「
ガルマの号令と共に決闘が始まった。エランはビームアルケビュースを乱射しながら〈エアリアル〉との距離を詰めた。
「うっ!」
ビームを躱すためにスレッタは増設されたフライトユニットとバックパックの推力を上げた。激しいGがかかり、脳に血液が上ってくる。
その状況で彼女は操縦桿の引き金を引いた。エアリアルの火器管制システムは〈ファラクト〉を捕捉しようとしているが、エアリアル自身の高機動性とファラクトに塗布されている新型ステルス塗料によってロックオン精度がかなり落ちている。
「パーメットスコア3!行け!GUNDミサイル!」
グエル戦の時のように多連装ポッドからGUNDミサイルが射出され、白い尾を曳きながらエアリアルへと向かっていく。
スレッタは迫り来るミサイルを頭部ビームバルカンとビームライフルで迎撃するが、やはり数が多すぎる。プロペラントタンクの燃料残量はまだ半分以上あるが、終盤まで持つか分からない以上ここでミサイルを捌き切るしかない。
「皆!お願い!力を貸して!」
スレッタの声を聞いたエアリアルはGUNDビットを射出した。11機のGUNDビットたちはエアリアルに置いていかれないようにエアリアルの周りに円を描くように展開し、ビーム弾幕を形成した。青い光線が一つずつミサイルに命中し、ミサイルが爆発して火球を形成した。
「このままじゃ埒が開かないか……!なら!」
エランは大量に流入してくるデータで朦朧とする意識の中でGUNDビットの姿を想像した。GUNDビットさえ片付ければ勝利が見えてくる。ミサイルの残りは43発。
「ミサイルの軌道が変わった!?皆!気をつけて!」
エアリアルを狙っていたミサイルはベクタードノズルとスラスターを用いて軌道を変えてGUNDビットたちに迫った。
「嘘!ダメダメダメダメ!」
遂にプロペラントタンクの燃料が底をついてしまった。あとは機内燃料だけでなんとかするしかない。
「僕の事を教えてくれ……?僕は、ガンダムのために作られた使い捨ての駒だ……!それが聞けたら君は満足なのか?!」
エランはコックピットの中で必死にミサイルから逃げ回るエアリアルとそのGUNDビットを見ながら叫んだ。パーメットが血液に混じり、心臓の負担が増大して、息が荒くなる。
「意外と意地が悪いじゃないか!スレッタ・マーキュリー!」
こんなにも闘争心を剥き出しにするのは初めてだった。感情が昂れば、ミサイルの誘導に悪影響を及ぼすが、今の彼にそんな事を考える余裕は無かった。
「そっちが逃げ回るなら!」
ファラクトは左腕からビームサーベルの柄を射出し、それを左手でキャッチした。瞬時にビーム刃を形成し、黒い機体を緑の光が照らした。
最大出力でバーニアを吹かしながら、最後のミサイル10発を従えてエアリアルに斬りかかった。
「GUNDミサイルじゃ、GUNDビットに歯が立たないか……!何がGUNDビット対策だ!」
エランはファラクト受領前のブリーフィングを思い出していた。ベルメリア・ウィンストン博士はエアリアルや〈Hi-ν〉のGUNDビットに対応するにはこれしかないと言っていたが、全く役に立っていなかった。しかも命中弾もたったの数発でどれも致命的損傷を与えられていない。
「うっ!」
ファラクトが遂にエアリアルに追いつき、エアリアルにビームサーベルを振り下ろした。エアリアルはビームサーベルでそれを受け止めた。激しい閃光が切り結ぶ2人の機体を明るく目立たせた。
「君は何でも持っている……!友達も家族も、過去も未来も……!やりたいことリストだって!一つくらい僕にくれよ!」
エランは接触回線を開き、スレッタに語りかけた。その声には憎悪とも羨望とも取れる感情が込められていた。
「じゃなければ理不尽過ぎる!」
「なら!友達から始めてみませんか!」
スレッタはエランの声を聞いてそれに応えた。
「今の僕にそんなものはいらない!僕が今欲しいのは……生き残ること……だ!」
エランはスレッタの提案を拒絶し、両肩のブラストブースターを点火させ、エアリアルを押し出した。
「エラン、らしくない熱さじゃないか」
決闘の映像をラウンジで眺めていたシャディクが1人呟いた。
「機動性も推力も向こうのほうが上だ。スレッタ・マーキュリー、お前ならどうする」
エランに敗北したあと、ジェターク寮を追い出されたグエル・ジェタークは止めようとするラウダを振り切ってフロントの外れにある林に辿り着いた。彼は持ってきた椅子に腰掛けて、じっと決闘を見ていた。
「ベルメリア・ウィンストン博士……!あんたの見立ては間違っていた!僕が……ガンダムを乗りこなして見せる!パーメットスコア4!」
シェルユニットが更に赤く光り、エランの顔の赤い斑紋も少しずつ広がっていく。
「ハァハァハァ!」
呼吸する度に喉、肺に激痛が走る。エランは操縦桿の引き金を引いてビームアルケビュースを発砲した。
「エアリアル、もう少しだけ、頑張って……!みんな!」
エアリアルに付き添っていたGUNDビットたちが鮮やかな航跡を曳いてエスカッシャンを形成した。ファラクトのビームがエスカッシャンの偏光シールドに弾かれた。
「エランさんの願い、もっと知りたいです!別に友達じゃなくても、もっと知りたいです!行くよ!みんな!」
エアリアルはビームライフルを構えて、ビームブレイドモードに切り替えた。銃口から緑のビームブレイドが形成された。
「鬱陶しさもここまで来れば筋金入りだよ!」
ファラクトとエアリアルは正面からぶつかった。エアリアルはファラクトの反応よりも速く、間合いに入り込んでビームアルケビュースと左前腕部を切断した。切断されたビームアルケビュースが誘爆する前に2人はまた離れた。
「たかがライフル如き!」
ファラクトは足裏をエアリアルに向けた。ビークフットのビーム砲が発射され、ハイザックのバックパックと左翼フライトユニットを吹き飛ばした。
「ああっ!」
爆発でエアリアルが揺れてスレッタが声を上げた。
「スレッタ・マーキュリー!」
ファラクトは残った右手にビームサーベルを持ってエアリアルに吶喊した。
「不味い!」「逃げろスレッタ!」
ヌーノとチュチュがスレッタに叫んだ。エアリアルに残された推力では満足に逃げることができない。
「終わりだ!」
エランが勝利を確信して笑みを漏らした時、エアリアルのシェルユニットが強く発光した。強烈な光が光波となってファラクトを飲み込んだ。ファラクトは機能停止し、ビームサーベルから光が消えた。
「動かない……!何だ!何が……」
エランが顔を上げると奇妙な光景が広がっていた。光か粒子か、ヒトの形をした何かが不気味に浮かんでいた。
「君は……」
ヒト形がこちらに顔と手を向けた。ヒト形は一体だけではなく何体もいるようで前後左右をぐるぐるとヒト形が回っていた。不気味で無邪気な笑い声も聞こえ出した。
それから間も無く、エランはファラクトを取り囲むGUNDビットたちの姿を目にした。砲口が緑に光り、閃光と爆発がエランを襲った。
「うっ!グハッ!」
ファラクトはGUNDビットたちの放ったビームで四肢を切断され、頭部のアンテナも根本から切断された。
━━━負けた。
エランは不快な痛みと極度の緊張から解放されて、少しの間意識を手放した。
「ふわぁぁ、お疲れ様、ありがとうエアリアル。今日はいつもより声、聞こえた気がする」
スレッタはコックピットの中でエアリアルを労うように声をかけた。勝利の余韻に浸りながらふとモニター見ると撃破されたファラクトが微動だにしていていない。
「エランさん?!」
スレッタはエアリアルを降りて、ファラクトに近付いた。切断された四肢や飛び散った破片を避けながらファラクトのコックピットに辿り着いた。緊急用レバーを引いてコックピットを開いた。中にはノーマルスーツを着たエラン・ケレスが静かに座っていた。
「エランさん!エランさん!」
スレッタはエランの手を握り、必死にエランに呼びかけた。
「……」
エランが目を覚まして、スレッタを見た。
「大丈夫ですか!?ごめんなさい、ケガとか……」
「大丈夫だよ。お気遣いありがとう」
エランは少しパニックになっているスレッタに優しく声を掛けた。
「賭けは僕の事を教えるだったね」
スレッタは何かを言おうとしたがエランは話し始めた。
「居たんだ。昔、僕の誕生日を祝ってくれる人。何も無いと思っていた。でも違ったみたい」
「おかしいです。そんなの」
「おかしいよね」
さっきまでのエランとは随分違う声色だった。エランとスレッタは互いに微笑みあった。
そこにペイル寮の学園艦と掃海艇がやって来た。
「ごめんね。今日は詳しくは話せないみたい。2日後の午前10時、公園で会おう」
エランはそう言うとペイル寮の学生達に抱き抱えられて学園艦に乗せられて去っていった。
2日後
スレッタとミオリネは9時30分から公園のベンチでエランを待っていた。2人はただ無言でベンチに座っていた。
スレッタは今日の予定ややりたい事を俯いて必死に考えていた。ミオリネはそれを邪魔しないように腕と足を組んで時計を眺めながらその時を待っていた。無言の時間が流れた。
「それにしても遅いわね!」
ミオリネは立ち上がってそう叫んだ。
「まだ約束まで時間がありますよ」
スレッタが宥めた。
「約束の10分前には来るもんでしょ!」
「ミオリネさんっ!」
ミオリネはスレッタを見た。平静を装って表情には出さないようにしているが、続く言葉が怖くてたまらなかった。
「その、ありがとうございます」
ミオリネはその言葉を聞いて安心した。少しでもスレッタを疑った自分を恥じた。
「門限、守んなさいよ」
ミオリネはそう言うと顔を見せずに去っていった。
「まだかな?エランさん」
時計を見ると時刻は9時57分、気温は26度。
「待たせてごめん」
「エランさん!」
スレッタはベンチから立った。エランは誰にも見せたことがなかった本物の笑顔を初めて見せた。