それでは本編スタートです!!
俺は虫たちが指し示す箱を開けた。どうやら箱は施錠されてないようで、すぐに開けることが出来た。そこには、俺の作った紙とは正反対の端正なつくりをした小さなノートが一冊だけ入っていた。紙質は多少劣化してはいるものの、解読不可能になる程の致命的な損傷ではない。俺はそのノートを丁寧に箱から出し、大事に懐に仕舞った。
俺は今高鳴る胸を抑えられないでいる。家に帰る道中も早く読みたいと気が急いたせいで生きた心地がしなかった。ソワソワし過ぎて自分が草木を踏んだ音にすら驚いてしまう程に、俺は気が昂っていたのだ。我ながらよくあんな状態で無事に戻ってこれたと思う。道すがら生物に遭遇していたら間違いなくやられていただろう。だが、それも仕方のない事だ。史学の道を志す者にとしての性か、こういう文献みたいに人の足跡を辿れる物品には無条件に気分が高揚してしまうのだ。これはどういった立場の人間が書いたのか、島を脱出するために何か有益な情報はないのか。否が応にもこの日記帳への期待値は高まっていく。それに加えて、この島で生活していた人間がいたという事実が、俺の孤独感を少しだけ和らげてくれる気がする。俺は早速このノートの最初のページを開いてみた。
ノートを開いた瞬間、俺は一気にこれまでの興奮が立ち去っていくのを感じた。なんとこの手記は全編英語で書かれていたのだ。俺は英語が得意ではない。むしろ大の苦手だ。長文問題なんかを見た日には、頭がショートしてしまうんじゃないかという程、気分が重くなる。大学受験も英語を教えてくれる親友に何度も溜息を吐かれながら漸くクリアしたほどだ。だからと言って、ここでこの手記を見ないという選択肢はない。奇跡的に手に入れた貴重な情報源をみすみす逃す手など無い。俺は数時間以上に渡る格闘になる事を覚悟し、いざ日記に目を通し始める。その時だった。英語の文章の下に日本語のホログラムの様な文字列が浮かんできたのだ。この光景は、翻訳アプリのカメラ入力機能を利用した時の画面にとても似ていた。これも例によって左腕のインプラントの機能の一つなのだろうか?最近では翻訳ソフトの登場によって、外国語を学ぶ必要性はあるのかといった議論がしばしば起こっているが、なるほど、これはそんな議論を過去の物にしかねないトンデモ技術だ。正直こんなにあっさり苦手な英語を理解できるのならそれ程頼もしい物は無いだろう。改めて俺はこの島の技術力の異次元な事に驚かされる。この状況なら、俺は「君は異世界にでも転移してしまったのだ」何て突拍子も無い事を言われても本当に信じてしまいそうだ。
それから、俺は手記の記述に目を通し始めた。まず、最初に目についたのは、一番上の行に記された記録者の名前と思しき名前だ。
「Dr.ヘレナ・ウォーカー」
そう書かれていた。どうやらこの手記を記したのは女性の研究者らしい。研究者ということは、まさかこの島のオベリスクを作ったり、俺をここに連れて来たりした連中なんかと関係がある人物なのか?それとも、俺の様にある日突然この島にいたというパターンか?もし仮に、前者だとしたら俺はとんでもない拾い物をした事になる。俺はきな臭い思考を抱きつつ、恐る恐る本文を読み始めた。
「 ヘレナ、あなたは大馬鹿者だ!これまでの記録を見返していたら、この島全体における捕食者の数は被食者の数の約2倍近い事に気が付いた。これは生態系が機能するための法則とは正反対の事象じゃないか。雪山を駆け巡るティラノサウルスをこの目で見るまで気が付かなかったなんて、私は明らかに愚かだった。
これはどういうことだ?人為的な要因を無しに、この島が自然のままの状態で存続し続けることは不可能だ。それが意味するところは、この島の野生動物は何らかの手段で監視・管理されているということなのか?
私はこれからロックウェルと話した方が良いだろう。恐らく彼も同じような結論に至るだろう。」
たった数段落の文章にもかかわらず情報量が多すぎる。少しずつ内容を整理しよう。まず、これを記したウォーカー博士は、生物学の研究者であることが伺える。冒頭で、この手記をしたためる以前からこの島の捕食者などの数を記録していたことが示唆されている点から考えても間違いないだろう。
次に、ここからがこの手記の中で最も重要な情報だ。捕食者つまり、肉食動物が草食動物の二倍多く存在するという記述、これには俺も戦慄を禁じ得なかった。この記述を信じるならば、この島はランポスやリオレイアの様な連中で溢れ返っているということになる。俺がこの場所に移動してから数日間、リモセトスに踏み潰されそうになるというアクシデントは有ったものの、それ以外の危険生物には襲われずに生きていられたのは奇跡と言って他ならないだろう。多少なりとも生活基盤が整ったとは言え、俺はこの島においては弱者でしかないという事を嫌でも再認識させられた。俺はこの事実に途端に恐ろしくなり、足が竦む様な感覚に襲われた。そして、一番度肝を抜かれたのは、彼女が野生生物が監視されていると考えた記述だ。インプラントの件から人間が監視されている可能性には俺でも薄々気付けたが、まさか動物までもがその対象であったとは。やはり、常識外れの生物ばかりだからこそ、研究や何らかの利用法のために絶滅でもされると困るのだろうか?そうであるならば、個体数管理や行動記録などが行われていても何らおかしくはないだろう。また一つこの島に渦巻く狂気を垣間見てしまったのかも知れない。ともあれ、これによって、彼女が俺の危惧した様な存在ではなく、むしろ俺と似た境遇にある人物であったという事も推測できる。
このウォーカー博士の胆力には驚かされるばかりだ。彼女がこの島に流れ着いた時の状況は分からないが、概ね俺と変わらない状況だったのは想像に難くない。そんな道具も諸々の物資も何も無い状況で、研究活動を行おうとする情熱は凄まじいものだ。生活基盤を確立するだけで四苦八苦している俺なんかとは大違いだ。捕食者の数が多い事が分かった時も、怖がるよりも、生態学上の矛盾点について真っ先に考える当たり優秀な研究者なのだろう。それに、彼女は雪山に赴いている。雪山がどこにあるのかは分からないが、この辺の気候や植生から考えると、かなり遠出をしたと考えられる。この島における移動のリスクはそれだけでも決して小さくない。にもかかわらず、遠隔地へ赴けるだけのフットワークの軽さと並々ならぬ研究への熱意は、まるで映画の主人公を見ているような錯覚を抱かせる。そして、彼女はその雪山にて「ティラノサウルス」を観察した。この島に遥か大昔に絶滅したはずの生物がいるというのもヤバイ情報だが、強ち嘘とは断じれないのがこの島の恐ろしい部分だ。彼女の言う「ティラノサウルス」が俺の良く知る物と同じなら、あのランポスはおろか、リオレイアに迫る体格と威圧感を持っていたのだろう。そんな相手を間近で観察するなど、遭遇しただけで腰を抜かして動けなくなる俺には到底できることではない。そんな恐怖を乗り越えてでも研究を行った彼女は間違いなく、真の学者だ。記録を読み終えた俺は、そんな素晴らしい先達に対し、自然と尊敬と感謝の念を示したのだった。
今回はエクスプローラーノート回でした。エクスプローラーノートはARKにおいてストーリーをプレイヤーに知らせるフィールドに落ちている先人たちの記録です。モンハンで言うならば、Riseの手記帳近い物でしょうか。今回取り上げたのはヘレナの記録6です。ARKの公式wikiにいくと原文が載っているので気になる方はそちらもご確認ください!ヘレナさんはARKのストーリーの中でも重要な人物で、これから裕太君もいろんな場面で関わっていくことになります。
最後になりますが、次回の投稿は日曜日を予定しています。次回もお楽しみにお待ちいただけると幸いです!