「先輩!聞いてくださいよ!」「私たちがカフェテリアでいつも使ってる席に座ろうとしたらアーシアンの奴らが退かずに抵抗してきたんですよ!しかもアナハイムの奴らも一緒になって……」
ハンマー・フィールド寮の談話室で寛いでいたパーカー・イーストコットと弟のジェフリーは突然駆け込んできた女子学生の話を聞ききながら、互いの顔を見た。
「これうちの寮、舐められてるよな?」
パーカーが弟のジェフリーに問いかけた。
「完全に舐められてる。ルナリアンはもとかくアーシアンに舐められるのは心外だな。あいつらをやっちまおうぜ兄貴」
「やってやるか。ちょうどグエルにぶっ壊された俺のカペル・クゥの修理も終わったしビッグ5に一泡吹かせてやる!」
パーカーは前回の決闘でグエルに完敗し、全く意味が分からない虫の言葉で謝罪させられてから何度か決闘を行い、全てに勝ってきた。彼は勝つたびにグエルへの復讐心を募らせていき、グエルが負けた時に一番大喜びしたであろう男だ。
「そいつらどこに行ったんだ?」
「地球寮に行くとか言ってました!スペーシアンでもあるルナリアンがアーシアンなんかと仲良くするなんて気持ち悪いです!あいつらに分からせてやって下さい!」
「任せろ」
パーカーはジェフリーを引き連れてソファーから立ち上がり、地球寮へと向かった。
一方その頃、コウとキースは整備の為に取り外された〈エアリアル〉のガンビットを見ていた。コウは目を輝かせながらガンビットの装甲板やノズル付近を見ていた。
「ここには何が入ってるんですか?」
コウは棺桶のような形をした部分を指差しながらニカに尋ねた。
「えっとそこは……ガンビットの姿勢制御とか群体制御用のデータリンクシステムが組み込まれているらしいんですよ。だからそこはブラックボックス化されていてそこが壊れたら水星の本社に送らないと修理できないんです」
ニカはエアリアルの整備用マニュアルがインストールされたタブレットに一瞬目を落としたあと、コウにそう伝えた。
「凄いな。こんなに高度なシステムを全部のガンビットに載せてるなんて」
コウは顔を上げ、エアリアルを見上げた。ガンダムタイプのモビルスーツは何度か映像で見たことがあったが、実際に見るのは初めてだった。曲線が多用されている外観は戦闘用には見えないが、美しく凛とした雰囲気を醸し出している。とてもではないがこんな機体が操縦者の命を奪うとは思えなかった。
「あぁ、始まったぜ」
キースが頭を抱えた。
「え?」
「コイツね、夢中になったら周りが見えなくなって自分の世界に入っちまって。んで、気になった事は片っ端から質問する」
キースはよくわかっていない様子のニカに説明した。チュチュは講義で何度もコウのその様子を見ているため、無言でソファに座っていた。
「へぇ〜。私もそういう事あるよ。講義のこととか分からないことあったら聞いてね」
ニカはキースの方を向いてニコッと笑った。
「じゃ、じゃあ!今度カフェテリアでお茶でもしながら……」
キースもコウと同じように目を輝かせた。
「おいキース!ニカ姉に手だすんじゃねぇ!」
チュチュは厳しい眼差しをキースに向けた。ニカは苦笑いしながらそっと頷いた。
「怒るなよチュチュ。勉強を教えてもらうだけだって」
「ウラキに教えてもらえよ!」
チュチュがコウを指差しながら言った。そこに白い制服を着たスレッタ・マーキュリーが転がり込んできた。
「チュチュさん!大変です!パーカーって人たちが決闘したい、って!」
「は?」
「チュチュさんたちと決闘したいって!表で待ってるので来てください!」
スレッタはチュチュに駆け寄ると彼女の右手を掴んで表へ出ていった。
「俺たちも行こうぜ。コウ?」
キースがコウの肩を優しく叩いた。
「ん」
キースもコウを連れて外へ出て行った。外でチュチュがパーカー・イースコットと弟のジェフリーと睨み合いをしていた。チュチュを連れ出したスレッタは少し離れたところでおどおどしていた。
「アナハイム寮のやつらもいるだろ?……お前らか?」
パーカーがコウとキースを睨みつけた。コウとキースもそれに負けじと睨み返す。
「うちの寮の後輩がカフェテリアでお前らに席を取られたって言ってんだ。だから俺たちと決闘しろ。俺たちが勝てば地球寮とお前らアナハイムの2人はカフェテリアの使用禁止だ」
遅れて出てきたニカとマルタンが目を丸くして驚いた。
「どうする?コウ」
キースがコウに尋ねた。キースの顔はどうするか迷っているような顔ではなくやる気満々の表情だった。
「やるさ。そうだろ?チュチュ」
コウも笑いながらチュチュの方を見た
「やってやんよ!お前ら覚悟しろ!」
決闘委員会ラウンジ
一足先に決闘委員会ラウンジに来るようエランに伝えられたスレッタがエレベーターを降りるとそこにはエランとシャディクがいた。
「この決闘の立ち合い人、君にやって欲しいんだ」
「えぇ?!私がやるんですか?!」
スレッタが驚きの声を上げた。
「そう。ホルダーは決闘委員会の一員になるのがルール。だから君には今日の決闘の立ち合い人になってほしい」
エランは抑揚をつけずに無表情でスレッタに告げる。
「いや、でも、私じゃなくて他の人でもいいんじゃ……?シャディクさんもいますし……」
スレッタの言葉を遮るようにエランは言葉を重ねる。スレッタは助けを仰ぐようにシャディクの方を見るが、彼は何も喋らずに2人を笑顔で見つめていた。
「これは、君にしか頼めない事なんだ」
エランはスレッタに近寄った。スレッタは顔を紅潮させ、エランから目を逸らした。
「わ、私にしかできないこと……!……やります、やります!」
スレッタは少し迷ったあと声を大きくして答えた。
「頑張ってね、水星ちゃん。決闘の立ち合い人なんて簡単さ。ただ立って見てるだけでいいからね」