モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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Version16.3:導き★★★

 「おーい、昼飯が出来たぞ。」

 

 俺が声を張り上げると、何処からともなくみんなが集まって来る。今日の昼食は先程試したフォーカルチリだ。味の評価は上々だった。食後に、俺が食べた時に発生した脚の速くなる効果がみんなにも見られるか確認したかったのだ。その結果、全員に同様の効果が現れた。どうやら、ロックウエル卿の謳い文句は眉唾ものでは無かったようだ。一応、大事を取って俺を含め全員の経過観察を行おうとは思うが、材料に特段変な物を入れている訳ではなく、いつも摂取している物の組み合わせなので、最悪命に関わる事は無いだろう。こうして、新しい遠征のお供が誕生したのだった。

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 アオアシラのテイムを試みるに当たって、必要だと考えられる品は二つある。それは、ハチミツとサシミウオだ。というのも、アオアシラという種は食欲が旺盛で、特にこの二種類を好物としているらしいためだ。特に前者には目が無いという。気性の荒い大型モンスターが相手という事で、これまでの穏やかで人懐っこい気質の小型モンスターと同様に、餌付けの様な安直な手段が通じるのかは分からない。だが、ここで何もしなければ足踏みをするだけだ。それでは島からの脱出も元の時代への帰還も永遠に叶わない。結局の所、前に進むためには俺たちは覚悟を決めるしかない。この島で暮らしていた先達は、ギガノトサウルスやカルカロドントサウルスといった強大で獰猛な生物を従えていたという。それに、隆翔たちの推測が正しいなら、きっと大型モンスターのテイムも不可能ではない筈だ。仮に失敗したとしても全てを失う訳ではない、だから前向きに捉えよう。

 

 

 さて、ハチミツの入手に関してだが、オリバーには当てがあるそうだ。それも、継続的に採取可能となる。島には人の背丈程もある巨大なミツバチの女王が生息しているらしい。この女王は幾多の働きバチを従え、巨大な巣を形成するという生態を持っているそうだ。ドローンの攻撃を掻い潜りつつ、巣を攻撃すれば、女王を引っ張り出す事が出来るとのことだ。その状態で「レアフラワー」という植物を餌付けすればテイムが成功するそうだ。かつてオリバーやその仲間たちがこの方法を用いて実際にテイムを行っていたという。

 

 正直俺としては、アオアシラのテイムを考慮しなくとも巨大ミツバチのテイムを行う価値はあると思う。植物相の都合上、この島では砂糖を得る事は出来ない。そのため、糖分に関して言うと、安定供給が難しいのが現状だ。ハチミツであればその点を上手く解決出来る。それに、秀夫や隆翔には頭を使う作業を任せる事が多いので、そういった意味でも甘い物が手に入るのは嬉しい。

 

 

 ハチのテイムに必要なレアフラワーは沼地に自生している。そのため、もう一度沼地へ赴かなければならない。前回失ったメルノスは代わりとなる個体を再びテイムした。さらに、今回は前回の反省点を踏まえ、持参する道具類の改良を行った。その中で最も力が入ったのはこやし玉だ。モンスターの多くはこやし玉が放つ悪臭を嫌う傾向にある。前回使用した物は糞を練った物の中に、投げやすくするための処置としてネンチャク草を巻き付けた石を入れ込んで作っていた。取り回しは非常に良かったものの、広範囲に継続した効果を与える事が出来ないうえに、どうしてもモンスターが現れてからの事後での対応となってしまう。そのため、ショウグンギザミの時の様に奇襲される形になると為す術が無いという欠点がある。そこで編み出されたのが、ツタの葉を着火した際の発煙作用を利用したタイプの物だ。葉をこやしに浸漬させた後に、乾燥させる事で、悪臭付きの煙が発生するようになるのだ。この方式にする事で、広範囲に忌避剤としての効果をばら撒ける様に変わった。それと同時に、予めの使用で周囲のモンスターが去らせる事も出来るようになった。ただ、広範囲に臭気を拡散させる都合上、自分たちにも影響があるのが難点ではあるが。ちなみに、この新式のこやし玉は秀夫の発案によるものだ。

 

 二度目の沼地探索は、前回の惨憺たる有り様が嘘と思える程に順調な滑り出しだった。新式のこやし玉に着火し、上空から投下すると、地上にいたモンスターが蜘蛛の子を散らす様にその場から方々へと逃げ出していった。鼻を抑えていても、臭気が鼻を突く。しかも、服にも臭いが付着するから洗濯するのも一苦労になりそうだ。逃げ出したモンスターの中には、前回にも遭遇したガミザミの他に、両生類を思わせるヌメヌメとした質感の赤い皮膚に全身を包まれた、ランポスと同じ位の体格をした肉食恐竜型のモンスターも確認された。この生物は「イーオス」と呼ばれる種で、ランポスとは近縁種に当たるそうだ。このイーオスというモンスターは沼地に生息するモンスターの中では、ある意味で最も厄介な部類に位置する。ランポスと同等の群れの規模と機動力を持ちながらも、彼らを上回る生命力、さらにはガミザミと同質の毒液を吐き出す能力まで備えている。いま囲まれてしまえば命は無い。そんな凶悪な相手に対して戦闘を介さずに、撃退を行えたという事実は、これから俺たちが版図を広げるための大きな一歩になるだろう。斯くして俺たちは難無くお目当てのレアフラワーを入手する事が出来た。初となる大型モンスターのテイムの準備の下準備は、つつがなく完了した。

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 後日、俺たちは巨大ミツバチことイキオオミツバチの捜索を行うため、繰り出した。

 

 今回の遠征に際して、ついに念願であった鉄器の導入が行われた。残念ながら、この前手に入れた龍鱗の形をした鉄塊を加工する事は叶わなかった。しかしながら、別の形で鉄鉱石を入手出来たのだ。川辺で採石をしていた所、丸い石をピッケルで砕いた際に磁鉄鉱と思われる鉱石が中から現れたのだ。渡りに船と言うべきか、エングラムの中に「製錬炉」という物の存在が確認出来た。それが完成してからは、秀夫と隆翔が四六時中ふいごを踏んで空気を送っていた。そんな二人の努力もあって、鋼の成分調整が進み、その強度は製錬の度に上がっていった。そうして出来上がった鋼を秀夫が鍛造する事で、金槌やナイフ、鎌などの工具を始め、斧やピッケル、槍といった既存のツールも鉄製にアップグレードされた。鎌はベリーの刈取の効率を高めた。鉄斧は木の伐採にかかる時間を短縮させた。鉄の完成で漸く文明らしい生活の体裁が整ってきた。

 

 今、俺たちは鉄の槍と斧を携えアプトノスのラッキーと共に海岸沿いを行脚している。ハチの巣を突くに当たって、防護服の様な物が必要になるが、日本で用いられていた高度な品は当然用意できない。その代わりとまではいかないが、袖口や裾口を紐でしっかりと縛り、そのうえ目出し帽と手袋を着用して目以外の部位が露出しないようにしている。その所為でこの晴天下では全身が蒸れて、歩けば歩く程に服が肌に貼り付いて不快で仕方無い。そんな不満をぼやきながらもしばらく進んでいると、岩壁に人間が10人はすっぽり収まりそうなほど巨大なハチの巣が貼り付いているのが見えた。この堅牢な建造物の主こそが、件のイキオオミツバチなのだ。崖の周りには15 [cm]以上はある働きバチと思しき昆虫の集団が飛び回っている。サイズが一般的な種よりも大きいためか羽音の大きさも尋常ではない。それが何十個も同時に聞こえるので、首筋が震える。すぐにでもこの場を離れたいぐらいだが、それではここまで来た意味が無くなるので我慢する他無いのが辛い所だ。本格的に近付く前に俺たちは「防虫剤」を使用した。防虫剤もエングラムにあったもので、同じくエングラムを取得した「麻酔薬」にニンジンとレモン、そして動物の体毛を擦った物を加え、混ぜ合わせて作られる。麻酔薬の調合に腐肉を使用する都合上、激臭とも呼べる強烈な臭いを身体に振り撒かなければならない。ただそのお陰で、周囲を飛行するドローンはこちらへ接近して来る様子が見られないので、複雑な気持ちだ。

 

 

 

 

 嘔吐きそうになるのを何度も抑えながら巣に接近すると、導蟲が反応を示した。これまで幾度となく確認されている原因不明の青く染まる現象だ。周囲のミツバチを観察してみると、明らかに様子がおかしい事が一目で分かる。シルエットや基調となる体色は通常のミツバチと大差ないのだが、青く染まった導蟲と同じ色の斑点が身体の至る所に点在しているのだ。さらに、加えて日本で見た事のあるミツバチよりも体表がテカテカしたというか、どことなくメタリックな質感をしているようにも見える。この種は日本の壱岐島で発見されたようだ。古の日本にここまで逞しい生物が存在したというのは、不思議とロマンのある話だと思う。俺が感心していると、隣で隆翔が驚愕の表情を浮かべているのが見えた。

 

 

 「おい、隆翔、どうしたんだ?鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。」

 

 

 

 「いや、俺の知ってるイキオオミツバチとかなり違ったから驚いてたんだ。」

 

 

 

 「違うっていうのは、どういう事なんだ?実際にこういうのが昔いたんじゃないのか?」

 

 

 

 「イキオオミツバチと名付けられた種は実際にいたし、化石も見つかってるんだ。だけど、その化石と姿がだいぶん違うんだよ。体色に関しては分からないから置いておくとして、化石のはあんな拳大もあるような大きさじゃなくて、精々現生の種よりも一回り大きいぐらいだ。あと、イキオオミツバチが独立した一つの種として認められた理由の一つに、基節、足の付け根付近の節の毛が少ないっていうのがあるんだが、今目の前にいるやつはそうじゃない。だから、何で完全に新種と思われる種に全く異なる種の、それも古代の絶滅した系統の名前が宛がわれているのかが不思議でな。」

 

 

 

 俺たちの左手に埋め込まれたインプラントにはこれまで出会った生物の名前のみを記録する所謂図鑑みたいな機能がある。それを使って調べると、目の前のハチの名前は確かに「イキオオミツバチ」となっている。26世紀に至るまでの間にまだ見ぬ新種の化石が発掘されでもしたのだろうか?だが、そうだとしても新種に既存の種の名前を付けるとは、学術上の観点から考え難い。じゃあ、眼前の種は一体何なのだろうか。かつてこの島に存在したという古代生物達だが、記録から読み取れた特徴は化石とは異なる生物も多かったらしい。ギガノトサウルス辺りが良い例だそうだ。隆翔によると、オリバーと出会った日に入手した頭骨は21世紀の段階で発見されていた種を遥かに上回る大きさだったそうだ。この島の謎がより深まりそうだ。

 

 

 

 

 閑話休題、俺たちは当初の目標を達成するため、巣に少量の爆薬を仕掛ける必要がある。この爆薬は火薬草と火打石をすり鉢で混ぜ合わせて作った物だ。今回は巣へと攻撃するのが第一目標であるが、勢い余って内部の女王を殺傷するわけにはいかない。そのため、最低限の爆薬を巣の端から仕掛け、巣の一部を破壊する事で女王に危機感を持たせる。それから、外へ引っ張り出す算段だ。着火は隆翔が作ったマッチで行う。頭薬には木の皮から採取したやにを固めた物を利用している。松脂の代用品だ。側薬代わりには発火粉を木片に塗りたくった物を使用している。運が良い事に、この島で火打石と呼ばれる鉱石には金属の粒子や石英の他にも赤リンまでもが含まれているそうだ。

 

 

 

 爆薬の設置は俺が行う。巣は人間の身長よりも高い位置にあるので、近辺の木を伐採し、その場で作って貰った柱とはしごを用いて手が届くようにした。それから、ネンチャク草を両面テープの要領で使用し、巣に爆薬を張り付ける。それまでの間は、防虫剤の効果で働きバチと俺の間には一定の距離が生まれていたが、巣に触れた瞬間、奴らは意を決したのかこちらへ接近してきた。最初に接近して来た数匹は鉄の槍で突いて撃ち落とした。石槍とは一線を画す威力に興奮を覚えたが、油断してはいけない。第二波と言わんばかりに数え切れない量のハチの群れが迫って来た。一匹いっぴき撃ち落としていてはキリが無い。ここは事前の計画通り逃げるのが吉だろう。こんな事もあろうかと、事前にフォーカルチリを食して少しでも速く逃げられる態勢を整えてある。俺は手早く爆薬に着火し、勢い良くはしごから飛び降りた。

 

 

 

 幸いにして足を挫くことは無く、瞬発力が向上したのもあってかすぐにその場を離れられた。働きバチたちは俺を完全に敵視したのか、防虫剤の悪臭など最早お構いなしにこちらへと突っ込んで来る。ここからの俺の役割は囮だ。ドローンたちが俺に気を取られている間に、今しがた出て来た女王を秀夫たちが餌付けしてテイムしてしまおうという流れだ。ちなみに、女王の釣り出しはレアフラワーを潰して、その臭気を撒く事で行う。レアフラワーの匂いには動物を興奮させる作用があるそうだ。その効果は凄まじく、アプトノスやケルビの様な穏やかな気性の生物であっても、手当たり次第に周囲の生物に襲い掛かるようになる程だという。レアフラワーの匂いによって気が立ったクイーンを秀夫たちが誘導し、効果が切れたタイミングで給餌を行うのだ。早速フォーカルチリの効果が活躍している。脚力が向上したお陰で、奴らに寸での処で追い付かれずに済んでいる。だが、過信は禁物なのも事実だ。フォーカルチリの効果が切れた後には、強い脱力感に苛まれるという副作用も存在する。そのため、テイムに手間取ってしまえば、それだけ俺がハチに刺され続けるリスクが増える。早く終わってくれと、思いを馳せながら走り続けたのだった。

 

 

 フォーカルチリの効果が切れる直前で秀夫たちがテイムを終わらせてくれた。レアフラワーの花びらを一枚吸わせたで懐いてくれたようだ。秀夫が無抵抗笛を吹いてくれた事で、働きバチの群れも攻撃の手を収めてくれた。女王の大きさは輪を掛けて大きく、時折現れるブナハブラの巨大な個体に比肩する程だ。体高で言うと1 [m]近くは有りそうだ。腹部にある縞模様は普通のとは異なり、青い筋が走っている。体表の質感も働きバチと同様に、凡そ只の昆虫とは思えない程にメタリックな物となっている。これに関しての確証は無いが、女王と大きさが然程変わらないブナハブラと比較すると、その雰囲気は比べ物にならない程に精悍な印象を受ける。その様は、まるで歴戦の闘士を見ているかの様にも錯覚させられる。テイムが終わると、俺たちは安全を期して直ちに拠点へと踵を返した。これまでの経験から、こうやって成功した時ほどアクシデントに見舞われる事が身に染みているからだ。

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 拠点に帰還した後そのまま、秀夫とオリバーの二人はこれから養蜂を行うための小屋を作り始めた。それを傍目に、俺と隆翔は先程蜂をテイムした場所へと戻った。テイムが完了した後に、導蟲が青色を保ったまま、森の中へと飛び去って行ったため、それを今から追いかけようという算段だ。成果を上げられた以上、欲を掻く様な真似はしたくなかったので、一旦引き返すという選択を取った次第だ。今回はメルノスにぶら下がって現場まで直行した。やはり、空路での移動は速くて邪魔も無いので快適だ。隆翔はどこかソワソワとした面持ちだ。それも仕方の無い事なのかもしれない。謎のゾンビドラゴンの痕跡を発見した日から、ずっと釈然としなかった導蟲の謎を解決する手掛かりを得られるかも知れないのだから。俺はそういった現象について考えられるほど頭の出来が良いわけではないが、こうも長い間分からないとなると、どうしてもモヤモヤとした感情を抱いてしまう。

 

 

 上空から、地上付近を滞留する導蟲が確認できた。色は相変わらず青いままだ。俺たちは地上に降りると、念のためメルノスを上空に移動させ、そこに留まるよう命令した。それから、導蟲の集まった場所へと向かった。

 

 

 導かれた先で俺たちは驚くべき物を目撃してしまった。そこにはジンオウガやリオレイアなどの大型モンスターを上回る体格のドラゴンの死体が横たわっていた。

 

 このドラゴンは全身が錆びた鉄の様な赤茶けた体色をしている。見た目の質感や触感も本当に錆びた鉄そのものだ。匂いを嗅いでみると、正に鉄そのものだった。この生物は正しくドラゴンであると言える。なぜならば、鳥類やワイバーンと異なり、四本の脚に加えて二対の翼を持つという、よく知られた脊椎動物には見られない特異な骨格であるからだ。鳥類やコウモリの翼は前脚、人間でいうと手から進化した器官だと聞いた事がある。だが、それ以上に俺たちの目を引く要素があった。それは、鱗の形状だ。酸化の影響で色合いこそ異なっているが、雨の日の後に隆翔が見つけたあの鉄塊と全く同じ形をしていたのだ。それすなわち、あれの正体はこのドラゴンの体表を覆っていた鱗だったという事だ。何かの拍子に剥がれ落ちた物であったのだろう。秀夫たちの調べによると、あの鱗は間違いなく金属としての性質を示していたらしい。つまり、このドラゴンは比喩などではなく、文字通りに鋼の肉体を持った生物であると言えるのだ。そんな生物は21世紀の世界ではもちろん、この島でさえも前代未聞だ。ここまで大量の鉄を纏って本当に動けるものなのか?見た所、翼も発達しているし、例え飛行していても見た目の上だけでは違和感が無いように思える。だが、こんな重い鉄の塊がエンジンも無しに空を飛べるとは思えない。本当に生物なのかどうかすら疑わしい。未来のテクノロジーで作られたロボットだと言われた方がしっくり来るように思える。

 

 

 

 「これは、どうやらドラゴンの抜け殻のようだな。」

 

 

 

 ドラゴンの頭から尻尾にかけて広がるパックリと割れた割れ目を見ながら隆翔が言った。

 

 

 

 「抜け殻?死体じゃないのか?」

 

 

 「ああ、背面の開き方からしてそれで間違いないだろう。まさか、ドラゴンが脱皮する生き物だったとは、それを知れただけでも収穫だ。」

 

 

 

 ドラゴンの脱皮か、如何にも正統派な風貌をしておきながら、なんというか生々しい生態だな。イメージが崩れそうだ。でも、ドラゴンのモチーフとされているのはヘビだから、そういった意味ではむしろ脱皮するのも不自然な事ではないのかも知れない。そんな事を考えていると、導蟲が一斉にドラゴンの体内のある一か所へ集っているのが見えた。

 

 

 導蟲の舞うスピードが今まで見た事がない程に速くなっている。その場所を見てみると、紫色の金属と思しき薄い板状の物体が所々にこびり付いていた。その表面にはハニカムの様な筋が浮かんでいる。俺は抜け殻の内部へ身を乗り出した。

 

 その物質から暖かい空気を感じる。ちょうどキャンプファイヤーの火をただ眺めている時の様な、穏やかで心安らぐ感覚がする。不思議な物だが、もっと身を委ねていたいと思える。

 

 

 『警告:許容量を上回る不安定エレメントを確認、直ちにその場から離れてください。』

 

 

 突如としてインプラントからホログラムが出現し、妙な警告文が示された。こんなことは初めてだ。何か危機的な状況であるのだろうが、今はまだここを離れたくない。もっとこの素晴らしい芸術品を見ていたい、感じていたい。多幸感に浸っていると、不意に何処からか声が聴こえた気がする。

 

 

 「初めまして、君のような聡明な君子と”繋がる”事が出来てとても光栄だよ。早々で申し訳ないが、本題に入らせてもらうよ。こうしてシステムを超えて交信している事が知れたら後々面倒になるのだよ。さて、突然だが私は現在、仄暗い地下に幽閉されていてね、一人ではどうしても外に出る事が出来ないんだ。だから、君に脱出のための手助けをして欲しいんだ。同じ”囚われた者”として。ああ、といっても何も難しい事は無いよ。目の前にある"エドモンジウム"を受け入れるだけで良い。さすれば、君はこの島の総てを、否、この世の須らくを理解出来るだろう。君は、君の周りにいる原始人共とも、君が"待つ者"と呼ぶ野蛮人に堕ちたあの女とも違う。"エドモンジウム"の真価を一目で理解出来た君こそが、神の殿人に相応しいのだ!さあ、手を取るのだ!君を苦しめる怪物も、私を陥れ剰え君を島へと追いやったあの女も、全て君の支配下へ下るのだ!」

 

 

 エドモンジウムへと伸びる俺の腕は震えている。だが、ゆっくりと伸びて着実に近付いている。この声は不気味だが、目の前の物質は俺にとってすごく重要な物である事は確信している。これを受け入れた後のビジョンが明晰な形頭に浮かぶのだ。力に溢れ、総てを知る事が出来る。もう己の非力さに絶望する必要は無くなる。これ程の全能感を感じたことはこれまでで一度も無い。俺の手はついに紫色に触れようとした。

 

 

 「ーた、裕太!」

 

 

 叫ぶようにして俺を呼ぶ声が隣から聞こえた。

 

 

 「大丈夫か?呆然としていたぞ。警告文の事もあるし、大事をとって今はここを離れよう。」

 

 

 あれ?俺は今までなんてことを考えていたのだろう!身体だけでなく、思考すらも乗っ取られた様な不気味で気持ちの悪い感じがする。終いには得体の知れない幻聴まで聞こえる始末だ。きっと俺は疲れているのだろう。そんな状態で森の中をうろつくのは危険だ。ここは隆翔の言う通り、まだ動ける内に帰った方が賢明だろう。そうして、翼竜を地上へ呼ぶために、木々の切れ間に移動しようとした、その瞬間だった。

 

 

 野太い咆哮が響き渡り、木々は揺れた。俺たちは咄嗟にその場に蹲り、耳を庇った。そして、次の瞬間にはドラゴンの死体に三発の紫色を帯びた火球が次々に直撃し、火の手が上がったのだった。




 今回登場したモンスターはイーオスとクシャルダオラ(抜け殻)です。イーオスはランポスの近縁種に当たり、無印MHから登場する毒を使用するモンスターの代表的な種です。また、イキオオミツバチはARKに登場する生物で、巣にすることでハチミツを生産する能力のある生物です。
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