空模様が悪くなっていく中、廃工場の中でウィッシュとカマキリソニオが戦闘を繰り広げている。相性的にウィッシュの方が有利であるが、状況がそれを良しとしない。
左手が折れている今の状態ではうまくバランスが取れず、攻撃へ転じようとした瞬間に転倒しかける場面が何度も見受けられた。一方のカマキリソニオは両腕の鎌による連撃や背後に畳まれた羽を伸ばし、短時間の飛翔による3次元で来な攻撃でウィッシュを翻弄。
更にはウィッシュが動けなくなるとすぐさま相馬へと標的を変える為、物陰に隠れて呼吸を整える事すら許されていない。そんな状態の中、なんとか苦戦へと持ち込めているのはひとえにケルスのサポートによるものだろう。
『夢!これ以上呼吸が乱れたら、かき呼吸だっけ? ……ともかくヤバい!』
額に赤く輝くクリスタル【クリスタルブレイン】がケルスに合わせて点滅するも、既に夢は声を聞くほどの余裕は無くなっており、その言葉は柱の影から戦闘を見つめていたウィッシュガジェット2体にしか届いていない。
『……不味いな』
「ど、どうしたんよ」
そんな現状を嘆くのはコロクであり、彼の言葉に不安げな言葉を零す相馬。だが次の瞬間、カマキリソニオの脚部がウィッシュの腹部を捉える。なんとか間に右腕を挟む事ができ防御には成功したが、数メートル後方へと吹き飛ばされ膝から崩れ落ちた。
『ここまでか… 5回、戦闘回数だけ数えれば4回。本来の想定を超えた複数回の使用、それも未成熟な体で。よく耐えた』
「なんだよそれ、お前は夢の仲間じゃないのかよ! ……おい、立て夢!」
コロクの言葉に恐怖より怒りが勝った相馬は立ち上がり、夢を鼓舞する言葉を我武者羅に叫ぶ。そこには相馬家のお坊ちゃまではなく、一人の友人を応援する子供が立っていた。
「負けるな、夢!」
「____っ!」
ウィッシュの頭部目掛けて振り下ろされた鎌は赤く輝く複眼へと突き刺さる。
「____?」
『やっぱこっちの世界の人間って、ヤバいな』
……………事は無く鎌は紫の粒子をすり抜けた。本来の矛先であるウィッシュの姿はどこにも無く、カマキリソニオの背後にはウィッシュドライバーを腰に巻いた夢が転がっていた。
「すごいじゃん夢!」
「相馬君が、名前を呼んでくれたから」
夢の側へと駆けより称賛の声をかけながら、血が付く事も嫌悪せずに立ち上がらせる相馬。そんな彼に向け表情も声色も変化も無いが、確かな礼を紡ぐ。
カマキリソニオの鎌が振り下ろされた瞬間に何が起きたのか? それは夢の動きに注目すれば分かる。
ー 負けるな、夢! ー
その言葉聞いた瞬間、夢は咄嗟に思いつくと同時に行動を開始する。イネインスイッチを親指で押すと左の顔、右の顔と掌で押さえつける様に操作。鎌が複眼へと触れようとしていた時は既にウィッシュの身体が紫の粒子包まれ始めており、複眼へ命中したと思ったその瞬間には変身は解除されており、同年代に比べて小さな生かし股の下を潜り抜けて地面を転がる事で距離を取った。
やろうと思ってできる早業なんて芸当ではなく、意識が朦朧とする中で本能に身を任せたからこそ出来た神業なのだ!
「金ダ、オ袋ノ治療費ヲ!」
「止める。君の歪んだ願いは、此処で止める。変身」『チェンジ・ウィッシュ! アミナス!』
再びウィッシュへ変身した夢。彼の戦いの邪魔にならないよう、再び柱の影へと隠れる相馬。
「グオォォォォ!」
雄叫びと共に振り下ろされた鎌を右手で掴み、力技で止めるとそのままカマキリソニオの右腕で左の鎌を防ぐ。動きを止めたカマキリソニオに溝内目掛けて膝蹴り。痛みで蹲る所を回し蹴りの一撃が頭部に命中し吹き飛ぶ。
「ケルス、後、頼んだ……」
『任せとけ! 夢が男のプライドを見せたんだ、オイラが対ソニオ結晶の要であるプライド見せないとなぁ!』
しかしながら既に夢は限界。その事を本人が自覚しているかは兎も角、薄れゆく意識の中で託されたケルスが目の前の敵を倒さんと意気込む。
ベルト中央にて生成されたエネルギーがイネインドライブを通り、右腕へと流れてく。するとイネインエネルギーがかぎ爪状へ変化する。【ケルベロスクロー】、本来は両腕それぞれに形成されるそれをケルス身を焦がすテンションに身を任せ、片腕だけに装備して見せた。
『オラォ!』
ふら付きながらも立ち上がったカマキリソニオへクローを振るう。ただ我武者羅に、反撃の一切を許さずに。大降りになったのなら片足を軸に回転する事で、バランスを崩して前から倒れるならクローを突き刺しそれを軸に変則的な蹴りで。
『キュィィィーーーーッ!!』
羽で飛ばれたのならリアの超音波で撃ち落とす。そうやって今あるあらゆる手段を使い、カマキリソニオを追い詰めたウィッシュ。
『今だ決めろ、夢!』
そして訪れた最大のチャンス。これを逃さぬため、精神だけは休めていた夢へと声を張り上げるのはコロクだった。彼の思いに答えるかのようにウィッシュの身体はケルスの意志ではなく、夢自身の意志で必殺の構えを取る。
『ケルベロス・イネインチャージ!』
ウィッシュから見て右手側の頭部を包み込むかのように口を閉じさせ、手を離すと音声が鳴り響く。腕に纏っていたエネルギーが増幅しクローの色が半透明の紫から光を通さぬ黒へと変化。それを気にする余裕も無く続けてイネインスイッチを2回押す。
『ケルベロスザンパー!』
今出せる最大速度で駆け抜けるとクローを振りぬく。その反動へ最中から地面に倒れ込んだカマキリソニオだったが、ウィッシュの攻撃はここで終わらない。背中を打ち付けた際にわずかに浮き上がった身体を蹴り上げるとそのままクローによる追撃。何度も何度も斬撃を浴びせ、カマキリソニオに装甲を切り裂いていく。
そして最後に切り上げ天井近くまで打ち上げた。連撃に耐えきれなかったカマキリソニオは爆発。爆炎を背に変身を解除する中、カマキリソニオの身体からソニオ結晶が排出され砕ける。ソニオ結晶に取り込まれていた男が地面を転がる中、夢の勝利を祝おうと相馬が柱の影からとび出す。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「夢!」
腹い息を吐きながら崩れ落ちた夢。朦朧とする意識の中で最後に聞き取ったのは相馬、そして仲間達の心配する声だった。
「……………ん」
同じリズムを淡々と繰り替え音色を聞きながら目が覚める。瞼を開けたまましばらくボーっと天井を見上げる僕。薄暗い部屋の中、ふかふかのベットに仰向けで寝かされており左手は固定されている。
「……………」
首を右に倒すと視界に入って来たのはカーテンが閉じられた窓であり、僅かな布隙間から月明かりが漏れ出て部屋をほのかに照らしている。起きてから天井を見続けていたおかげか、薄暗い部屋の中に置かれた家具の区別ができた。
視線を僅かに上……… 頭部の方にずらしていくとテレビが置かれた床頭台を確認でき、そこにガジェットモードのリア・スリープ状態のケルスとコロクが置かれている事が分かる。更に右腕から管が伸びており視線だけでその後を辿るが何か袋が付いている事しか分からなかった。
「……………」
右側の情報は諦めて左側へ首を回し周囲を見渡す。しかしながら情報量は少なく分かったのは左腕が真っ直ぐに固定されており一切動かせなくなっているのと、腕の向こうにスライド式のドアがある事だけ。
最後に自身の足元の方をできるだけ見てみると壁にそっておかれたクローゼットらしき物と扉、そして自身にかかっている掛け布団しか分からず。僅かに見えた胸元からこの身体になって始めて清潔な寝間着を着せられている感想が浮かび上がった。
「____病院?」
再び天井を見上げた時、ふとそんな感想が出て来た。そこでようやくなぜ僕の左腕が固定されているのかを理解する。カマキリソニオに吹き飛ばされた際に折れたからだ。なんとなく自分の状況に察しがついた僕は再び瞼を閉じて眠りの態勢につくのだった。
そして翌日、医者から軽い診断を受けてそのまま自分の身体とこれからについて聞かされた。どうやらある程度治るまで入院、日常生活が送れるまでリハビリしてから退院しそのまま学生生活に戻るのだそう。退院後しばらくは体育などの激し運動を禁止された。
だけどソニオ怪人が現れたらそうは言ってられない。いや、入院中でも現れた僕は戦いに行くだろう。そんな事を持っていた時だった。顔に白い布を乗せた人が慌ただしくタンカーに乗せられ横を運ばれたのわ。そして様子を同じく少し離れていた看護師の言葉が自然と聞こえて来た。
「彼女さん、泣き崩れていたわね」
「そりゃそうよ、クリスマスデート中に怪物に爆破されたんですもの」
この病院は風柴町一大きな病院であり、ソニオ怪人に被害者が多く入院している。
バットソニオにより血を吸われ一命を取り留めたものの会話が出来ない後遺症を背負う者、スパイダーソニオにより重傷を負い今も昏睡状態の風紫小学校の教師、カラスソニオに爆撃で顔半分に火傷を負った男子高校生。
老若男女問わず、今もなお普通の暮らしに戻れずに苦しんでいる。今もすれ違う患者の中にソニオ怪人に歩く事だけでなく仕事も奪われたと女性が妹らしき子に泣き付き、検査待ちの右手を失った男性と視線がった気がする。
「____っ!」
【どうして助けてくれなかったんだ!】と言われた気がして身体ごと視線を逸らすと今度は、新たに安置室に運ばれる男性の布がひょんな拍子に舞い上がり見開いた瞳と目が合った。その男性の顔に覚えがある。ケルス達の後を追い、初めて目にしたバットソニオ怪人に血を吸われたスーツ姿の男性。
【お前がもう少し早く来て、早く変身していたら助かったのに!】そんな言葉を浴びせられた気がして、心臓の鼓動が早くなり、なにも分からず頭が真っ白になった。
人知を遥かに凌駕し、現状この世界の人間では到底太刀打ちの出来ないソニオ怪人。その被害は医療機関にも甚大なダメージを与え、医療崩壊の危機が訪れていた。それでも医者は多くの命を救おうとしている。
一方僕はどうだ? 初変身は結局襲われていた女性が持っていた誕生ケーキを見て決意を固めて、非常ベルで起きてはケルスが来るのを待って春菜先輩が攫われて、周囲に被害を出すカラスソニオを前に会話してはトラウマに振るえて…… 戦って倒してヒーローごっこをしてるだけ?
今まで見ていなかった事、いや気にもして無かった側面を目の当たりにして頭の中がグチャクチャになる。なぜかあの時、轢きそうになった子供が目の前に立ち涙目でこちらを見つめている気がして、看護師の注意する声を無視して走り出していた
病院の中を駆け抜け、僕に充てられた個室の病室の中で布団に包まり訳も分からず涙を流す。
『夢~、どうした?』
『泣いているし、寒いと言う訳ではないんだろう?』
そんな僕を心配して側にいてくれるケルス達。肩に乗り3つの顔を別々の方向へと動かし眺めてくるケルス、そない付けのティッシュで涙を拭うコロク。二人が心配そうに尋ねてくるが、今は激しく揺れた分からぬ自信の感情に振り回されるだけ。普段感情が沸いて来ないからこそ、感情一つで可笑しくなる。
『コンコンコン!』
そんな時、部屋の中に扉をノックする音が鳴り響く。
『ヤバッ!』
「入るぞ…」
慌てて床頭台の上へと移動し動かぬ置物と化すケルスとコロク。一方扉から入って来たのは強面の男性だった。その制服姿からは出勤前である事が伺える。
「お、お父様……」
彼の名は【紫吹
だからこそ本家では無い自身の家族には興味を持っておらず、実際に顔を合わせたのは今日合わせて片手で事足りる。さらに言うならまともに会話をした事は無い。それが今の父親である彼だ。
「いくら感情が希薄なお前でも噂の怪物相手には恐怖するのか。だが紫吹の血を受け継ぐ者なら泣くな」
「すいません」
低い声で厳つい態度で接してくるお父様。コロクが忘れて行ったティッシュで目元を拭い、改めて彼の顔と視線を合わせる。
「既に天羽の倅から報告は受けている。よくやった、時代の波に乗り、今なお右肩上がりの天羽に大きな貸しができた。今回の件とお前と言うのメイドが腕を折った事実をチラつかせれば、向こうはそう簡単に断れないだろう」
それだけ伝えるとお父様は椅子から立ち上がりこちらに背を向ける。
「今は一日でも早く腕を治し、学業に戻る事だけ考えろ」
「はい」
最後に背中越して言葉を残すと病室を去って行った。
『ふぅ~ 母親もヤバイ奴だったけど、父親はおっかないな~』
ケルスの呟きが木霊する中、部屋に備え付けられた時計へと視線を向ける。時刻は8:40、風柴小学校では既に始業式が始まっている時間だ。そんな事を思いながら僕の小学一年の冬休みは終わるのだった。
WAREコラム
【仮面ライダーウィッシュ アミナス:ケルベロスクロー】
両腕に纏ったイネインエネルギーをかぎ爪状に固定した物。
紫色に輝く半透明の見た目に反し切断能力は高く「ダイヤモンド」すら容易く切断可能。必殺発動時には黒く変色し、数値上は「ウルツァイト窒化ホウ素」を切り裂く事が可能だと思われる。
【カマキリソニオ怪人】
相馬家で執事のバイトをし最終的に誘拐事件を起こした男性の「女一つの身で育ててくれた母親の治療費を稼ぐ」と言う願いと共に「ソニオ結晶」が取り込んだ事で誕生した怪人。
これまでウィッシュが戦ったソニオ怪人と違い特殊な攻撃方法こそないが、お金へ執念で簡単には倒れず引かないタフネスさを持つ。また両腕に備わった鎌での連撃もやっかいだが、背中の羽で短時間だけだが音も無く飛翔もシンプルに恐ろしく、油断して意識をそらした相手目掛けての奇襲は絶大な効果を及ぼす。