【第1話】それでも諦めるつもりはありません!
「本当に走るのか?」
彼女の前にいるのは専属の医者だった。
「はい。私にとって子供の時からずっと諦めずに願っていた夢なので。」
1人のウマ娘は、そう目を輝かせて言った。
だが医師は難しそうな顔をしながらカルテを見ている。
「走る事を諦めるつもりは無いんだな。だがくれぐれも気おつけてくれ。君は普通のウマ娘と違い足の病気では無い。だからトレーナーではどうしようもない事態になる可能性がある。いいね。くれぐれも自分の体調管理は怠ってはいけないよ。」
医師はそう口を酸っぱくしてウマ娘に言う。
2週間後
「よーし選抜レース頑張るぞ!」
そう気合いを入れて自分の頬を叩くウマ娘は、静かにゲートに走った。
スタートの滑り出しは良好。
他のウマ娘達とは距離を置き完全な追い込みタイプの走法。
「今回の新入生はレベルが高いな。」
1人のトレーナーがそうつぶやくと同じようにその隣にいたトレーナーも頷く。
「個人的にはエルコンドルパサー。彼女は正しくって感じだろう。」
1人が手元の資料を片手に隣のトレーナーに話しかける。
「確かにこれがリギルの選抜でなければスカウトしに行くんだが…」
そう言うと残念そうに隣のトレーナーが手を肩に置いてくる。
「あのリギルのトレーナーだ。あんなに良いウマ娘をほっとくことは無い。残念だか他のウマ娘にも注視して残念だが落ちたウマ娘の中からスカウトをしよう。」
そう言いながら2人のトレーナーはまた無言となり必死にレースを見ている。
そしてその後ろには気だるそうにレースを見ている1人の男性トレーナーが死んだ魚の目をした状態でペラペラと資料をめくっていた。
レースは中盤
頬を叩いていたウマ娘は最後方から2番目の位置で先頭を伺う。
そして姿勢が他のウマ娘に比べるとさらに前傾になる。
「あの子かなり前傾姿勢過ぎないか?」
先程のトレーナーが隣のトレーナーに話しかける。
「確かに。まだレースを本格的に走ったことがないから姿勢維持が上手くできないんだろう。」
話しかけられたトレーナーは、そう言ってそのウマ娘の走り方をもう一度見る。
「他の子が簡単にできる姿勢維持が上手くできないと考えるとおそらく幼少期からレースに深く関わっていない。もしくはセンスがないのどっちかだろうな。」
トレーナーはそう厳しい評価を下す。
レースは終盤
あのウマ娘は、前傾姿勢のままスピードをあげる。
ラストスパートをかけ強く地面を蹴る。
「?!」
そしてさっきまで気だるそうだったトレーナーがヒョロヒョロとそのウマ娘に近づくように見る。
そして次の瞬間足を滑らせたのかそのウマ娘は失速する。
「おぉ!どうした!」
さっきからレースの分析をしていたトレーナーがいきなり自分たちの間に入ったトレーナーに驚きレースから目を離す。
「やる気出も出る子がいたか?お前もいい加減真面目にやらないとな」
1人のトレーナーがそう言って来る。
やる気のなさそうなトレーナーは、レースを見終わったらまた気だるそうにその場を後にした。
「なんなんだ?あいつ?」
2人のトレーナーは、よく分からないトレーナーに対し疑念を持ちつつ自分がスカウトしようとする子を決めに行った。
レース終了
「はぁ…はぁ…負けた。」
1着はエルコンドルパサー。
私はビリから2番目。
(なんであそこで足を滑らせちゃうかな…)
そう見るからに落ち込んでる姿にさらに追い討ちが襲う。
「君ウチをトレーナーにしてみない?」
リギルの試験を落ちた子に声をかけるトレーナー達。
(私には声すらかける人はいないんですね…)
はぁとため息をついてその場から離れようとした時。
「なぁ。」
少しぶっきらぼうな声で呼び止める声が聞こえた。
「ひゃ!ひゃい?!」
彼女はいきなり声をかけられびっくりして振り返る。
そこにいたのは目が死んでいて気だるそうにしている1人の男だった。
「さっきのレース見させてもらった。」
そうぶっきらぼうに話す。
(ま…まさか…勧誘…やっ…やった!これで…)
「ラストスパート君が踏み込む瞬間君の姿勢がやや上向きになった。」
男の発言に彼女は目を丸くしパチクリと瞬きをする。
「加えて踏み込む時の軸でない方の足がやや外向きになっている。」
男は目の前で目を点にしている子をまるで見ないでさっきのレースの分析を話す。
「君の足は凄い。ラストスパートの踏み込みでそれがわかった。超前傾姿勢なのもスピードをあげるための風切りの要素があってだろう。だが、その2つ以外がお粗末だ。前傾姿勢から上に少し向いたせいで風を受ける体積が増え軸と反対の足が外に向いてるせいで全体のバランスが崩れる。それでは足を滑らすのは当然だ。君の場合はその2つを改善するだけでも十分あの一着の子に勝てる。」
そう言うと満足したのかそのまま帰ろうとする男。
(…。…え!帰るの?!私を専属にしたいとか…まぁ…まぁ、それは自惚れだけど…え?それだけ?)
「ちょっ…ちょっと待ってください!」
急いで男を引き止める。
「何だ?」
「いや…それだけ?ですか?」
オソロオソロ聞く。
「あぁ。それだけだ。」
男はそうなんの悪びれもなくいう。
「あのその…私を専属ウマ娘にしたいとかではなく?」
その発言に男は首を傾げ
「なぜ?」
心底不思議そうに答える。
「(いやいや…あんだけ言いたいこと言ってそこは私のトレーナーになりたいとか言ってくるって思うでしょ!)わ…私のトレーナーになってくれるのかと…」
男はそれを聞くと少し顔を背けて
「私は専属で誰かをトレーニングするつもりは無い。勘違いさせたなら謝るすまなかった。ただ一言言っておきたかっただけだ。」
男はそう言い少し頭を下げ今度こそ立ち去ろうとする。
(なんで?)
彼女の頭にはそう疑問符が出てきた。
(なんでそんな辛そうな顔をしてるんですか。まるで夢を諦めろと言われた時の私みたいな顔をするんですか?)
「…ます」
「何だ?」
「貴方を私のトレーナーにしてみせます!」
気づいたらそう口走っていた。
「だから…」
男の発言を遮るように
「あんなに私の弱点を言い当ててはいそうですかって引き下がれません!絶対に私のトレーナーにしてみせます。」
「何を言って…」
「貴方が私のトレーナーになる気はない?でも…それでも私は諦めませんよ。
私パナケアパズズは、諦めが悪いウマ娘なので」
声高らかに男にそう言い男の返事を聞く前に自室に向かって走って行った。
「…」
男は唖然していたが次第に冷静になりまた死んだ目をした状態でヨロヨロ歩き始める。
(まぁ…何度も断れば別のところに行くだろう。)
そう考えトレセンを出てコンビニでダバコを買い喫煙所で一服し家に帰るのであった。
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