コウとキースは長かった座学を終え、カフェテリアに来ていた。この時間のカフェテリアは当たり前のことだが、昼食を食べる学生でごった返していた。2人は談笑しながらトレイを持って列に並んだ。
「腹減ったなぁ」
コウがお腹をさすりながら言った。
「お前、授業中から腹鳴ってたもんな。多分あの講義室に居た全員に聞こえてたと思うぜ」
キースが笑いながらコウに言った。
「それはやだなぁ。おっ、今日はラーヌードルか。げっ、人参乗ってる……。なんで人参を乗せるんだよ。絶対合わないだろ」
コウは人参が入らないようにラーヌードルをトレイに入れた。コウの人参嫌いは有名でアナハイム寮では全員が知っている。
「お前ほんとに人参嫌いだよな。なんでそんなに嫌いなんだよ。人参美味いのに」
キースはそう言いながら、気にせずにラーヌードルをトレイに乗せた。コウはソーセージを乗せるかローストビーフを乗せるかで迷っていた。そんなコウを見ながらキースは一瞬自分の人参をコウのトレイに乗せてやろうかと考えたが、コウが突然振り返ってきたので辞めた。
「よし決めた!俺ソーセージにする!」
コウは自分のソーセージが乗ったトレイを見て満足した様子だった。
「じゃあ俺はローストビーフにしようかな」
キースはトレイにローストビーフを4枚乗せ、塩胡椒を塗した。ローストビーフと塩胡椒が混ざり合った良い香りが漂ってくる。
2人はその後、サラダバーでサラダを盛り、ミルクパックを受け取って席を探した。2人はキョロキョロしながらカフェテリアを彷徨った。
「あそこ空いてるぜ」
先に見つけたのはコウだった。コウとキースはトレイを机に置き、席についた。隣では地球寮の学生たちがライスを食べていた。
「アムロさんがまた決闘で勝ったってよ」
キースがローストビーフを食べながらコウに学生手帳を見せた。学生手帳の画面にアムロと〈Hi-ν〉の顔写真が表示され、その上には「WINNER」と書かれていた。
「誰と戦ったんだ?」
コウがラーヌードルを啜りながらキースに尋ねた。
「啜りながら喋るな。相手はブリオン寮のヴェン・シミって奴だな。だから今日は居なかったのか」
コウはあまりその名に聞き覚えがなかった。
「誰だっけ?」
「ほらいつも講義の前に騒いでる奴だよ。エリートだなんだーって言ってさ」
「ああ、あいつか」
コウはやっとヴェンのことを思い出した。彼はコウやキースと同じ1年のパイロット科の学生だ。よく講義が始まる前につまらないギャグを披露したり、意味もなく同級生に無謀な決闘を申し込んだりするような奴だ。
「来週から静かになってくれるといいな」
コウは余り興味がなさそうな表情でそう言うと、またラーヌードルを啜った。
━━━美味しい。こんなに美味い物に人参を乗せるやつの神経が分からない。
「ちょっと、そこどいて。いつもあたしらが使ってる席なんだけど」
ソーセージを食べようとしていたコウが顔を上げると席の隣に2人の女子学生が立っていた。目線を見るとこちらに言っているのではなく、隣の席で食事をとっていた地球寮の学生に言っているらしかった。キースもコウと同じように女子学生を見ていた。
「んだとてめぇら!ここはあーしらが先に取ってたんだよ!」
ピンク髪の学生が席を立ち、女子学生2人に大声で抗議した。同期のチュアチュリー・パンランチだ。彼女は拳をあげて戦闘体制を取っていた。
「そうだよ。やめろよ」
コウも席から立ち上がり、女子学生を睨みつけた。女子学生たちはチュチュはともかく、同じスペーシアンであるコウから抗議されるとは思っていなかったのか少し後退りした。
「ウラキ!お前は関係ねぇだろ!引っ込んでろ!やろーぶん殴ってやる!」
「こらチュチュ!やめなって」「そ、そうだよ!チュチュ!別のところに行こう!」
殴りかかろうとしているチュチュを青いインナーカラーの女子学生と青い瞳の特徴のない学生が必死に押さえていた。
「そうだぜ。先に座ってたのは地球寮の奴らだ。そもそもここは自由席だろ。お前らのルールを押し付けんな」
キースもコウに遅れて席を立ち、彼女たちに抗議した。アーシアンに強気な彼女たちでもビッグ5の一員であるアナハイム寮の学生にはあまり強気に出る事はできない。
「こいつらアナハイム寮の奴らじゃん……なんでアーシアンの味方すんの……」「えっ、キモ……。行こう」
女子学生2人は悪態を吐きながらトレイを持ってどこかに立ち去った。それをコウとキースは静かに眺めていた。
「チッ。あいつらぶん殴ってやろうと思ったのに……。別にあーしはお前らに助けてなんて言ってないからな」
「チュチュがそう言わないのなんて知ってるさ」
「ふんっ」
席を立っていたチュチュ、コウ、キースは再び席につき、食事を再開した。キースは少しズレたサングラスを直して、冷めたローストビーフを食べた。コウはラーヌードルにフォークを刺して口に運んだが、少し伸びていた。味もさっきと少し違う。コウは小さくため息を吐いた。
「あの、さっきは助けていただいてありがとうございました」
青いインナーカラーの女子学生がコウたちに礼を述べた。透き通るような青い目がコウを見つめていた。
「いやいや、当たり前のことをしただけですよ。なあキース」
「そうだぜ。俺たちアナハイム寮は困っている人がいたら助けるってのがモットーだからな」
キースはそう言うと、またサングラスを掛け直してニカに笑顔を送った。
「自己紹介が遅れたけど、メカニック科2年のニカ・ナナウラです。よろしくね」
「僕は経営戦略科3年のマルタン・アップモントです。地球寮で寮長をしてます。さっきは助けてくれてありがとう。よろしく」
マルタンが席を立ってコウのところにやってきた。
「俺はパイロット科1年のコウ・ウラキです!ついでにこっちにいるのがチャック・キースで、俺の親友です」
「ついで呼ばわりかよ……」
コウについで呼ばわりされたキースが苦笑しながらマルタンに少し頭を下げた。
「チュチュはしないの?」
ニカが不貞腐れながらミルクを飲んでいるチュチュに話しかけた。
「チュチュのことなら知ってますよ。同じパイロット科なんで」
「うっせー。あーしの友達ズラすんなし」
打ち解けたアナハイム寮のパイロット2人と地球寮の学生3人はカフェテリアで食事を一緒にした後、連絡先を交換した後、モノレールで地球寮に移動した。
「ここが地球寮か」
コウとキースは初めて地球寮にやって来た。地球寮はアナハイム寮と比べるとボロく、年季が入っていた。彼らはチュチュたちを助けたお礼に〈エアリアル〉を見せて貰えることになったのだ。
ニカに連れられてコウとキースが中に入って行った。寮の中にあるMSの整備区画にはチュチュの〈デミトレーナー〉や噂になっている〈エアリアル〉が置いてあった。