モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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 以前お話しした設定集の方を投稿させていただきました。よろしければ、そちらも併せてご確認ください。また、設定集の内容は物語の進行状況に合わせて随時更新していく予定ですので、是非お見逃しなく!


Version15.6:環境生物

 それから、俺たち四人はこれからの具体的な話を進めていた。

 

 

 「クルペッコには気を付けた方がいいニャ。一匹だとそこまで強くないけど、危険を感じる色んなモンスターの声真似をして呼び寄せるからあんまり刺激しちゃダメなんだニャ。今回はリオレイアで済んだから良かったものの、呼ばれる相手によってはこの一帯の生物全部が壊滅しててもおかしくはなかったニャ。」

 

 

 

 なるほど、奴が去り際にリオレイアに似た声を上げたのはそういった理由によるものなのか。ある意味では最も質の悪いモンスターだ。仮に拠点の近くに現れたとして、下手に追い払おうとすれば、より力を持ったモンスターを呼ばれて更なる被害を生む可能性があると。かと言って、放置するのもそれはそれでリスクがある。しかも、何が来たとしても自分は飛んで逃げられるというのも厄介さに拍車を掛けている様にも感じる。今回の件に関しても、クルペッコはリオレイアが飛来した時には既に姿を消していた。その所為で、後からやってきたリオレイアは俺たちが縄張りを荒らしたと見做して熾烈な攻撃を繰り出してきた訳だ。俺で例えるなら遠くから三人の悲鳴が聞こえてきて、血相を変えて駆けつけたというシチュエーションだろう。生物の防衛本能すら逆手にとって利用するとは、ある意味ではこの島の生物らしい末恐ろしい生態だ。

 

 

 

 しかし、リオレイアで良かったとすら言わしめるという事は、ジンオウガ辺りと同等のモンスターが来る場合もあるという事の裏返しでもある。今の俺たちがそれを喰らえばまた全てを失ってしまう。奴の動向には注意しなければならない。

 

 

 

 「話は変わるんだが、オリバーは"アーティファクト"と呼ばれる物に心当たりはないか?多分黒い金属か何かで出来た置物みたいな見た目をした物だ。どうやらあのオベリスクを起動するのに必要みたいなんだ。」

 

 

 

 今度は隆翔が口を開いた。オベリスクの端末に表示されていたアイコンから外見とターミナルの窪みに嵌めて使用する物という事だけは分かったが、それがどこにあるのか等の情報は無かった。この島での生活が長いオリバーなら何か知っている可能性はある。

 

 

 

 「申し訳ないけど、それらしい物は聞いたこと無いニャ。それと、あのデッカイ塔のことは何も分からないニャ。ボクが前にいた所でも色んな噂は流れてたけど、本当のことは何も分からなかったニャ。みんな神聖な物として敬っていたから、そもそも近付く人がいなかったニャ。」

 

 

 

 

 現地人ならではの事情があるという訳か。となれば、アーティファクトはこの地を知り尽くした現地人ですら近寄らない秘境か、相当に危険な場所にある可能性が高い。いずれにせよ、体勢を整えてからでないと発見は難しいだろう。そうだ、インプラントについては現地人はどう考えているのだろうか?聞いてみるか。

 

 

 

 「そういえば、左腕のインプラントは住人全員に植え付けられていたのか?それに、何か気付いた事とか知っていることがったら教えて欲しい。」

 

 

 

 「実は集落でこれがついてたのはボクだけだったんだニャ。他のみんなには無かったニャ。それに、ボクも皆さんと一緒で気付いたらこの島にいたから、いつから埋め込まれてるのかは分からないニャ。あと、押したらよく分からない光の模様が空に映るのは知っていたけど、皆さんに教えてもらうまで便利な機能があることも知らなかったニャ。」

 

 

 

 

 オリバーも俺たちと同じだったという事か。聞く所によると、この島の獣人たちは自然に根差した生活をしていたらしい。だから、俺たちには当たり前の携帯端末やタブレット端末の様な概念は当然存在しないと言える。そのためか、ホログラムの画面が出現しても操作をするという発想自体が生まれなかったらしい。それは仕方の無い事だろう。ただ、これから生活を共にしていくうえではこうしたギャップはある程度埋めていかなければ、いずれ立ち行かなくなるだろう。当然、俺たちもオリバーが知っている自然界での常識や身の振り方なんかを覚えていかないといけない。

 

 

 

 

 「オリバーには質問ばっかりで悪いんだけどさ、前から僕たちの間では動物を捕まえて戦力にしようっていう話が出てるんだけど、どの程度の大きさの生物までなら出来そうか教えて欲しいんだ。」

 

 

 

 

 今度は秀夫が投げかけた。それは俺も気になっていた事だ。モンスターに対抗できる手段は現状の設備や装備の質を考慮するとその位しか思い付かない。だからこそ、どの程度の水準の生き物までテイムできるのかによって俺たちの行く末が決まると言っても過言ではない。俺は秀夫の膝の上に乗るオリバーの方をじっと見つめた。

 

 

 

 

 「一番安直なのは"環境生物"、あ、小動物のことだニャ。を捕まえるのがいいニャ。大人しい子たちが多いし、大体がエサをあげたらすぐに懐いてくれるニャ。そのうえ大型モンスターにも有効な能力を持った子ばかりだニャ。そういう意味で適しているのは、ほとんどのモンスターを一発で眠らせたり痺れさせたりできるガスガエルや、これまたほとんどのモンスターの目を眩ませられる光蟲、電気で拘束できる雷光虫あたりニャ。これだけいればほとんどのモンスターから逃げられるニャ。」

 

 

 

 

 思い出した。確か、前に俺はネムリガスガエルに結構な時間眠らされたことがある。あの時は、これがモンスターにも効いたらな、などと考えていたが、どうやら現実の物になるらしい。それに、相手を痺れさせる種類もいるようだ。こちらも、こちらで眠りと同程度かそれ以上に有能な生物であるのは間違いない。光蟲には間一髪の危機を救ってもらったことがあるからその有用性は十分に理解できる。それによって、一度は九死に一生を得るばかりか、一匹ではあるがランポスすらも葬ることが出来た。まあ、その結果が原因で、後に酷い目に遭ってしまったが。だが、問題は雷光虫だ。雷光虫と言えば、俺の中ではジンオウガが大量に引き連れていた時のイメージしかない。あの時の放電の勢いは、凄まじいなんて言葉では収まり切れない程の規模観だった。それ故、俺たちの手で御しきれるのか不安があるのだ。前に秀夫と採りに行く約束をしておいて灘ではあるが。

 

 

 

 

 「雷光虫ってジンオウガが引き連れていた奴だよな?利用するうえで危なくはないのか?」

 

 

 

 

 俺の不安気な表情を汲み取ったのか、オリバーはどこかおどけた調子で話し始める。

 

 

 

 

 「ああ、それなら大丈夫ニャ。ジンオウガに引き連れらている子たちは共生の影響で活性化してて普通のよりも強い電気が扱えるのにゃ。確か集落のアイルー達は"超電雷光虫"なんて呼び方で呼んでたにゃ。その辺にいるタイプの個体はあんな雷みたいな大きい電気は扱えないニャ。だから、心配いらないニャ。といっても、電気を通す容器に入れてモンスターの足元に設置すれば、数十秒の間動きを止められるニャ。それに、この島に住むほぼ全てのモンスターに有効なのもポイント高いニャ。」

 

 

 

 

 同じ雷光虫の中にも違いがあるのか。俺の様な一朝一夕の了見では絶対に気付き得ない点だ。しかも、それが本当なら、量産できた時の安全性は飛躍的に向上する。だが、それだけでは不十分だ。俺は覚えている。オベリスクを起動するために必要な物品の中にはモンスターを倒さなければ入手しえない物が多く示されていたことを。そのためには、環境生物よりも大きく、力を持つ生物の存在が必須だ。

 

 

 

 

 「それから、もっと大きな生物、例えば人が乗れるサイズの奴に何か有用なのはいないか?大型モンスターないしは、それを相手にしても戦闘を行える生物がいるなら是非教えて欲しい。」

 

 

 

 

 オリバーは腕を組んで、眉を顰めながら思慮に耽っていた。沈黙はしばし続く。俺は思わず唾を飲み込んでしまう。その音すらもこの部屋に響き渡る。二人も緊張の色を隠せない様子だ。そして、オリバーは目を見開くと同時に語り始めた。

 

 

 

 

 「すいませんニャ。ボクは大型モンスターを捕まえることをこれまで考えたことも無かったからどうとも言えないニャ。普通に考えれば、不可能だと思うニャ。でも、物凄い奇跡が起きて出来るかも知れない、こればかりは実際にやってみないとなんとも言えないニャ。ただ、"人が乗れる"という条件を満たすだけなら案外難しくないニャ。アプトノスは踏破性が高くて荷物をたくさん持てるニャ。加えて、大型モンスターの気配に敏感で危険が迫ればすぐに教えてくれるニャ。メルノスはヒト一人を載せて軽く空を飛べるニャ。この島の空は決して安全とは言えないけど、それでも奥地を目指すなら間違いなく必須だニャ。あと、もう少し島の奥に行かないと生息してないけど、ガルクっていう人が乗っても大丈夫なイヌのモンスターがいるニャ。走るのがすごく速くて、壁も登れて、それでいて戦闘力もランポスの群れと渡り合える程に高いニャ。ボクも集落にいた時はお世話になっていたから間違い無いニャ。」

 

 

 

 

 アプトノスに、メルノスか、アプトノスについては想像の通りだが、メルノスというのは意外な選択肢だと感じた。前に恐竜の映画を見ていた時に弟から教えてもらったことがある。翼竜は人間を持ち上げられるほど力持ちではないと。その先入観があったためか、メルノスを見ても、乗って空を飛ぼうなどという発想にはならなかった。俺よりもそういった方面に詳しい秀夫や隆翔なら猶更だ。だが、この島のはそんな常識が通用しない程に、強力らしい。空から探索できるとなると、向かえる場所の自由度はこれまでとは段違いに上がる。さらに、上空からならこの島の全貌が見渡せるだろうし、運が良ければアーティファクトがある場所を見つけられる可能性もある。見た事は無いが、ガルクという生物の話も中々に魅力的だ。ランポスの集団と戦えるのなら十分に護衛として機能する。それでいて、移動の足としても優秀だと言うのだから文句のつけようが無い。彼らの力があれば、俺たちの生活や探索は確実に今よりも数歩以上進展させられる。ならば、当面の目標は彼らのテイムという事で良いだろう。そのためには、拠点を強化して、飼育のためのスペースや設備を整備するのが急務だ。

 

 

 

 

 「たくさんの知識を提供してくれてありがとう、オリバー。俺たちだけでは知り得ないことばかりで、どれだけ感謝してもし足りない。改めて、ありがとう。それで、明日からは一先ずアプトノスやメルノスのテイムを目標として活動していこうと思う。取り敢えず、明日は拠点の改築と外周に設置してあるスパイクウォールの拡張を行い。異論がある人はいないか?」

 

 

 

 

 俺の提案に、皆首を縦に振ってくれた。夜も更けて来たので、今日の所は切り上げよう。まだまだ話し合いたいことは山ほどあるが、今は明日の方針を決めるだけでも良しとしよう。

 

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 それから、十日が経過した。俺たちの拠点、みすぼらしい豆腐型の藁小屋は木製の見事なログハウスへと変貌を遂げた。かつて俺が建築した木製の小屋よりも広く、そして耐久性も向上した。土台を5×4の面積で配置し、高さは壁2枚分だ。壁2枚分と言っても、以前俺が作っていた壁に換算して3枚分の高さがあり、前よりも室内の開放感が増した。これは秀夫がエングラム製の物を基に独自に作り変えたものだ。天井は新たに取得したエングラムである「三角壁」と「傾斜付きの天井」を用いて一般的な家屋と同じ形に作る事が出来た。耐久性についても建材間の接合方法を改善する事で、以前とは見違える程になった。以前は土台と壁、もしくは壁と天井などの接合は繊維から取り出したでんぷん質の接着剤を利用して行っていた。俺の感覚としては、質感が瞬間接着剤に似ているし、雨が降っても外れなかったから、十分な強度を確保できていると思っていたが、秀夫からや隆翔からは改善するよう言われた。二人が言うには、この止め方では回転やせん断、衝撃なんかに弱いから釘やボルトを使用して少しでもそれらへの対策を行うべきだとのことだった。釘で止める事も考えたが、鉄製の物は現状では作れないし、かといって木から作るにも、一本一本削りださなければならず、石を使ってチマチマと木材を使っていた現状では、数百本単位で用意するのは現実的ではなかった。

 

 

 

 

 

 そんな俺たちの元に救世主が現れた。それは、かつて俺が無謀にもいかだ一つで外洋に出た時に発見した魚、「キレアジ」だった。どうやら、あいつらはこの海岸付近の浅瀬にも生息している様で、よく釣り竿にも引っ掛かる。だが、彼らは食材としては絶望的なまでに適さない。ヒレや鱗は非常に硬く、身から外すのが難しい。そのうえ、身には小骨が多く、筋張っているので、食べ難いことこの上ない。だが、そんな彼らには俺たちに光を与える唯一無二の長所があった。それは、彼らの硬すぎるヒレと鱗だ。その硬さゆえに研磨性が異常に高い。この性質を発見したのは秀夫だ。俺がいつものようにキレアジをキャッチアンドリリースしようとした時に待ったを掛けてきた。試したいことがあったらしい。それから数十分後、秀夫は先端が異様に鋭い石槍を持ってきてみせた。それを見た俺は認識を改め、キレアジは逃がさないようにした。その後は、物事が順調に運んだ。既存の石の斧の切れ味が上がり、木の伐採にかかる時間を二、三割減らせ、材料集めの効率は見違えて高くなった。

 

 

 

 

 

 話は戻る。キレアジのヒレの鑢としての有用性に気付けた結果、木釘の量産が現実的なものとなった。石で木材を削っていた時は遅々として進まない作業に退屈していたが、キレアジのヒレを導入してからは、面白い様に作業が進んでいった。俺と、秀夫、オリバーの三人で半日掛かりの作業を敢行した結果、必要な本数の木釘を揃えることが出来た。それにより、各建材を接着と釘の二種類で接合し、接合部分の強度を高められた。さらに、建物の安定性を高める要因がある。それは、柱と梁の導入だ。これは秀夫が一人で考えたもので、「木の柱」というエングラムから作製した建材を用いて実現された。このエングラムは俺も以前に習得していたが、イマイチどう使って良いか分からず、使わず仕舞いでいた。これは秀夫の凄い所なのだが、柱を横方向に倒して使う事を思い付いたのだ。言われてみれば、簡単な事かも知れないが、俺の硬い頭では決して思い付くことは出来なかった。また、柱の配置も工夫されており、生活の邪魔にならない様になっている。これにより、建物内部に柱と梁が適宜設置され、機能の上でも見た目の上でも家がグレードアップした。加えて、採光に関しても考えられており、「木の壁」を基にしたエングラムである「木の窓枠」を各所に配置している。窓は、ガラスなんて高級な物は当然使えず、押し引きして開閉する木の小窓を嵌めて使っている。ちなみに、内部の家具は俺が準備した。全員分のベッドは勿論のこと、「収納ボックス(大)」という大型のタンスを人数分、すり鉢・すりこぎ、食料保存庫、机を用意した。

 

 

 

 

 

 秀夫が用意してくれたのは、家だけでは無かった。家が完成した後、秀夫は離れの一マス小屋を作って何やら一人、作業を始めた。当初は、俺も手伝おうとしたが、「これは秘密だから!」と、頬を膨らませながら言われたので、あえなく引き下がった。その翌日、得意げな顔をした秀夫が、「見てもらいたい物があります!」とホクホク顔で言ってきた。それから、案内されたのは件の一マス小屋、いや今は高さ1.5マス小屋とでも言うべきか、だった。外観は見慣れた豆腐型だが、土台の直上0.5マス分には新たなエングラムである「四分の一壁」を利用して通常の壁の半分の高さが確保されたうえで、さらにその上に一枚の壁が取り付けられている。俺はこの奇妙な構造に怪訝な表情を浮かべながらも、壁と壁の継ぎ目に挿入されるようにして繋ぎ止められたスロープを上り、その先のドアを開いた。中を見た俺は思わず、「おおっ!」と感嘆の声を上げてしまった。なんと、そこにあったのは、木製の和式便器であった。

 

 

 

 「見たとこ、ぼっとん式だけど、出した物はどうなるんだ?」

 

 

 

 秀夫に尋ねると、俺は再び、下に戻された。「それはね」、と言いながら秀夫は徐にこの建物の裏手へ案内した。そこには、一面だけ四分の一壁が貼られていない面が存在した。そこから、内部を覗いてみると、収納ボックス(小)より多少大きめの木箱があった。確か、「堆肥箱」というエングラムがこれと似た形状だった記憶がある。そう考えた瞬間、合点が行った。トイレの穴は堆肥箱に続いていて、自動的に糞尿を貯められる仕組みになっていたのだ。何にせよ、これまでそこら辺で汚物を垂れ流す生活をしていたため、ちゃんとしたトイレがあるというのは、文明が進んだ感じがして良い。俺一人では絶対に作れなかった代物だ。もしかすると俺が、「ちゃんとしたトイレが欲しいな」と独り言ちていたのを知っていたのかも知れない。やっぱり、秀夫にはいつも助けられている。感謝で一杯だ。この後、ぼっとんトイレ特有の臭気問題が発生したのだが、オリバーが対処してくれた。「消臭玉」という水色の粉が固められた物を散布すると、鼻を突く不快な臭いは一瞬にして消えた。この消臭玉、「にが虫」という青いカナブンの様な見た目をした昆虫の腹部から採れるエキスを、乾燥させて粉末化したものが原料らしい。ちなみに、にが虫はリオレイアの毒に侵された俺を治療する際に使用した薬品の材料でもあるらしい。この島に来てから何かと虫に振り回されてきた俺としては少し複雑な気分だ。ちなみに、にが虫はそのまま踊り食いをしてもある程度の解毒効果があるらしく、最悪の場合はそれも止む無しだそうだ。俺は二度と毒を用いた攻撃を喰らわないことを誓った。

 

 

 

 

 

 遡る事数日前、ベリーの採集へ向かった隆翔は、帰って来るなり、「これを見てくれ!」と嬉々とした顔で収穫物を持って来た。最初、何事かと思ったが、すぐにその喜びの理由が分かった。土を被った見慣れない丸い塊と何かの植物の物と思われる二種類の種子が原因だったのだ。種子の方に関しては前に見た事がある。ベリーの採集をしていた時に紛れて茂みから取れることがあったが、それ自体が食べられた物ではなかったために、発見してもスルーしていたのだ。隆翔によると、塊の方はなんとジャガイモの種芋で、他の二つはそれぞれニンジンとトウモロコシの種らしい。俺は自分自身の浅学さに嫌気が差した。だが、脳味噌とは時に現金なもので、先の成果を皮算用して思わず、笑みがこぼれてしまった。普段の食事に不満がある訳ではない。ベリーに魚に肉、文明の利器が存在しない無人島生活であることを鑑みれば、正に破格の質とも言える。食事はこの過酷な島での数少ない楽しみであり、癒しでもある。むしろ、だからこそ、その質がさらに向上するというのは無上の喜びであると言える。これについては、皆大なり小なり同じ考えだったようで、満場一致で栽培をする運びとなった。

 

 

 

 

 

 作物の栽培に関しては隆翔に一任する事となった。俺と秀夫は家の建築で手一杯で、オリバーは元々いた集落に農耕の文化が無かったため、今回は参加しなかった。隆翔は最初、ジャガイモのみを栽培する事にした。この辺りは海に囲まれている。塩分濃度は俺たちの良く知る所と比較すれば低い。淡水魚が普通に生息できていることから、約三分の一程度らしい。一応、塩の濃度的にはスポーツ飲料と同程度であるため、飲用とする分には問題はない。とは言え、塩害を受け作物が駄目になるという可能性は十分に考えられる。そのため、一度に全ての種を消費するのではなく、強い物から順番に試していこうという算段のようだ。そこで、白羽の矢が立ったのが、貧者のパンことジャガイモだ。栄養の乏しい土地でも育ち、さらには外的要因に対しても耐性がある。土壌も肥料も満足に用意できない今の俺たちにはお誂え向きだ。

 

 

 

 

 

 また、隆翔は一先ず海水と塩抜きしていない土を使って栽培を試みるらしい。この品種がどの程度の強さを持っているのかを確かめたいらしい。隆翔が言うには、海岸付近に種芋が自生していたという事は、すなわち塩分への耐性を有している可能性が高いとのことだ。それで育てば、御の字であるし、無理なら無理で、遠く離れた河からの灌漑設備を設けるなど大規模な準備が必要となる。であれば、駄目下でも手っ取り早い方法を真っ先に試すのが吉であると言える。そんなこんなで、小さな菜園が始まった。

 

 

 

 

 

 

 植えたジャガイモの生命力は驚く程高く、種芋を埋めてから2日で小さな二本の芽が出てきた。ちっぽけな一歩ではあったが、俺たちはみんなで大喜びした。煌めく陽の下に揺れる小葉は未だ暗雲が晴れきれない俺たちの元に確かな吉兆の光を齎してくれた。それから、隆翔は確実に育てるために肥料づくりを開始しようとした。いくら少ない栄養で済むと言っても、それが完全にゼロでは身も蓋もない。そこで、先程のトイレが活躍するのだ。ぼっとん式のトイレの下には堆肥箱が仕込まれており、排泄物はそこに落ちる。排泄物が貯まれば、堆肥箱を交換して、水や枯草に藁、魚の骨に小動物の臓物などを入れ、かき混ぜたり、踏んだりして押し固める。

 

 

 

 

 

 通常、堆肥の完成には数ヶ月を要するが、これまた意外な救世主の登場によってなんとそれが一晩で利用できる段階にまで至ってしまった。颯爽と現れたその救世主の名は、「カモシワラシ」、俺がこの島に来て間もない頃から今に至るまで、定期的に食糧として狩っているウサギだ。作業の合間にベリーを採集しに行った俺は、茂みでベリーを漁る奴を発見した。いつもなら護身用に持ち歩いている石槍で狩猟する所だが、その日は気分が違った。これから行うであろうテイムがどういう感覚なのか無性に試したくなったのだ。だが、具体的にどうすれば良いか分からなかったので、一番安直な路線から攻めてみる事にした。俺は適当に水色のアズールベリーを摘み取ってカモシワラシの口元へ運んだ。カモシワラシは首をヒョイヒョイと横に揺らし、つぶらな瞳でこちらを見上げてくる。そして、ベリーを食んだ。すると、喜んだような表情を浮かべながら、こちらへすり寄って来て、追加のベリーをねだるように口をパクパクとしている。今度は、紫色のメジョベリー摘んで、食べさせてあげた。カモシワラシは嬉しそうにピョンピョンとその場でとび跳ねている。どうやら、メジョベリーの方がお好みらしい。それから、俺はダメ押しと言わんばかりにもう一度メジョベリーをカモシワラシの口に運んだ。その瞬間、インプラントが点滅し、「テイム完了」という通知の様な何かが頭の中を駆け巡った。俺はそれに驚いて、身震いしたが、どうやらインプラントの言っている事は正しいようだ。カモシワラシは俺の脚に頬ずりをしているのだ。完全に懐かれている。その豹変具合に多少の違和感を持ちつつも、長居は危険だと判断したため、カモシワラシを抱きかかえ、帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 抱きかかえたカモシワラシは、瞬く間に俺の肩の上に移動し、いつの間にかそこが定位置となった。どうやらお気に入りらしい。食糧にしていた時は、あまりまじまじとは見なかったが、とても可愛らしい。プードルの様なモコモコとした質感のピンク色を基調とした毛並みに、ダラリと垂れた耳、もし日本にいたら間違いなく人気ナンバーワンのペットになっていただろう。鼻がむず痒くならなければなお完璧だ。日本にこいつを持ち帰って繁殖させれば、俺は大金持ちになれるのでは?そんなことを考えながら帰還した俺は、テイムに成功した旨をみんなに報告して、飼育の許可を得た。オリバー曰く、このカモシワラシの毛に生えているカビには薬品の効果を高める効果があるらしい。尤も、原理についてはよく分からないとのことだったが。だが、それを聞いた隆翔は何かピンときたらしく、熱心にカビを採取しては何故か堆肥箱にぶち込んでいた。そして、その翌日には見事な堆肥が完成していたのだ。どうやらあのカビには微生物による発酵を促進する効果があるらしく、それが予想以上の成果を生み出したようだ。ただ、あまりにも急速に反応が進み過ぎた弊害か、堆肥箱を形成する木材もかなりの部分が黒ずみ腐敗が進行したようだ。流石にやり過ぎたようで、今後は少しずつ量を調整しながら入れていくと隆翔は宣言した。まさか、ウサギが畑の王となる日が来ようとは一体誰が予想しただろうか。この子は室内で丁重に飼われる事になった。それに付随して喚起の頻度が上がって当番制が出来てしまったのはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 堆肥を扱う様になった俺たちには新たな致命的な問題が発生した。それは衛生関連の問題だ。汚物を直接扱う以上、病原菌との接触は避けられない。下手をすれば感染症で俺たちが全滅してしまうという最悪の展開も考えられる。その事を相談したら、隆翔がすぐに動いてくれた。手伝って欲しいと言われたので、俺も同行する。隆翔が大量の藁や草をたき火にくべているのを見て、俺は何をしようとしているのか理解できた。隆翔は石鹸を作ろうとしていたのだ。石鹸と言ってもよくイメージされる固形物ではない。液体石鹼だ。草木灰に水を加えて煮汁を作り、漉し取ってからそこに動物由来の油分を混ぜれば、石鹸が出来るのだ。古くは古代エジプトから存在する由緒ある手法だ。脂に関しては、サシミウオを利用する。焼く時に結構な量の油が出るから丁度いい。ちなみに、液体石鹸の保存は運良くクレート、俺がこの島に来た初日に遭遇した未知の投下物から得られたガラス製の瓶を利用している。オリバーにクレートについて聞いてみた所、どうやらあれらは決まった場所に一定の周期で落ちて来るらしく、彼の集落では得られた物は神様からの贈り物として非常に大切に扱われていたそうだ。誘導されている様な気がしてどうにもきな臭い雰囲気を感じない事も無いが、現状俺たちの助けになっている物ではあるので、有難く利用させて頂くとしよう。幸い拠点から徒歩数分で赴ける場所にそのポイントがある様なので、定期的に巡回すれば良いだろう。移動手段が整った暁には、赴ける範囲内で場所を記録して、周回するのもありかも知れない。

 

 

 

 

 

 こうして、俺たちの生活水準は見違えるほどに向上した。まだまだ課題は山積みだし、ここからが正念場だ。これから始まる物語は、俺たちは思いを馳せながら、しばしの休息についた。




 補足ですが、本小説でのモンスターや環境生物の能力はある程度原作に則りますが、必要に応じて拡大解釈する場合がございます。今回に限って言えば、本編で出て来たカモシワラシの能力の用途(堆肥の発酵)は原作・モンスターハンターには無い物です。くれぐれもご注意ください。


 また、今回彼らが製作した「トイレ」と「石鹸」はARKにて同名のエングラムが存在しますが、彼らが独自に考案した別物となっております。ですので、無限に排泄することは出来ませんし、レベルも上がりませんので、悪しからず。
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