プロローグ1
月。
はるか昔に、人類が初めてロケットで到達した星の名だ。最初にアメリカという国の基地が作られ、そこはフォンブラウン基地と名付けられた。
それから時は流れ、旧世紀は終わりを迎え、新たなる時代、アド・ステラを迎えた。裕福な人々は汚染された地球を捨てて、挙って宇宙へと旅立ち、子を産み、育て、そして死んでいった。
彼らの子孫はスペーシアンと名乗るようになり、地球居住者はアーシアンと呼ばれ差別されるようになった。月面に住み着いた人々はスペーシアンではあるが、自らのことをルナリアンと呼んだ。
かつてのフォンブラウン基地は拡張され、フォンブラウン市となった。フォンブラウンだけでなく、グラナダやアンマンといった月面都市が多数存在していた。それらを統治するのはアナハイム・エレクトロニクス社だ。
ベネリットグループに属するアナハイムはビッグ5とも呼ばれる五大企業の一角を担っている。「スプーンから宇宙戦艦まで」というキャッチフレーズに表されているように民生品から兵器類までありとあらゆるものを取り扱っている。もちろんMSも製造しており、ガンキャノンやガンタンク、ジムといったMSを様々な勢力に販売している。
ベネリットグループが保有するあるフロントで会合が行われていた。モビルスーツ開発評議会である。ビッグ5の一員であるアナハイムももちろんこの会合に参加していた。
「……これでオックスアースも終わりだな。劣等人種のアーシアン如きが調子に乗るからこんなことになる」
ジェターク社CEOがアーシアンに対する差別感情を剥き出しにしながら発言した。彼らがここにいられるのはアーシアンに彼らの製品を売りつけているからなのに。
「これでオックスアースのGUND技術の拡散も阻止できる。あれは我が社の製品の脅威になるからな」
ジオニック社のCEOが口を開いた。ジオニック社はL3に本社を置く軍需企業だ。L3にあるプラント都市群を統治している。彼らも例に漏れずMSを開発しており、ザクⅡやドムといった量産機を生産していた。
「貴社の製品は我が社の物にも歯が立たないのですから当然ですなぁ」
アナハイムのCEOがジオニック社CEOに小言を吐いた。何故か彼らは最も互いを嫌っており、敵対する勢力にそれぞれのMSや兵器を売りつけたり、企業間紛争を起こしたりしていた。ジオニック社のCEOが立ち上がった。
「その辺にしておけ」
ベネリットグループの総裁が口を開くとジオニック社CEOは席に座った。
「しかし、大丈夫なのか?民間企業の分を超えるのでは……」「セツルメント国家群が黙っているか……」
各社のCEOが不安を口々に言う。
「超えてしまえばいいのです」
グラスレー・ディフェンス・システムズ社のサリウスCEOの後ろに立っていたデリング・レンブランが話に割って入ってきた。
「デリング、発言は求めていない」
サリウスが彼を諌めたが彼は無視して話を続けた。
「ヴァナディースの連中がガンダムを完成させてからでは手遅れになります。あれはジオニック社CEOの言うように我々の脅威となる。我々モビルスーツ開発評議会は決断すべきです。魔女への鉄槌を」