νガンダムの発見から数日後、報告を受けたオックス・アース・コーポレーションはνガンダムを解析のために本社敷地内にある研究施設に運び込んだ。解析にはコンペティションに敗れた試作機を製造していたチームが当てられ、そのモビルスーツの持つ未知の装甲材と用途不明のドローン兵器、先進的なビーム兵器のリバースエンジニアリングが行われた。
「νガンダム解析チーム主任のテム・レイです。νガンダム解析に関する最終報告を行う場を与えていただき感謝します。早速ですが、本題のほうに移ります」
若き日のテムは薄暗い会議室でマイクを持ちながらオックスアース社の重鎮たちや先日買収したヴァナディース機関の幹部らの前で研究結果の報告を始めようとしていた。
「サイコフレーム、新型装甲材質についての報告ですが」
重鎮たちはタブレットの画面を眺めた。
「νガンダムに使用されているサイコフレームはお手元の資料にもありますようにパイロットの脳波を感知する装置を粒子状にまで小型化し、それらを装甲材に鋳込んだものだという事が分かりました」
資料にはνガンダムから取り外した装甲材の写真とそれを電子顕微鏡で拡大した写真が添付されていた。電子雲の隙間に明らかな人工物があり、これを作った者たちはこの世界以上の技術力を持った集団であることが見て取れた。
「この装置こそがサイコフレームの根幹をなす脳波感知チップと呼ばれるものです。これをコックピット周辺部や駆動部に使用することで情報の伝達速度、反応性を飛躍的に向上させ、GUNDフォーマット搭載機並みにまで性能を向上させることができます」
テムは背後のスクリーンに映し出されたνガンダムの装甲断面をレーザーポインターで指し示しながら話した。
「問題点は無いのかね?君たちは例の試作機で何人もパイロットを食い殺してきた。そのサイコフレームとやらの安全性は確保されているのか?」
資料を黙って読んでいた幹部がテムに疑問を投げかけた。
「パイロットの命に関しては問題ありません。700時間以上の研究でチームに死者はいません。問題があるとすれば、サイコフレームに情報伝達を行う脳波脳波感知装置を扱うには強い脳波を指向可能な人物がパイロットである必要があることです。過去のテストパイロットで性能を十分に引き出せたものはいませんが、現在のパイロットなら100%の性能を引き出せます」
重鎮たちはパイロットのプロフィールを見た。名前は〈C4-004〉。ベルメリア博士が研究中の強化人士計画で生み出された人間の一人でまだ10代くらいの少年だ。資料によれば、背骨をGUND技術で置き換え、特殊薬物で強化された脳から脳波を指向可能らしい。カルド博士はそれを見て不快感を露にしたが、〈νガンダム〉に夢中のオックスアース社の重鎮たちや解析チームの誰もがそれに気づくことはなかった。
「どれほどなんだね?そのサイコフレームの性能というのは」
サングラス焼けが目立つデミトリー・リゲットCEOが尋ねた。
「それに関してはこちらをご覧ください」
広く荒れ果てた土地に〈νガンダム〉が立っていた。この動画は回収後からあまり時間が経っていない時に撮影されたものだ。〈νガンダム〉は無人操縦モードのモビルワーカーが地下からエレベーターに乗って現れて走り出した瞬間、ビームライフルを発砲した。ピンク色の光線がモビルワーカーの胴体に命中したあと内部を溶かしながら、背部から出てきた。さらに追い打ちとばかりに背中からドローン兵器であるフィン・ファンネルが飛び立ち、モビルワーカーをバラバラに解体した。出現から発砲までほんの数秒だけだった。GUNDフォーマット搭載機に匹敵する反応速度だ。
「次にお見せする動画は〈C4-004〉によるものです」
スクリーンにまた〈νガンダム〉が現れた。今度のガンダムはかなり改造されたもののようで一部装甲形状の変更や、GUNDフォーマット対応の為にルブリスから流用されたシェルユニットが組み込まれていた。サイコフレームとGUNDフォーマットの併用によって更に反応速度が強化され、フィン・ファンネルにも改良が加えられ、GUNDによる精密な機体操作と狙撃性能が向上していた。
暗い宇宙空間でシェルユニットが赤く発光し、〈νガンダム〉が戦闘態勢に入った。今回の標的は有人のモビルスーツ中隊のようだった。戦闘の開始と同時にガンダムの背中から飛び出したフィンファンネルが放った緑色の光線で標的機の四肢や頭部を焼き切り、民間軍事会社のモビルスーツ中隊はあっという間に全滅した。
「これがGUNDフォーマットを搭載した〈νガンダム〉の力です!まさに一騎当千!」
テムは興奮した状態で電気を灯した。映像前までの重鎮たちの暗い表情は綺麗に消え去り、皆が明るい表情を浮かべていた。ヴァナディース機関の者を除いては。
「素晴らしい!」「さすがレイ博士だ!」「これで我が社の未来は安泰だ!」「これで例の怪物の失敗も取り返せる!」
しかし、GUNDフォーマットを組み込んだことによる問題が一つだけあった。
「……しかし、データストーム問題が解決していません」
「そんなことは君が考える問題ではない!それについてはヴァナディース機関のカルド博士がなんとかしてくれるだろう!博士、データストーム問題の解決の目処は立ったのか?!もうルブリスはロールアウトしているんだぞ!」
重鎮は興奮が冷め止まぬ内にデータストーム問題についてカルド博士に尋ねた。
「いえ。我々一同問題解決のためにルブリス開発に力を入れていますが、もう少し時間がかかります」
「早くしたまえ!リコール問題にまで発展したら我々は終わりだぞ!」
重鎮がカルド博士を怒鳴りつけた。きっと彼は頭に血が上り過ぎているのだろう。カルド博士は複雑な気持ちだった。人類の未来のため、医療のために発展させてきたGUND技術は今や軍用MSや人道的と決して言えないような遺伝子操作人間を製造するためのモノとして使われている。しかし、こうする他無かったのだ。兎に角今はGUND技術を発展させなければならない。
「前回のファンネル、M粒子を使用したビームライフルに続いた今回の報告が最終になります」
テムが静かに発言し、タブレットの電源を切った。
「おお!そうかそうか!ではこれで会議は終わりにするとしよう!レイ博士、君には期待しているぞ!」
「ありがとうございます」
そう言うとテムたち解析チームはタブレットや資料を持って部屋を出た。