回収
21年前フォールクヴァング宙域
「ウェンディ!次の標的コードはロメオ3だ。当ててくれよ」
「あいよ!任せとけ!」
2機の〈XGF-01ガンダム・ルブリス 量産試作モデル〉がフォールクヴァング宙域でテスト飛行を行っていた。2機のルブリスはビームライフルを使って、指定ポイントにある標的衛星を無力化して回っている。まだ火器管制システムが未完成なため、正確な射撃は難しいが、それでも十分な命中精度だ。
「これで15個目!多すぎでしょ」
ウェンディはルブリスのコックピットで愚痴をこぼした。既に主任のナディムと二人で30分以上この作業を繰り返していて、そろそろ飽きてきた。
「文句を言うな。あと10個ほどで終わる」
「はあ、早く終わらせて帰ろうよ。シャワー浴びたい」
ウェンディはヘルメット内で塊になって漂っている汗を見ながらぼやいた。ノーマルスーツの空気循環システムですぐにその塊は消えるが、視界に汗が映るという不快さは消えない。
「……そうだな」
ナディムも早くこの単調な作業を終わらせて早く帰投したかった。きっと我が家で娘のエリクトと妻のエルノラが待っているだろう。
「……ん?なにあれ?」
「どうした?ウェンディ。何か不具合でも?」
「ブリーフィングと違う……今回の標的ってMSもあるの?」
「MS?そんな話は聞いていないなぁ。どこだ?」
「ほら、あそこ」
ウェンディのルブリスが指をさした方向を見ると、そこにはMSらしき物体が漂っていた。レーダーには映っていないので、どうやら稼働状態ではないようだ。パーメット識別信号にも反応がない。
「無人か……なんでこんなところにあるんだ?」
そう言いながらナディムは機体を残骸の方向に向ける。スラスターで軌道を微調整しながらゆっくりとその機体に近づいた。フラッシュライトでその機体を照らしながら、そっと肩に手を置いて接触回線を開いた。肩には所属を示すようなものはなく、左肩装甲版表面にユニコーンを模ったパーソナルマークのようなものがあるだけだった。
「パイロット聞こえるか?いたら返事してくれ」
通信機からの応答はない。パーメット識別コードに反応しない点から見ても、無人の可能性がかなり高い。しかし万が一という場合もある。
「ウェンディ、本部に連絡を取ってくれ。要救助者の可能性がある」
「こ、コピー」
ナディムはウェンディにそう指示すると、ヘルメットの密閉状態を確認して、サバイバルキットを持って機外に飛び出した。ノーマルスーツ内臓の小型スラスターで少し加速して、コックピットらしき所に飛びついた。緊急事態用のハッチ解放レバーを掴んで回した。
「……無人か?おーい、だれかいるか?応答してくれ!」
そう言いながらコックピットに潜り込んで、コンソールを確認する。パネルをタッチしても何も反応しない。他に何か無いかとシートを探すと一冊の冊子が出てきた。冊子の表紙には英語で〈RX-93 νGundam〉と記されていた。しばらくシートの後ろなどを探したが誰もいない。ナディムは不思議に思いながらも、マニュアルを持って一旦ルブリスに戻った。
「それにしても……大きいな」
無人のモビルスーツはルブリスより大きく、背中には用途不明の板のようなものが6枚付いている。放熱板だろうか。頭部ユニットはバイザータイプではなくルブリスと同じツインアイ方式だ。この点からバイザーやモノアイを好むMS開発評議会関係の機体ではなさそうだ。
「主任!シャトルが来た!要救助者は?」
「要救助者はいなかった。テストは中止だ。この機体をもって帰投するぞ」
「よかったぁ」
ナディム機とウェンディ機がその機体の両腕を両側から抱え、シャトルの誘導の下でフォールクヴァングまで運んだ。
「パパぁ!おかえり!」
ハンガーに帰投してコックピットハッチを開くと子供用の宇宙服を着た小さな子供がナディムに抱き着いた。背中のウサギクッションの耳が顔に当たった。
「おっ。ただいま、エリィ」
その子供、エリクトをナディムは笑顔で受け止めて、抱き上げた。
「おかえり。今日は早かったのね」
その後ろから妻であるエルノラが出迎える。ナディムにとっては娘と同様に愛おしい存在だ。ウェンディもそんな二人を見て幸せを感じ、機体から降りた。
「どうしたの?これ」
エルノラはエリクトを抱えているナディムに聞いた。その視線の先にはνガンダムが立っていた。
「無人で漂流していたのを拾ったんだ。名前はνガンダム、Gund-Armらしいんだけど……」
ナディムは持ち帰った冊子をエルノラに渡した。
「この子、ヌーガンダムって言うのね!」
エリクトが目を輝かせながらνガンダムの名を舌足らずの口で呼んだ。どうやらこの機体に興味があるようだった。
「この子も寝てるの?」
エリクトはハンガーの端で佇んでいるルブリスとνガンダムを見比べた。どちらもツインアイに光が点っていないからそう見えるのだろう。
「そうね。この機体、どうするの?」
エルノラはエリクトの問いかけに答えてナディムのほうを見た。
「分からないな。所有者も分からないし、カルド博士にどうするか聞いてみようと思う」
「それがいいわ」
ナディムはエリクトをエルノラにやさしく渡そうとしたが、察したエリクトはナディムの腕を全力でつかんだ。その力はもうすぐ4歳になるとは言え、3歳の力とは思えないほどの力だった。
「やだぁ!パパがいい!パパがいい!」
エリクトは泣きながら駄々をこねた。こうなると少なくとも30分は収まらない。本当はエリクトと一緒にいてやりたいが、まだ仕事が終わっていない以上それはできない。
「パパと一緒がいい!」
「ごめんな。パパ、まだお仕事あるんだ」
ナディムは振り向いてエリクトを優しく諭したがエリクトは一向に泣き止まない。ウェンディやナイラたちヴァナディースの職員はその様子を温かい目で見守っていた。