決闘委員会ラウンジ
「兄さんは決闘を禁止されています!この決闘は無効だ!」
決闘委員会のラウンジにグエル・ジェタークの弟であるラウダ・ニールが息を切らして入ってきた。
ことの発端はエラン・ケレスがスレッタを泣かせた事から始まった。そこに駆けつけたグエルはエランに詰め寄り、彼女への謝罪を懸けてエランとの決闘に発展した。
「グエル先輩はとっくに了承済みっすよ?貴方のお兄さまなら勝てるでしょ〜?あっ、もしかしてお兄さまの実力を信じてないの〜?」
セセリアがラウダを煽るような口調で嫌味を言った。
「何だと?僕が兄さんを信じてないとでも!」
ラウダは血管を浮き上がらせ、鬼の形相でセセリアにじり寄った。その様子を見てもセセリアは笑顔を辞めなかった。
「まあまあラウダくん。君のお兄さんならきっと勝つさ。落ち着きたまえ」
ガルマの代理として来ているシャアがラウダの肩を掴んだ。ラウダはシャアの仮面を見て一瞬驚いたような表情を浮かべたがすぐにシャアを睨みつけた。
━━━激情タイプか。カミーユと同じだな。扱いを間違えば殴られかねん。
「こっわぁ〜」
ラウダはシャアに宥められて少し落ち着いたのか、冷静さを取り戻した。
「くっ……!」
ラウダはマニキュアを塗りながら楽しそうに笑っているセセリアを睨みつけた後、少し離れたところな立って決闘を見届けることにした。
グエルはラウダ用にカスタマイズされた〈ディランザ〉で戦術試験区域に降り立った。戦術試験区域は月を再現した環境で重力もいつもの1G環境ではなかった。グエルに遅れてペイル寮のMSコンテナも到着し、中からペイル寮のモビルスーツが現れた。
「黒いザウォート?」
セセリアはロウジに尋ねた。
「違いますね。あれは……」
「ペイルのガンダム、か」
ロウジの言葉に続けるようにシャアが発言した。ロウジもそれに同意するように首を振った。シャアはこれまで何度も様々なガンダムを見てきた。あの雰囲気とパイロットからは何かを感じる。
シャディクはシャアの言葉を聞き逃さなかった。彼の直感はよく当たる。もしあれがガンダムなら……。
「KP-002、エラン・ケレス。……〈ファラクト〉出る」
流線が多用された巨大な多目的多連装ポッドを背負った〈ガンダム・ファラクト〉が地面に降り立った。その着地は静かな物で僅かな砂埃しか舞い上がらなかった。
「凄いですね。あれが世界最高峰の慣性制御技術……!」
ロウジが呟いた。決闘委員会のラウンジだけでなく、この学園フロントにいる全員がこの決闘に注目していた。
「ペイルの新型だ……」「また新型かよ」
地球寮も勿論例外ではなく、スレッタとミオリネもその決闘を見ていた。
「両者、向顔」
モニターにエラン・ケレス、グエル・ジェタークの顔が映し出された。シャディクの合図に続いて2人が決闘の口上を述べた。
「「勝敗はモビルスーツの性能で決まらず、操縦者の技のみで決まらず、ただ結果のみが真実」」
「
2人のモビルスーツが動き始めた。エランはバーニアとスラスターを噴射して空へと舞い上がった。グエルのディランザもそれを追うように脚部ホバーユニットを起動して機関砲で牽制しながら距離を詰めた。
エランはディランザが放った光弾を避けながら滑空した。何も無い空間を飛翔した光弾は地面に着弾し、炸裂した。炸裂の衝撃波と爆風で月面の砂が舞い上がり、砂埃となってフィールドに広がった。帯電性の砂が複数のスパークを放った。
舞い上がった砂は2人の機体の関節部や装甲の隙間などに吸着した。グエルのディランザにはそこまで吸着しなかったが、ファラクトには今の攻撃でかなりの量が付着してしまった。
「あっ……」
ファラクトのメインモニターに付着率が表示された。許容範囲内だが、始まったばかりでこれでは不味いかもしれない。しかも砂埃で極度に視界が悪化している。これではAIの補正が追いつかない。
「そこだ!」
砂埃の中からディランザが現れた。ディランザは巨大なヒートアックスを振りかぶって攻撃態勢に入っていた。
「回避は間に合わない……!」
「低重力ならディランザだって!」
エランはヒートアックスをショルダースラスターの追加装甲板で受け流してビームアルケビュースで受け止めた。
そのまま2機はレゴリスと化した砂埃の中へと落ちて行った。
「エランもなかなかやるな。あの距離で対応できるとは」
シャアが感嘆の声を漏らした。ニュータイプでもないのにあの反応速度とは。機体が凄いのかパイロットが凄いのか、その両方か。
「行けー!1.4倍!」
地球寮では心配そうに決闘を見ているスレッタを尻目にオジェロが1人ではしゃいでいた。彼は所持金全てをグエルに賭けているのだ。
「お、お前勝ったらこの前のカネ返せよ?」
エランに賭けたヌーノがオジェロに声を震わせながら言った。
「分かってるって!グエルが勝ったら2倍にして返してやる!」
オジェロが満面の笑みでそう答えた。彼はグエルが負けるなんてこれっぽっちも考えていなかった。
「しっかり返せよ?それよりスレッタ、お前よくアイツに勝てたな」
「……は、はぁ」
スレッタは困ったように答えた。この決闘はスレッタを巡って始まってしまった。
「戦い方が荒すぎるよ。あんなにレゴリスが舞っちゃってさ……」
決闘賭博には参加していないマルタンも冷や汗を流しながら決闘を見ていた。
マルタンの言う通りでレゴリスは大量に舞い上がっており、カメラドローンも2人の位置を必死に探していた。
エランは砂埃の中で即座に機体のチェックと対地ソナーの情報を確認していた。ソナーがディランザのホバー走行音を捉えた。どこか調子が悪そうだ。おそらくこちらと同じように関節部にレゴリスが溜まっているのだろう。
「ファラクトのテスト、手伝ってもらう」
エランはそうグエルに伝えるとレゴリスの中から空に舞い上がった。カメラドローンもそれを追って空にカメラを向けて背景と同化してしまわないように補正を掛けた。
不気味にファラクトが空中で静止している。
「パーメットスコア3」
エランがそう呟くと頬に赤い斑紋が浮かび上がり、シェルユニットも赤く発光し始めた。
「ガンダムだ……」「マジかよ」「あれ、もう協約って無いの?パパもガンダム作れるかな」
学園中が騒然とした。ほぼ確実にガンダムと噂されている〈エアリアル〉、〈Hi-ν〉に続く3機目のガンダムだ。
「いけ」
エランは全神経を使ってディランザの姿を想像し、引き金を引いた。多連装ポッドからGUNDミサイルが射出された。GUNDフォーマットによって増幅されたエランの脳波がミサイルシーカーに伝えられ、ミサイルがグエルに殺到した。
「ミサイルか!この!」
グエルは妙に有機的な動きをするミサイルに戸惑いながらもビームバルカンとビームライフルでそれらを落としていくが数が多すぎる。
「すり抜けて見せる!」
グエルはホバーユニットとスラスターを全開に吹かしながらファラクトに近づいた。レーダーと勘を頼りにヒートアックスでミサイルの雨を防ぎながらビームバルカンで砂埃を巻き上げた。
さっき以上に視界が悪くなり、集中力が途切れたミサイルがあらぬ方向へと飛び去っていく。
「見切った!」
グエルはついにファラクトをターゲットサイト内に捉えた。あとはヒートアックスを振り下ろすだけ。の筈だった。ターゲットサイトから突然ファラクトが消えて無機質なグレーの大地が映し出された。
「なっ!?」
それと同時に脚部切断を知らせる警告音が鳴り響いた。
「エランの罠にかかったな」
「巻き上がった砂埃でレーダーにクラッターを生じさせ、背後からのミサイル攻撃を成功させた。敗因を作ったのはグエルさん自身ですね」
両脚を失ったディランザは無残にも地面に転がっているだけでどうすることもできない。さっきの全力噴射で推進剤は尽き、ヒートアックスも今の攻撃でオーバーヒートした。
「やめろ……!」
ファラクトはディランザのブレードアンテナを握りしめて顔の高さまで持ち上げた。ディランザが最後の抵抗で腕をばたつかせるがファラクトはそれを無視して握力を少しずつ強めていった。
「ガンダムを倒せるのは……」
「やめろ!」
グエルが腹の底から声を上げるがそれでもエランは握力を弱めることはなかった。
「ガンダムだけだ……。待っていろ。スレッタ・マーキュリー、……アムロ・レイ……!僕がガンダムを全て倒す……!」
アンテナから本体が脱落し、グエルはエアバッグで顔を強打した。ファラクトはディランザのアンテナを高く掲げた。
「なっ?!嘘だろに、兄さんっ!兄さん!」
ラウダが膝から崩れ落ちた。
「しゃあっ!3倍!」
「ぐぁぁ!また負けた!」
「早くカネ返せよ!お前どんだけ負ける気だよ!」
「つ、次に勝ったら返すわ!」
オジェロが頭を抱えながら部屋から逃げ出した。
「待て!逃げるな!」
オジェロを追ってヌーノも部屋を出て行った。
「チッ」
ミオリネは舌打ちをした。潰し合いでどちらも負けるのを期待していたのにこれではただのペイルの新製品のデモンストレーションだ。
その横でスレッタの生徒手帳が鳴った。
「あ、エ、エランさん?」
「勝ったよ。スレッタ・マーキュリー。約束通り、次は僕と戦ってもらう」
「は?!約束!?約束って!アンタ勝手に!」
ミオリネが約束という言葉に反応した。
━━━スレッタが自分に何も話さずにビッグ5のエランと勝手に決闘の約束をするなんて!まだアムロ・レイは実習をする上で仕方なかったのは分かる。勝手に他の男と!
「僕が君との決闘に懸けるのは……エアリアルだ」
「え、エアリアルを!?」
「僕が勝ったらエアリアルをいただく……」
エランはそこでオープン回線にして全生徒に聞こえるようにした。
「君の次はアムロ・レイ。君に決闘を申し込む」
エランは指示通りにスレッタ・マーキュリー、アムロ・レイに決闘を申し込んだ。このことは学園だけではなく投資家たちの間でも話題となり、ペイル・テクノロジーズの株価がどんどん上昇していった。