モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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Version15.11:空を舞う第二の獣

 一日の休息を取った後、俺たちは再び野に繰り出すことになった。今回は沼地へ赴くための前準備として、森の中に入って戦闘にも転用出来る能力のある環境生物を探す。オリバーによると、凡その目星は付いているらしい。尤も遭遇できるかは運次第ではあるが。今日は先日テイムしたアプトノスの「ラッキー」を伴っている。この前仕留めたルドロスの皮を加工して、秀夫がラッキーのための鞍を作成してくれた。これにより、騎乗しての移動が可能になった。鞍の両サイドには収納ボックス(小)を紐で固定して配置している。ちょうど、砂漠を行くラクダの様な出で立ちだ。初遠征では専ら荷物持ちとして専念してもらう事になる。そのお陰で、今回は前回と異なり多くの物資を持っての遠征と相成った。食料だけでなく、にが虫由来の解毒剤や石鹼等の医薬品や替えの槍、出先で使うかもしれないつるはしや斧などのツールも一通り持ち合わせている。また、まとまった量の皮が手に入ったおかげで、「革袋」を作成することが出来、水筒も完備されている。ただ、密閉が甘いので少しずつ漏れ出してくるのが難点ではあるが。鞍に括り付ける時は、男三人でもかなりの重労働となるぐらいには重い荷物だったが、ラッキーは余裕の表情だ。ジャグラスの群れの苛烈な襲撃から生還した幸運のアプトノスには是非とも期待したい。

 

 

 「キナコ、留守番は頼んだぞ!」

 

 

 家の中にいるカモシワラシの「キナコ」に声を掛ける。キナコは得意気な顔で前脚を上げ、敬礼する様なポーズを取った。分かってくれたのかは定かではないが、俺たちはその様子を見届け、まだ陽が完全には昇りきってない中で出発した。

 

 

 森に入る前に、導蟲を使って、周囲にモンスターの痕跡が無いかを探る。肉食生物らしき物があれば探索は即効で中止だ。今回は幸先が良く、この周囲で危険な生物の痕跡は確認されなかった。一先ずの関門は乗り越えられた。俺たちは、海岸を歩くガーグァやケルビの群れを横目に森の中へと入っていく。森に入るなり、オリバーが木々を見渡して何かを探している。何を探しているのか分からず、怪訝に思っていると、オリバーは蔓草が巻き付いた木の前で立ち止まった。

 

 「この草は”通称ツタの葉”って呼ばれてるニャ。束ねて紐として使う事も出来るけど、一番は火を点けると煙が沢山出るからそれを使った目くらましに使えるニャ。」

 

 言われてみれば見た事ある様な、無い様な、そんな何の変哲もない植物だ。知らなければそんな利用法があるなんて想像も付かない。やはり現地人の培われた知恵は偉大だ。自分ではそもそも、そういう発想に至らないから、知らないというだけで命の危機をいたずらに増やすことになるし、実際それで無駄にやられることにもなった。そういった意味では、こういう経験を積ませて貰えるというのは相当に貴重だ。何かの機会にオリバーにお返しをしたいとは思うが、現状俺たちが用意できそうな物は無い。それまでみんなにこれ以上何事も無く過ごせれば良いが。そうこうしていると、オリバーは今度は木の根元に生えている丸くて紅い花の咲いたシダの様な形をした植物を指さした。

 

 「これは火薬草っていうニャ。擂り潰して火打石や"ここにはないけどニトロダケ"っていうキノコと混ぜ合わせることで爆薬になるニャ。ボクが使ってた爆弾もこれから作ったニャ。あと、香辛料としても使えたはずニャ。」

 

 現状俺たちが作成できる武器では小さなモンスターにすら有効打を与えられない。俺たちも爆弾を利用できるようになれば多少ではあるが、モンスターの堅牢な外皮や甲殻にダメージを与えられることになる。ある意味では現在の俺たちに最も必要な自然の恵みと言える。しかもそれでいて、香辛料としての効果もあるのは狡い。冷蔵庫が無いから食材の保存は食料保存庫に頼りきりだが、それも完全ではない。そこに香辛料が加われば、より長く食料を保持できる。おまけに料理の質も向上する。もはやこれ以上ないと言える程、サバイバル向きの植物だ。

 

 「なあ、折角だ、この火薬草を土ごと持って帰らないか?栽培できるか試す価値は十二分にあると思う。」

 

 隆翔が提案してきた。俺も異論はない。ここは器用な秀夫にその回収を任せる。本来は水を汲むために作った木製の升をプランター代わりにして植え替える事に成功した。今日はとても上々な滑り出しで、否が応でも先への期待感は高まっていく。一先ずは荷物の一番上に置いて探索を続行する事にした。

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 それから、導蟲を使い、あるいは自分たちの目視で何か生物の痕跡が無いか確認する。すると、地面に明らかに土や砂とは異なる白い筋が走っているのを見つけた。俺はしゃがみ込んで、その白線を指でなぞった。それらは粉状になっており、どうやら既に乾燥しているようだ。俺は恐る恐る臭いを嗅いだ。この臭いには覚えがある。先日ジャグラスの群れをおびき寄せるために使用した白銀の色をしたガスと同じだったのだ。これは何か生物由来の物質だったりするのだろうか?

 

 「オリバー、この白いのこの前使った白いガスと同じ臭いがするけど、これも何か生物が出した物なのか?」

 

 「それは多分"エンエンク"っていう環境生物の痕跡だニャ。この様ならまだそんなには離れてないと思うから導蟲を使って追いかけるニャ。」

 

 導蟲にマーキングさせると、すぐに動き出した。すると、近くの茂みの周りに滞留し始めた。どうやらそこにエンエンクはいるらしい。俺たちは慎重に足音をなるべく立てない様に気を付けて近付いていく。茂みの隙間からリスのそれにフサフサの白く長い毛を生やした尻尾が垣間見えた。恐る恐る茂みの中を覗き込んでみると、そこには可愛らしい白い毛玉ともいえる生物がちょこんと佇んでいた。全体的なフォルムはイタチに似ているが、顔の雰囲気や髭の付き方なんかはどことなくネコらしさも感じさせる。イタチよりも全身の毛は長く量も多い。背中から体側に向かって伸びる体毛は地面に着く程だ。尻尾にも相当量付いており、その長さも相俟って、全身の大きな部分を占めて見える。エンエンクが出すガスの特性上、テイムしても完全に俺たちのメリットになる訳ではないが、この前みたいなこともあるかも知れないので、慎重を期したうえで運用すればモンスターに出くわしたときの選択肢は広がる。餌もイタチと同じで雑食ならば、そこまで苦労しないだろう。

 

 「なあ、今回は俺がテイムしていいか?」

 

 隆翔が名乗りを上げた。そういえば、キナコもラッキーも俺がテイムしたんだった。俺ばかりやり過ぎるのも良くないから、今回は譲ろう。

 

 「エンエンクはアプトノスと同じ様に餌を手渡ししてあげると懐いてくれるニャ。雑食性だからお肉でもベリーでもいけるけど、お肉の方が好みだニャ。」

 

 オリバーがそう言うなり、隆翔はラッキーの荷物の中から生の肉を取り出した。この島の動物の多くは焼いた肉でも食べてくれるようだが、やはり最も好きなのは新鮮な生の肉であるらしい。隆翔は斧で肉をエンエンクにとっての一口大に切ってから、姿勢を低くし目の前に差し出した。エンエンクは警戒しながらも、餌という刺激には抗えない様で隆翔の手先からぶら下がる生肉に興味津々な様子だ。顔を近付けては離してを繰り返している。しばらく続けた後、エンエンクはついに誘惑に負けたのか、前脚を器用に使って肉を掴み、いそいそと食べ始めた。隆翔は食べ終わるタイミングを見計らっておかわりの肉を差し出す。エンエンクも食欲には勝てないのか、最初の警戒心は何処吹く風、追加の餌を今か今かと待ちわびる様に目を輝かせている。それからは、なし崩し的に事は進んでいき、今では、先程のエンエンクは隆翔の肩に乗っている。

 

 「エンエンクは尻尾からモンスターをおびき寄せる効果のあるガスを出せるニャ。それを使えば別のモンスターの所に誘導して争わせたり、罠に嵌めたりできるニャ。ガスを出させたいときはこんな感じで手を叩いて合図してあげるニャ。」

 

 オリバーがパンパンと手拍子をするとエンエンクは隆翔の肩の上から降りて、オリバーの前に移動した。そして、尻尾を突き出して白く輝くガスを放出した。それと同時にオリバーはエンエンクの尻尾の先に瓶を差し出し、ガスを封入した。見た目的にはそう汚いとは感じないが、臭いの方は獣臭さが強くあまり嗅いでいて良い物ではなかった記憶がある。ただ、恐らくそれによって効果が生まれているのだから文句も言えない。

 

 「ボクの集落では直接連れて行く以外にもこうやってガスを保存して使う事もあったニャ。ただ、瓶の原料はもっと島の奥に行かないと取れないから、今はこのやり方は難しいけどニャ。」

 

 なるほど、それならより柔軟に利用できそうだ。この前のドスジャグラスの時は俺自身がガスを被って、デコイの様な役割を果たした。逆にその瓶をモンスター相手に投げつければ周囲の別のモンスターに攻撃させてその間に逃げ出したり、あわよくば漁夫の利を得たりも出来るだろう。勿論、そう都合良く物事が運ぶことの方が少ないだろうが、それでも取れる選択肢が増えるというのは相当に魅力的だ。

 

 考えるに、エンエンクたちの他の生物をおびき寄せるという一見すると、リスクの塊にしか見えない奇異な生態もこの島では案外有効なのかもしれない。普通に考えれば、小動物であれば、外敵が現れた際には、大きな生物が侵入出来ない狭い空間や巣穴なんかに隠れてやり過ごすのが無難だろう。だが、この島のモンスターたちはそこまで優しくはない。アンジャナフやジンオウガの様なモンスターと生息域が被っている以上、何かの拍子に巣穴なんて吹き飛ばされてもおかしくはない。

 茂みに隠れるにしても、ランポスやジャグラスなんかは視覚以外の情報にも機敏だからやり過ごせる保障は何処にもない。現に俺も隠れきれずに殺された経験がある。ともすれば、逃げるという選択肢が生まれる訳だが、これも闇雲に走り回れば良いという事はない。この島の捕食者は全般的に足が速く、そのうえ起伏のある地形への踏破能力もすこぶる高い。愚直に逃げるだけではすぐに追い付かれて奴らの胃の中だ。

 ドスジャグラスの時はドスランポスのいる場所まで誘導したことで、双方の注意をお互いに向けることが出来、俺は難を逃れられた。ドスジャグラスからすれば、人間の様な小さな相手よりも目先脅威となりうるドスランポスの方が問題としては大きいのだから当たり前だろう。恐らく、エンエンクもそれと同じ理屈で今の生態になっているのだろう。そこから考察するに、大型モンスターが単体で現れるよりも、複数現れる方がむしろ俺たちの生存率は上がるのではないだろうか?一見すれば巨大生物に囲まれて余命幾ばくもない状況ではあるが、奴らも協力し合っている訳ではない。むしろ争う様に差し向ければ、一転こちらが一方的に有利となる。振り返れば、これまで必死に生き残ろうと取っていた行動は、この島の常識からすると酷く不合理なものだったのかもしれない。

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 エンエンクのテイムを終えた俺たちは、現在森の中で木々の幹を具に観察していた。昆虫を採集するためだ。採集した昆虫は秀夫お手製の虫かごに入れている。と言っても、日本の小学生が肩に下げている様な小ぢんまりとした物ではなく、動物用のケージぐらいの大きめの物だ。数十センチあるのが標準的なこの島の昆虫を収容するにはこれ程大がかりでないといけないのだ。これもラッキーがいるため、気軽に持ってこれたのである。現状の成果としては、にが虫が一匹に光蟲が三匹ほど。光蟲は虫かごに移すのに苦労した。なにせ、刺激を与えすぎてしまうと、しばらく目が明けられないほど強烈な閃光を喰らってしまうのだ。そのため、持ち上げる時から、かごの中に安置するまでの間、かなり神経を使わされた。ともあれ、上々な戦果ではある。欲を言えば、もう少し光蟲の数を揃えたいが、飼育するとなると一度に大量と言うのは難しいため、このくらいが妥当だろう。そろそろ切り上がるべきかな、と考えていると、ふと木に止まったある虫が目についた。

 

 30 [cm]は悠に超える巨大な甲虫というのか?カブトムシやカナブンに似た見た目の昆虫がいた。先程の二種類の虫よりも明らかに体格が大きく、強そうだ。とはいえ、昆虫は昆虫だ。流石に戦力として数えるのは無理がある。とはいえ、一応報告しておこう。何かとんでもない効果を持った分泌物なんかを隠し持っている可能性は大いにあるし。

 

 「おーい、こっちで三十センチぐらいあるデッカいカナブンみたいな虫を見つけたんだけど、こいつは何か役に立ちそうかな?」

 

  俺の呼びかけに応じてみんなこちらへと来た。

 

 「あー、それは”マルドローン”っていう”猟虫”ニャ。」

 

 「その、猟虫っていうのは?」

 

 聞きなれない単語に俺は思わず、聞き返す。

 

 「その名の通り、狩猟に使われる虫の事だニャ。言う事をちゃんと聞いてくれて、大型モンスターと闘う時でも、ダメージを稼いでくれたり、囮になってくれたり、八面六臂の活躍をしてくれるニャ。」

 

 あまりイメージが湧かないが、鷹狩りで使う鷹みたいな感覚なのだろうか?大型モンスターとの戦いでも活躍できるというなら、ここでテイムしてしまうのも大いにアリだ。仮に俺たちが上手く扱えるのであれば、危険な沼地に飛び込む際には護衛役としての役割の一端を任せられる可能性だってある。

 

 「それなら、今回は僕がテイムを担当してもいいかな?」

 

 秀夫が名乗りを上げた。そういえば、俺たち三人の中で秀夫だけがテイムを経験していない。ならば、ここは秀夫に任せよう。

 

 「それで、オリバー君、このマルドローンはどうやってテイムするの?」

 

 秀夫が問いかけると、オリバーは周囲の茂みを漁り始め、なにやら何かを探し始めた。

 

 「あったあった。ヒデオさんにはまず、この花の蜜を身体に塗ってもらうニャ。そうすると、匂いに釣られて猟虫が寄って来るニャ。その時に自分の身体の体液を吸わせると懐いてくれるニャ。」

 

 それを聞いた瞬間に秀夫の顔が青くなった。隆翔が「代わろうか」と提案するが、秀夫は「言い出しっぺは自分だからと」覚悟を決めた様子で言う。秀夫は一度深呼吸をしてから、腕をまくりオリバーから渡された花から蜜を絞り出した。それから、自分の腕にそれを塗り付けた。すると、今まで木に止まってじっとしていたマルドローンが翅を広げ、秀夫の腕に飛び移って来た。マルドローンは頭を左右に動かして、何かを探る様な動作をした後、口から何やら細い管の様な器官を出してそれを秀夫の腕に刺した。その瞬間、秀夫は「痛っ!」と声を上げ、苦悶の表情を浮かべている。マルドローンから放たれた管は、太めのストローと同じくらいの直径がある。それが先端だけとは言え、刺さっているのだから、その痛みはかなりのものだろう。しばらくすると、マルドローンの管に赤い流れが見えた。秀夫は立っているのもやっとという様相だ。これが終わったら、今日の所は引き返した方が良さそうだな。マルドローンは秀夫から管を引き抜くと、再び飛翔し、今度は秀夫の右腕に抱き着く様な形で止まった。どうやら、これでテイムは完了したようだ。

 

 「秀夫、大丈夫か?!何か変な所とかないか?」

 

 倒れ込む秀夫に俺と隆翔は肩を貸しながら尋ねる。

 

 「大丈夫だよ。ちょっと血が抜けただけだから少し休めば問題ないと思うよ。」

 

 取り敢えず、秀夫はラッキーの鞍の上に座らせた。収納ボックスがサドルの両サイドにあるせいで、脚の置き場に困っているようだが、この状態で歩かせるよりは幾分かマシだろう。

 

 「ヒデオさん、お疲れ様ニャ。これを飲めば少しは体力が戻るニャ。」

 

 そう言って、オリバーは二重の革袋に包まれた黄色い液体を秀夫に差し出した。秀夫がそれを口にすると、心なしか少しずつ顔色が良くなっていった気がする。この薬品は"活力剤"といい、その名の通り、服用者に活力を与え自然治癒力を活性化させる効果があるそうだ。にが虫から取れるエキスとハチミツ、そして”マンドラゴラ”という何とも恐ろしい名前のキノコが材料のようだ。さらに、その活力剤を粉末状にしたケルビの角と共に煎じることで、質の高い傷薬に調合する事が出来るようだ。現状では活力剤を大量には用意できないが、覚えておいて損は無いだろう。薬品の材料は案外、自分たちの周囲でその多くが取れることが分かった。プラントXを入手して拠点が安定した暁には、それらの栽培を試みるべきかも知れない。やることはまだまだ山積みだ。

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 森から出た俺たちは休憩を兼ねて昼食を取っている。前回の遠征では干し肉だけという何とも物悲しいお品書だったが、今回はラッキーに持ってもらえるお陰でベリーや焼き魚なんかも付いて、幾らか豪華になっている。一応ちょっとしたお弁当と言える程度ではあるはずだ。

 

 休憩を挟んだおかげか、先程まで消耗していた秀夫も大分元気を取り戻したように見える。もう少しだけ休んでから大事を取って、今日は夕飯の食材の確保だけして帰るのが吉かもしれない。成果も大きいから無理を押す必要も無い。和やかな雰囲気のみんなを横目に俺は、用を足すため、少し離れた茂みに移動した。

 

 

 一人で用を足す瞬間というのは、とても緊張感に溢れている。文明的な生活を送っていた頃は、安全な個室に囲まれていたので、そんな事は露ほども感じたことは無かったが、今こうして無防備な状態でいつ外敵が現れてもおかしくない状況に晒されると、心臓に悪い事この上ない。

 

 無事に事を終えた俺は、安堵感から大きくため息を吐いた。それから、俺はみんながいる場所に戻ろうと足を踏み出した。が、その足が次の一歩を踏みしめる事は無かった。唐突に足元に浮遊感が漂った。それと同時に視点が見る見るうちに上に昇って行くのが分かる。肩先には、鋭い爪の様な何かが食い込んでいる。俺の両肩から出血しているのが分かる。先程まで踏みしめていた地面が段々と小さくなっていく。俺は未知の脅威に戦々恐々としながら、視線を上へと持ち上げた。

 

 俺の頭上にはワイバーンがいた。猛禽を思わせる凛々しい顔立ちに、しなやかな肢体。全身は鳥の様な羽毛ではなく、爬虫類然とした鱗状の皮膚に覆われている。身体の大きさは翼竜のメルノスと同じくらいだろうか。俺はその翼竜に似たワイバーンに乱暴に掴まれた状態で、今空を飛んでいる。俺の上下に広がる景色はそれを自覚させるには十分だった。その瞬間、下半身に冷たい物が流れてくる。俺はかつてない程の物凄い声で絶叫した。俺の手はこの小さなワイバーンの両足を反射的に掴んだ。だが、それが俺を更に窮地に追い込むことになる。急に何の前触れも無く足を掴んでしまったせいで、ワイバーンは怯み、その拍子に俺の肩を放してしまった。それによって俺は、大空を往くワイバーンに両手でぶら下がる形と成り果てた。高度は10 [m]弱、落下すれば命は無い。俺は死に物狂いで両手に力を込める。しかしながら、両肩から出血しているせいで、満足に力を入れ続けることは出来ない。それでも俺の生存本能はしがみ付き続ける。時折力が抜け、手を放しそうになるが、寸での処で再び持ち直す。そんな流れを何度も繰り返した。それもいつまで保ち続けられることか。もう腕がもげそうだ。耐えられなくなり、ワイバーンの脚が俺の指からすり抜けた瞬間だった。

 

 左腕のインプラントが点滅を始めたのだ。俺はこの現象の正体に覚えがある。テイムが完了した時の動きだ。一緒に空を飛ぶことがテイムの手段なんて予想が付くわけがない。そんな突っ込みを心の中でしながら、俺は落下を始めた。どんなに足掻いて生き延びた所で、最後がこんなにも呆気ないのなら、やっていられない。次こそは天寿を全うしたい。俺は一時の眠りに備えてさっと目を閉じた。そして、腹部に衝撃が訪れるのをただ心待ちにする。だが、その時が来ることは無かった。

 

 

 「キィィィー!」

 

 

 隼を思わせる甲高い鳴き声が辺りに響く。それと同時に再び肩に力がかかるのを感じた。ただ、先程と異なるのは、荒々しく突き刺す様な掴みではなく、そっと指先を添わせる優しい掴みであった事だ。それでも傷口が痛むのには変わりないが。閑話休題、俺はまたしても命の危機を救われたのだった。




 最後にテイムが完了したモンスターは、MHFにて登場したオトモのホルクです。戦闘力も高く、PVなどでは人間をピックする描写もあったため、ARK的に言うとかなり優秀な生物だと思います。

 猟虫に関しては、この世界には操虫棍が存在しないため、ゲーム本編とは異なる扱い方になります。また、細かな設定に関しても独自の解釈を多く含んでおります。(操虫棍使いの方には申し訳ありません)

 エンエンクの能力の発動方法に関してもモンハンのゲーム本編ではなく、ARKの肩乗せ生物に合わせて設計されております。今後もテイムを行う関係上、こうした改変を行う可能性がございますので、ご理解の程をよろしくお願いします。
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