日も傾き始めた夕暮れ時。夕飯の支度をする主婦や帰宅をするサラリーマン、デパートでは割引シールやセール品を手にしようとするお客であふれている。そんなデパートの入り口に降り立つ異形の姿。
黒い皮膚に口から飛び出すキバ、腕にはマントの様に広がる膜の様な翼を持つ。黒い瞳は眼前に映る人を見つめ、口からはよだれの代わりと言わんばかりに赤黒い液体溢れさせ白いタイルにシミを作っていく。
「キャァーーーーーーーーーーーー!!!」
蝙蝠を人型にしたかのような異形の姿に恐怖した一人の女性が悲鳴を上げその手に持つ買い物かご地面に落とす。その音に反応したのか耳をピクリと動かしアスリート選手もビックリの速度で女性に近づき拘束。離れようと藻掻く女性を他所にそのキバを首元へと刺し、しばらく動かなくなる。
「なにアレ?」
「テレビの撮影か??」
そんな奇妙な光景にスマホのカメラを向ける人だまりが出来る。その事を気にも留めずに人型蝙蝠は女性を話して口元についた液体を腕で拭い去り、視線をギャラリーに向け舌をうならす。
「し、死んでるぞアレ!」
「おいおい、ヤバいんじゃないか…」
倒れた女性は瞳を開けたまま動かない事に気が付いたギャリー。しかし時は既に遅く人型蝙蝠は近くにいた男子高校生にそのキバを振るう。その様子に命の危機がソコにいる事を目の当たりにしたギャラリーは悲鳴をげ、思い思いに逃げ始める。
一方、夢は突然どこかへと駆け出したケルベロス達を追い、人通りの無い道を走っていた。
(可笑しい…… こっちの方面は車や歩行者がいてもいいのに、人っ子一人もいない)
そう、この道は大通りであり普段は多くの人や車で溢れているはず。しかし今やその様子はいっさいなく、それどころか少し見渡せば扉を開いたままの車がいくつも散見出来る。今この通りは風の音と自分達の足音しか響かない悲し気な空間へと変貌していた。
『おい、これ!』
夢の目の前を走っていたケルベロスは車の影に隠れたナニかを見つけた。夢達がその何かへと近づくと視界に映ったのは干からびた死体。どこにでも売ってある黒いスーツに身を包んだその死体は干からびており、その顔を恐怖で歪んでいた。
見開いた瞼を指で優しく閉じ、改めて周囲を見渡す夢。すると先程までは気が付かなかったが同じく干からびた
「これって………」
『とにかく急ぐぞ!』
その異常な光景を目にしコロクは道先をトライデントで指しながら移動を促す。指先についた皮膚だった粉を一度見つめた夢は立ち上がり、夕焼けに皮膚が焼かれるのを気にせずに走り出した。
デパート1階玄関から波のように出てくる人々。その表情はどれも恐怖でゆがんでおり、目の前の人を押しのけて我先に逃げようと模索している人もいる。そんな人々の背後からはその手に持つ子供のミイラを後方に投げ捨てゆっくりと自動ドアの方へと歩め進める異形の陰。
「なに…アレ……」
その様子を歩道橋の上から眺める夢達。表情筋こそ動いて無いがその異常な光景を目の当たりにし、歩みを止め手すりから飛び降りるのでは無いかと見る者が心配するほどに身を乗り出してその様子を見つめ続ける。
「ぐぁああーーーーーーっ!」
「モット血ヲ‼」
転んだスーツ姿の男性を見りやり立ち上がらせ首元に噛みつく。最初は悲鳴を上げ藻掻いていた男性であったが10秒も経たずしてミイラとなり投げ捨てられる。口周りについていた血を舌でなめとると蝙蝠の怪物はその皮膚に散りばめられた宝石を夕焼けの光で奇妙な輝きを出しながら次の獲物を選別する眼差しで見つめていた。
「まるで吸血鬼だ…」
『馬鹿な! ソニオ怪人だって!?』
「………ソニオ怪人」
皴一つ作る事無く呟く冷静に夢と驚愕の表情を浮かべ声を荒げるコロク。呟かれた【ソニオ怪人】の単語を復唱す夢の肩あたりまで飛び上がったコロクがその意味を説明する。
『ソニオ怪人。俺達の世界から夢の世界に流れ着いたS級危険物質【ソニオ結晶】が知的生命体の感情と呼応し、対象を吸収することで生まれる怪物の中でも一番危険な状態。対象とソニオ結晶の融合適性が異常に高い場合に至るとされる学説のみの存在』
「アレは元人間?」
『あぁ! 元に戻すにはケルベロスが生成できる【イネインエネルギー】を内部に送り込み、ソニオ結晶を取り除く必要があるだ』
『要はオイラの初陣は伝説級ってことだ! 相手にとって不足はないぜぇ~~!!』
手すりの上へと跳び上がったケルベロスは鼻息を荒くし、3つの顔すべてが自信に満ちた表情を浮かべる。それに待ったをかけるのは呆れた表情を浮かべるコロク。
『馬鹿か!』
『バカってなんだよ、バカってぇ……』
『お前がイネインエネルギーを生成できるのは、お前に一定数適合したこの世界の知的生命体と融合する必要があるだろうが!』
『そんなん、夢にやってもらえばいいじゃんか!』
『何名案みたいに言ってるんだ…… いいか! お前との融合に完全に耐えられる知的生命体はいないに等しいし、何より夢の肉体は完成しきってない未熟体だ。成長を完了した個体ですら後遺症はどうなるかテストすらしてないんだぞ!』
『難しい事はよく知らんけど、オイラは夢にビビット来たんだぞ!』
言い争いを始めた二体を他所に再び視線を蝙蝠のソニオ怪人…… 【バットソニオ怪人】へと向ける。視界に映るは新たな獲物に飛び掛かるバットソニオの姿。飛び掛かれた女性は何とか拘束を振り解こうとしてその手に持っていたケーキの箱が地面に転がる。
地面に散らばる破片によってか中身が露出した、白い生クリームにイチゴがたくさん載ったホールケーキ。優しげな夫婦に挟まれた手に車を持つ少年のシュガー人形と『お誕生日おめでとう』の文字が書かれたチョコプレート。誕生日ケーキと呼ばれるそれはバットソニオの足によって更に吹き飛び、その原型をなくした。
その光景を目にしたその瞬間、夢の脳裏に浮かび上がる光景。ボールを追いかけてきた幼児が迫りくるバイクに先程まで浮かべていた笑みを消し恐怖する表情。その時、何かを考える前に咄嗟に幼児だけが助かる用に動いた前の自分。
閉じていた瞳を開き、当時よりもずっと小さく痩せ細っていて病気的なピンク色の皮膚をした右手を見つめる。そして
「…どうやれば良い。どうすれば止められる」
『本気か、夢……………?』
コロクの問いに無言で肯定した夢は改めて視線をケルベロスへと向けた。
『よっしゃ!』
夢の視線に嬉しそうな笑みを浮かべ夢の胸元へ向けて跳ぶ。その瞬間、ケルベロスは独りでに変形し横長の六角形のようなシルエットに変化する。左右の顔は横向いたまま口を半開きにし、腹部にあった大きな赤い宝石が正面中央へ。その宝石の上下に正面の顔だったパーツがやってきてどこかバックルの様な見た目に。おおよその成人男性なら片手サイズになったそれを夢は小さな両手で受け止めた。
『それは【ウィッシュドライバー】、ソニオ結晶に対抗するために作られた【ウィッシュシステム】その物とも言っていい』
『さぁ、オイラをお腹に当てろ!』
ケルベロスに言われるがままウィッシュドライバーを腰に当てる。するとドライバーの端から夢の腰に沿い闇が流れそのまま反対側のドライバー端へと一周。すると闇はベルト帯に変わりドライバーが腰に固定されるのだった。
『あとは上部ボタンを押すんだ!』
「____変身」
右手の親指をボタンに添え深呼吸。無意識に、そして自身を鼓舞するように小さく紡がれた言葉。それを合図にボタンを押し込み、手すりから跳びだし地面へと落下していく夢。
『チェンジ・ウィッシュ!』
ボタンを押した事によりドライバー中央のフェイスが口を閉じ、宝石を口にくわえ輝きを放つ。すると宝石から紫色の闇が広がり、その中でドライバーから夢の手足に向けケルベロスと同じ稲妻を彷彿させる螺旋状のラインが伸びる。
やがて四肢に伸びる輝きが収まると瞳と額が赤く輝きながら、闇の中から右足を伸ばしバットソニオへと不意打ちの一撃を叩きこむ。噛みつかれる寸前に拘束から解き放たれ女性が顔を上げたその瞬間、タイミングよく身体を纏う闇が晴れる。
『アミナス!』
そこに立っていたのは夢ではなく畏敬の姿。
黒を基調としたボディにアーマー、両肩の装甲は狼や犬を想起させ、四肢に伸びるは銀色に反射する稲妻状の螺旋ライン。頭部は両肩と同じく狼や犬を想起させ、複眼が赤く輝く。両肩・頭部合わせて三つの顔を持つ黒い影はどこか、本能的な恐怖を掻き立てる。
「逃げて」
「は、はいぃぃぃーーーーーッ!」
その姿から放たれる感情を感じない幼い少年の音色。そのアンバランスに気が付かない程に恐怖に感情を歪ませた女性は周辺に転がっていた紙袋を手にすると地を這って去って行く。
(今、どうなってるんだろう)
複眼をガラスに向け反射する自身の姿を記憶に刻む夢。異形へと変わった自身の肉体を目にした時、夢の脳裏に前世の記憶が浮かび上がる。
「仮面ライダー…………」
『おぉ~~、かっこいいな!! それ採用』
『ふ~ん。ならその姿は仮面ライダーウィッシュ・アミナスと言ったところか』
「グガァァ!」
【仮面ライダーウィッシュ】へと迫るバットソニオの拳を身体を逸らすことで回避。その勢いに身を任せた右ストレートを放つ。戦いどころか喧嘩も知らないと見てわかるフォームから放たれた一撃は人で言う心臓付近に突き刺さり、大きく吹き飛ばした。
『良いかよく聞け!内部にイネインエネルギーを繰り込むにはまず、対象の動きを封じる必要がある。そしてその効果は対象がどれほど疲弊しているかにもよるんだ』
大地を蹴り大空に飛翔したバットソニオの姿を睦めながらコロクが説明を始める。その言葉を遮るかのように両腕を広げ、高度からウィッシュ目掛けて突撃。その一撃を前転で潜り抜ける事でなんとか回避した。
『要するにアイツと戦え、夢!』
ケルベロスの声を受けバットソニオへ一直線へと走り出す。迫りくるウィッシュ目掛け口から放つ不可視の攻撃、超音波が放たれた。音の連撃を受け身体のあちこちから火花が散り、真新しい傷ができるのも気にせず、100mの距離を僅か約4秒で駆け抜ける。その勢いのまま右腕によるラリアットの一撃がバットソニオを襲う。
地面を転がるバットソニオ。ふらつきながらも起き上がったところを何度も攻めたるウィッシュ。絶え間なく放たれる連撃にバットソニオは防戦一方。
「グガァァ……ッ!」
『ナイス! 流石オイラが選んだ相棒だぜ!!』
左足から繰り出された蹴りの一撃がバットソニオの腹部に命中。ウィッシュの一撃を受け再び地面を転がるのだった。
『いまだ、夢!ソニオ結晶と人間を分離するんだ』
「うん。 ____どうやるの?」
『え?え~~っと………… ドゥウィーンとやってグワーッとしてシュッババーンって感じ?』
『はぁ~…… 自分のシステムぐらい把握しておけ犬っころ!』
『オイラは犬じゃない』
「それよりコロク、説明お願い」
ケルベロスとコロクの言い合いをバッサリと切り捨てた夢が説明を急かす。その声を受けコロクはトライデントの先端でベルト上部のスイッチを指した。
『この【イネインスイッチ】を2回押せ。そうすれば脚部にイネインエネルギーが溜まるからそれを奴にぶつけるんだ』
説明を終えるとウィッシュの後方へと下がるコロク。一方、説明を受けたウィッシュは視線をバットソニオに向けベルトを操作する。ベルト中央の顔が開閉し宝石が淡く輝く。
『イネッシュストライク!』
周囲に音声が響く中、ベルトから生成されたエネルギーがライン沿いに右足へと集中していく。紫色に渦巻く闇のベールを右足に纏い宙へと跳び上がったウィッシュ。そのまま右足をバットソニオへ向け急降下キックを放つ。
「グワァァァーーーーッ!!」
必殺の一撃を受け悲鳴共に爆炎の中へと消えたバットソニオ。やがて煙が晴れるとそこにはすれ違うと誰もが振り返るであろうイケメンが横たわっていた。
「___終わった?」
『あぁ、終わったぞ夢』
『あとの事はこの世界の住人に任せて、俺達はさっさとこの場を去るぞ』
「分かった………」
いつの間にか日は沈み、雲から顔出す月の明かりがスポットライトの様にウィッシュを照らす中、静かにこの場を去って行く。この戦いを機に少年、紫吹夢は幾多の戦いへと赴く事になる。
WAREコラム
【仮面ライダーウィッシュ アミナス:身体能力】
身長:180cm
体重:60㎏
パンチ力:8.5t
キック力:13t
ジャンプ力:30.5m
走力:100mを3.9秒
【バットソニオ怪人】
風柴町に住むイケメンミュージシャンの「自身の治療に必要な血液が欲しい」と言う願いと共に「ソニオ結晶」が取り込んで誕生した怪人。
その牙で見境に噛みついては対象の血を全て飲み尽くし、吸血した血液は男性と同じ物へと変化する。飛行能力や超音波による見えない攻撃が武器。最大威力で放つ超音波攻撃はビル一棟を容易く崩壊させるほどだと言う。