戦術試験区域14番
決闘の場所に選ばれたのは地球にある小都市を模した戦術試験区域だった。都市内には小規模な川やハイウェイ、鉄道が走っている。
そこに5つのモビルスーツコンテナが地下から現れた。それぞれのコンテナの扉が開き、各々の機体がゆっくりと姿を現した。チュチュの〈デミトレーナー〉、コウとキースの〈ジェガン〉、パーカーの〈カペル・クゥ〉、ジェフリーの〈カペル・ジオ〉がアスファルトの地面を踏み締めた。
「これより双方の合意のもと、決闘を執り行います。勝敗は、相手の全モビルスーツのブレードアンテナを折ったものとします。立ち合い人は地球寮スレッタ・マーキュリーが務めます!」
「両者、向顔」
モニターに5人の顔が映し出された。
「チュチュせんぱ……じゃなくてチュアチュリー・パンランチ、パーカー・イーストコット、決闘の口上を」
「「勝敗はモビルスーツの性能で決まらず、操縦者の技のみで決まらず、ただ結果のみが真実」」
チュチュとパーカーは決闘の口上を述べ終えるとすぐに戦闘態勢に入った。それに続いてジェフリー、コウ、キースも戦闘態勢に入る。
「
開始の合図と同時にコウの機体が飛び出した。イーストコット兄弟も機体を前進させ、市街地へと入った。
「キース!索敵頼む!」
「了解」
キースの〈ジェガン〉がバーニアを吹かして天井近くまで舞い上がった。右腕に装備されている大型光学カメラが市街地を捉え、ワイヤーフレームで表示した。市内中央部を2機のモビルスーツがホバー移動しているのが確認できた。その情報は即座にデータリンクでコウに送られた。
「チュチュ、観測したデータをレーザー通信で送る」
キース機が左腕をチュチュの〈デミトレーナー〉に向けた。
「ありがとなキース!」
一撃離脱戦法を好むチュチュは〈デミトレーナー〉を走らせて市街地へと入っていった。市街地は入り組んでいて視界は悪い。
「吹っ飛びやがれ!」
チュチュは送られてくる情報から敵の未来位置に向けてパックパック直結の大型のロングレンジビームスナイパーライフルを照射した。ビルやハイウェイの橋脚を溶かしながらビームがジェフリーの〈カペル・ジオ〉に迫る。
「くっ!」
ジェフリーはビルを切り裂きながら現れたビームに驚きながらも冷静に対ビームコーティングが施された右手の手盾でビームの直撃を防いだ。今の攻撃で右手の手盾に装備されているビームマシンガンが使用不能になり、右手からパージした。
「アーシアンめ……!」
「外した?!キース!相手はどうなってる?!」
「当たったんだが、シールドで防がれた。敵がそっちに向かって来てる。ジェフリーの腕は良い。援護する」
「上等だ!返り討ちにしてやんよ!」
ビルの背後から〈カペル・ジオ〉が現れた。バーニアを吹かしながらビルの屋上に着地すると左手のビームマシンガンをチュチュ機に向けて連射した。まだしっかりと狙いが定まっていないのかエネルギー弾がアスファルトや無人の車両に当たり、それらを溶かした。
チュチュはそれらの攻撃を躱しながら、〈カペル・ジオ〉の死角に入った。
ジェフリーが死角に入ったチュチュ機を追おうとするがそこで邪魔が入った。キースの〈ジェガン〉がビームサーベルを抜いて〈カペル・ジオ〉へと斬りかかった。ジェフリーは右手のマニュピレーターでジェガンのビームサーベルを掴んだ。
「ルナリアン!なぜアーシアンの味方をする!お前らもスペーシアンだろう!」
接触回線が開き、ジェフリーがキースに叫んだ。
「俺たちアナハイム寮は困ってる人を助けるのがモットーなんだよ!」
一方その頃、コウはハイウェイ上でジェフリーの兄であり、グエルに負けたパーカーと対峙していた。〈カペル・クゥ〉のモノアイがじっと〈ジェガン〉を睨んでいる。
先に動いたのはパーカーだった。パーカーはビームライフルを乱射しながら、逆側の手にハチェットを持って突っ込んで来た。
コウはシールドを構えて、ビームを防いだ。ジェガンはシールドを構えながら右肩に装着された3連装ミサイルポッドからミサイルを発射し、バーニアを吹かして距離を取った。
「キース!そっちは今どうだ?!」
「……今手が離せない!弟の方と交戦中だ!」
「分かった!ならこっちは1人でやる!」
パーカー機は迫り来るミサイルをビームバルカンで迎撃するために立ち止まった。1発の撃墜に成功したが、弾幕をすり抜けてミサイル2発がシールドと上半身に命中した。シールドは吹き飛んだが、上半身のミサイルは不発だった。ミサイルや砲弾は決闘のレギュレーションに基づき、パイロットの致命傷になり得ない部分に命中した場合にしか爆発しない。
「もらった!」
コウが〈カペル・クゥ〉のブレードアンテナに向けてビームライフルを発射した。緑色のビームがブレードアンテナに向けて迫るがハチェットで防がれた。
「なんで当たらないんだよ!」
「さっきの礼を返すぞ!」
パーカーがバーニアを吹かしてコウの方に向かってくるが、コウは牽制でハンドグレネードとシールドミサイルをばら撒いた。ミサイルやグレネードは天井やビルに命中し、ミサイルやビルの破片が〈カペル・クゥ〉に降り注いだ。パーカーは空中で姿勢を崩し、姿勢制御システムがスラスターで姿勢を元に戻そうとする。
パーカーは破片からブレードアンテナを守るために左手を掲げたが、それが命取りになった。
「うぉぉぉぉぉ!!」
コウのジェガンがバックパックのバーニアを最大出力で吹かしながら、ビームサーベルを抜いて飛びかかった。パーカーはビームバルカンを乱射するが、ジェガンの左手に装着された増加装甲であっさりと防がれた。
パーカーは踠くがジェガンは真っ直ぐこちらに向かって来ている。
「やめろーー!」
コックピット内でパーカーが叫ぶがその叫びはコウに聞こえるはずもなく、〈カペル・クゥ〉のブレードアンテナにビームサーベルが食い込んだ。そして即座に溶断され、ブレードアンテナが頭部を離れた。
〈ジェガン〉と〈カペル・クゥ〉は同時に着地し、地響きでビルや自動車が揺れた。
「キース!こっちは片付けた。そっちはどうだい?」
「コウ!こっちに来てくれ!弟の方が厄介だ!」
「分かった!すぐに行く」
移動しながらキースから送られてくる映像を見ているとジェフリーの方が遥かに兄より強そうだった。既に右手を喪失していたが、左手の手盾と高い機動力のみでキースとチュチュの猛攻を耐え忍んでいた。コウはモニターの端に表示された残弾表示を見た。ビームライフルが僅かとビームサーベル2本のみだ。
「ウラキ、キース!あーしがアイツを仕留める!援護してくれ!」
「「了解!」」
ホバー移動しながらチュチュたちのところに辿り着いた。ビームによって溶断されたビルやハイウェイがごろごろと転がっている。
〈カペル・ジオ〉のパイロット、ジェフリーの操縦技能はかなり高く、ジェガンよりもスペックが低い機体で戦っている。チュチュの〈デミトレーナー〉はビームスナイパーライフルのエネルギーが切れたのか銃身を掴んで鈍器のように構えていた。
「キース!あれは残っているか?!」
「アレ?……あぁ!あるぜ!」
「チュチュ!これから相手のビームライフルを使用不能にする!合図でやってくれ!」
「おう!」
コウは低層ビルの屋上からビームライフルを〈カペル・ジオ〉に向けて発砲した。動きが止まり、左手の手盾でビームを防いだ。
「今だ!キース!チュチュ!」
キースは腰アーマーに装備されたハンドグレネード1発を放った。ジェフリーはそれを左手の手盾で防いだ。グレネードは不発だったのか透明の膜のようなものをばら撒いた。
「不発か?せめてアーシアンだけでも」
ジェフリーは右から突進してくるチュチュの〈デミトレーナー〉に照準を合わせた。
「じゃあなポンポン頭」
操縦桿の引き金を引いた。しかし弾は出なかった。彼が知る由もないのだが、ハンドグレネードは爆発しなかっただけでしっかりとその役割を果たしていたのだ。キースが放ったのは試作段階のビーム撹乱幕を搭載した特殊弾頭だった。
「故障か?!クソっ!出ろ!出ろ!
銃口に付着したビーム撹乱幕によってビームが乱反射され、無力化されていた。
「地球寮舐めんな!」
「うわぁぁぁぁぁ!」
〈カペル・ジオ〉の頭部にロングレンジビームスナイパーライフルが振り下ろされ、ブレードアンテナごと頭部が押し潰された。
「っしゃあ!見たか!」
天井モニターに「WINNER」という文字列とともにチュチュ、コウ、キースの名前と学生番号が表示され、決闘は終了した。