シンフォギア装者が耳かきをする話   作:旭流盤

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クリスちゃんが耳かきをする話

ある日、雪音クリスは本部の廊下を歩いていた。

取り立て用事もない昼下がり、共有スペースでのんびりカウチポテトでもしゃれこもうかと思っていれば。

「ん?……先客か?」

入り口からひょいと中を覗くとソファの背もたれ越しに見える黒髪と白いリボンの後ろ姿。

(未来……一人で本部にいるのはちょいと珍しいな)

ひと声かけようかと近づくが気付く気配は一向にない。

後ろから近づくクリスからは少しうつむき気味の体勢で表情は伺えない。

(ん?寝てるのか?でもなんか細かく動いてる?何やってんだ?)

 

「あ……響、動いちゃダメ……ほらココ?……ふふっ痛くない?」

「んんうぅ……みくぅ、でも、あぅ……あっソコ……うん……気持ち、いいよぉ」

 

近づいたために聞こえてきた二人分の声に思わず足を止める、静かにうろたえるクリス。

(はぁ!?何やってんだ!?ナニを!?嘘だろ!!??でもコイツラなら!?流石に、いやまさか)

 

クリスの位置からはソファの背もたれに隠れた小日向未来の後頭部しか見えない。

しかし聞こえてきた声からもう一人、立花響の存在は間違いない。

つまり現在、立花響はソファの背もたれで隠れてしまうような体勢でそこにいることになる。

(う、うろたえるな!あたしは解決うさづきん!プロの防人はうろたえないッ)

 

「最近してなかったもんね……ちょっと溜まってる?……もうちょっと奥までいれるね……痛くない?」

「うん……忙しかったし……やっぱり未来に……んっ、してほしいから……大丈夫……」

 

(そっか忙しかったもんな、久しぶりに二人でゆっくりしてたらしっとりしてきちゃったのかぁ。いやいやいや、落ち着け冷静になれ)

 

どう考えてもそんなわけがない。ないったらない。

しかし、万が一、百に一つ、そんなわけがあってしまった時のためにクリスは静かに後退りする。

入り口まで戻り、そこから自然に声をかける。

十中八九、大丈夫だ。

もし未来が慌てたり汗ばんだりしてても気にしてはいけない。

もし響が其処に居ないことになっても最初から今まで居なかったので気のせいだ。

 

 

「「……あっ」」

目が、合ってしまった。

視線を感じたのか、偶然か、ふと顔を上げて振り向いた未来とバッチリと目線があってしまった。

「クリス?」

「よよ、よぉ、めずらしいな、あああ、あのバカは一緒じゃないのか?」

振り返った肩越しに見える未来は取り立て変わった様子見受けられない。

「クリスちゃん?わたしならここにいるよー」

 

よっと、腹筋の要領で体を起こした響がソファの背もたれから顔を出した。

未来と響の位置関係から、ソファに座った未来に響が膝枕されていたようだ。

 

「あ、ああ、なんだ、居たのかぁ。見えなかったから気づかなかったぞ、うん」

「クリス、なんだか棒読みじゃない?どうかしたの?」

 

そして二人とも服は着ている。やはり大丈夫だった。

大切な事なのでもう一度確認するが二人とも服を着ている。

 

「気にすんな。マジで気にしないでおいてくれ。

それより、お邪魔だったか?」

「ううん、ちょうど終わってもう片方に移るところだったから」

言いながら未来がその手に持っている物をみせる。

それは細く短い木の棒だった。片側が小さいスプーンのように削り加工されていて、もう片側に白いフワフワ。

つまり……

 

「……耳かき、だったのか」

「いやぁ〜、未来が上手なのもそうなんだけど自分でやると上手く出来なく……って、どうしたのクリスちゃん!?

いきなり座り込んでお腹へった?」

「そこで腹減ったってでるのがさすがお前だよ」

 

気が抜けたやら恥ずかしいやらで思わずその場にへたり込んでしまった。

 

「とりあえずクリスも座ったら?

こっちのソファーは響が寝転がって専有しちゃってるけど他は空いてるし」

 

さり気なく耳かき続行を示唆しながら、別のソファーを未来が促す。

そこで、そもそもココに自分がなんの目的で来たのかクリスは思い出した。

 

(そーいや、あたしもソファーでのんびりしようと思ってたんだっけ)

 

まぁいつまでもへたり込んでいても仕方がない、と立ち上がる。

 

(待てよ?

このままだとあたしがソファーでスマホ片手にくつろぐ横でこの二人はさっきのを再開するんだよな?)

はたしてそんな状況でスマホで動画を見ながらカウチポテトなんて楽しめるか?

 

(あー、ムリ。絶対に気になる。

でも、一応はヘンな事してるわけでもないし止めろとはいえない。

じゃ、諦めてあたしが場所移すか?ってのもなんか嫌だ。

あたしだって別に勘違いはしたけど悪いことをしたわけじゃない。

すごすごと逃げるような事してたまるかってんだ)

 

勘違いではあれど慌てふためいたことに対する反発心と羞恥心がクリス生来のの負けん気と合わさり奇妙な対抗意識となっていた。

 

つまりクリスの心情としては

(あたし一人で驚いて、慌てて、恥ずかしがって、そんで逃げ帰るのはなんか負けた気分になるから嫌だ)

ということになった。

 

ではどうしようかと思案する。

これから始まる耳かきというなのをラブコメをじっくり観察してやろうか。

いや、二人は全く気にしないだろうし、なんなら観ている自分のほうがダメージが大きい気がする。

軽くイタズラでも仕掛けようか。

いいイタズラの案が思い浮かばない。あと耳かき中にちょっかいを出すのは普通に危ない。

 

じゃあ、どうしようか。

 

(……怖い話やお化け屋敷は怖がらせる側に回ると怖くないっていうよな。

ならあえて、当事者になってみるのがいいんじゃないか?)

 

つい先程味わった状況を見る側から見せる側に回る。

これはなかなかに妙案ではないか、クリスは考えた。

 

「なぁ、さっき片方終わってもう片方って言ってたよな?」

「えっ?うん、そうだけど……どうかしたの?」

 

ソファーに座る二人に歩み寄りながら提案する。

 

「そのもう片方あたしにやらせてみてくれねーか?」

「クリスちゃんが耳掃除してくれるの?」

「別に構わないけど……どうして急に?」

 

企みという程の事でもなく、単純になんとなく程度のことでしかない。

そうそう意固地に断るようなことでもないだろう。

 

「まーそれは、あれだ、なんというか人がやってるの見ると自分もやりたくなるだろ?」

「そ、そうかなぁ?私は響が良ければいいけど……」

「私もいいよ?えへへ、クリスちゃんお願いね?」

 

「よぉし、まかしとけってんだ」

 

未来が立ち上がり、代わりにソファーにかけるクリス。

さあ来いとばかりに、その太ももをぽんぽんとたたく。

 

「えへへクリスちゃんの膝枕って初めてかも」

「バカなこと言ってんじゃねぇよ」

 

クリスの膝枕に耳を上にして体をあずける響。

未来から借りた耳かきを構え、クリスはビシリと硬直する。

「……?どうしたのクリスちゃん?」

「いや、ちょっと待て……」

 

もぞもぞと体勢を変えたり上体を動かしたりとしているが一向に響の耳に耳かきは一向に入ってこない。

 

「え?なに?どうしたの?クリスちゃん?」

「待てって、すぐ、始めるか、らっとぉ……」

 

もぞもぞ、ぐぐっ、よっ

 

何かクリスが苦心していることだけは伝わるが状況は全くわからない。

 

「クリスちゃん?どうしたの?ねぇ未来?いまどうなってるの?」

「あー、うん。その……響、仰向けになってみるとわかると思うよ?」

 

片端で苦笑とともに眺めてた親友に助けを求める響。

 

「あおむけ?

よいしょっと……お、おおぅ、これは……」

 

響がクリスの膝枕の上で仰向けになると、そこには……何も見えなかった。

クリスのあまりにご立派な胸が視界を遮り、クリスの顔どころか天井すら視界に入らない。

完全に視界が塞がれている。

 

「これは、確かにムリかもだね」

「ちっくしょ~~」

 

雪音クリスはバストサイズにおいてSONGUにおいて最上位に位置するほどに豊満である。

そのくせ身長では下から数えたほうがはやいほど小柄である。

つまりどういう事になるかというと、坐高が小さい事と胸が大きい事で膝枕した相手の耳が死角になってしまうのだ。

 

「えっと、代わろうか?クリス」

 

あまりといえばあまりな状況に未来が提案する。

 

「いーや、待て、まだだ。ここはアレだ先輩に倣って心眼で捉えるのだ、ってやつだ」

「クリスちゃん!?ちょちょ待って待ってぇ~~」

 

わたわたとクリスの膝枕から脱出する響。

そのまま傍らの未来の後ろにクリスへの盾とするように回り込む。

 

「助けて未来ー、クリスちゃんから私の鼓膜を守ってー」

「あ、逃げんじゃねーよ。だいじょーぶだって」

 

ほら来いと手招きしても響は未来の後ろで首をブンブン振るだけで動こうとしない。

まだ始まってもいないのに早くも頓挫しそうな状況である。

 

「しょうがねーなー、んじゃぁこうゆう感じでどうだ?

未来ちょっと協力してくれるか?」

「いいけど…普通に私が耳かきするのはダメなの?」

 

それはなんか負けた気分になるからヤダ、とわがままに巻き込むことにした。

 

 

 

「そんなわけで完成した陣形がこちらになります」

「ねぇクリス、改めて言うけど普通に私が耳かきするのはダメなの?」

「改めて言うなよここまでやったンだから」

 

ソファーに腰かけた未来に膝枕された響の頭の前付近にクリスが膝立ちで覗き込んでいる。

クリスから耳穴が見やすいよう響は少し頭を斜めに傾けている。

 

「ようやく耳かきができる状態にこぎつけたんだ、おとなしくやられとけ。

もし痛かったりしたらそのまま未来に交代すっからすぐ言えよな」

「はーい、クリスちゃん優しくしてね?」

「おう、まかせとけって。未来もなんか気になるとことかあったら教えてくれよ」

「うん、わかった」

 

まずは耳のマッサージから、耳たぶや外耳をぐにぐにと指で揉み解す。

血行を良くすることで耳掃除がしやすくなるし、リラックスなんかの単純なマッサージ効果もある。

 

くにくに……

むにゅむにゅ……

ぐっぐっ……

 

「よーし、マッサージはこれくらいにして外の方から耳かきしてくぞ」

「ふぁーい、これだけでも結構気持ちいい……」

 

外耳のデコボコにそって耳かき棒を優しく動かしていく。

見えない裏側のところも丁寧に、こぼれて奥に落とさないように慎重に……。

 

ざり…ざり…

かりり…かりり…

 

「クリス、とれたのはそこのティッシュを使って?」

「ああ、ありがとな未来。とった後を考えてなかった」

「どういたしまして。響は痛くない?」

「うん。えへへ…今日のクリスちゃん優しい…」

 

かりかり…

ずずっ…ざり…

 

「外側はこんなもんか」

「うん。中の方は穴の周りの壁に張り付くように溜まってると思うから、剥しながらとる感じでね」

 

耳の形というものは意外に個人差が大きい。

外見でも耳の形は個人の識別が出来てしまうこともあるほどだが、耳の内部もまた個人差がある。

耳の穴の大きさ、長さ、曲がり方など様々である。

ミュージシャンがライブ会場でも聞こえるイヤホーンのために自身の耳穴の型取りをしてオーダーメイドするほどなのだ。

 

かりかりかり……

ぐっ…かりり…ぺり…ぺり…

 

張り付く耳垢を端から浮かせる様に、耳かきでひっかいてゆく。

丁寧にまずは最初の隙間を作り、だんだんと壁面から耳垢を剥離させる。

 

ぐぐ…ざり…ざり…

かりり…ざり…ずずず…ぺりり…

 

「おっ、いい感じに剝れてきた。こっから一気に行くぞ」

「うん……へいき…へっちゃら……んんっ」

 

ずっ…ずっ…

かりかり…ぺり…ぺりぺり…

 

作った隙間に耳かきの先端を入れ、少しず剥すように耳垢をとっていく。

痛くないよう丁寧に優しく、耳垢が半端に残らないよう耳かきを動かしていく。

 

ぺり…べり…ぐぐぐ…べりべり…

ずずず…ぐり…ずりずり…

 

「おー、けっこうでけぇのがとれたな。」

「きれいにとれたね。まだありそう?」

 

オブラートのような薄く膜状の耳垢が耳穴から引きずり出される。

内部の周辺に薄く広く付いていた物を一息にとることが出来たらしい。

残りは、小さな欠片だけでさっと掻き出してしまえそうだ。

 

かりかり…

すっ…すっ…

さりさり…

 

後から痒くなったりしないように、小さく残った耳垢も丁寧に搔き出す。

 

「じゃ、最後にこのフワフワで…」

 

耳かきの反対側白いフワフワこと梵天で最後の仕上げ。

 

ふわふわっ…

ずっ…すっ…

くるり…くるり…

 

「よし。どーよ?なかなか上手くできただろ」

「うん。すごく上手だったとお思うよ。響もこんな感じだし気持ち良かったんじゃないかな」

 

うん?と思い響を見ると、未来の膝枕でスヤスヤと寝息を立てていた。

 

「そういやぁ途中から反応が無かったな、コイツ」

「ふふふ、響の感想を聞くのはまた今度だね」

「どこまで覚えてるかは疑問だけどな」

 

二人は笑い合いながら響の寝顔を眺めるのだった。

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