「アハッハハハハハアアッハハ!!!!」
掌サイズの石が転がる橋の下、狂ったかの様な笑い声響かせる異形の影。血の様に赤い皮膚に黒い鎧の様な外骨格、両腕には刃の様なハサミを生やしたソニオ怪人が浅瀬を泳ぐ命を無残な姿に変えていく。そこに石を蹴り飛ばしながら駆け付けて来た夢。
『なるほどな~、名付けるなら【ザリガニソニオ怪人】ってところか』
『っへ!カニならオイラが鍋にして食ってやる!』
「ザリガニはカニじゃないよ…」
『マジで!?』
「うん。それより行くよ」
内心の動揺を隠すかのようにベルトへと変形したケルス。宙に浮かぶそれを掴み取り腹部に装着すると獣様に鋭くとがらせた指で自身を斜めに引き裂く様に広げ、それぞれの腕で円を描きメビウスの輪を描くと指先を夢の方へと振り向いたザリガニソニオへと向ける。
「変身」『チェンジ・ウィッシュ! アミナス!』
握りしめた拳でイネインスイッチを押し、その姿を仮面ライダーウィッシュへと変えた夢。そのまま不安定な足場の上を駆けそのままザリガニソニオの胸部目掛けて拳を振るう。
「「……………」」
だがウィッシュの一撃は鐘のカーンっという音色に酷似した事を周囲に響かせるのみで一切のダメージを与える事は出来なかった。ならばと絶え間なく様々な部位に打撃を放ち続けるがどれも結果は同じ。
「アハハハハハハハハハハ!!!」
微動だにしなかったザリガニソニオが右腕を振り上げると勢いよく刃を振り落とす。その一撃をケルスが感に任せて咄嗟に回避したウィッシュ。
『なんて強固な装甲なんだ! イネインエネルギーで変質したウィッシュの攻撃をものともしないなんて…………… やはり地球では俺達の世界の常識は通用しないか』
出鱈目な斬撃の数々を躱しては隙を見て反撃するウィッシュの戦いを見ながら苦言を零すコロク。この場を切り開く手段を持ち合わせてない事に苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながらも、現状を打開しようと策を巡らせる。
「ハハハッ!解体!解体!解体!解体!解体!アハハハハハハ!!」
『なんやこいつ!滅茶苦茶や、怖ぇ~~~』
「解体って、何処の、正体不明の殺人鬼、だよ」
壊れたラジオの様なザリガニソニオの言葉に心の底から恐怖するケルス。一方の夢はふと前世の記憶からとあるゲーム作品のキャラが浮かび上がっていた。そのイメージに蓋をしまい腹部に蹴りを入れるとその反動を利用し距離を取る。
「___こうなったら」
『ダメだ!!』
膝を立てたウィッシュの左手がベルト左側の口を閉じさせようとした時、脳内に響くケルスの声と共に右手が左手首を握りしめて動作を無理やり中断させた。
『待て夢、それはウィッシュの禁術だ!』
『それに!それを使えば、夢だってどうなるか分かんない!!』
『キュィー!』
「___分かった」
コロク・ケルス・リアの声を聞き、夢は先程までの考え消すと立ち上がり、左右の口を閉ざしイネインスイッチを2回押す事で必殺の態勢へと入る。
『ケルベロス! アミナスブレイズ!』
両腕に迸るイネインの闇を纏うとザリガニソニオへ駆け出す。足場の小石がリズムを刻む中、上下に合わせた拳を腹部へ叩きこむ。すると腕に纏っていたエネルギーが狼状へと変化、ザリガニソニオの身体を後方に運びながら噛みつき、それに続くに2発目・3発目の頭部が両肩へと噛みつく。
吹き飛ばされぬ様に抵抗し地面に軌跡のを残しながら小川の中に消えて爆発。橋の下でおきた局所的な雨に身体を濡らしながら煙の中を静かに見つめるウィッシュ。
「ハハハハハ!」
「___ッ!」
『うそ~~~ん!?』
『アミナスブレイズを耐えるなんて…………… なんて、防御力なんだ』
煙が晴れると全身の装甲に罅こそ入っているが一切のダメージを受けていないザリガニソニオの姿が!ケルス達の驚愕の声を聞きながら構えを取るウィッシュ。一方のザリガニソニオは自身の装甲をハサミで砕くと破片を掴み取り出鱈目にウィッシュに投げつけて攻撃。
「っく!」
次々と迫りくる破片を腕で弾き飛ばし防いだウィッシュ。最後の破片を弾き飛ばし視線を小川の方へと向けるとそこにザリガニソニオの姿は無かった。辺りを見わたすもどこにもその姿は無く、川のせせらぎが周囲を彩るのみ。
「___いない」
『大丈夫や!オイラ達のセンサーは奴を捉えてる!』
『キュィー!』
空中でスマホ状態へ変形したリアを掴み取ると神虫が描かれたアプリをタップ。
『コーリング!神甲虫!』
リアから響き渡る召喚アプリのシステムボイスと共に発生した淡い緑のゲートから神甲虫が姿を現す。座席に跨りハンドルを握りしめるとコロクの後を追い神甲虫を走らすのだった。
盤面は変わり喫茶店FAIRYの店内、春菜は夢が残していったパンケーキを食べながら窓の外を眺めていた。
「……紫吹君、私達と一緒で楽しくなかったのかな?」
「「え?」」
ふと呟かれた灯花の言葉。それに反応し二人が首を傾げる。
「だって紫吹君は男の子だし、私達とも学年も違う。だから話についていけずに楽しく無くて帰ったんじゃないかなって」
「あ~、確かにいつも3人でいる時のような会話だったな。趣味とか方が良かったか?」
「ははは!」
友達二人の会話に声出して笑う春菜。その姿に真奈が邪険な表情を浮かべる。
「なにがおかしいだよ?」
「ごめんごめん!二人が思ったより夢君と仲良くしようとしてくれている事に嬉しくって」
「どういう事?」
「ほら、夢君って学校では……」
自分が言いかけた言葉に先程までの笑みを消し、机の上に視線を下しながら寂しげな表情を浮かべる。
「ばっかだな~ 春菜が友達って言う子に悪い奴なんているかよ」
「真奈ちゃん」
「そうだね。それに紫吹君、噂に聞くような子じゃないって見てて思ったから」
「灯花ちゃん」
「だな。次に紫吹と遊ぶ時はゲーセンにでも行くか!」
「その前に今日のお礼言わないと」
「「___?」」
灯花の言葉に疑問を浮かべながら彼女が指差す場所へ視線を移す。そこにはあるべきはずの伝票が無く、からの伝票立てが鎮座していた。
「紫吹君、店を出ていくときに支払いしちゃったみたいだから……」
「き、気が付かなかった……」
無意識に支払いをしていた夢に驚きながらもその口元には小さな笑みが浮かび上がっていた。
「__それじゃ、次に遊ぶ時にはお金を返さないとね」
「だな」
「うん」
春菜の言葉に頷く二人。彼女達はそのまま話題を次の遊ぶ時どうするかに変え、楽し気に会話を続ける。だが、そんな日常を壊す招かれざる影が天井をぶち破り乱入してくる。
「アハハハハハ!解体解体解体!」
ウィッシュから逃亡したザリガニソニオだ!
「「「キャァァァアアアアーーーーッ!!」」」
唖然と自身を見つめる近くの男性にアミナスブレイズによって片方の刃面を失ったハサミを剣のように振り下ろし肩を斬り裂く。その一撃を受け床を赤く染色しながら倒れ込む男性。その姿に命の危機が迫っている事を知った人々が悲鳴と共に店の外へ避難を開始する。
そこにサイレンを響かせたパトカーが集まり、警官達が一斉に武器を手にFAIRYの中へ突入。警棒でザリガニソニオを攻撃するも強固な肌の前では無意味。反撃の蹴りを腹部へ受け、何度も身体を回しながら頭から机に落下しその破片共に床を転がる。
いくらウィッシュの必殺技で装甲を失ったとは言え、ソニオ結晶に強化された怪人の前では警官達は役不足であった。それでもいまなお店の外へ避難しようとする市民を守る為、恐怖を噛み殺しザリガニソニオへと突撃していく。
「ウォォォーーーッ!」
懐にしまった拳銃が重りにしかならない室内の中、危険を承知で懐に入り込んでは警棒を振るう。だけど一人、また一人と容易く吹き飛ばされて意識を失う警官。やがて警官に興味をなくしたザリガニソニオは幽鬼の様にふら付きながら軽々と机を蹴り飛ばしながら避難する人々へと歩く。
「っく、仕方ないか…… 銃を撃て!」
この場で一番歳を重ねた男性がザリガニソニオの興味を引く為に市民がいる場での銃の使用に踏み切る。彼の号令で恐る恐るではあるが一斉に銃を発砲。だがザリガニソニオは不気味な笑い声を響かせながら歩みを続けるのみで意味が無かった。
「っぁ!」
「灯花ちゃん!!」
避難する人々の中には当然、春奈達もいた。最後尾を避難する彼女達であったが恐怖からか、足をもつれさせた灯火が転ぶ。それに気が付いた春奈達が灯火の側に駆け寄ろうとするも警官に止められてしまう。
「アハハハハハハ!!」
なぜなら灯火がこぼした小さな悲鳴を聞き取ったザリガニソニオが意気揚々と彼女の元へ歩き始めたからだ。
「……っ!? 全員撃つな!」
それに気が付いた一人の警官が全体に命令を出す。一方、防護盾を持つ勇敢な警官がザリガニソニオの進行を止めようと盾を正面に抱え突撃。しかしながら左腕の刃が豆腐でも突き刺すように容易く盾を貫きそのまま警官の左肩に穴を開通。
「あぁ…がぁぁ……!」
「アハハ、アハハハハハハ!!!!」
「ひぃ……っ!」
そのまま勢いよく刃が引き抜かれ、床に咲いた紅蓮の華の上に力なく警官が倒れ込む。その様子に灯火が小さく悲鳴を上げ逃げようとするも腰が抜け動く事ができない。やがて彼女の元にたどり着くと首に腕を回し、気管を絞めながらその身体を持ちあげる。
「うぅ……」
腕と首の合間に自身の手を差し込み何とか呼吸を確保しようと模索する灯花。しかしながら指ごと首を絞められるのみであり、むしろ同時に手を潰されるような痛み、血液の流れがせき止められる痺れを感じながら呻き声を上げる。
「解体解体!アハッ、アハハハハハハッ!」
腕の中で今まさに消えようとする輝きに狂気の声を荒げるザリガニソニオ。
『キュィー!』
灯花がその意識を手放そうとしたその時、窓を突き破り店内へ侵入したリアが超音波を放ちザリガニソニオを攻撃。いくら銃弾を受けてもダメージを受けなかったザリガニソニオが仰け反り灯火を腕から放した。彼女が床に叩きつけられる寸前、コロクが駆け付けズボンを掴みゆっくりと降ろす。
「はぁはぁはぁはぁ____」
荒い呼吸で体内に酸素を送る灯火。そんな彼女を守るようにリアとコロクがそばで待機する。彼らの視線の先では耳元を押さえながら壁を破壊し店の外へと移動するザリガニソニオの姿が!
「なんだ、アレ!」「か、怪物だぁぁぁぁ!!」「うあぁぁーー!」
一方、店の外では集まったパトカーに店内から響き渡った銃声に引き寄せられた野次馬が集まっていた。そんな彼らの前にふら付きながら姿を合したザリガニソニオ。その影にこれまでのソニオ怪人による被害を知っている風柴町の人々が逃げ惑う。
そんな彼らの頭上を神甲虫で飛び越えると、座席を踏み台に跳び上がりザリガニソニオへ掴み掛かるウィッシュ。
「アハッアハハ、アハハハハハハハハハハ!解体解体解体解体解体解体解体解体解体解体解体解体解体解体解体解体解体解体!!!!!」
ウィッシュの拘束を力技で振り解くとザリガニソニオは狂ったようにその場で踊る。その動作の流れで右腕の片刃のハサミを振るい刃先から斬撃を次々と放つ。
「不味い……」
その矛先にいるウィッシュは拘束を解かれた時にザリガニソニオ開けた穴から店内へと転がりこんでいた。迫りくる無数の斬撃を躱そうと背後に視線を向けると目元に涙を溜めた灯火と見つめ合う事に。すぐさま視線をザリガニソニオへと戻し、ベルトから脚部に沿ってはしるイネインドライブにエネルギーが迸る。
「たぁ」
すると尾骨の先から紫に煌く1本の尾【ケルベロステール】が生成。そのまま力の籠ってない掛け声と共に跳び上がり、その場で踵落としの様な軌跡を描きながら一発目の斬撃を尾で叩き落とす。迫りくる二発目を目視しながら右手側のベルト頭部を上顎・下顎を片手で掴み開いた口を閉じる。
「君の歪み切った願いは、此処で止める」
『ケルベロス・イネインチャージ!』
更なるイネインエネルギーがケルベロステールへと注がれ黒色にへと変化。両肩の複眼が赤く煌めく中、ベルト天面のボタンを手早く2回押し必殺の態勢を整える。
『ケルベロスザンパー』
ベルトから技名が鳴り響く中でバク宙を披露。その時、トカゲが尾を切り離すようにケルベロステールがウィッシュから分離、バク宙の勢いでザリガニソニオへと一直線に向かう。その道中で尾は勢いを増しドーナッツ状に輪に変化。
迫りくる光輪を右腕に残った装甲を盾に防ごうとするザリガニソニオだったが、光輪は容易く装甲ごとザリガニソニオを切り裂き爆破。その衝撃により周辺の瓦礫が爆風に乗り舞い上がる。
「きゃ……………っ!?」
飛んでくる破片から灯火を抱きしめ自身の背中を盾にする事で守ったウィッシュ。
「おい、アレを見ろ!」「あれって、指名手配犯じゃ……」「何をボーっとしてる!」
一方、黒煙の中で地面に倒れ込む煤まみれの男性。その姿を人々はその容姿に驚愕し、警官は怪我した人達を店の外へ運びながら男に手錠を付けて拘束する。
「……………」
「あの!」
慌ただしく動く警官達を他所に立ち上がりこの場を去ろうとしていたウィッシュの背中に灯火が言葉をかける。その声に立ち止まったウィッシュは顔を彼女に向けて言葉の続きを静かに待つ。
「__ありがとう」
御礼の言葉に頷くと再び視線を身体の正面をと向ける。すると今度は一人の若い刑事がウィッシュの元へとやって来て、懐から取り出した警察手帳を見せながら語りかけた。
「こ、今回の事件についてお話を、お聞きしたいと思いまして」
緊張、もしくは未知の存在であるウィッシュとの会話にオドオドしながら話すのは彼の名は【
「……さっきの怪人は、ソニオ怪人。知的生命体の願いを感知し吸収、実体を得て感知した願いを元に暴れる怪人。元は群青色の未知の結晶・ソニオ結晶と呼ばれる物なんだ」
「はぁ……?」
しかし残念かな、ウィッシュに変身する夢は説明下手だった。前世からの友人の少なさに加え、現世での人との関わりの無さから自然とそうなってしまったのだ。そんな彼の説明に雄一は頭を捻りながらも一言一句違わずにメモしてく。
「ソニオ怪人と知的生命体を分離させられるのは僕だけ。それじゃ、後はお願いします」
淡々と、そして簡潔に説明を終えたウィッシュは太陽沈む夕日の方へと再び歩き出す。
「あ、あの! 最後にあなたの名前を教えてください!」
「___ウィッシュ。仮面ライダー……ウィッシュ」
雄一に視線を向けながら名乗った彼の元に独りでにやって来た神甲虫へと跨り走り去る。その背中を唖然と警官達が見つめる中、人々はその姿が見えなくなるまでスマホに収め続けた。
残るソニオ結晶は5個……………
数時間後、夜の風柴町。町明かりが僅かに届かぬ細道の中で顔を真っ赤にして左右にふら付きながら歩く男性が一人。
「ったくよ~! どうして誰もぉ~、俺の発明の凄さを評価してくれないんだよ~~~っ!」
お酒に背を押され内に溜めていた不満を叫び、自身の怒りをぶつけるかのように道端に落ちていた缶を蹴り飛ばした。弧を描き宙を舞った空き缶は金属を響かせ、群青色の宝石へとぶつかると闇の中へと転がっていく。
「うん? ……………こここここれは!?!?!?」
街灯の輝きではなく、自らの輝きで闇を彩るその宝石を見つけたやや中年より男性は驚愕の声を荒げた。この瞬間から世界の命運を駆けた陰謀が動きだそうとしていた……………
WAREコラム
【仮面ライダーウィッシュ アミナス:ケルベロステール】
下半身に纏ったイネインエネルギーを尻尾状に固定した物。
叩き切る事に特化した尾であり、展開時には五感上昇する。必殺発動時には黒く変色したケルベロステールを任意で身体から切り離し、輪っか状に高速回転する尾を相手に放つ事も可能。
【ザリガニソニオ怪人】
連続怪奇殺人事件の指名手配犯・影山勉の「殺人欲」に呼応し勉と共に「ソニオ結晶」が取り込んだ事で誕生した怪人。
強固な装甲は特攻のはずのウィッシュの必殺技を一撃は防ぎ、両腕のハサミは命を絶つ事に特化している。装甲を失ったザリガニソニオは身軽になり素早い攻撃を得意とするが、取り込まれた勉の性格上、その身体能力が生かされる事は無かった。
またその狂った言葉は聞く者に根源的な恐怖を抱かせる特殊能力を持つが、ウィッシュには効いていた様子は見られない。