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それでは本編スタート!
「また目覚めてしまった。」
何もかも嘘であって欲しかった。黒く焼け落ち無惨な姿になった我が家を尻目にそう呟いてしまった。家は完全に崩壊しており、原形は失われている。わずかに残った黒ずんだ建材の破片と灰のみが、ここに俺の城が在った事を伝えている。またそれこそが、あの竜の暴威が如何に生物として常軌を逸しているのかを示している。この島には俺の想像を絶する程、この世の神秘や謎が満ち溢れているようだ。しかし、それは俺の様なひ弱な人間にとっては神秘と呼ぶには余りにも強大で、どうしようもない位に理不尽な存在だ。俺は太古の人々が抱き、現代では失われた自然や世界への畏敬の念を理解してしまった。否、理解させられたというべきなのだろうか。
俺は「前の俺」が死んだであろう場所に目をやる。俺の死体は全身のほとんどが黒焦げになっており、凡そこれが人間であったとは到底信じられない有様だ。だが、俺は最初に自分の死体を見た時よりも幾分か平静を保っているように感じる。死んでから蘇るという一連の流れに慣れ始めてしまったのかも知れない。俺はそんな自分が恐ろしくて堪らない。俺は人間として、生命として大切な観念が失われつつある自分が怖いんだ。きっとこれを何の躊躇いも違和感もなく受け入れる様になってしまえば、俺は真の意味における人ではなくなってしまう。これ以上はいけない。俺の中にある理性が、本能さえもがそう警告してくる気がした。
俺は死体に近付いてから、左手に埋め込まれたひし形が緑色の光を放っている事に気が付いた。このままでは煩わしいので何とか消せないか試してみよう。とは言っても、どうしたら良いのかなど皆目見当も付かないので、適当にスイッチを扱う要領で中心付近を押してみる。すると、ひし形を光源として、俺の眼前にゲームのステータス画面を想起させるホログラムが現れた。俺は映画の中でしか見た事の無い様なオーバーテクノロジーに驚きが隠せなかった。理解が追いつかない。この島に最初に来た時にこのひし形を触っていたが、その時はこんな機能は確認できなかった。それ故、俺は何かの見間違えだと思い、ひし形の中心をもう一度押してみる。そうすると、ひし形の光は収まり、ホログラムも消えた。さらにもう一回押してみる。今度は、再びホログラムが現れた。こんな何が出るとも知れない危険地帯で悠長にしている暇など無いというのは重々承知しているが、これを見ればこの島のことや俺がここにいる理由なんかも分かるかも知れない。そして、俺はホログラムの画面に目を向けたのだった。
ホログラムには「インベントリ」と見出しらしき文字が書かれている。画面の構成はパソコンのスタート画面を彷彿とさせるものだった。画面に映っている項目の中で、最初に目に映ったのは腕に埋め込まれたオブジェクトと同じ形をしたアイコンだ。どうやらこのホログラムの任意の場所をタップすると、それに応じて画面が切り替わるようだ。スマートフォンを操作するのと同じ要領で操作ができる。ユーザーインターフェースは無駄に凝っているようだ。実体のない光に触れて動作するなんて今まで見た事の無い程先進的な技術のように思える。取り敢えず「検体インプラント」と書かれた件のアイコンを押してみる。すると、ひし形のオブジェクトのモデルが画面に表示され、数行の文字列が表示された。そこには、
種族:ホモ・サピエンス・サピエンス
サンプル名:桃園裕太
性別:Male
生存率:不明」
と書かれていた。俺は絶句した。サンプル名。この書き方だとまるで俺は実験動物の様ではないか。俺は何処かの実験施設にでも放り込まれたとでも言うのか?今にして思えば、初日に謎の飛行物体が空から降って来た時点でその可能性を視野に入れるべきだった。あの時の俺はもっと冷静にならなければならなかった。だが、いずれにせよこんな非人道的な実験は現代では絶対に許されるはずがない。本人の同意も無いままに、命の危険がある場所に送るなどあってはならない。うちの大学ではそんな非合法な研究が行われていたのか?仮にも国家機関であるはずなのに。俺はこの島に来る前の記憶を必死に手繰り寄せる。しかし、思い出せるのは目覚める前に受けていた授業の事までで、ここに来るまでの経緯や道中の事などは何一つ覚えていない。まるでそこだけ、不自然に抜け落ちたかのように。これ以上答えの出ない思考を続けても仕方がない。一先ずは、まだ画面上に操作できそうな項目がいくつかあるので、そちらを確かめるのが先決だろう。取り敢えずは、左手のオブジェクトの名前が知られただけでも良しとしよう。
さらに操作を続けていくと画面右上に、「Tribe Log」という項目を見つけた。部族のログとは一体何なのだろうか?俺は分からないので、取り敢えずアクセスしてみる。するとそこには、俺の死亡した日付と俺を殺した生物の名が記録されていた。日付の数値に関しては、明らかに俺がこの島に来てからの日数と一致している。恐らく、最初から俺の行動は全て第三者から見られていたのかも知れない。その事実に俺は身の毛がよだつ感覚を覚えた。ログを順番に読んでいくと、俺を殺した生物たちの名前を知ることが出来た。最初に殺された巨大昆虫は「ブナハブラ」、青い肉食恐竜は「ランポス」、そしてあの火を吐く竜は「リオレイア」と言うらしい。いずれも見た事も聞いたことも無い。しかし、俺が思うにこの情報で重要なのは、「生物の名前」ではない。むしろ、「生物に名前があった」という事項だ。それはつまり、あいつらは新種の生物ではなく、ましてや誰も知らない御伽噺の中の存在でもない。誰かが既に発見しているのだ。したがって、この島には人間が上陸したことがあると言える。いや、それはかなり楽観的な推測だろう。俺の生死に関するログが残されているという点も考慮すると、俺だけではなく、この島自体が何者かの監視下、もしくは管理下にある可能性が非常に濃厚だ。さらにはその連中が今も出入りしている可能性だってあり得る。見え隠れする狂気に俺は心の底から震え上がった。世間に公表されていないテクノロジーを使って、これまた秘匿された巨大生物の住まう島に人間を送り、管理する。これが物語や陰謀論の中ではなく、現実で行われているという点がとち狂っている。何のために行っているのかなど俺には想像もつかないが、これだけは言える。これを考えた奴は頭がイカれている。碌でもないマッドサイエンティストが!どんな事情があれど、一人の人間をマウスの様に扱うなど到底許される行為ではないだろう!
情報過多で俺の脳みそはもうパンク寸前だが、インベントリを最後まで調べないわけにはいかない。この島から脱出するためには少しでも多くの情報が必要だからだ。停止し掛けている頭に無理やり喝を入れ、最後の項目を選択する。項目名は「エングラム」と書いてあった。これだけではよく分からないな。そして、それをタップすると上から「取得済みエングラム」と「取得可能エングラム」という二つの項目が出てきた。上の方から順に見てみよう。「取得済みエングラム」のページには、石斧やピッケル、藁の建材類といった俺が今まで作ってきた物品と思しき名前が羅列されていた。エングラムという言葉の意味が理解できたかも知れない。恐らく、エングラムとは俺が見たあの「イメージ」の事を指すのではないだろうか。そして、それはこのインプラントを通して俺に送られてきている。そう考えると、DIY素人の俺があんなに円滑に事を運べたのも頷ける。次に俺は「取得可能エングラム」のページを開いた。そこには石製の槍や布製の服などこれからの生活に必須な物品が名を連ねていた。俺は先程の仮説を検証するために何かエングラムを取得してみようと思う。現状で最も魅力的なのは、パンツ一丁を脱却出来る布の服だ。帽子から靴まで、一式取得するよう操作した。すると、俺の頭の中にあの時と同じ「イメージ」が浮かんできた。やはり、この「イメージ」こそがエングラムという認識で間違いは無いだろう。ただ、受動的にも能動的にも取得できているので、どういった仕組みや法則性で手に入れられるのかは分からないが、役に立ちそうな物なのでとことん利用させて貰おう。地獄に仏とは正にこの事だ。。ここまでの仕打ち受けたんだ、そのぐらい罰は当たらないだろう。
分かったことがある。それはこの島がただ、未知の生物たちが集うだけの神秘の島ではないという事だ。ここには何か得体の知れない大きな物が蠢いている。それに、ここには神秘なんて元より存在しない可能性だって十分に考えられる。だが、俺はそんな答え合わせなんて正直どうだって良い。興味が無いと言えば嘘になるかも知れない。でも、それ以上に俺は帰りたいんだ。家族のもとに、親友たちの元に、そしてただ前と変わらぬ平穏な生活を送りたいだけなんだ。そのためにはどんな手段だって講じてやるさ。不幸中の幸いと言うべきか、先程発見したエングラムはこの島を脱出するための物資を準備するのに大いに役立つだろう。もしかすると、それすらもここの連中が仕込んだ巧妙な罠なのかも知れない。しかし、そうだったとしても俺は抗わなければいけないんだ。この島に、生物に。ある物はすべて使ってやる!俺はこの空のずっと向こうにいるであろう父さんや母さん、弟、それに幼馴染の親友たちに「絶対に戻って見せる!」と誓いを立てたのだった。
裕太君は、身体能力こそダメダメですが、意外にも勘が鋭い部分を持っています。時折、理不尽な初見殺しに引っ掛かったりもしますが、ヘレナさんが100日以上の滞在で気付いた事実に、科学的な検証を行ってはいないとはいえ数日で近付いたのは持ち前の鋭さ故でしょう。案外サバイバーとしての適性は高いのかもしれませんね。
あと、サンティアゴさんは今回滅茶苦茶にディスられていますが、エクスプローラーノートを読むと、彼には彼なりの信念や苦悩があったことが分かります。裕太君がいつの日か真実に辿り着いたときどんな反応をするのでしょうか?その辺りも含めて今後のお楽しみにして下さると幸いです!
それでは次回もお楽しみにお待ちください!