・・・・・・3年前
「はぁ~~っさむ!」
大人やお兄さんやお姉さん達のドロドロで気持ち悪い会話が嫌になって、豪華な料理を無視しこそっと抜け出した俺。震える手を温める為に吐いた息は白く色づいていた。それでも暖房の効いた会場に戻るのは嫌で外に通ずる扉を開く。
「______っえ?」
「……………?」
そこで見たのは世界を覆う雪に隠れる純白の髪を持ち、触れたら壊れてしまう程に脆そうな飴細工の如く細い体。服を着ていると言うより服に着せられているメイドが建物の僅かな段差を椅子代わりに座り、妖精の様に小さくピンクがかった手で使い捨ての容器を持ち、小さな口で麺をすする。
麵を呑み込み今度は油揚げを小さな歯で噛み千切る。雪の中で見えた幻影かのような景色に遅れて声が出てくる。己から零れた小さな音は風が吹かず、静かなこの場においては太鼓の様によく響いた。それは当然目の前の少女にも聞こえており、きつねうどんを食べるのをやめこちらに視線を向けてくる。
湯気で白く曇ったメガネのレンズの向こうには真っ白な世界の中で唯一色を持つ事を許されたかのように赤い瞳が煌めく。それが彼女リームとの出会い。同時に胸の鼓動が激しく唸り、恋の始まりを予感させた。
「紫吹家のメイド、リームさんで間違いありませんね」
他の子に挨拶周りをしている神楽のそばで待機していると、若く初々しい執事に声を掛けられた。
「はい」
「お、私は天羽家の執事長です。 お坊ちゃまがお呼びですので来ていただけないでしょうか?」
「いいじゃん、行って来たら?」
執事の言葉に反応したのは神楽だった。挨拶を終えこちらへ近づいて来ると僕の背中を押し、執事の方へ突き出す。そんな彼女の様子に同意と受け取った彼は背を向け「付いて来てください」とこちらに一声告げると会場の外へ続く扉の方へと歩いてく。
その後を追い会場の外どころか建物の外へとやって来た。
「あの、何処まで行くのでしょうか?」
「今は黙って付いて来てください」
会話を試みるが一蹴されてしまった。
おそらく冬特有の冷たい風が僕らの服を靡かせ、頬についていた油揚げを連れて行く。その様子を横目で見ながら無言で歩き続ける。そしてやって来たのは駐車場に止まる一台の乗用車の前だった。
「さぁ、お乗りください」
「っえ、ちょっと」
彼の言葉に何か言い返す前に開けらた後部座席のドアの中へと押し込まれた。当然ある程度は抵抗したが、今の僕では大人の力にはかなわず。閉じられたとドアを開けようと試みるもチャイルドロックが掛かっており開ける事は叶わない。
「さっきぶりだねリームちゃん」
「____天羽様」
背後から話しかける影。そちらに振り向くとそこに座ってたのは相馬君だった。
風柴町の公道を走る一台の車。ここまで一度も会話をする事なく、言われるがままに座っていた夢が相馬達へと尋ねる。
「いい加減、何処に向かっているのか教えてくれませんか?」
「___さてリームちゃん、家に来なよ」
「……そのお話は先も断ったはずです」
「大丈夫だ。君が紫吹家に脅されているのは理解している」
「_____はい?」
横に座る相馬から発せられた言葉の意味が理解できずに首をかしげる夢。そんな彼に相馬は自信満々に見解を述べる相馬。
「あのさそ…… 天羽様」
「ん?ちょっと、待ってくれ!」
相馬と自身の間にすれ違いが起きている事に気づいた夢が正そうとしたその時、異変に気が付いた相馬の手によって言葉が遮られた。
「さっきの道は右に曲がるはずだろう、左に曲がったら家に帰れないではないか!」
「………………」
「おい、なんか言えよ!」
(この道確か…………… はは、どうやら新年早々天に見放されたかな)
車通りの少ない道を走る車内の中、窓の外を過ぎる景色と記憶の奥隅に眠っていた風柴町の地図を思い浮かべ、運転手がどこへ向かっているのかおおよそ思い浮かべる事が出来た夢。その予測に既に言葉では解決できない事件に巻き込まれている事を察し、遠くを見つめる。
「ほら、歩け!」
車から引き釣り出されると腕を縛られ、背後の執事が僕の背後を蹴りがら低く大きな声で歩く事を強要される。別に蹴られた所で痛くは無いが自由が利かない今、体重の掛かった一撃はバランスを崩すには十分だった。
ゴースト地区の一角にある廃工場の地面を転がる。僕達を拉致した男は悪態をつきながらも腕を縛るロープを引っ張ると無理やり立たせると部屋の奥へと無理やり押し込んでいく。そんな彼の様子に横目で見た相馬君は震えて怯えていた。
「そこに座れ!」
「……っく!」
男に言われ柱らを背に座る僕。一方の相馬君は男を睨みつけるも恐怖が勝ち、悔しそうに表情を歪めていた。そんな彼の様子を気にも留めず男は僕達を手に持つ3本目のロープで柱ごと括りつけ拘束を固める。
ロープが簡単に解けない事を確認した男はこちらに目を向けず、少し離れた所まで歩き何処かへと電話し始めた。恐らく天羽家、もしくはその関係の所に身代金の要求でもしているのだろう。
「リームちゃんは、怖くないのか?」
男の様子を観察していたら横から小声で恐る恐る相馬君が訊いてきた。男から視線を外し、顔ごと相馬君へと向け質問に返答する。
「元々恐怖は感じないし、最近は似たような事ばっか。だから問題ない」
「___っえ、リームちゃん?」
唖然とこちらを見つめてくる相馬君。なんで…… あ、素の言葉使いで返したからか。うん、せっかくだしこの際全部話すか。
「ど、どういう事?」
困惑している彼に向けて言葉を選びながら、丁寧に説明していく。
「僕は君に謝らないといけない」
「……へ?」
「そもそも僕は紫吹家のメイドじゃない」
「口調が…… それにメイドじゃない?」
いきなりの言葉で相馬君が混乱している。だけどあの男が電話を終えてこちらに戻って来る前には粗方話し終えてないといけない。だから相馬君には悪いけど、しばらく語らせてもらう。
「うん。そもそも僕は男、名前は夢。別けあって戸籍上は出産と同時に死んだ事となっている紫吹家の双子の長男。だけど大人の都合で正月のパーティにメイドとして参加してる。後見た目は先天性の病気のせいだから」
「もう何がなんだか……」
「___取り合えず僕はメイドじゃなくて同性の子供、紫吹夢だと言う事は覚えてて。あとこの話は内緒…… 秘密にしてて」
「____あぁ、分かった。天羽相馬の名に誓って誰にも言わない」
力なく頷く相馬君。家庭の深いところまで突っ込んでこずに、内密にしてくれる事を約束してくれた。流石生粋のお坊ちゃま、この手の極秘な話は慣れているのだろう。そして話が終わったタイミングで男がこちらに戻って来る。
「よ~し、大人しくしておけ……………って、高級そうな宝石見っけ!」
男が視線の端で宝石を見つけてみたいだ。何気なく彼の視線を追うと天井の穴からスッポトライトの様に日光に照らさた乱雑に積まれた廃材の隙間から煌めく何かがある。よく目をからしてみるとそれは群青色の石……………ソニオ結晶!
廃材の隙間に腕を突っ込み手に取ろうとする男に声を掛けようと息を吸うもすでに遅く、男の指先はソニオ結晶に触れていた。
「うわぁぁぁああああああーーーーーーーっ!!」
接触した部分から虹色の光が放たれ男を包む。すると絶叫とも咆哮とも思える声を荒げ男はその身体を変貌させていく。光が晴れるとそこに立っていたのカマキリを無理やり人型にした様な異形。【カマキリソニオ怪人】とも呼ぶべきそれは、これまで戦って来た他のソニオ怪人と同じく皮膚から青い宝石を生やしている。
「バ、バケモン!?」
「__?」
今日一番の大声を出して驚く相馬君。しかしそれはカマキリソニオにこちらの存在を認知させる結果となってしまう。こちらに視線を向けると両腕の鎌を打ち鳴らし、ジワジワと歩み寄ってっ来る。
ソニオ結晶の活性化でケルス達がワームホールでこちらにやって来るだろうが、それよりも先に死ぬ。なら一か八かの運試し。その一歩目は相馬君に頑張ってもらう必要がある。
「相馬君、スカートの右ポケットからスマホ取って」
「っえ、でも……」
「早く」
彼を急かすと後ろで縛られた両腕を無理に動かしリア-リアックフォン-を取り出す。そのまま背中越しにリアを受け取ると電源ボタンの下にある赤いスイッチを押し、軽く宙へと投げる。するとスマホ型の【ガジェットモード】から変形し、コウモリの姿をした【アニマルモード】へ。
『キュィー!』
鳴き声あげるとリアはカマキリソニオへと突撃。小さな身体からは予測できない程の威力があり、ソニオ怪人は火花を散らしながら後方へと吹き飛ばされた。
『キュィー!』
「ちょ、ちょっと!」
カマキリソニオが直ぐには起き上がれないとリアに搭載された自己進化AIが判断し、こちらへと旋回・突撃してくる。先の一撃でリアの力強さを知った相馬君が驚き目を伏せた。それを気にせずリアは僕達の間を通り抜け、足の爪でロープを切り裂く。腕にかかったロープを取りながら立ち上がり、この場を離れる為に相馬君へと手を差し出す。
「今のうちに逃げるy____」
「リームty…… 夢君!」
相馬君へと声を掛けた次の瞬間、視界が歪み気が付いていたら地面に倒れ込んでいた。こちらを心配する相馬君の声を聞きながら、地面に打ち付けた衝撃で自然と空気が一気に吐き出され咳き込み、瞳からは涙が流れる。
後からリアの記録映像を見て知ったのだが、カマキリソニオが羽を広げ背中を向ける僕へ音も無く一気に飛び掛かり腹部を蹴り上げたようだ。
「うぁぁぁああああーーーー!!」
『キュィィィーーーーッ!!』
相馬君の悲鳴が聞こえ、何故かうまく動かない体を無理やり動かし視線を声の元へと向ける。視線の先では腰が抜けている相馬君へ詰め寄るカマキリソニオと近づけさせまいと超音波で牽制するリアの姿。
ケルスが居ない今、幼児体系でしかない僕が何をできるのか。
そんな事を考えるよりも先に身体は立ち上がろうともがいていた。けれどいくら力を入れても左腕は動かず立ち上がれない。仰向けに転がり左腕を見てみると普段曲がらない方へと曲がっており、服は赤く染まっていた。
先の一撃で見事に折れており、良く身体を見てみるとあちこち血が滲んでいる。そんな自分の様子に死の瞬間、挟まってボロボロで血まみれの動かぬ自信をサイドミラーの破片で見たのを思い出した。
だけどなんだ?あの時と違って足は動くんだ。ゴキっと嫌な音を立てながらも無理やり体を引きずり、柱を支えに無理やり立ち上がる。今ばかりは痛みを知らぬ今の体に感謝。
「オ袋ノ治療費。オ袋ノ治療費ィィーー」
カマキリソニオが
同情は出来ても咎められるソレ。それを誰が攻められるのだろう? もはや自分では止められない所まで来た彼を、人知を超てすら親の為に泣くように暴れるのを止められるとすればそれは…… それは他人の感情が分からない狂った奴なのだろうか?
『夢!』
だとしたら僕は既に狂っているのかも。それでいいから……
「行くよ、ケルス」
『__おう!』
いつの間にか側にやって来ていたケルスが跳び上がりウィッシュドライバーへと変形、自重で腹部へ来ると紫のベルト帯が僕の体形に合わせ自動で巻かれる。ベルト脱着音が鳴ると続けて変身待機音がドライバーから流れる。
「……ア?」
「夢君……?」
その音色に気が付き頭部をこちらに向けるカマキリソニオと相馬君。彼らの視線を受けながら息を整え、考えてくれた春菜先輩には悪いがポーズを割愛し言葉を紡ぐ。
「___変身」
『チェンジ・ウィッシュ! 』
右手でイネインスイッチを押し紫の光、いや光を通さぬ人口物質が僕の身を包み込み、闇の中でベルトから四肢に向け稲妻とも鎖とも受け取れる螺旋状の銀ラインが走り、身体を作り替えていく。成人男性程に一気に身長が伸び、両方には赤目の狼頭部を備えた畏敬の姿に変化。
『アミナス!』
「グウゥゥ……ワァァーーーーーッ!」
神話の怪物・ケルベロスを想起させる仮面ライダーウィッシュへと変身を遂げた僕は、突進と共に振り下ろされたカマキリソニオの鎌を右腕の装甲で受け止める。防御には成功したがイメージと違い肩でで防いだためか後退り、背中を柱に打ち付けた。
「な、なんだよこれ……」
『あれは仮面ライダーウィッシュ。ソニオ怪人から人々を守る戦士だ』
慄く相馬君にコロクが軽く説明をしている横で追撃の鎌を腕で防ぎ、柱を支えに無理やりカマキリソニオの腹部を蹴り飛ばす。
ウィッシュは肉体変化型のライダーではあるが、変身前に受けた傷はそのまま変身後にも残る。僕の戦闘方法が前世で見た特撮ヒーローの模倣なのもあり、左手が使えないのはかなりのハンデだ。また床を見れば服が吸いきれなかった血が小さな水たまりを作ってる。あまり長くは戦えない……