モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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Version7.3:安全なる脱出路を求めて

 有り得ない!俺は眼前に聳え立つ透明な「光の壁」にただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。辺り一面、水平線上の全体を覆うように鎮座するそれは、海底から雲の上まで天高く伸びている。その様は、かの万里の長城を彷彿とさせる。壁の表面には細く白い光の線の様な物が浮かんでおり、潰れたハニカムの様な歪な模様を描いている。壁の向こうにも大海原の景色は続いている。ということは、きっとここを越える手段が何かあるに違いない。そう結論付けた俺は、取り敢えず試しに壁を殴ってみる。しかしながら、全力で殴っても何も手応えを感じられない。痛みも無ければ、何かが手に触れている感触すらも無い。それにもかかわらず、手は壁より向こう側に進まない。見た事も聞いたことも無い現象を目の前にして俺は辟易してしまう。それと同時に動悸が激しくなるのを感じる。出られないかも知れない。そんな焦燥感が胸の内から喉元目掛けて込み上がって来るのを感じる。ここに至るまでにやってきたことすべてが無駄だったのか?俺は一生、こんな魔境に囚われ続けるのか?否定的な感情は一度脳裏から溢れ出せば、堰き止めることは難しい。段々と思考が低下していく。このままでは不味いと警告する理性は鳴りを潜め、俺は湧き出し続ける感情の渦に身を委ねることしか出来なかった。そして、俺は何を思ったのか、いかだを全速力で進めて壁に対して突撃を敢行した。だが、それでも先程殴った時と結果は変わらず、壁には何の変化も無ければ、いかだにも特に何もない。もう完全にお手上げだ。俺の脳みそは完全にショートして、ただぼっとその場に立ち続けるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、どれ程の時間が経過したのかは分からない。幸いなことに時間は俺の短絡した思考回路を幾分か治療してくれた。そんな俺の頭の中に妙案が降り立ってきた。それは壁に切れ目があるのではないかという考えだ。思えば、俺は島の外から連れ込まれた存在だ。だからこそ、連れ込まれる際には必然的に何らかの手段であの壁を越えたはずなのだ。実際にあの壁の向こうには海が広がっているのが確認出来る。となれば、何処かに壁の切れ目があったり、壁自体を制御する装置があったりするかもしれない。それらを見つけることが出来れば、この先へ進むことが出来る。水を得た魚の様な心持ちになった俺は早速実行に移す。いかだを壁に密着させ、俺はその上から壁に手を触れながら、壁沿いにいかだをゆっくりと進行させる。

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらいの距離を進んだのだろうか。何も無い大海原。景色の変化など殆ど無い。それに加えて、壁も見た目や感触がずっと一様なため、特に目ぼしい要素を発見できた訳ではない。期待が大きかった分だけ、それに応じて何も成果が得られない時の落胆や、早く何か見つけなければという焦りが重くのしかかってくる。もう少し、きっともう少し進めば出口に辿り着けるはずだ。俺は自分に気休めを言い聞かせ、なんとか発破を掛けようとする。が、それも長く続くはずは無く、ついに限界が訪れてしまう。俺はいかだの上に力なくへたり込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 その時だった。少し離れた場所からだろうか、甲高く、そして反響したように周囲に響き渡る鳴き声?の様な音がこちらの進行方向から聴こえたのだ。その音は、まるで楽器を奏でたかのような美しく、秩序だったメロディーだ。鳴き声と言うよりは、歌声と表現する方が適切かも知れない。その旋律は、雄大で、どこか始まりを思わせる様な勇ましさを含んだ一つの楽曲だった。前に進むための活力を少しだけ貰えた気がする。だが、同時に一つの葛藤を生むことにも繋がった。この大海原に鳴り響く歌声は、精霊・ローレライを彷彿とさせるのだ。ローレライはドイツに伝わる伝承で、美しい歌声をした女性が船頭を誘惑し、それに魅せられた船は河の渦の中に連れ去られてしまうというものだ。この歌声がその伝承と同じ質の物であるのかは分からないが、それでもこの向こうに何かがいることは間違いない。もしそれが、万が一、モンスターによるものだった場合、取り返しの付かない事態を招くのは想像に難くない。しかし、ここで躊躇してしまうと脱出路をいつまで経っても見出せない。そのジレンマが俺の内面を大きく揺さぶる。駄目だ。功を焦り過ぎるのは良くない。一旦は、安全マージンを取るべきだ。ここは、中間を採って声が聴こえなくなるまでこの場で待機して、それから何も無いようなら再び進みだそう。そう、決心が付いたのも束の間、今度は周囲の状況が目まぐるしく動き出したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳴り響く美しい歌声は一瞬にして、断末魔とも考えられる禍々しい呻き声に様変わりしたのだ。そして、その声が途絶えた直後、今度は猛獣の様な野太く、荒々しい鳴き声が周囲に響き渡ったのだ。それと同時にこれまで穏やかだった水面が小刻みに、だが激しく揺れ始めた。水面下に目をやると、大量の魚たちが慌ただしく声と反対の方向へ向かって逃げまどっている。その集団の中には先程魚を捕食していたロブスター、キングロブスタと同じ種類と思われる生物も含まれていた。あれが逃げ出しているということは、雄叫びの主は捕食者すらも脅かす存在だということに他ならないだろう。俺はすぐさまいかだを発進させる。だが、海面の揺れが大きく、いかだの進行方向を上手く制御する事が出来ない。そのため、奇麗に直進する事は無く、左右に大きく揺れている。それではこちらが求める速力など、当然出すことは不可能だ。背後からは巨大な何かが水中を高速で蠢く影が迫っている。もう俺には一刻の猶予さえ無い。頼む!どうにかして撒いてくれ!もはや俺には祈ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、ここは大自然。残酷な事に、俺の祈りなど我関せずといった態度で着実にこちらに迫ってくる。何かが崩れ去る時というのは、往々にして一瞬の出来事である事が多い。どうやら俺の努力の結晶についても、その例外ではなかったらしい。バチバチバチッ!と雷が降り注いだ様な轟音が鳴り響く。それと同じタイミングでいかだに高速の物体が衝突し、俺のいかだは四散した。積荷は無残にも海の底へと沈んでいった。俺はその際の衝撃で、跳ね飛ばされ、海に落下した。水に落ちるのは案外大きな痛みを伴うもので、水面に打ち付けられた背中全体に金槌で殴られた様な鈍い痛みが走る。俺は水中特有のぼやけた視界の中、なんとかこの異変の張本人であろう存在を視界に捉えた。俺の目に映ったのは、巨大なシーサーペントを想起させる蒼い怪獣だった。その怪獣は蜷局を巻くようにして身体を丸めている。そして、そして、次の瞬間には大きな唸り声を上げ、奴の身体の周囲に無数の雷を発生させたのだ。その範囲は半径数十メートルはあるであろう、一つの生物が干渉するには余りにも広すぎるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 奴が電撃を放った瞬間、全身に焼ける様な途轍もない激痛が駆け巡った。俺は感電しているのだろう。身体が痙攣して何も言う事を聞かない。動け動けといくら思っても、俺の手足は一切従ってはくれない。もどかしさと無力感が最期に俺の心を支配する。周囲では、あの電撃をもろにくらったであろう数多の魚たちがひっくり返り、息絶えて水面へと浮上している。視界がクリアではないため、全体像は不明だが、その朧げな認識の中でも分かる事はある。あれには、あのアンジャナフやリオレイアですら鼻で笑えるレベルの威圧感と、それを裏付ける圧倒的な能力がある。ああ、間違いない、あの怪獣こそがこの海の王たる者なのだろう。結局俺には、あの怪獣からも、この島からも逃れることなど初めから不可能だったんだ。俺は未だ底知れぬ圧倒的な存在への無力感と、努力の総てを否定された喪失感に苛まれながら、仄暗い海の底へと沈んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

You were killed by a Lagiacrus.

 




 本編で出て来た「光の壁」はARKのワールドの端にあるアレです。平たく言えば他のゲームで言う「見えない壁」に相当します。ですが、この壁ARKにとっては滅茶苦茶重要な要素だったりしますが、その説明はまたの機会に。


 歌声の主はMHRiseで登場した海竜種「イソネミクニ」です。実際にゲーム中でもフィールドで歌う姿が確認できます。その時の歌声はそのフィールドの汎用BGMのフレーズが使われているようです。個人的には、この作品に登場するイソネミクニにはARKのメインテーマを唄って欲しいなと思っていたりします。(笑)


 そして、最後は大海の王こと、海竜「ラギアクルス」です。2009年発売のMH3のメインモンスターにして、最初の海竜種の一匹です。初登場作品では、最序盤の採取クエストで突然乱入してきて多くのハンターにトラウマを与えました。水中がメインとなる生態との兼ね合いで登場作品は少ないですが、今でも復活希望が多い人気モンスターです。
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