昨日の勝利の余韻も冷めやらぬまま俺は新たな朝を迎えた。この島を照らす朝日は何度見ても美しい。常に生命の危機に晒され、さらには娯楽が一切無いこの島での、俺の数少ない楽しみの一つだ。そして、空気も美味しい。大自然特有のこの爽やかで、澄み切った心地良い空気は街の中にいては中々味わえないだろう。この空気感を堪能するように俺は採集に出かける。とは言っても、安全を期すため、半径百メートル圏内のごく近場に限られるが。今日の目的は、朝食にするベリーを取る事だ。それに、導蟲用の虫篭を作るために繊維を取るのも良いかも知れない。ちなみにだが、今探しているベリーや繊維が取れる草もこの島の生き物のご多分に漏れず、現実離れした性質を持っている。それは、異常なまでの再生力だ。あの草は、草の中では背丈や幅が大きな方で、生垣に植えられているツツジ位のサイズは平気であると思う。それにもかかわらず、完全に刈り取った場所を一日後に見てみると、きれいさっぱり、元通りのサイズの同じ草が生えていた。この島に来る前の俺がその光景を見たら、ひっくり返っていただろうが、正直今更この程度ではもう驚かない。動物たちがあんな珍獣、魔獣揃いであるならば、植物にもそのくらい異次元な能力があっても何ら不思議ではない。まあ、俺としては資源の残存量に気を配る必要が無いので、好ましく思っているのだが。それはさておき、俺はいつものように、慣れた手付きでベリーの採取を始める。今回は繊維も欲しいので、実だけ千切るのではなく、草ごと刈っていく。
採取を終えた俺は、草の束を両脇に抱えてそそくさと家路に就いた。慣れとは恐ろしいものだ。つい十数日前までこの様なフィールドワークとは全くの無縁だった俺が、小馴れた手際でこんな事をしているなんて、家族や友人が知ったら大層驚くだろうな。だが、このルーティーンが島を出るまでの束の間の日常になりつつあるのは事実だ。いつもの茂みに行って、いつもの道を通って帰る。今日も変わらずその行程を繰り返す。しかしながら、今日はいつもと周辺の雰囲気が些か異なる部分がある。道中に草食動物がいないのだ。いつもなら、ケルビやアプトノス、ガーグァにリモセトスなんかも見かけるのだが、今日は何故かいずれも姿が見えない。昨日ランポスが現れたから、逃げ出したのだろうか?だが、それが直接の原因ではない気がする。第一、昨日倒せなかった二匹の個体も森の中へ逃げ去って行ったから、ここの草食動物が避難する理由が見当たらない。ともすれば、新たな捕食者の出現が考えられる。俺が海岸でリオレイアに遭遇した時、周囲のアプトノスたちはその襲来を早めに察知したのか、大慌てで逃げ出そうとしていた。その時の状況と現在のそれを照らし合わせると、やはり近くに肉食生物が潜んでいる可能性が高い。不気味だ。俺は何か嫌な予感を感じ、家への足を速めたのだった。
道中は何事も無く、家の前まで戻って来る事が出来た。案外あの異様な雰囲気も見掛け倒しだったのかも知れない。俺は楽観的ににそんな事を考えていた。そんな時だった。
「グォグォ、グォーー」
以前に遭遇した時よりも野太く、威圧感に満ちたランポスの鳴き声が聴こえたのは。その瞬間、十匹以上のランポスの群れが一瞬にして俺を包囲した。俺は思わず両脇に抱えている物を落としてしまった。その動きは、これまで出会った個体とは違い、統率の取れた軍隊を思わせる程に機敏で、無駄なく洗練されていた。俺を取り囲む群れの中には、二匹、取り分け鋭い視線をこちらに向けてくる者がいた。その眼は、今にも俺を射殺さんとばかりの強烈な物だ。それを察知した俺は思わず、蛇に睨まれた蛙の如く縮こまってしまった。もしや、あの二匹は昨日取り逃がした奴らなのか?そうであれば、あの周囲の個体より殺気立った様子にも納得できる。まさか、昨日の今日でカチコミをされるとは。流石にこの数に囲まれたらどうしようもない。俺はまた死んでしまうのか。
そんな絶望感と諦観が押し寄せる中、さらに追い打ちを掛ける様に事態が動いた。俺を囲んでいた個体の内数体が持ち場を離れ、姿勢を低くした。俺はランポスの突然の行動に驚いたが、これは絶好のチャンスだと思い、包囲が緩くなった場所目掛けて走ろうとした。その時だった。通常のランポスよりも二回りほど大きな体躯を持つ巨大なランポスが現れたのだ。体長は10 [m]、体高は3 [m]はある。それに、その鶏冠は通常のランポスのそれに比べて遥かに大きく、赤く肥大化している。後頭部から体の後ろの方向へ伸びており、先端は槍の穂先の様に鋭利な形状をしている。俺を取り囲んでいるランポス達は、飽くまでも隙を作らぬよう一瞬だけではあったが、その巨大な個体の方を見た。間違いない。今、俺の目の前に現れたこの個体こそが、ランポス達のボスだ。俺はそう確信した。最初の声の主もこいつで間違いないあだろう。恐らく、仲間が俺に殺されたことを根に持って態々、自ら出向いて来たのだろう。そうだとしたら、この生物は何と執念深い事だろう。いや、だからこそこの過酷な島で生き残れるのかも知れない。きっと、俺は昨日からこいつらに後を付けられていたのだろう。だからこそ、奴らはこうして俺の居場所を知っていて、なおかつ迅速に行動出来たんだ。試合に勝って勝負に負けるとは正にこの事だ。昨日のあの一匹を倒した後、油断せずにもっと周囲の状況に敏感になるべきだった。俺は自らの詰めの甘さにほとほと嫌気が差した。
群れのボスは、俺を一瞥すると頭を大きく持ち上げ、、野太い雄叫びを挙げた。すると、ランポス達が俺の方から遠ざかり、包囲網を緩めた。そして、ボス個体は身体を大きくひねり、目にも留まらぬ速さで細長くしなやかな尻尾を俺に対して打ち付けてきた。俺は後方に数メートル以上大きく弾き飛ばされ、宙を舞った。先程尻尾がクリーンヒットした脇腹の肉は大きく抉れ、服が真っ赤に染まっている。俺はその痛みを意識する暇も無く、背中から地面に叩きつけられた。その瞬間凄まじい激痛が身体全体に走った。今ので背骨がイカレたかも知れない。だが、そんな事を思えるのもほんの僅か一瞬だった。次の瞬間には、ボスが再び号令をかけ、全てのランポスが俺に向かってきたのだ。俺はそのまま十匹を超えるランポスに集られ、全身を噛まれ、爪を突き立てられ、名状し難い激痛の波を何度も味わった。そして、最後はもう碌に痛みすら感じられぬほど意識が朦朧とする中、ボスの個体に首を嚙み砕かれて、ついに意識を手放したのだった。
今回登場したモンスターはドスランポスでした!初代モンスターハンターから存在するモンスターで、大型モンスター(いわゆるボスモンスター)としてはゲームを始めて一番最初に戦う相手でもあります。なのですが、4,4Gでは魔改造を施され私を含め、舐めてかかった多くのハンターが蹴散らされました。
ランポス種は非常に執念深いのが特徴です。原作の設定でも、人里を襲撃した群れを辛くも撃退したと思ったら、後日リーダーを連れて来てもう一度来たといった物があります。残念ながら裕太君はそれを知らず、今回やられてしまった形になります。ちなみに、最後にドスランポスが行った尻尾攻撃はメインシリーズで行ってこない、F限定のモーションです。
順調に進んでいた中で乙った(ARKではよくあること)裕太君ですが、これからどうなるのでしょうか?それでは次回もお楽しみにお待ちください!