲慢な性格さえなければ、文武両道の天才である彼女に婚約の話が絶えなく行く事だろう。
「分かりましたお嬢様」
一方、みそ汁を顔面に受けネギやかまぼこなどの具を至る所に引っ付けたリームは、呻き声も嫌な顔も一つせずに神楽に一礼をするとその場を離れた。そんな彼女の様子に神楽は鼻で笑い、目の前で起きている事の重大さを知らない無邪気な幼児の笑い声が会場に響き渡る。
この店の従業員が慌てて床を拭きに走る中、無意識に拳を握りしめていた。
なんで、なんでなんでなんで! どうして神楽の方を選ぶんだよ! 不満がない? そんなやせ細った体って事はちゃんとした食事を取れて無い、なによりの証拠じゃないか! それなのに紫吹家に拘る理由はいったいなんだ?
……………そうか、彼女は神楽に脅されているんだ。どういう経緯で紫吹家のメイドとして雇われたかは知らないけど、海外生まれの彼女が日本で働いていると言う事はそういう事だろう。そうに違いない。そうと決まれば___っ!
そうして俺はこの身に宿った激情に任せある作戦を思いつく。幸いにも今日はバイトの執事もいる。多少強引な手にはなるが、これが一番確実にリームを助け出せる作戦だ。おじいさまには全てが終わった後に土下座でも何でもして認めてもらえればいい。