モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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Version15.9:ヨンキの記録

ランポスに付けられた背中の傷が痛む。草の丈が高くて足元が見えないせいで、路傍の小岩にぶつかったり、石に躓いたりする。傷口には変な虫が集っている。滲みるような痛みが広がっていく。足の疲れも先程の逃避行から癒えていない。もう限界だ。俺はとうとう倒れ伏した。肉体的にも、精神的にも、もう限界だ。いっそここで眠ってしまいたい。ここが獣達の巣窟であることなんてもはや今の俺には関係無かった。今はただ、全部を忘れてしまいたい。そんな俺の心境に応える様にして微睡みはやって来た。段々と、視界の輪郭はぼやけていく。最後に目に移ったのは黄緑色の光の粒子が俺の周りを漂い、全身がほんのり温かなゲルに包まれる光景だった。

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 柔らかいのか硬いのかよくわからない感触が背中に伝わる。それと同時に俺は目を覚ました。背中に手を回す。不思議とあの指し傷は無くなっていた。視界に映るのは木製の天井に、それを支えるよう張り巡らされた梁、間違えようが無い、ここは俺たちの拠点だ。果たして俺はどうやって戻って来たのだろうか?火事場の馬鹿力だとでも言うのか?現状を呑み込めずに困惑しいると、部屋の扉が開けられた。

 

 「あ、裕君、目覚めたんだね。」

 

 有り得ないはずの声が聴こえた。

 

 「秀夫、なのか?どうして?」

 

 死んだはずの秀夫が目の前にいる。ともすれば、考えられるのは一つ。俺と同じで死んでも何故かよく分からないが、蘇ってしまうという事だろう。自然と涙が零れてきた。嬉しい、また生きて会う事が出来て嬉しいはずなのに、でもなんでか胸につっかえる物がある。

 

 「目が覚めたら隆君と二人揃ってここに戻って来てたんだ。その後すぐにオリバー君も戻ってきて、裕君が森の中にいるって言うから導蟲をとミツムシ寄せのお香を借りて二人で探しに行ったんだ。」

 

 

 さっきから色々な感情が渦巻いて言葉が出てこない。そんな俺の様子を察してか、秀夫は俺に近付いて見つめてくる。

 

 

 「もう、そんなに難しい顔しないで、僕はまたこうしてみんなと会えただけでも嬉しいから。死ぬのが怖くないって言ったら嘘になるけど、折角与えれらたチャンスだから、またみんなで過ごしたいって思ってるから。それと、お疲れさま。一人で頑張ってくれたって聞いたよ。ありがとう。ご飯の準備は出来てるからいつでも来てね。」

 

 

 秀夫はそう言うと部屋から出ていった。そうだ、まだ俺は、俺たちはやり直せるんだ。くよくよしてばかりではいられない。とりあえず今は、腹を満たして明日への活力を得よう。悩むのはそれからだって遅くはない。

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 夕食を終え、夜もすっかり更けていた。俺たち四人は集まって今日あった事を話していた。

 

 「なあ、オリバー気になったんだけど、導蟲が青くなる理由って何か聞いたこと無いか?」

 

 これに関しては、この前のカビの件と言い、今日の霧の件と言いあまり良い印象ではない。だからこそ理由があるのなら、知っておきたい。今日みたいに出先で突然立ち往生する事を防げる可能性もあるからな。

 

 「理由は知らないけど、一つだけわかってることがあるニャ。天気が変わる時にたまになるニャ。主には雨が降る時とか、今日みたいに霧が出る時とか、雷が鳴る時とかニャ。あと、そういう事が起こった時にはなぜかモンスターが変な動きをするニャ。今日テイムに使った場所は、大型モンスターがあんまり来ない比較的安全な場所だったニャ。それに加えて、あの辺はジャグラスの縄張りじゃないから普段ならまず遭遇する事は無いはずだニャ。」

 

 導蟲には天候の変化を知る能力でもあるのだろうか。ナマズは地震の発生を予知できるなんて話もあるくらいだから、強ち有り得ないとは言えない。ただ、霧の所為で目や耳の感覚がおかしくなるのは不可解だ。それに、モンスターを呼び寄せる、もしくはそれに近い何かしらの効果があるのなら、それは俺達にとって最悪の敵になりうる。

 

 

 「いずれにせよ、あの霧には注意が必要だろうな。声帯を麻痺させてきたり、神経に直接作用する成分が含まれていることだけ考えても、あまりに危険だ。発生する周期でも分かればいいのだが。」

 

 

 隆翔の意見も尤もだ。凡そいつ発生するのかが分かれば、行動の指針とすることが出来る。

 

 

 「ボクが知る限りでは、そういう話は聞いた事が無いニャ。起こらない時は何か月も、何年も起こらないし、酷い時では三日と空けずに起こる事もあったニャ。」

 

 

 結局は運次第という訳か。これまでそういった現象に遭遇しなかった俺はある意味幸運だったのだろう。そういえば、導蟲の件に関してはもう一つ気になる事がある。

 

 

 「そういえば、このタブレットみたいな物を拾ったときの話なんだが、これと一緒に青白い粉が入った小瓶も一緒に箱の中に入ってて、それに群がった導蟲が青くなってたんだ。」

 

 俺はあの恐ろしい瓶の話をした。

 

 「もしかすると、導蟲はその、裕太が見つけた物質の濃度なんかを検知する術を持っているのかもな。この島で発生する霧や雨、あとこの前のカビなんかにもそれが含まれていると考えれば、説明がつきそうだ。それにしても、どうしてそれも持って来なかったんだ?持ち運べない大きさだったら話は別だが。」

 

 隆翔なら物質とかの話には明るいし、持ってくればよかったかな。でも、正直あの精神を侵食されるような感覚をあれ以上味わうと、本当に取り返しがつかなくなりそうだったからやっぱり無しかな。

 

 「実は、その瓶を取った時に何て言うかな、幻聴が聴こえたって言うか、思考を乗っ取られたって言うか、とにかくヤバイ感じがして。これ以上あれを持ってたらおかしくなってしまいそうな感覚に囚われて、それで怖くなって捨てて来たんだ。」

 

 俺は、客観的に要領を得ない内容であるのは承知のうえで、事実をありのままに話した。

 

 「摂取も接触もしていない物が人体に作用するというのは不可思議な話ではあるが。見た目がただの粉末だったのなら、気持ちの問題でもなさそうだしな。」

 

 隆翔も知らないようだ。結局今回も導蟲の謎については明らかにはならなかった。だが、天候の件なんかは実用上かなり使えそうな情報ではあるし、進展はある。それに結果論ではあるが、こうして再び四人で集まれて、目標だったアプトノスも死守出来て今は拠点にいる訳なので、今回の探索は実りある物だっと言える。

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 それから話題は変わって。

 

 「僕たち二人は死んだ後にここのベッドで目覚めたけど、裕君の時はどうだったの?」

 

 秀夫が俺に尋ねてきた。俺はこれまでの死を思い返した。大体はいつも島の海岸の同じ場所に気が付けばいたはずだ。そう言えば、一回だけ例外があった。ドスランポスに家ごと囲まれて殺された時だ。あの時は確か、家のベッドで目覚めたはずだ。丁度、今日の二人と同じ状況だった。俺はその旨を秀夫に話した。

 

 「やっぱり、理由があるとすれば、これなのかな。」

 

 秀夫は左手のインプラントをおもむろに眺めた。

 

 「このインプラントもしかしたら記憶媒体としての側面もあるかも知れない。」

 

 「でも、そんな映画の中の機械みたいなこと本当にできるのかな?」

 

 呟く秀夫に対して、俺はそんな疑問を口にした。

 

 「一応原理的には可能なんじゃないかな?アナログかデジタルかの違いは有れど、人間の記憶は本質的には電気的な信号だから、波形さえ取り出すことが出来れば記録したり、さらには復元したり改変したりできる筈だよ。飽くまで机の上での話だけど。」

 

 急に物凄くSFライクな話になって来たな。他方、ファンタジー然としたワイバーンや獣人が生息しているあたり、本当にこの島が何なのか分からなくなる。

 

 「一応、機械ではないが生き物にはそれに近い事が出来るやつがいるにはいるぞ。」

 

 隆翔が補足した。

 

 「カマキリに寄生するハリガネムシなんかがいい例だ。尤も、あちらは宿主の神経に対して信号を出力して、その身体を自分の都合良いように動かすから、宿主の神経の情報を入力するインプラントとは逆だけど。まあ、本質的には同じだ。」

 

 ああ、確か、水に付けたら尻から出て来るとか言う気持ち悪い虫のことか。それなら一応俺でも知っている。「信号を出して、身体を動かす」か、一見突飛な話ではあるが、強ち嘘とも言い切れない。何となくではあるが、俺の中にも思い当たる節がある。それは、エングラムの機能だ。思い返せば、頭の中に見た事の無いイメージが勝手に思い浮かんでくるのも、勝手に手が動いて気付いたら物が出来上がっているのも、隆翔の考えに則れば、すべて合点が行く。やっぱり、あれは誰かに操られていたという事で間違いないのだろうか?意識すればするほど、顔から血の気が引いていくのが分かる。

 

 

 「インプラントを一つのコンピュータ端末だと考えると、出力端だけあって入力端が無いってのもおかしな話だよね。パソコンに例えるなら、ディスプレイだけあって、マウスやキーボードが無いようなものだし。」

 

 なるほど、だから秀夫はそういう発想に至ったのか。拠点で目覚めたのも、データから逆算してある地点に巻き戻るようにしているのかも知れない。例えば、最後に寝たベッドとか。見かけ上の変化が無いから、実感が湧きにくいが、本質的には改造人間にされている様な物だ。もちろん、そういったものの全てが悪ではない。何らかの事情で求める人が存在するのは事実だし、それで救われるならむしろ良い事だ。ただ、本人の同意が一切ない状態で勝手に埋め込むのは遠慮して頂きたいものだ。

 

 

 「記憶がある理由は想像がついたが、今のこの身体は何なんだろうな?自分の死体ははっきりとこの目で見た事があるから、死んだのが幻覚だとは思えない。なら、新しい俺たちはどうやってベッドまで運ばれたんだ?」

 

 

 島に流れ着いてから今の今まで、ずっと目を背け逃げ続けていた事だが、俺は意を決して口にした。誰も明確な答えを出せない。当たり前だ。死人が蘇るなんて現象を科学的に説明する術などない。沈黙がこの場を支配した。

 

 

 「空気を悪くして済まなかった。これ以上話すのは不毛だし、今日は最後にこれだけ確認して、お開きにしよう。」

 

 俺は安易な発言をみんなに謝罪して、拾い物を指さして言った。

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 経験上、この島のよく分からない物には法則性がある。それは、インプラントをかざせば大抵何か動作をするという事だ。クレートも、オベリスクも、待つ者がいた場所そうだった。そして、俺は例の板に左手をかざした。すると、インプラントは光を放ち、この空間にパソコン画面の様なホログラムを出現させた。そのホログラムには、アジア系と思われる女性の顔写真と共に大量の文章が映っていた。俺たちは四人で身を寄せ合いながら、時間も忘れて読み耽ったのだった。

 

 

『Name:Yongki

Epic:B.C.26

Nation:Terran Federation

 

Record1

 私は最初ここはシミュレーションの一部だと思っていた。だが、それにしてはおかしな部分も多々ある。ある物は現在のGenesisエンジンのどの要素よりも先進的だ。いくら"人間をやめた"ユマでさえもこれ程の急ピッチで事を行うことは出来ないだろう。オベリスクは私の知る物から幾分か設計の変更がなされている様に思える。少なくとも、現段階の設計では"トリビュートターミナル"なる機能は実装されていないはずだ。それに、あの忙しない恐竜どもは何だ?バイオームの包含については未だ議論の渦中のはずだ。誰かが無許可でいたずらでもしたというのか?

 

 

 Record2

 オベリスクのターミナルを操作する事によって、ハッキングを試みた。サンティアゴの猿真似ではあったが、何とかシステムの内部に侵入する事が出来た。その際に分かったのは、ここはシミュレーションではなく紛れもない現実だったという事だ。とにかく私は生存に必要な物資を調達する必要がある。島の物資投下システムをハッキングしてスーツといくらかのTEK製品、端末を入手した。

 

 

 Record3

 私は迂闊だった。ターミナルを操作している際に伏兵が潜んでいる事に気が付かなかった。彼らはクレートが降り立つと同時に私に牙を剝いてきた。前時代的な火薬銃と鉄の鎧に身を包んだ兵士が十人。彼らは投降すれば命は助けると宣う。スーツさえあればどうということは無いが、生憎と悠長にクレートを開けている暇などない。私は渋々彼らの軍門に下る事となった。

 

 

 Record4

 私を捕らえた彼らは意外にも友好的であった。多少ぼかしはしたものの、私の事情を話せば住む場所を提供してくれると言った。どうやら彼らにとってオベリスクは禁足地的な位置づけらしく、そこに踏み入った私に警告を行ったようなのだ。私からすれば、理解出来たものではないが、過去の人間から見れば特別に映るのは致し方ない部分もあるだろう。私は一先ず、彼らに謝罪し、住処を提供させる見返りとしてTEK製品の供給を約束した。

 

 

Record5

 私がこの"ハウリングウルフ"という部族に身を置いてから二か月が経過した。部族の名前の由来は、かつてこの島の侵略者を 倒した者達の名からあやり付けられたらしい。最初、彼らは私のことを警戒していたが、TEK製品の有効性が伝わると、皆一気に掌を返した。今では村の若者たちがスーツの訓練を行っている。彼らにはこの島の恐竜を手懐ける文化があり、その軍団を築いている。我々の時代には無い発想で、感心させられる。ティラノサウルスの部隊はいつ見てもそのスケールに圧倒される。

 

 

 Record6

 私はここで機械のメンテナンスを請け負う傍ら、この島から脱出する方法を探っていた。方法自体は突きとめたが、そのためには協力者の存在が必須だ。ここは更に彼らからの信頼を獲得し、そのうえで事に及ぶのが良いだろう。

 

 

 Record7

  ある日私は村の者から「秘密の厩舎」へと案内された。どうしてもそれを私に見て欲しいらしい。その名の通りと言うべきか、村からそれなりの距離が離れた場所だったので、空を飛んで移動した。と言っても、今回はスーツではなく、アルゲンタビスによる優雅な空の旅だった。空の上から一望する島の景色は圧巻の物だった。チームの皆はよくここまでの物を開発できたと思わず感心してしまった。その場所待ち受けていたのは真の王と呼ぶべき者達だった。あのティラノサウルスが子供のように思える巨体の持ち主はギガノトサウルス、そしてカルカロドントサウルスの両雄だ。私は只々圧倒された。既に繁殖と育成も開始されているらしい。彼ら曰く、テイムに成功したのは私の齎した製品による力に他ならないと、感謝の意を示された。こうやって面と向かって礼を言われるのはいつ振りだろうか?悪い気はしないな。

 

 

 Record8 

   オベリスクが突然点滅を始めた。一過性の挙動かとも考えたが、数日間続きっ放しだ。村の者達も不安に駆られる者が増えているようにも感じる。独自の調査の結果、なにやら島のシステムに何者かが侵入した痕跡を発見した。ただ、非常に高い権限を持った者によるアクセスの様で、私ではその情報を掴むことが出来なかった。もしも、私がサンティアゴだったら、可能だったのだろうか? 状況を見るに、酷くきな臭い。何事も無ければいいのだが。

 

 

 Record9

  あれから、不可解な現象が続いた。島から野生の生き物が消えた。海岸にも沼地にも、果ては海中にも生物の影すら確認出来ない。メガネウラどころか、シーラカンスすら見かけないのは、不気味を通り越して最早異常とも言える。それから数日後には、海岸に無数のドードーの死骸が転がっていた。その調査の最中には多くのプテラノドンやイクチオルニスの死骸が空からぼとぼとと落ちてきた。あの太々しい鳥に絡まれないのは結構だが、それはそれで不気味だ。また、 ある時はトゥソテウティスが浜辺に打ち上げられていた。それも一匹ではなく五匹程度の集団でだ。それに、村の護衛部隊のティラノサウルスたちの様子も妙だ。時折何かに怯えるかのような動作を見せ、身を寄せ合う姿が確認されている。それらの現象と呼応するようにオベリスクの点滅周期は日を追うごとに速くなっている。ただならぬ事態であるのは明白だ。間違いなく、システム側が悪さをしている。だが、いくらハッキングを試みても弾き返されるだけだ。日に日にプロテクトは強固な物になっている。

 

 Record10

  事態は最悪の方向へと舵を切った。この島の空は謎の汚染物質によって完全に覆われてしまった。日照は消え去り、24時 間ずっと暗いままだ。体調不良を訴える者まで現れている。TEKヘルメットの防護機能を試してみたが、予想外の挙動を示し た。なんと、ヘルメットの空気浄化機能が動作しないのだ。いや、正確に言うと、濾過フィルタにその物質が侵入してからしばらく経つと、部材の腐食が進み、ヘルメットそのものが駄目になってしまうのだ。人々はこの未知の物質のことを口々に「瘴気」と表現してい る。如何にも非科学的な名称ではあるが、性質を鑑みればこれ以上ない程に的を得ている。植物は次第に枯れていき、海には水面を覆い尽くす程のメガロドンの死体が浮いている。島中で鼻を塞ぎたくなるほどの強烈な腐臭が漂っている。生命豊かなこの島は一日にして死の島へと変貌を遂げてしまった。この状況が続くのなら、未来永劫この島に生物が根付くことは無いだろう。

 

 Record11

  私は急いで「瘴気」のサンプルを確保し、解析を行った所衝撃の事実が多数判明した。皆が「瘴気」と呼称していたこの物質の正体は嫌気性の細菌だった。それも、ただの細菌ではない。非常に凶暴な肉食性の細菌だ。実験として、適当な生物の死骸と共に瘴気を密閉空間に閉じ込め、経過を観察した。その結果、わずか数時間の後にはきれいな骨となってしまっていた。開いた口が塞がらなかった。それだけではない、この瘴気はカビと共生しているのだ。瘴気の雰囲気の中にてその胞子が確認された。厄介なことに、メソピテクスによる動物実験を行ったところ、このカビも強い毒性を持つことが判明したのだ。カビに蝕まれた生物は短時間の間に衰弱し死に至る。瘴気とカビは互いにエネルギのやり取りを行い広範囲に拡散していくのだ。私は急いでレプリケータを起動してスーツの量産に走った。足りない材料は未だ唯一侵入可能だった供給品投下システムをハックしなんとか調達した。安全を保つためには定期的な付け替えが必要だ。村の中で幅広く、多くの量を行き渡らせるために、レプリケータを昼夜問わずフル稼働させた。その甲斐あってか、村の7割の人間は今も生存している。

 

 

 Record12

  泣きっ面に蜂とはまさにこの事を言うのだろう。未だ混乱が収まり切れぬ村にかつてない程の悲報が伝えられた。大量の生物が群れを成して村に向かって進行していると。その数は不明。伝令の証言によると、一面を覆い尽くし数えることが不可能だという。村の長老たちの会議で、ギガノトサウルスとカルカロドントサウルスの戦線投入が満場一致で決定された。村を守る外壁にはもはや壮観という言葉すら生ぬるいほどの生物の大軍団が集められた。ティラノサウルスにスピノサウルス、ユウテゥラヌス、ダエオドンさらにはテリジノサウルスやアロサウルス、ステゴサウルス、極めつけに大砲が備え付けられたブロントサウルスもいる。空中にはTEKサドルを装着したタぺヤラに、オートタレットを載せたケツァルコアトルス、そしてあのティラノサウルスすらも攫い己が糧とする傑物、リニオグナタも用意されている。生き残った島の生態系の上位に位置する生物が集められた、正に総力戦と言った様相だ。

 

 

 Record13 

  進行する大群は異様な雰囲気に包まれていた。生物たちには「瘴気」やカビで覆われており、その多くが黒く変色し、何かに取り憑かれた様に、呻き声を上げながらひた走っている。その数、軽く数百は下らない。古い時代の表現だが、「百鬼夜行」と言い表すのがしっくりくる。ユタラプトルやカルノタウルスなどよく見かける連中も多いが、中にはセイバートゥースやダイアウルフなどこの辺りでは見かけない種も散見された。加えて、身体を浸蝕されて我を失っているのだろうか、普段は大人しいプテラノドンや、パラケラテリウムの姿もあった。このまま進行を許せば、村はすぐにでも飲み込まれてしまう。部隊は直ぐに迎撃に当たった。

 

 Recoed14

  あの後アルファプレデターの襲撃を受け、部隊は決して小さくない損害を受けながらも生物の大群を撃退する事に成功した。航空部隊は大半が無事であったが、地上の部隊は大打撃を受けた。ティラノサウルスとスピノサウルスは大きく数を減らし今は片手で数えられるより少し多い程度しかいない。他の恐竜は殆どが命を散らせていった。あと残ったのは一匹のユウテゥラヌスとギガノトサウルス、カルカロドントサウルスぐらいだ。壮絶な戦いであったが、村を死守する事が出来た。

 

 Record15

  我々が村に凱旋したのも束の間、急報が入った。赤オベリスクに謎のドラゴンが現れたというのだ。しかし、その報告がまた奇妙なのだ。報告者たちは瘴気をその身に宿し、自在に操ると口々に言う。私が知る範囲では、設計段階のシステムにはその様な奇特な生物など搭載されていなかった。なにせ、何を積み込むのかすら議論が紛糾していたというのだからそんな酔狂な物にリソースを割くなど有り得なかったのだ。謎の人物のシステムへの侵入といい、今回の龍の出現といい、これらに全く因果関係が無いとは思えない。私は調査を行いたいと強く要望した。丁度、村の中でもその災厄の象徴を討つべきだという論が支配的になった。結果、私たちは群れと闘ったその足でオベリスクまで向かう事になった。

 

 

 Rcord16

  その龍は私が想像していた何倍も悍ましく、冒涜的な存在だった。全身に屍肉を纏っており、さらにその上には大量のカビが付着している。顔は屍肉で覆われ全てを確認できないが、僅かに覗く口元は醜悪な深海魚を思い起こさせる。まるでゾンビがそのままドラゴンに憑依したかのような風貌だ。村の兵士たちは皆怯えている。我々は持てる全戦力を持って奴を包囲した。だが、驚くべきことに、奴はほぼ全ての島の上位生物に囲まれたというのに平然とその辺りをのそのそ歩き回ったり、何なら座り込んで悠長に休憩までしたりしている。異常だ!生物としてこの状況に危機感を抱かないのか?醸し出される底知れぬ恐怖感に皆立ち尽くすことしか出来なかった。しばらくの沈黙の後、ギガノトサウルスに騎乗した兵士はついに業を煮やして突撃を敢行した。その大口から放たれる噛み付きは見事龍に命中した。しかし、龍は一切の反応を見せなかった。龍は身じろぎ一つでギガノトサウルスを吹き飛ばした。そして、龍はその悍ましい口から瘴気の塊を放出した。ギガノトサウルスは、発狂する暇も無く絶命した。我々の最高戦力の片割れが呆気なく散った。その衝撃は大きく、兵士たちは統率を失い散り散りになった。だが、逆鱗に触れた我々に対する慈悲など無かった。あろうことか、龍は瘴気を爆発させ、高濃度の瘴気を広範囲に拡散させた。スーツの全機能は一瞬にしてダウンし、私はスーツの放棄を余儀なくされた。スーツで空中に浮かんでいた兵士はまるでセミか何かの様にぼとぼとと、落下した。恐竜たちは呻き声を上げながら次々に倒れてゆく。島の総力を挙げて結集した軍団は、いやそれだけでなくこの島に在る総ての生物は、この日たった一匹の龍によって全滅した。

 

 

 Record17

  私はたった一人あの最加から逃げ延びた。蝕まれる身体を引きずって、命からがら村に辿り着いた。村の様子は惨憺たる有様だった。瘴気の拡散にヘルメットの供給が追い付かず、死人や病人が溢れ、そこら中に転がっている。もはや私一人の手ではどう仕様もできない。”ハウリングウルフ”との出会いはお世辞にも良い物とは言えなかった。だが、それでも彼らは私に居場所を提供してくれた。彼らは決してスマートな集団ではなかったし、その原始的な思考には呆れ返る事もしばしばあった。それでも、私はここに愛着がある。その崩壊をただ地に伏して眺めることしか出来ないのは、堪らなく悔しい。

 

 

 Record18

  瘴気は晴れた。一連の出来事全てが白昼夢だったかのような錯覚さえ受ける。だが、それらは紛れもない現実だ。もはや村に病人の介抱を行える人間などいない。ここにあるのは、人間だった物の成れの果てと、衰弱して僅かな動きだけを見せる地面に転がる肉塊だけだ。私もその一つだ。地面に力なく倒れ伏した私の目には、大空を力強く飛び去って行く赤い甲殻に包まれたワイバーンの姿が映った。

 

 最後に、この記録を見た誰かに、私が知り得た情報を手短にだが、共有したい。この島から出たいのなら、コントロールセンタへ向かうことをお勧めする。そこへの入り口は、、、

 

 記録はこれで全てだった。

 

 




 今回、記録の中に出て来たモンスターは「死を纏うヴァルハザク」です。今流行の、アイスボーンが初登場の古龍です。ストーリー中では実はアステラを崩壊寸前にまで追い込んだ恐るべき古龍です。なぜ、そんなモンスターが島にいたのでしょうか?ヒントとなるのはARK:スコーチドアースの調査書です。

 また、記録を残したヨンキという人物はGenesis2のサンティアゴの記録に登場する人物ですので、オリキャラではありません。
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