「これより双方の合意のもと、決闘を執り行う。勝敗は通常通り、相手のモビルスーツのブレードアンテナを折ったものとする。立ち合い人はグラスレー寮寮長シャディク・ゼネリが務める」
戦術試験区画にアムロとシャアのモビルスーツを乗せたMSコンテナが現れた。MSコンテナから巨大なモビルスーツが解放され、その姿を現した。
「両者、向顔」
モニターにシャアとアムロが映し出された。
「アムロ・レイ、シャア・アズナブル、決闘の口上を」
「「勝敗はモビルスーツの性能で決まらず、操縦者の技のみで決まらず、ただ結果のみが真実」」
アムロとシャアは決闘の口上を述べ終えるとすぐに戦闘態勢に入った。
「
「行け、ファンネル!」
決闘の開始と同時に〈Hi-ν〉の背中に装備されていたファンネルラックからフィンファンネルが射出された。アムロはファンネルを操作しながら前進した。シャアの〈ナイチンゲール〉もスラスターを吹かして前進した。
「そこっ!」
アムロはビームライフルを発射した。銃口から伸びる緑色の光線が〈ナイチンゲール〉に向かっていく。〈ナイチンゲール〉はそれをひらりと躱し、大型ビームライフルをアムロに向けた。射撃を牽制するためにアムロはフィンファンネルを操作して〈ナイチンゲール〉に何本もの光線を浴びせた。
「さすがアムロだ。だがアクシズの時とは違う!」
シャアはファンネル攻撃を全て躱して、ビームライフルから光線を放った。アムロはそれが分かっていたかのようにその光線をシールドで防いだ。光線は何本かに分裂して壁に当たった。分裂したビームは特殊加工が施された壁に吸収され、粒子となって無害化された。
シャアはアムロがシールドを構えた一瞬の隙に動きが
甘くなったファンネル1機を機関砲で撃墜した。ファンネルが爆発し、暗い戦術試験区域を赤い光が照らした。その光が向き合っている〈Hi-ν〉と〈ナイチンゲール〉の輪郭を強調した。
「やはりニュータイプ能力はこの世界でも健在か!この世界にお前はいちゃいけない!元の世界に帰れ!アムロ!」
コックピットで1人シャアが叫んだ。その叫びは離れた所にいるアムロに聞こえるはずもないのにアムロはシャアの強い思念を感じた。その思念は眠っていたアムロの闘争心を呼び覚ますのに十分なものだった。
「シャア!」
アムロは射撃モードを切り替え、ビームライフルとビームバルカンを乱射しながらシャアに接近した。シャアはアムロの突撃を牽制するために、初めてファンネルを使った。射出されたファンネルがアムロに近づいてくる。
「ファンネルか!」
アムロはバルカンで何機かのファンネルを撃墜し、シールドで光線を防いだ。爆煙と土煙で視界が悪くなり、〈ナイチンゲール〉と〈Hi-ν〉はその中に消えた。
「行け!2.5倍!」「俺は全額アムロにベットしてる!頑張れアムロ!」
学園内の全生徒がその戦いに注目していた。地球寮の生徒も例外ではなく、スペーシアン同士の激しい戦いぶりを見ていた。現ホルダーのスレッタ・マーキュリーもその決闘を見ていた。
アムロの駆る〈エアリアル〉にどことなく似ている機体は〈エアリアル〉と同じようにGUNビットのような武器を装備し、アムロもシャアはそれを使いこなしていた。
「す、凄いです。あの赤い人の機体も凄いですけど、アムロさんも凄いです……!」
スレッタは集中してアムロの〈Hi-ν〉の動きを学んでいた。シャアの〈ナイチンゲール〉が煙の中で踠いている。つまらさそうな表情を浮かべたミオリネはその決闘を固唾を飲みながら見ているスレッタを見ていた。
「……あんたさ、こんな子が好きなの?」
ミオリネはスレッタに問いかけた。スレッタが画面から目を離して慌ててミオリネの方を向いた。
「い、いえ!違います!私はただ、……ただ、アムロさんのこの動きをよく見て学びなさいってお母さんが……」
「……ふーん」
ミオリネは机に頬杖をつきながら脚を組み替えた。
━━━スレッタの関心は今はアムロというルナリアンの学生に向いているようだ。私ではない。
ミオリネは少し不機嫌になった。
「温室に行ってるから」
ミオリネはそうスレッタに告げると席を立って地球寮を出た。
「どこだ!ええい!見えん!」
シャアは必死に殺気を感じようとするが全く感じられ
ない。ファンネルで辺りを薙ぎ払うが命中していない。ただ闇雲にエネルギーを消費しているだけだった。
「シャア、落ち着け!いつもの勢いで行くんだ!」
学園艦にいるガルマから通信が入った。ガルマも少し焦っているようでいつもの笑顔はなかった。
━━━アムロのことになるといつもこうだ。
「そうしよう」
シャアは高まる自分の感情を抑えた。全感覚を集中し、アムロの気配を探る。サイコフレームを伝って過去の意思、記憶、この決闘を見ている誰かの思念が流れ込んでくる。心拍数が上がり、汗が噴き出てくる。
「上か!」
上を向くと空高くにファンネルラックに全てのファンネルを積んだ〈Hi-ν〉が浮かんでいた。いや、自由落下してきていた。
「バカな!こんな短時間でそこまで飛んだというのか!」
マイクロミサイルを射出し、アムロを迎撃するがアムロはビームサーベルとバルカンでそれらを薙ぎ払った。シャアもビームサーベルを抜いて飛び上がった。アムロはビームサーベルで〈ナイチンゲール〉のブレードアンテナを切断しようとしたがシャアはそれを先読みし、仰け反らせた。アムロのビームサーベルは何もない空間を横切った。その隙にシャアは〈Hi-ν〉の足にビームサーベルを食い込ませ、その勢いのまま右足を切断した。右足を切断されたアムロはスラスターを吹かして再び飛び上がった。シャアもそれを追う。
しかしシャアの脳に稲妻が走り、ビームサーベルを捨て、アムロから距離を取ろうとした。アムロの殺気がシャアを襲って、シャアは判断を間違えてしまった。
「しまった!ファンネルか!」
反射的に距離を取ってしまったが、それがアムロの狙いだったのだ。アムロはファンネルを全て回収したように見せかけて、1機だけ残していたのだ。
ファンネルから緑色の光線が照射され、〈ナイチンゲール〉のブレードアンテナを焼き切った。アムロの殺気に押されたシャアはどうすることも出来なかった。ブレードアンテナを失った〈ナイチンゲール〉と右足を失った〈Hi-ν〉はゆっくりと地面に降り立った。
「ハハハハ!さすがアムロだ!これだ私が求めていたのは!」
アムロが〈Hi-ν〉のコックピットから出てきた。警戒しながらこちらに歩んできている。シャアも〈ナイチンゲール〉を降りた。
「アムロくん、おめでとう君の勝ちだ」
シャアは笑顔でアムロを出迎えた。その表情には余裕すらあり、まるで負けたようには見えなかった。
「……勝ちましたよ。僕に謝ってください」
「ああ。君の生徒手帳を壊してしまい申し訳ない。すまなかった」
シャアは深々とアムロに頭を下げた。