朝っぱらから肝が冷える思いをした。まだ明けの明星が煌めく時刻、耳を劈くほど大きな地響きと、家が揺れるほどの振動が就寝中の俺に突如振りかかってきた。俺は警戒心を最大まで高め、決して家の中の音を外に漏らさないよう、身を潜める。またリオレイアが来たのか?それとも他にもあれに比肩する生物がいるというのか?俺は言いようの無い不安に襲われた。だが、そんな俺の心情とは裏腹に音の主は段々とこちらに近づいているのが分かる。大地を踏みしめる音は先程よりも大きく、そして太く轟いている。家の構造は地震が来た時の様に振動し、建材からは木の軋む音が聞こえてくる。ワシャワシャと鳴り止まない藁が揺られる音は、今にもこの家が崩壊するのではないかと俺を不安にさせる。その時だった。丸太を思わせるレベルで太く、そして人の身長を僅かに超える程の長い脚が家を踏み抜いたのは。次の瞬間、俺の目には仄かに明るさを帯びた外界の景色が飛び込んできていた。家は文字通り半壊してしまった。俺は直方体の家の壁際に身を寄せていたのだが、幸いなことに踏まれたのは俺がいたのと正反対の方向だったので、俺自身は無事だ。しかし、残念なことに長方形の豆腐型は、無残にも崩れ去り、歪な桝形となっている。壊した張本人はのそのそとした足取りで崖下に向かって歩いている。崖下には同じ恐竜がもう一匹確認できるので、仲間の下にでも向かっているのだろうか。俺がリオレイアに殺された日に出会った草食恐竜、「アプトノス」とは違い、雷竜と酷似した現代の生物を遥かに超える大柄な体格をしている。体長は、20 [m]以上はあるな。そこに関してはあのリオレイア並だ。また、体高は、首を除いた胴体までの高さだけでも5、6 [m]はあり、建物の二階部分までなら余裕で届きそうだ。首はさらにそこから上に向かって伸びており、地上から頭の先端までの高さはざっと10 [m]は下らないだろう。その所為か、俺はあの恐竜はリオレイアよりも大きい様に感じた。 体色は緑色が混ざった茶色といった感じで、いかにも草原や森林にいそうな印象を受ける。首から背中、尻尾先端にまで、三角形の突起物が生えているのが確認出来る。尻尾はよくある雷竜の復元図にある徐々に先細になっていく形状ではなく、先端がハンマーの様に膨れた独特な形状をしている。あれで叩かれたら、一発で命を取られそうだ。変に近付いたり、ちょっかいを掛けたりはしない様にしよう。そして、頭頂部には瘤の様に膨らんだ器官が確認出来る。「グルオオーン」と周囲にやつの鳴き声と思われる音が鳴り響いた。急に轟音が聴こえたものだから、俺は反射的に身じろぎしてしまった。自然の、この島の雄大さを一点に凝縮していると言っても過言では無い程に、その声は勇ましかった。管楽器を思わせるその音は、かなり野太くて楽器特有の繊細さや緻密さこそ感じ取れないが、ここが本当に屋外である事が信じられない位に周囲に響き渡っており、空気の揺れを体感できるレベルだ。ぱっと見ではどんな原理でここまでの音を拡散させているのか分からないのが末恐ろしい。この音が鳴り響いてから、周辺の茂みからがさごそと小動物が立ち去るような音が耳に入ってきた。やはり、周りの動物たちもあの草食恐竜の迫力に恐れを成しているのだろう。そんな俺や周囲の様子を気に留める事無く、二匹の雷竜はお互いに首をすり付け合いながらじゃれ合っていた。俺はそんなやつらの様子と、一瞬にして破壊された我が家の残骸を見て改めてこの島の生物の脅威を思い知らされたのだった。
あれから、俺はしばしの間このまま、この場所で我が家を復旧させるべきか否かについて悩んでいた。恐らく、この辺りはあの草食竜、「リモセトス」の縄張りである可能性が高い。やつの名前はインプラントのインベントリから知ることが出来た。どうやら、俺が出会った生物は記録されているらしく、見た目と名前が図鑑方式でまとめられているページがあったのを昨夜発見したのだ。当初は生物の詳しい生態や、出会ったときの対処法などが書かれていないかと、期待したが、どこを確認してもそういった記述は無く、本当にそれ以上の情報は得られなかった。現実はそう甘くはないようだ。まあ、ここはポジティブに考えて、名前を知ることが出来ただけでも良しとしよう。ちなみに、俺がリオレイアにやられた日に出会った、首長竜は「エピオス」、手を治してくれた虫は「回復ミツムシ」、草食恐竜は「アプトノス」、ダチョウ型の鳥は「ガーグァ」、また昨日であった生物については、モグラは「モギー」、ピラニアは「キガニア」、巨大ナマズは「ガライーバ」、そしてシカは「ケルビ」と呼ぶらしい。閑話休題、ここがリモセトスの普段の行動範囲であれば、これからも今回と同じような事態が頻発することは明らかだ。流石に毎回壊されては復旧を繰り返していたら、脱出の準備など永遠に進まないだろう。そういった面では、早急に場所を変えるべきだ。だが、本当に場所を変えても上手く事が進む保証もないのは事実だ。これまでの経験からこの島に最早生物の脅威から逃れらる場所が無いのは既に分かっている。向こう側から何かされる度に移動をしていれば、それこそ脱出など夢のまた夢だろう。それに、まだここでは一日しか過ごしていないが、現時点では肉食生物は現れていない。もし仮に、襲われたとしてもリモセトスの様な強力な草食動物がいれば、言葉は悪いが弾除けとして利用できたり、そもそも脅威が近づかないよう抑止力になってくれたりするかも知れない。だからこそ、引き続きこの場所に基盤を設けるという選択肢も強ち悪いものではないと言える。藁よりも丈夫な材質の建材や動物除けの設備を作る手段があれば問題は解決に近付く。何か適当なエングラムが無いかインベントリを探してみる。
俺は現状の改善に期待できそうなエングラムを早速見つけられた。木の建材類一式だ。リモセトスの踏みつけに耐えられるかは怪しいが、藁よりは幾分か耐久力はマシだろうし、居住性も改善できそうだ。寝る時に藁が顔とかにチクチク当たらなくなると考えると、それだけでも是非欲しいものだ。そして、もう一つ。期待度の高いエングラムがあった。それが「木の防護柵」だ。プレビューを見た感じではあるが、棒状の柵に大量のスパイクが紐で括り付けられており、動物除けにはもってこいの形状をしているように感じる。家を入口以外360 [°] これで囲ってしまえばあいつらも踏むのを嫌がって家を避けて行動するんじゃないだろうか?この島に来る前の俺であれば、こんな小学生の様な発想を馬鹿にしていたかも知れないが、今の俺は本気も本気だ。藁どころか目に見えないプランクトンにすらもすがる思いだ。少しでも生存率が上がるのなら試さない道理は無いだろう。そうして、俺は無事だった斧とピッケルを持って作業を開始したのだった。時刻は午前七時過ぎ、辺りはすっかり明るくなり、朝の爽やか空気が心地良かった。
一通り資材を集め終えた俺はすぐに建材の制作に取り掛かった。とは言っても、毎度の如く俺は自分の作業を自分で見守るという摩訶不思議な状態であるのだが。まず、俺は木を斧でサイズを見つつ、三等分か四等分に叩ききっていくようだ。次に切られた木を垂直に地面に立て、縦に真ん中の位置に斧を突き立てた。そして、上下にその木を振って地面に何度も叩きつけ出した。すると、木はきれいに真っ二つに割れた。俺はさらにこの半分に割れた木材を十個ほど生産した。時折、作業している自分がミスをして怪我をしないか不安になったりもしたが、そんなことは無く手際良く作業が進んでいった。こんな事までこなしてしまうとは、エングラムというテクノロジー?は中々にイカれている。そんな事を考えている間にも、土台の支えとなる柱材や梁材が出来てゆく。それらの上に繊維の草を置き、さらにその上に先程の十個の木材を置いていく。それから、上の木材を斧の側面で叩いた。そうすると、繊維の草からでんぷん質の粘液が溢れ出てきた。その状態で上から全体重をかけて加圧すると、天板と支えがきれいにくっ付いた。これには驚きだ。糊はもっと作るのに手間ひまががかかるはずだ。俺はでんぷん質を加熱処理したり、長時間かき混ぜたりと骨の折れる作業が多いイメージを持っていたために、こうも簡単に接着剤を得られたことに驚きを隠せない。これは、今後の生活でかなり有用要素になると俺は確信した。強度も十二分に強い。思いっきり引っ張っても揺らしても外れることは無い。これは下手に釘やビスで止めるよりも締結力は強いのではないだろうか。俺はこの調子で作業を続けてくれた様で、合計四つの土台と八枚の壁、さらには三角形の壁四つに傾斜付の天井四枚作製した。資材の都合上、前の藁の小屋よりどうしても小さくなってしまうが、俺一人で使うなら十分なスペースを確保できるだろう。俺は早速出来た建材を草の性質を用い繋ぎ合わせて、家を作った。木製であるという点と、何より屋根だけではあるが三角形にしたことで以前の物にあった豆腐感は無くなり、一般的な家と変わりない形状になった点が合わさり原始人の家という感じは大分薄れた。これだけでも生活が一気に前進した感じがして、大きな達成感を得られる。だが、これだけで満足してはいけない。獣除けのスパイクウォールを一刻も早く作れねば。俺は家が完成した余韻も程々に自分に再び作業を始めさせた。作製には皮が必要とのことなので、昨日も狩ったカモシワラシを一匹手早く狩猟した。どうやらここら辺に群生しているようで、茂みなどを探したらそれなりの数を見つけた。やはり動物を殺す感覚にはまだ慣れない部分もあるが、生きるためには致し方ないと自分に言い聞かせる。その後、俺は石を使って無理やり木を削って丸材だった木にテーパをかけ、円錐形を形作っていった。金属製のちゃんとした道具ではないため、かなり手が疲れた。親指と人差し指の間がズキズキと痛む。だが、明日まで、いや夜になるまでに終わらせなければまた今日と同じことが起こる。そんな思いがあるからか、俺の手は悲鳴を上げながらも何とか作業についてきてくれている。辺りを夕日が照らす頃、俺は最後のスパイクをフェンスと紐で結びつけることに成功した。それから俺は休む間もなく、防護柵を家の周囲を囲むように設置し、辛うじて真っ暗になる前に作業を終えることが出来た。
翌朝、またしても俺はリモセトスの足音で目を覚ました。ただ、昨日と一点異なるのは、やつらがこの家を迂回するようにして一帯を通過していったことだ。やはり、防護柵が功を奏したのだろうか。それに、結構揺れたが家が倒壊する様子は無いので、そこについても一安心だ。仮初とは言え、ようやく安住の地を確保できた俺は大きな安堵感とやり遂げた達成感で一杯になった。
今回登場したモンスターはリモセトスです。メインシリーズではXシリーズのみでの登場なので、WorldやRiseのハンターの皆様には馴染みが薄いかもしれません。最近では一応ST2の方にも登場していたので、もしかしたらそっちで見た事あるよっていう方もいらっしゃるかもしれませんね。
さて、本編の補足なのですが、木の建材を作る場面で繊維から接着剤の成分を抽出する描写がありましたが、これは完全に作者の独自解釈ですのでご注意ください。なぜこの様な解釈をしたのかといいますと、「ARK 木の土台」等でググってもらえれば分かるのですが、土台の構造的にゲーム内の材料であるわら、木材、繊維だけではどうしても作れないと思ったからです(多分現実的に考えて接合には釘かねじが必要と思われます)。そのため、インゴットが無い現状で木の建材を作るための苦肉の解釈として、繊維、すなわちARKの草から接着成分を取り出して部材同士を接合していると解釈致しました。作者はARKの細かい設定等についてはまだまだ知らない部分が多いので、こういった事でゲーム内で言及されている設定があるよといった場合にはドンドンご指摘を頂けると幸いです。
長くなりましたが、次回もお楽しみにお待ちください!