モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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Version15.7:Your Survival begins here!

明け方特有の冷たさと爽やかさを含んだ空気に絆されて俺は目を覚ました。みんなまだ寝ている。今日はオリバーの案内の下、アプトノスのテイムを行う予定だ。強力な環境生物の生息地はここから多少離れた所にあるらしい。そのための脚として、まずはこの周辺にも生息しているアプトノスから狙う。オリバーはかつてテイムしていたことがあるらしく、その手法を知っているとのことだ。大人しい気質の相手とは言え、下手を扱けば、踏み潰されてそのままお釈迦になる可能性だって十二分にありうる。それに、あんなに大きな生物を従えるというのは中々想像に難い。その所為もあってか、俺は完全に目が冴えてしまい、再び眠れそうにもない。無性に外の空気を吸いたい気分だ。俺はみんなを起こさない様に、そっと扉を開け、スパイクウォールで囲まれた庭へと繰り出した。

 

 

 今朝は珍しく濃い霧が立ち込めている。視界の一面すべてが真っ白に染まっており、数メートル先すらも見渡すことが出来ない。周囲が全く視認できないというのは、言葉にし辛い妙な不安感を煽るが、それと同時に、日本人としての性なのか深い霧の中に一人佇むというシチュエーションは神隠しを彷彿とさせ、どこか神秘的な印象を受ける。不思議と昂っていた心が落ち着く感じがして、悪くない心地だ。俺は入口の階段に腰掛け、しばしこの静かな時間に身を委ねた。

 

 

 この時彼は気付いていなかった。彼の座る僅か数メートル離れた場所にて、導蟲がほんの一瞬だけ青く明滅した光を放ったことに。真相の手蔓は霞の様に儚く消えた。これは偶然か、はたまた深い森が見せた幻影か。今日も箱舟に異常は無い。

 

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 「アプトノスは木の実を食べさせてあげると懐いてくれるニャ。ただし、怖がりだから大きな音を出したりちょっとでも攻撃的な姿勢を見せると、すぐに逃げちゃうのニャ。そうなったら、エサを食べてくれなくなるから失敗だニャ。」

 

 

 確かにアプトノスは、大型モンスターが接近した際にはいち早くそれを察知して逃避行動を取っていた。やはりと言うべきか、化け物の様な肉食生物が生活圏を彷徨いているとなると、現代の動物の基準からしてかなり大柄な体格を持っていてもなお、生き残るためにはナイーブな気質にならざるを得ないという訳か。とにかく、慎重を期して臨まないとな。二人は大丈夫だとして、俺は結構大一番でやらかしてしまう体質だから特に気を引き締めなければ!

 

 

 「あと、子持ちの群れにはあまり近づいちゃ駄目ニャ。子供を守ろうとした親に攻撃される事もあるから気を付けるニャ。狙い目は群れから少し離れたところにいる個体ニャ。」

 

 一通り注意事項を共有した俺たちは、アプトノスの好物であるメジョベリーの採集へ向かった。先日のカモシワラシの時もそうだったから、何となく察しは付いていたが、やはりこの島の草食動物は全般的な傾向としてメジョベリーが好物らしい。それは、小動物から大きめのサイズのものに至るまである程度は共通しているそうだ。人間の味覚からすれば、メジョベリーはえぐ味があってそこまで美味しいとは感じないが、動物からすれば違うようだ。ただ俺たちからすれば、人間用と動物用で別の種類のベリーを用いることになるので、特定の種類だけに必要な物が偏らないという点は地味ながら有難かったりする。ちなみに、先程話に出たカモシワラシについてだが、現在では「キナコ」と名付けられ皆に可愛がられている。俺は最初、モフ太郎という名前を提案したんだが、満場一致で三人から却下されてしまった。割とセンスがある方だとは思っていたのだが、三人の琴線に触れることは無かったようだ。やはり、センスが卓越し過ぎると理解されなくなってしまうのだろうか。結局は秀夫が考えた名前が一番可愛らしいという結論が推され、採用される運びとなった。今日のアプトノスの命名権は俺が勝ち取って見せる!

 

 

 アプトノスは群れでの行動を徹底している様で、離れた場所にある岩陰からずっと行動を監視しているが、一向には個体間の距離が開くことはない。群れの個体数は四匹、子供はいない。理想とまではいかないが、比較的好都合な条件の群れだ。だが、変に近寄ると逃げらたり、最悪揉みくちゃされて踏み殺されたりするかも知れない。それでも、何もしなければ事が進まないのもまた事実。俺は威圧感を与えて警戒させないために、こちらが小さく映るよう匍匐前進でゆっくりとアプトノスの群れへ近付く。今回の餌やりは俺がやる。拠点の整備ではあまり活躍できなかったので、ここでその分の帳尻を合わせたいからだ。照り付ける日差しによって熱せられた砂浜に音を上げてしまいそうだ。顔中に地面からの熱気が注ぎ、止めどなく汗が溢れ出してくる。身体の地面に触れた部分は服との間に熱が籠って蒸れて蒸れて仕方が無い。それに、失敗が許されない緊張感から心臓が早鐘を打ち続けている。ここで不快感に負けて立ち上がってしまえば、全てが水の泡になる。俺は心を殺して永い道のりを進み続けた。

 

 

 漸くだ。永遠に続くかと錯覚してしまう程の緊張感に時間と距離の感覚を狂わされながらも、俺は一匹の個体の下に辿り着いた。ここまでも長かったが、ここからが本番だ。この一匹をどうにかして釣りださなければいけない。俺は踏み潰されない様に、アプトノスとの間に数メートル以上の間隔を維持する事を心がけながら、頭の前方へと回り込む。地面から見上げるアプトノスの脚はちょっとした木なんかよりも太く、時たま顔や背中が目に映った際には、巨人に見下ろされる小人になったかの様などうしようもない不安感に襲われる。その度に、本能が発する危険信号に抗いなんとか今の姿勢を続けることに努めた。手を伸ばせば奴の鼻っ柱に届くギリギリの距離まで接近できた。俺はうつ伏せのまま右手を掲げ、握り締めたメジョベリーを上下や左右に揺らした。丁度、釣りでルアーを動かすときと同じ要領だ。アプトノスは興味を示しながらも、どこかこちらの様子を訝しんだような視線を向けてくる。それは当然か。俺だって、地面で自分の周りをもぞもぞと蠢く謎の物体に付き纏われたら、怪しいし怖い。ともなれば、その不信感を上回る刺激が必要だ。そうして、俺は右手に持っていたベリーを少しだけ潰し、匂いが漂う様に仕向けた。好物の匂いを嗅げば興味がそちらに向くというオリバーからの入れ知恵だ。アプトノス以外にもこの島には一定数そういった性質を持つ生物が存在するらしい。同時にそういった生物は穏やかな気質であれば今の様な方法で懐いてくれるらしい。こちらの狙い通りと言うべきか、アプトノスは若干そわそわしながらも、眼前を蠢くメジョベリーに釘付けになっている。口元を震わせながらも目の焦点は俺の右手から離れることはない。もうすぐだと、直感が告げてくる。俺は焦らすようにベリーを口元から離したり、近付けたりするスピードを速めていった。すると、我慢ならなくなったのかついにアプトノスは俺の手にあった果実を啄んだ。それからというもの、こちらへの警戒心をすっかり失い、まだ持っているのだろうと言いたげな雰囲気で俺の周りをうろつく様になった。生物としてそれは大丈夫なのかと、思う所が無いわけではないが、俺たちにとっては都合の良い事この上ないので難しい事は何も考えずに受け入れる事にしよう。

 

 

 

 一回目の餌やりの後、向こうの警戒心が薄れてからは、起き上がりその場でしゃがむ体勢となった。熱砂の上に身体の半面を全て接触させ続けるのは流石に身が持ちそうになかったからだ。それから、アプトノスはクンクンと鼻を震わせて、俺の身体に顔を擦り付ける様な動作をしてきた。テイムが完了したのかとも考えたが、キナコの時の様にインプラントは反応していない。ならば、まだテイムは継続中と考えるべきなのだろう。俺は目の前の出来事に意識を戻す。何となくではあるが、撫でて欲しそうな感じがする。そして、俺はアプトノスの鶏冠の部分を優しく撫でてあげた。アプトノスは目を細めて尻尾を振っている。最初に見た時は、大きな体格や物々しい形の尻尾とかの所為で怖かったけど、今こうして見ると大きさや姿形は違えど、犬みたいで可愛い。しばらくすると、顎を持ち上げ、「ウォー、ウォー」と鳴き始めた。その後には俺の手元付近で口をパクパクと動かし始める。どうやら、ベリーのおかわりが欲しいらしい。俺は迷わず追加のベリーを差し出した。すると、また先程みたく撫でを要求してきた。そこから一連の流れを三、四回繰り返した辺りでインプラントが点滅し、無事アプトノスのテイムが完了した。

 

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 こうして、彼らは初めて自らの手で乗騎となる生物を手中に収める事が出来た。同時に、遥か昔、気の遠くなるほど昔に、止められてしまった時計は再び動き出す。サバイバーは歩みを止めない。しかし、彼らはその旅の終着地をまだ知らない。




 35話目にしてようやく騎乗可能生物のテイムです。「長ぇよ!」と思われる方も多いでしょうが、彼らは完全初見でARKの世界を生き、モンハンの生物の知識も何も無い状態からなので、どうか大目に見てやってくださいm(__)m

 
 次回の投稿は12/9以降を予定しています。その日以降は私のリアルの予定がある程度落ち着くので、ハイペースで投稿できるかと思います。今年も残すところ一か月、張り切って参りましょう!

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