アムロはその後、フィニアスに連れられて学園中を移動していた。教室や事務室、カフェテリアの場所を覚えさせられた。どこも学生でいっぱいで活気に満ち溢れていた。
「次は決闘委員会のラウンジに行こうか。君は期待の新人だ。ホルダーになれるかも」
「さっきから気になってたんですけど、ホルダーって何ですか?」
アムロはさっきの決闘の時に聞いたホルダーという言葉の意味を考えていた。映像を見る限りでは制服が白いということしかわからなかった。
「ホルダーって言うのは、簡単に言うとこの学校で一番強い奴ってことさ。ホルダーは制服も特別で俺たちみたいな地味な色の制服じゃなくて白い制服を着るんだ。ホルダーはミオリネとかいうベネリットグループ総裁の娘と結婚することになってる。だからみんなが現ホルダーのグエル・ジェタークに挑戦してる」
アムロは結婚云々にはあまり興味が湧かなかったが、なんとなく決闘がしてみたくなった。そもそもここに来たのは父、テム・レイが開発した新型MSの試験のためなのだから。近いうちに誰かと戦わないと。
「ついたぞ。ここが決闘委員会のラウンジだ」
アムロはフィニアスに続いてエレベーターを降りた。広い部屋に何人かの生徒が居た。
「遅かったじゃないかフィニアス。その子が新人くんかい?俺はシャディク・ゼネリだ。よろしくね」
シャディクはアムロに近づき、片手を出した。
「アムロ・レイです。どうも」
「噂は聞いてるよ。隕石を押し返したんだって?」
「はい。でも僕の力じゃないです。父さんの作ったMSが凄かったんです」
「君のMSはなんて言うんだい?」
シャディクが興味津々に尋ねた。アムロはシャディクに何かを感じたが、口に出さなかった。それは決して表面上的なものではなく、もっと内から溢れてくる生々しいものだった。
「RX-93-ν2 〈Hi-ν〉です。ジェガンの改良型です」
アムロは生徒手帳の写真を見せながら話した。白い機体はところどころに青い装甲板を装備しており、まるで芸術品のような機体だった。
「へぇー。いい機体だね。特にここの青い部分とかいいな」
「それでデブリを押し返したんですかぁ?」
女の声が割って入ってきた。声が聞こえた方を見ると露出度の高い格好をした女性がこちらを向いていた。
「デブリじゃなくて隕石です。間違えないでください」
その女から悪意を感じたアムロはムッとして言い返した。ムッとした表情を見た女はフッと笑った。
「セセリア、新人いびりはやめろ。可哀想じゃないか」
「え〜?ただ質問しただけじゃないですかぁ〜?」
「彼女、あんなだけど、ホントはいい奴なんだ」
「勝手に言うのやめて貰えます〜?」
「今喋ったのがブリオン寮のセセリア・ドートで、隣にいるのが同じくロウジ・チャンテだ。あとあそこにいるのがペイル寮のエラン・ケレスだ」
「……どーも」
ロウジがタブレットから顔を上げてアムロに会釈するとすぐにタブレットに顔を戻した。エランは本から顔を上げてアムロを一目見たあと無言で読書を再開した。
「今はいないが、ジェターク寮で現ホルダーのグエル・ジェタークとジオニック寮のガルマ・ザビも委員を務めている。仲良くやろう」
シャディクはアムロにそう言うと席に戻っていった。シャディクが話していた間、口を閉ざしていたフィニアスが口を開いた。
「アムロ、次は格納庫を案内するよ。行こう」
「フィニアス、もう行くのかい?」
シャディクがソファーに座りながら話しかけた。
「ああ。まだアムロの案内が終わってないからな。またあとで戻る」
フィニアスはそう言うとアムロを連れてまたエレベーターに乗った。エレベーターは静かに地上へと降りていった。
格納庫までは電動スクーターを使って移動した。アムロとフィニアスは電動スクーターを飛ばして格納庫へと向かった。格納庫に着くと、アムロはノーマルスーツに着替えた。格納庫は無重量区画となっており、何人かの作業員や実習中の学生が何人かいた。
頭にブルーシートを被せられている〈Hi-ν〉が鎮座していた。アムロは鋼鉄の床を蹴り上げ、頭部まで飛び上がった。そしてブルーシートを掴んで一気に捲り上げた。黄色のブレードアンテナ、特徴的なツインアイ、黒く光る頭部バルカン砲が現れた。
「これが君のモビルスーツか。……ほんとにジェガンの改良型なのか?なんか全然違うような気がするが」
フィニアスは〈Hi-ν〉の全身を舐め回すように眺めた後呟いた。
「知りませんよ。父さんはジェガンを基に機体の構成を見直して、装甲材質の変更と火器管制システムのアップデートで無人兵器運用能力を追加したとしか聞いていません」
アムロはそう言うと、コックピット横にある手動操作システムでハッチを開けて乗り込んだ。フィニアスは背中についている大型ドローンを眺めていた。フィンファンネルと呼ばれるそれはテム博士が開発した最新の無人兵器だとしか聞いていなかった。
「アムロ、動かします」
アムロはフィニアスが離れたのを確認すると機体の固定を外すと、少し離れた所にある空のMSコンテナを目指して歩行を開始した。20mもの鉄の巨人が格納庫を歩いている様は圧巻だった。フィニアスは格納庫天井部からその様子を見ていた。
〈Hi-ν〉がMSコンテナに入った。
「よし、出てきていいぞ。あとはフロント管理者が自動でアナハイムの整備格納庫に運んでくれる」
アムロが出てくると、MSコンテナは高速でレールの上を走っていき、暗闇へと消えた。
格納庫から出てきて、電動スクーターを返却したアムロとフィニアスは今日の仕事を一通り終え、寮へと帰ろうとしていた。フィニアスと明日からの予定や授業について話し合いながら歩いているとフィニアスの端末から着信音が鳴り響いた。
「……すまん、急用ができた。1人で帰れるか?」
「はい」
フィニアスはそう言うと、踵を返して何処かへと歩いて行った。アムロはそれを見届けると1人で歩き出した。
もう夕方のようで天井モニターに表示されている空の色が変わった。空をぼんやりと眺めながら歩いていると殺気と似たような気配を感じ、振り向いた。アムロに仮面をつけた学生が走り寄ってきた。アムロは身構えた。
「アムロ、私のことが分かるか?!私だ!」
仮面をつけた男がアムロを捲し立てる。アムロは両肩をその学生に掴まれ、揺すぶられた。必死に思い出そうとするが、こんな人物は知らない。仮面はどこかで見たような記憶はあるが。
「だ、誰ですかあなた!僕は貴方みたいな怪しい人を知りませんよ!」
生徒手帳を落としてしまい、画面が割れてしまった。
「……そうか。君は持っていないのか」
「シャア!どうしたんだよ?!いきなり走り出したりなんかして!」
息を切らしながら、シャアと呼ばれた男の隣に美少年が現れた。決闘委員会のガルマ・ザビだ。ガルマはアムロを一瞥すると乱れた前髪を正してアムロに話しかけた。
「突然すまない。初対面なのに怖い思いをさせてしまったね。僕はガルマ・ザビだ。ジオニック寮の寮長をしている。こっちの仮面をつけた奴はシャア・アズナブルだ」
シャアと呼ばれた男はアムロから両手を離し、乱れた制服を整えた。
「シャア・アズナブルだ。さっきは取り乱してすまなかった。アムロくんだね?」
「そうですけど……」
アムロはそう言いながら生徒手帳を拾った。生徒手帳は電源は入るが何も表示されない。
「僕の生徒手帳壊れたんですけど……。謝ってください」
アムロはシャアを睨んだ。
「なら私と決闘をしよう。アムロくんが勝てば、私はそのことを謝罪しよう。ただし、私が勝ったら君には月に帰ってもらう」
「……いいですけど」
アムロは、シャアがただ自分と戦いたいだけなんだと感じた。彼は僕を知っている。僕は彼を全く知らない。
━━━なぜ僕と戦いたいのか?