モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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Version7.2:豊饒の海

 航海は現状、恐ろしいほど順調に進んでいる。天候は快晴。波も穏やかだ。だが、いかだが推進力を得るのに十分な風は吹いている。この上無い好条件だ。まるで、俺の旅路が祝福されている様な、何だかくすぐったい気分になる。後ろを振り返る度に、段々と島の遠景が小さくなっていく。その光景が目に飛び込んでくる度に、死地から逃れられたという安堵感と、故郷の土を再び踏めるという希望が心の中に溢れ出てくる。航海はまだ始まったばかりだ!

 

 

 

 

 

 

 

 この島の海は不思議で満ちている。なんと、海水が飲めてしまうのだ。海水と言えば、絶海でのサバイバル生活において、飲用が御法度とされているのは、その道の人間でなくとも有名な話だろう。だが、俺は咽の渇きに耐えかねて、飲んでしまった。丁度、その時はブナハブラやランポスに殺されて自暴自棄になっている時だったのも関係していたのかも知れない。俺のやった行為は、生存の観点からは決して褒められたものではないだろうが、結果として有益な収穫を得ることが出来た。それによって、海岸で生活をしていた期間は、大いに助けられた。なにせ、水の確保について一切憂慮する必要は無く、そのうえ飲み放題だったからだ。実際の飲み応えとしては、スポーツ飲料に近い。恐らく塩分濃度も、それに近いと思われる。強いて違いを上げるとすれば、糖分が含まれていないという点だろうか。その所為で、味に対して多少の違和感を感じたが、それでも炎天下の作業で大量の汗を流した後には塩分と水分を同時に補給出来るというポイントは非常に有難かった。これが無ければ、俺はもっと多くの死を経験しただろうし、これ程の急ピッチで物資を整えることも出来なかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この島の魚たちも例に漏れず、屈強な体質なようで、明らかに海水魚と思われる魚がこの海に平然と生息している。ここは本当は汽水域の湖なのではないかとも考えたが、波が押し寄せているし、潮の満ち引きもある。俺は湖の潮汐について無知だから断言こそ出来ないが、俺には眼下のこの水は何となく海の様に思えたのだ。それに、俺は生物の事など全く分からないが、海水魚と言えば、もっと塩分が濃い水でないと生きていけないようなイメージがある。ただ、あそこは火を吐く竜が幅を利かせる島だ。そんな事に比べれば、魚類の分布など些事なのかも知れないが。そういえば、以前に何かのニュースで海水魚と淡水魚を同時に飼育できる水が開発されたという事を聞いたことがある。生物の成育に必要なナトリウムやカリウムといった電解質の濃度が調整されていて、海水魚と淡水魚の体内の浸透圧調整エネルギーが等しくなることで、同時に飼育できるという仕組みらしい。正直、生粋の文系の俺には何がなにやら理解できないが、まあそう云う物として受け入れるしかない。もしかすると、自然の奇跡とも言える何かが起こって、この周辺の海域は偶然こんな都合の良い環境にでもなったのではないだろうか。真偽のほどはともあれ、この島の海水が持つ特異な性質によって、俺自身が助けられていたのは事実だ。この僅かな幸運に感謝する他ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく航行を続けていると、首長竜の様な姿をした生物、エピオスの群れが水面に浮上しているのが見えた。こちらに敵対する様子は無く、水面を漂いながら大欠伸をかいて和気藹々と日向ぼっこを楽しんでいるようだ。このいかだと衝突しないか心配だったが、エピオスは大人しい気質なようで、恐れていた事態は起こらなかった。それからは、航海も安定し、精神的な余裕が生まれてきた。そこで、俺は海の中を覗いてみる。

 

 

 

 

 

 

 大海原の深奥は正しく生命の楽園を体現したかのような出で立ちだった。数千、数万は下らないであろう無数の魚群が渦を巻いているのだ。資料映像でしか見た事が無い光景に、俺は思わず舌を巻いてしまった。幾多の個体が群れを成し、あたかも一頭の生物であるかのように振る舞うその様は陸上のモンスターとはまた異なる迫力があり、黒い嵐を思わせるこの情景は未知の世界への畏敬の念を起こさせる。群れで回遊するその魚は、アジに似ている。少し違うのは、鱗の一枚一枚が非常に大振りで、それが体表の模様にくっきりと浮かび上がっており全体的にやや角ばった印象を受ける点と、黄みがかった鋭い造形の大きな背びれが生えている点だろうか。あと、結構デカい。一匹の体長は大体50 [cm] 程あり、スーパーの鮮魚売り場などで見かけるアジより何倍も大きい。

 

 

 

 海に生きる生物は彼らだけではない。あのアジの様な魚の周囲にはマンボウが遊泳している。大きさは水族館で見られるものとそう大差ない様に思える。マンボウと言えば、肉体的にもメンタル的にも最高に貧弱な魚類として有名だが、この辺りの個体は、中々に肝の据わった連中らしい。あれ程の魚群を目の前にして優雅に泳ぐその姿は、巷で囁かれる逸話に伝わる姿など微塵も感じさせない。

 また、大量の魚群に混じってイカの群れも少ないながら確認できた。サイズ感は、普通のイカと相違ないが、その鋭い槍の穂先の様な形状の外套膜が特徴的だ。それに加えて、カラーリングも豊富で赤、オレンジ、緑と色とりどりだ。きっと水族館に展示されていたら、写真映えも良さそうだし若者の間で話題になりそうだ。

 さらに、魚群に紛れて淡水魚のアロワナに似た橙色のヒレを持つ魚もいる。やはり、沖合であるにもかかわらず海洋と河川の生態系が混在する奇妙な水域だ。ともあれ、最後の最後で日本でも見た事のある生物に出会えたことに違いない。これは島からの離脱が進んでいる良い兆しなのではないだろうか。そう考えると、胸が高鳴ってくるのを感じる。それと同時に心の重荷が下りてゆく。

 

 

 しばらく観察を続けていると、悠々と回遊していた魚群に異変が訪れた。異変の主は、ロブスターだ。ロブスターとは元々、一般的には水底を歩くタイプのエビを刺す名詞だったはずだ。それに今現れた個体は明らかにザリガニ・ライクな見た目だが、そんな見た目に反して扇形の尻尾を器用に上下に振りながら、高速でこの海を泳いでいる。白と少しの紫を基調とした分厚い甲殻を、頭部から背中にかけて携えたそいつは、体長は1 [m]近く、前肢の鋏はあのアジの一匹なら事も無さげに掴めそうな程巨大で厳めしい。ロブスターはその自慢の鋏を使って、回遊中のアジの群れに急襲を仕掛けた。つい先ほどまで、竜巻状のカールを描きながら一糸乱れぬ編隊飛行の様な泳ぎを見せていた魚群は、途端に散り散りになった。その様な状況下では、当然群れの大勢からはぐれたり、弾き出されたりする個体が現れる。そんな悲運を背負った者が喰われるのは必然の理だ。ロブスターの鋏に捕らわれた個体はビチビチと身体を左右に揺らし抵抗を試みているが、その甲斐も虚しく生きたまま身を引き千切られながら貪り喰われていった。その一部始終を見た俺はハッとさせられた。島から大分距離を稼げたために、半分くらいもう助かった気でいたが、海中も危険だという事を嫌という程認識させられた。自分も一度この下に落ちれば、あのロブスターを含む様々な生物に襲われないとも限らないからだ。俺は海の生物観察を切り上げ、気を引き締めつつ、このいかだに万ヶ一が無いよう周囲の様子に気を配るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからどれ程の距離を進んだのだろうか。振り返ればもう陸地は完全に見えなくなっていた。さて、これからどれ程の間この絶海が続くのかは分からない。数日かも知れないし、数週間、数ヶ月かも知れない。いずれにせよ、これまでで最も過酷な旅路になる事は間違いない。だが、そうであったとしても、再び生きて家族の元に顔を出すためには、それを乗り越えなければならない。頑張れ!勇気を出せ、俺!そう自分に喝を入れて、より一層気を引き締める。さあ、旅はここからが本番だ!そう思った矢先の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の目の前に行く手を阻む「壁」が顕れたのは。




 今回初登場したモンスター・環境生物はキレアジ、マンボウ、シラヌイカ、ハレツアロワナ、キングロブスタです。マンボウは実はモンスター扱い(3Gの攻略本で確認可能)で、漁獲モリというアイテムを使って止めを刺すことで、剥ぎ取りが出来ます。(確か増強剤が取れた気がする)3および3Gの村長の息子による水中戦のチュートリアルの相手でもありました。

 
 キングロブスタは、ゲーム内には一切登場せず、設定にのみ存在します。ただ、ゲーム内には「エビの小殻」といった素材のみが登場します。そのため、本小説で登場するキングロブスタは、テキストの説明を基に想像した姿で描かれています。素材の入手方法はガノトトスやラギアクルス(Xシリーズのみ)のクエスト報酬や剥ぎ取りからです。キングロブスタシリーズという防具を作成できます。



 次回、”モンスターのキモ”
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