モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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Version15.2:オベリスクへ

 昼下がり、俺たちは拠点近くの赤いオベリスクへ向かって歩みを進めていた。今日は早朝から急いで作業を開始した。その甲斐あってか、お天道様が天辺に登りきるまでには家の周りをスパイクウォールで堅める事が出来た。一先ず、最低限ながら拠点を維持する体制は整った。そのため、二人が兼ねてから調査したがっていたオベリスクへと赴くことになったのだ。俺は最初に見つけた時からどうも怖くて近付く気になれなかったが、想像していたように接近しただけで撃ち抜かれる事態は起こらなかった。一旦は安心だ。

 

 

 

 オベリスクに近付くごとにその威容は増してゆく。オベリスクは、周囲より盛り上がった浮島とも呼べる場所の真上にある。幸い、岩が形作る細い通路があり、歩いて登ることが出来そうだ。近くにいる生物は翼竜のメルノスやケルビなど、大人しい生物ばかりで、こちらに危害を加える者はいない。道中は地味に勾配がきつく、燦々と照らす陽光の存在も相まって、汗が止まらない。

 

 

 

 いつも遠目からしか見ていなかったオベリスクは、やはり間近で見ると本当にデカい。その一言に尽きる。東京の高層ビルなんかより余程大規模だ。その頂上は頭を目一杯振り上げても、オベリスクの麓からは視認する事はできない。そんな構造物が当然の様に宙に浮いているのだから、到底この世の物とは思えない異端な様相を呈している。

 

 

 

 

 オベリスクの底部には金属製と思われる円形の床と、天上から光線が降り注ぐ菱形の柱の様な構造物がその中心に位置している。それらが確認できる距離になったのと同時に、連れてきた導蟲の放つ光の色が本来の黄緑色から鮮やかな青色に変わっていた。人工物に近付いたから、という理由ではなさそうだ。過去に導蟲に無機物の石をマーキングした際には通常と変わらない色のままだった。こんな現象が起きたのは今回が正真正銘初めてだ。これまでの挙動からして、有機物や生物由来の物質をマーキングすると黄緑色に、無機物の場合には青色になる、といった様な単純なメカニズムという訳ではないと考えられる。俺はその旨を二人に話した。

 

 

 

 二人ともこの導蟲の変化についてはこの場では結論を出せないとのことだった。もっと詳細に条件を絞って実験を行わなければ確実な事は分からないそうだ。結局、この件については一度考えるのは保留しようという流れになった。その時だった。青く変化した導蟲たちがある一箇所に集まっていた。そこは、オベリスク下の床だった。ターミナルとでも表現しようか。導蟲が集っている場所だけではない、よく見るとターミナル全体にカビ、なのか何かの胞子なのかは分からないが、白い粉体がこびり付いており、覆っている。恐らく導蟲はこれに反応したのだろう。俺はこの光景を見て、全身がむず痒くなるのを感じた。俺自身は潔癖ではないが、流石にこれだけの量のカビらしき物を眼の前にすると、どうしても竦み上がってしまう。

 

 

 近付くのも憚られる惨状が眼下に広がっているにも関わらず、隆翔と秀夫は白い物体を間近で観察している。理系のフィールドワークにおける胆力は目を見張るものがある。俺一人なら即効で諦めて逃げ帰っていただろう。やはり、あの二人は頼もしい。だが、二人にばかり頼ってはいられない。俺は意を決して白カビと思しき物体の塊へと足を踏み入れた。

 

 

 「何か分かりそうか?手伝える事はあるか?」

 

 

 俺は隆翔に問いかけた。すると、隆翔は茶色がかった黄色い気持ち悪いイボ状の塊を指差して言った。

 

 

 「二人とも、これを見てくれ。これは恐らく微生物の塊だと考えられる。そして、奇妙なことにこの微生物と白カビはお互いに絡み合う様に自生しているんだ。もしかすると、共生関係にあるのかも知れない。」

 

 

 微生物ということは、カビだけに飽き足らず菌の塊すらもターミナルに貼り付いていたと言う事か。俺は思わず背筋がゾッとした。しかし、ここまで管理が行き届いていない様子ならば、本当にこの島に管理人的な存在が不在である可能性もあるのか。そんな事を考えていると、秀夫が隆翔の発言に対して疑問を挺した。

 

 

 「バクテリアはまだ分かるけど、この環境でカビって生存出来るものなのかな?見たところ、この辺は日当たりが悪い訳ではないし、風通しも良い。そんな場所で生き永らえられるとは思えないけど。」

 

 

 確かにそう言われると疑問に思うのも無理はない。一般的なイメージだと、カビはもっと暗くてジメジメとした場所に生えそうなものだ。

 

 

 「飽くまでも仮説で、現状では碌な検証も出来ないから断言は出来ないが…」

 

 

 隆翔はそう前置きをしてから、続けた。

 

 

 「この微生物と白カビは共生関係にある可能性が高い。もしかすると、微生物側から何らかの働きかけをすることで、カビにとって厳しい環境でも生きられる様になっているのかも知れない。あと、これはまた別の話だが、こういった生物が自ら厳しい環境に行くとは考えにくいんだ。邪推ではあるが、人間もしくは、微生物や胞子が付着した生物がバラ撒いたみたいなこともあるかもしれない。」

 

 

 隆翔の話を聞いて、カビを撒く事が出来そうな生物に心当たりが生まれた。

 

 

 「そういえば、カビと共生している生き物なら前に出会ってるんだ。カモシワラシっていう背中の毛にカビが付いてるウサギがいたんだけど、そいつのカビも白かったんだ。でも、このカビより色が薄かったからもしかすると別種っていう線もあるけど。」

 

 

 そんな話をしていると、導蟲が下の海岸に向かってまたもや飛び去って行った。そして、今度は一見何の変哲も無い砂浜の上に集まっていた。導蟲が行く先には何かがある。俺たちは一度オベリスクから離れ、急いで導蟲を追った。しかしなから、その場所の周囲には特段変わった物は何もない。地面の色や落ちている物も周辺と代わり映えしない。おかしいな。いつもの流れであれば、こいつらが集まる場所にはマーキングした物と同質の物があるはずなのだが、今回に限ってはそれが一切見て取れない。ふと、思った事がある。もしや、この下に何か有る可能性はある。俺はその旨を二人に伝えてから導蟲の真下の地面を掘り始めた。

 

 

 

 十数センチ程砂を掻き分けると、なにやら肉食恐竜の頭骨が埋まっているのを発見した。至る所に先程隆翔が見つけた微生物の塊と同じイボ状の物体が付着している。保存状態は明らかによろしくない。あのアンジャナフの頭部より一回り程大きい。俺だけの力では引き揚げられそうにないので、隆翔に手伝って貰いながら、壊さないよう砂を払いつつ下の方から丁寧に持ち上げた。なんとか頭骨を無事に地上に引っ張り上げる事が出来た。頭骨の形状は扁平で、よく見るティラノサウルスの標本と比較して、上下の幅が小さく細長い印象を受ける。それに、鼻の辺りがやたらゴツゴツとしているし、頬骨も出張っているように思える。骨には先程の微生物の塊だけでなく、あの白カビまでもがへばり付いている。あれらの発生源と何か関係があるのだろうか?隆翔に何か分かった事がないか確かめる。

 

 

 

 「これは化石にはなってないな。白骨化した恐竜の死体だろう。身体の他の部分が周囲に無いあたり、少なくとも死後数十年から百年程度は経過してそうだ。頭骨の形状はギガノトサウルス類に酷似している、というより復元された骨格モデルのほぼそのままだ。ただ、既存の種よりも1.5倍から2倍程度大きい。ざっと計算した感じ、全身の大きさは大型の竜脚類に匹敵しそうだ。これは肉食恐竜の常識を覆す大発見になりそうだ。」

 

 

 

 そう語る隆翔はどこか嬉しそうだった。それも無理はない。この事実を知っているのは俺たちだけと言っても過言ではないからな。そんな現場に立ち会えるなど普通に生活していた頃では考えられない。秀夫も目を輝かせてギガノトサウルスの頭骨に釘付けになっている。

 

 

 誰も貴重な資料を放棄する事は望んでいない。その後、俺たちはこの場で木を伐採して、通気孔を設けた大きめの収納ボックスを作って、その中に安置しておくことにした。帰りに回収しようという算段だ。一応気休め程度ではあるが、虫除けのために骨が入った箱にしばらくの間たき火の煙を当てておいた。そして、なるべく他の生物に気付かれないようにするために、岩の陰に隠しておいた。

 

 

 現段階ではカビの詳細は分からないが、あの黄色いバクテリアは、生物の分解を行うタイプの種で、ギガノトサウルスは死後それによって分解されたのではないかという結論になってこの話は一旦終わらせた。そして、本命のオベリスク調査を再開する運びとなった。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 それから、俺たちは再びオベリスクのターミナルへと戻った。先程は調べられなかった中心の柱を重点的に調査した。その最上部は、インプラントと同じ菱形になっており、意匠も似ている。真ん中の赤い小さな菱形の出っ張りを押してみるが、特に何も起こらない。次はターミナルの床を確認した。すると、柱の周りに変わった形の窪みが四つ配置されているのが確認出来た。シンプルな楕円形の物もあれば、トゲ付きのバランスボールの様な珍妙な形状の物もある。何かを嵌めるスロットの様な物なのだろうか?だとすれば、その何かを探せばこのオベリスクの機能を知る事が出来るのではないか。やはり、そういった面でも島の探索は必須事項であるらしい。

 

 

 「二人とも、見て!」

 

 

 秀夫が驚いた様子で呼びかけきた。急いで秀夫の方を向くと、柱の上にインプラントから開けるインベントリ画面の様なホログラムが浮かんでいた。秀夫曰く、柱の一番上にある赤い菱形に自分のインプラントをかざしたら突如出現したらしい。

 

 

 俺たちはそのホログラムを眺めていた。そこには、見慣れないアイコンが一つだけポツんとあった。赤い石像の様な造形のアイコンの上には「Engram/Create Dragon(Alpha) Portal」と書かれていた。エングラムということは、ここでだけ作れる特別な物なのだろうか?それにしてはドラゴンやポータルなどと凡そ製作する物の名前とは思えない文字列が並んでいるのが気になるが。結局のところ、真実は動かしてみないと分からないというわけか。さらにホログラムをよく見てみると、アイコンの右隣に「Crafting Requirements」と書かれた欄を発見した。意味合いとしては、例のドラゴンポータルとやらを生み出すのに必要な材料と考えて間違いないだろう。

 

 

 その見出しの下には材料と思われる物品の一覧が示されていた。下から四つの物に関してはご丁寧にアイコン付きで表示されていたので、一番に目に付いた。これらは共通して「アーティファクト」と呼ばれるようだ。アーティファクトには、それぞれに名前が付いている様で、「免疫」や「強者」などと云った名称が記されている。加えて、免疫は楕円形の窪みに強者はバランスボール型の窪みにそれぞれ嵌りそうな形のアイコンをしている。そこから察するに、アーティファクトはあの窪みに挿入して使う鍵の様な物なのだろう。これらは島を探索しているうちに見つかるのだろうか?これらの存在は頭の隅に置いておくのが良さそうだ。ふとした場所やタイミングいきなり発見するという事も有り得そうだし。

 

 

 

 アーティファクトの欄の上には追加で必要となるであろう材料が書かれていた。「リオレウスの尻尾」、「エスピナスの棘」、「ナルガクルガの刃翼」といずれもまだ見ぬモンスターと思しき存在の名前と身体の部位と思われる名前が列挙されていた。オベリスクの起動にはそれらも併せて取ってくる必要があるようだ。そして、その最後には目を疑う単語が佇んでいる。「ラギアクルスの背電殻」と。

 

 

 

 その瞬間、目の前の景色が揺らぎ始めた。余りにも果てしない道のりに思わず卒倒しかけてしまった。目の前の小さな文字列は残酷な事実を淡々とこちらに告げている。それは、すなわちあの化け物を倒さなければ前に進むのは許されないという事に他ならない。やつの姿を見たのは死に際の一瞬だけだったので、その全貌を把握している訳ではないが、その実力に関しては疑い様が無い。はっきり言って、ラギアクルスに勝利するビジョンが見えない。それを確立出来ない限り、俺たちがこの島の真相に辿り着く事は永遠に無い。

 

 

 他の名前についてもあいつと同等の実力を持ったモンスターである確率が高い。モンスターを避けながら進めば良いとばかり考えていたが、それだけで乗り越えられる程この島は俺たちに甘くはないらしい。待つ者の言っていた事の意味が理解出来た気がする。彼女のモンスターを手中に収めろというアドバイスは決して的外れな物ではなかった。むしろ、それしかあの化け物共を制する方法は無いとも言える。俺たちを取り巻く現実の厳しさに俺は頭を抱えてしまった。

 

 

 

 あの後、秀夫たちがホログラムをさらに事細かに調べてくれた。それによると、ドラゴンポータル以外にも二つのエングラムがここでのみ使えるらしい。その二つとは、「低温ポッド」と「低温冷蔵庫」という物品だ。どちらのアイコンも近未来的な機器を彷彿とさせるデザインであり、いずれも馴染みのある見た目ではない。加えて文章による説明も見当たらないため、結局この二種が何に使う品なのかは分からない。

 

 

 

 南中していた太陽は、いつの間にか西に傾き始めている。オベリスクについては現状で行える調査は粗方やり尽くした。青く変化した導蟲など不明な箇所は多かったものの、オベリスクからのみ生産出来る物がある事や、アーティファクトの存在、モンスター討伐の必要性など今後行うべきことがより鮮明になる等収穫も大きかった。日が暮れない内に、置いてきたギガノトサウルスの頭骨を回収して拠点に帰ろう。

 

 

 俺たち三人が踵を返した矢先の出来事だった。




 
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