ついにこの時が来た!俺は漸く完成したいかだを眺め、感慨に耽る。ここまで本当に長かった。この島に流れ着いてから今に至るまでの出来事に思いを馳せる。最初はたき火一つ起こすのにもやり方が分からず、何時間もかける始末だった。やっとの思いで火が点いて束の間の安眠を貪れると思ったら、ブナハブラに殺され、ランポスに殺されだ。それから、何とか食料を確保し、藁の小屋を建て、再起を図るも突如襲来したリオレイアに家ごと持って行かれたりもした。だが、落ち込んでいる暇など無かった。そこからは、急激に物事が進展していったからだ。エングラムの存在に気付き、新天地を見つけた俺は、そこで心機一転、文字通り身一つで生活を構築していった。家はみすぼらしい藁製から何とか見られるレベルの木製に変化した。服装もパンツ一丁から上下一式を揃えることが出来た。他にも様々な物資を作ることが出来た。そして、先人の手記に勇気を貰い、ついにはあの憎きランポスを一匹だけだが討つことが出来た。その時は、これから先も順調に進み続けて、あわよくば島から脱出するための船まで漕ぎ着けるのではないかと浮かれてたっけ。でも、結局それは長くは続かず、報復に来たドスランポス一行やそれに便乗したアンジャナフによって脆くも破壊されてしまった。その後、俺は失意の中アオアシラに殺されながらも、このいかだのエングラムを手に入れ、決死の思いで製作した。思えば、不運や理不尽の連続だったが、今となってはもうそんなの関係無い。俺は今日を以てこの悪夢とおさらば出来るのだから!
物資の準備も万端だ。いかだの建造も含めて数週間ほど俺は、夜通し死に物狂いで準備を進めた。ブナハブラに襲撃されるリスクも考えたが、この踏ん張りで島からの脱出できると思えば、冒すことになど何の躊躇いも無かった。幸いにも襲撃は無かった。僅かな松明の明かりを頼りに作業をするのも、最初は辛かったが、段々と慣れていった。俺の帰りを待つ家族や親友たちの顔を思い浮かべれば、眠気や疲労感なんて簡単に吹き飛んでいったのだ。
完成したいかだの上には6畳か7畳程度のスペースがあり、それなりに物資を積み込める。形状については、搭乗部分は概ね正方形で、その左右には丸太で作った浮きが取り付けられている。帆は船体の最前部分に設置されている。搭乗部の空間は大半が開くことになるので、俺は重心が偏らないよう船体中央付近に土台二マスを配置し、一枚分の高さの壁と天井で囲って二マス小屋を建てた。その中にはベッドを置いて就寝時に雨風に晒されないようにしている。他には、新たに獲得したエングラムで作成した「食料保存庫」なる設備も導入した。この食料保存庫というのは、簡単に言うと原始的な木製の燻製機だ。内部は、上段に繊維と小枝サイズの木材で組まれた食料置き場が、下段には燃料となる「発火粉」を投入して燻煙を発生させるスペースがある。これを使えば肉やベリーを長期間保存できるようになり、航海の間の食料を前もって多めに準備する事が出来る。俺は、赤、青、黄のベリーとこの前狩ったガーグァの肉を詰められるだけ詰めた。ケチケチと消費していけば悠に二週間は食料に困らなそうだ。ちなみに、発火粉は「すり鉢とすりこぎ」という道具を使って、石と火打石を砕くことで作れる。すり鉢と予備の火打石もこのいかだに配備済みだ。
ガーグァの狩猟に踏み切るには勇気が必要だった。何せ、大人しいとは言え自分の体格を遥かに上回る相手に槍一本で立ち向かわなければならないのだ。以前に狩った事があるカモシワラシの様な小動物を大量に仕留めれば、必要な分の肉や皮は入手できるが、如何せんそれでは、探す手間もあって効率が悪い。だからこそ、大振りな獲物を狩猟するのが俺にとって都合が良かった。そんな時、群れからはぐれたであろう一匹の個体を発見したのだ。俺は、意を決して突っ込んだ。だが、ガーグァの外皮は想像していた以上に、頑丈だった。俺が全身全霊の力を槍に込めたとて、その皮膚を貫くどころか傷を付けることすらも叶わなかった。それでも俺は弱点の首を一点狙いで突き続けた。それでもまともなダメージは入らなかった。当のガーグァも最初は驚きのあまり、かは分からないが何故か産卵をし、逃げ惑っていた。だが、こちらが執拗に追い掛けた事と、まともなダメージを与えられていないという事が災いしてか、一転、奴は攻勢に転じてきた。長い首をこれでもかという程、連続で振って、嘴を何度も叩きつけてくる。俺は咄嗟に槍を両手に持って、持ち手部分でガードを試みた。しかし、奴の嘴は非常に硬いようで、三発打ち込まれる頃には、槍は完全に真っ二つになっていた。だが、それでも攻撃は止まない。今度は俺に目掛けて嘴を打ち込んでくるのだ。即座にガードする体勢に移れなかった俺は、その攻撃を腕で防御しようとした。この判断は大きな誤りだった。奴の嘴はそこら辺の石などよりずっと硬く、一撃で俺の腕を骨折させてきたのだ。当然、俺は痛みでその場に蹲る形になった。痛かった。とにかく痛かった。だが、ここまで来て獲物を諦める訳にはいかなかった。このままでは文字通り骨折り損だ。だからこそ、俺はズキズキと主張の激しい痛みを堪え、逃げようとするガーグァをまだ無事な脚を全力で駆動させて追い掛けた。俺は折れて短くなった槍を奴の首筋に突き刺した。結果は変わらない。それでも、骨折した方の腕を盾代わりにして、抵抗する奴の攻撃を受けながらも俺は何十回、何百回と刺し続けた。槍を持った方の手もついに使い物にならなくなる、そう感じた矢先、奴の首筋から赤い血が線を描く様に流れ始めた。それを見た瞬間、俺はこの好機を逃すまいと、最後の力を振り絞り、首の傷口に思いっっ切り槍を突き刺した。すると、度重なる刺突で鋸刃の様に歪な形になった石の穂先は、奴の傷口をさらに深く抉る事に成功した。そこからは、トントン拍子に事が進んだ。奴の首からは大量の血液が溢れ出し、足取りは段々と覚束なくなっていく。それでも、奴は逃れようと必死の形相で脚を動かしていた。ふらふらとした足取りで最期の瞬間まで大地を踏みしめていた。そして、ついに奴は地に倒れ伏せ、ビクンと全身が痙攣したかと思うと、息を引き取った。それを確認した瞬間、アドレナリンの分泌が収まったためか、先程まで盾代わりにしていた左腕に猛烈な激痛が走った。立っていられなくなった俺はその場に跪いた。左腕に目をやると、比喩でも何でもなく、本当にフニャフニャになっていた。最早複雑骨折どころの騒ぎではなく、何箇所もあらぬ方向に曲がっており、二度と使い物にならないと思えるレベルで変形していた。だが、そんな状態にあっても、俺にはまだやらなければならない事がある。俺は這う這うの体でガーグァの亡骸の傍に寄った。そして、俺は辛うじて動く右腕を広げた状態で顔の前に出し、首を垂れて、懸命に生きた生命に対して、敬意を払ったのだった。
ちなみにだが、あの後、偶然にも以前出会ったことのある回復ミツムシが現れ、緑の液体を頂戴した。流石に、あの時の手の擦り傷、切り傷の様に一瞬で治癒完了とはならなかったが、数時間経過すると三角波を思わせる形に歪曲していた左腕は、これが嘘だったかのように元の健常な腕に戻っていた。不思議な事に治癒する間の痛みは無く、むしろ心地よい温かみに似た感覚に包まれていた。現在でも、腕を使うのに違和感などは感じないのだから驚きだ。
他には、サバイバル生活としては月並みではあるが、「釣り竿」も作ってみた。これは本当に原始的な構造で、細長い木の棒の先端にひもがくっついているだけのシンプルな物だ。この島の海は中々の好漁場なようで、試しに浜辺から糸を伸ばせば、浜辺釣りとは思えない程の大物が引っ掛かる。俺が釣り上げたのは体長60 [cm]ほどのサケの様な見た目をした魚だった。かなり腕にクる重さだったが、流石この島の産物と言うべきか、木はしなやかさを多分に含んだ強度を持っており、竿はびくともしていなかった。インプラントの情報によると、釣り上げた魚はどうやら「サシミウオ」という魚らしい。その名前の通り、刺身で食べると非常に絶品で、白身魚ながらも脂が乗っており、濃厚な味わいだった。願わくば、醤油とご飯が欲しかったが、ここは無人島、刺身を食べられただけでも有難いと思うべきだろう。それから、サシミウオの美味しさに感化された俺は、もう一匹釣り上げ、今度は船に積んである食料保存庫の中で燻製になっている。こちらも食べるのが楽しみだ。余談だが、釣り餌にはミミズを用いた。釣りを始める時にちょうど、砂浜の上でクネクネと動いているところを発見したのだ。それから、近くの地面を掘り返してみたら、数匹同じのがいたため、肉を少しでも節約しようと思い餌として利用した次第だ。このミミズ、名前を「釣りミミズ」というらしく正にお誂え向きの生物だった。一応このいかだにも小さな木箱に砂と一緒に入れた状態で十匹ほど積み込んでいる。
さぁ、準備は整った。本日晴天で波低し!絶好の航海日和だ!俺は今日この日を以てこの島を去る。もうあんな恐ろしい化け物共と二度と会う事は無いと思うと、清々した気持ちになる。漸く俺は危険の無い平和な生活に戻れるのだ。待っていろ俺の日常!
ガーグァを狩猟するシーンは蛇足感が強いですが、戦闘シーンを描く練習がしたかったので無理やり入れました。中々、初心者には難しい物です。戦闘シーンを何話分も書かれている投稿者様方のすごさが少しわかりました。
さて、このちょっと変わったARKの世界の海にはどんな生態系が息づいているのでしょうか?!次回もお楽しみにお待ちください!