モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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 今年度は忙しくなりそうなので、昨年よりも投稿頻度が落ちそうです。気長にお待ちくだされば幸いです。


Version16.4:目覚めた樹海の主

 ドラゴンの抜け殻は赤紫色の炎に包まれている。ブレスの火力はあのリオレイアを遥かに凌駕するものだ。怒気を孕んだ咆哮が響き渡ると同時に、抜け殻は宙を舞い四散した。空からは無数の火の粉が流星の様に地上へ降り注いでいる。俺たちは反射的に身を屈めた。そのお陰で、目立ったダメージを受ける事は無かった。そして、恐る恐る音のした方へと目を向けた。

 

 抜け殻があった場所には先程までとは打って変わって、リオレイアと同程度の体格を持つワイバーンが鎮座していた。俺たちは咄嗟にうつ伏せになり、草陰に身を隠した。ワイバーンはリオレイアと同様に、森の色と一体となった深い緑色を基調とした体色をしている。それに加えて、所々に赤い筋が浮かび上がっており、奴の形相も相俟って激情の念を感じさせる。リオレイアと最も大きく異なるのは、頭から尻尾の先に至るまで全身を赤い棘に覆われているという点だ。さらに駄目押しと言わんばかりに、頭部には鋭利な角が伸びている。それらの理由から、大きさはそう変わらないはずなのに、奴から受ける威圧感はリオレイアのそれを遥かに上回っている様に思える。主観だが、あのジンオウガやラギアクルスに匹敵する程に思える。目の前のモンスターは明らかに並のモンスターを上回る実力を持っている。それは先程のブレスと抜け殻を吹き飛ばした身体能力から容易に想像できる。

 

 ワイバーンは抜け殻が跡形も無くなったのを確認すると、これまで赤みが掛かっていた全身が完全な深緑色に姿を変えた。口から溢れていた火気を帯びた黒い吐息も見えなくなった。どうやら、興奮が収まったようだ。ワイバーンの様子を見る限り、よっぽど強い敵愾心をあのドラゴンに対して持っていた様に思える。住処を取り合ったりでもしているのだろうか。束の間、落ち着きを取り戻したワイバーンはその場に身体を丸めた状態で伏せ、寝息を立て始めた。その様子を見て俺と隆翔はそっと胸を撫で下ろした。どうやら俺たちの存在には気が付かなかった、もしくは認識していても大きな脅威ではないと判断されたらしい。それと同時に、何処に隠れてたのか、ヨリミチウサギやシビレガスガエルなどの小動物が次々と姿を現した。彼らもただならぬ危機を感じてこの場所を離れていたのだろう。いずれにせよ助かった。上空に待機させていた翼竜にも被害は無かった。事前に逃走の命令も併せて行っていたのが功を奏したらしい。こんな所にこれ以上長居するのは危険以外の何でもない。俺たちはすぐに翼竜を呼び寄せ、この場を後にした。

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 「なあ、隆翔。抜け殻の中にあったあの紫の金属の事なんだけどさ、あれを見て何か感じなかったか?」

 

 帰り道、あれから特に大きなアクシデントも無く、翼竜に揺られながら俺たちは順調に進んでいた。だが、俺にはどうしても引っ掛かる事がある。それは、ドラゴンの抜け殻の内部にあった謎の物質の事だ。あれを見ていた時、俺は自分自身の思考を完全に乗っ取られている様な感覚に陥った。なんとも表現しづらいが、あの物質そのものがまるで意思を持っているかのような錯覚さえ覚えた。それに、あの物質から聞こえたあの声は、話している内容こそ理解不能な物であったが、俺は何故か暖かい雰囲気を感じてそれに魅せられてしまった。その時の精神状態ははっきり言って正常とは言い難いだろう。何か底知れぬ恐ろしさを感じた俺は、隆翔も同じ体験をしなかったのか気になったのだ。

 

 「色と光沢からしてヨウ素の結晶である可能性が高いが、生体内で単体の結晶の状態で存在しているというのはまず無いから、不思議な話だとは思ったぞ。」

 

 隆翔にはあの感覚は訪れなかったのだろうか?ならば、あの声も聞こえていなかったのか?

 

 「いやそうじゃなくて、何かこうあれを見て暖かい感じがしたり、話しかけられてる感じがしたりしなかったのか?」

 

 俺が”エドモンジウム”を通してした体験を詳細に話すと、隆翔は怪訝な顔をした。

 

 「そんな感じは全くしなかった。けど、お前の言ってることが本当ならあれは俺たちの時代では知られていない未知の物質の可能性が高い。幻覚作用に近い効果があるという事は、身体に悪い影響があるかも知れない。念のため数日間安静にしておくべきだと思う。」

 

 幻覚作用か。確かに、そういう効果のある物質は心身に悪影響を及ぼす物も多いだろう。隆翔の言う通り、少し休んだ方が良いのかも知れない。それに、あの幻聴は精神的な疲労によるものである可能性もある。そういった意味では休養という選択肢は、今の俺にとって必要な事だと言える。ここはお言葉に甘えよう。たまには何も考えずに釣りでもしながらのんびり一日を過ごすのも悪くないだろう。

 

 拠点に戻ってから、残っていた秀夫たちに事の顛末を伝えた。導蟲が青くなる原因がエレメントやエドモンジウムと呼ばれる未知の物質であった事、またそれが強い幻覚作用を持つという調査結果を共有した。取り敢えず、導蟲がこの反応を示した際には、安全のため可能な限り距離を取る方針となった。また、今日テイムしたイキオオミツバチに対しても導蟲が青くなったため、ハチミツの使用は一旦見送りとなった。適当な小動物をテイムし、しばらくの間ハチミツを摂取させて特に悪影響が無ければ、解禁する予定だ。せっかく危険を承知でテイムしたのだから、ハチミツが無用の長物にはなって欲しくはない。何事も無い事を祈るばかりだ。

 

 それと、先程遭遇した大型モンスターについても、オリバーから情報を得る事が出来た。奴の名は、「エスピナス」。この島の森を牛耳る”裏”の主とも呼ぶべき存在だそうだ。なぜ裏なのかというと、エスピナスという種は、一日の大半を寝て過ごすという生態があり、余程のことが無い限りは他のモンスターと縄張り争いを繰り広げる事は無いというのが大きな理由だ。奴はなんとあのジンオウガをも上回る戦闘能力を持つため、誰も好き好んで戦いがらないそうだ。触らぬ神に祟りなしを体現したかのような生物と言える。そういった背景もあってか、奴は森林の生態系に属しながらも、他の生物からは初めからいない存在かの様に避けられているという。その証拠に、森林の”表”の支配者たるリオレイア及び、そのオスであるリオレウスは、森の全域を覆う様に縄張りの巡回を行う生態を持ちながらも、エスピナスの寝床周辺"だけ"は綺麗にその対象から外しているのだ。この島の先住民が「空の王者」や「陸の女王」と崇める存在ですら手出し出来ないというのは、正に裏の王と呼ぶに相応しい貫禄であると言える。ちなみに、さっき奴が放ったブレスはリオレイアのそれを上回る破壊力を持つのは勿論のこと、更には炎の中に神経性と出血性の二種類の毒が含まれているそうだ。もしあの時、俺たちがブレスに被弾していればという事を考えると、身の毛もよだつ思いだ。俺と隆翔がエスピナスにとって取るに足らない存在だと認識されたのは運が良かったという他ないだろう。

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 あれから俺は三日間の休養日を貰った。最初の二日間は大事を取って安静にしていたが、特に精神面や体調に関して差し障りは無かった。そのため暇を持て余しているので、最終日である今日は釣りでもして気を紛らわせようと考えたのだ。

 

 俺が休んでいる間にも拠点の改良は進められていた。プラントXの誤射を防ぐための措置として、ペット用の厩舎が建てられた。現在収容されているのは、環境生物ではカモシワラシ、光蟲、にが虫、マルドローンだ。小型モンスターでは、アプトノス、ホルク、メルノスだ。先の沼地探索で失った生物はある程度補填できている。

 

 設置したプラントXの効果も上々だ。時たま群れからはぐれたと思われるランポスやルドロスなどが餌食になっている事がある。プラントXの胞子には視界を奪う特性と、動きを鈍らせる特性の二種類がある。そのお陰で一発目の弾に被弾した生物はパニック状態となりその場に立ち往生する事で、その後も集中砲火を浴びて絶命するのだ。これを利用する事で、ランポスの爪を用いた槍を再び入手でき、またより耐久性の高い「皮装備」を全員分用意できた。こうした成果を見ると、命を張った価値は十分に有ったと思える。

 

 さて、日に日に発展する拠点に思いを馳せつつ、俺は浜辺の適当な位置に椅子を置き釣りの準備を始めた。鉄製の釣り針を糸の先端に取り付ける。こうして俺が鉄器を利用できるのは、秀夫や隆翔の御膳立てのお陰だ。こんな小さな瞬間でも、つくづくあの二人やオリバーに出会えて良かったと思える。俺ひとりであれば、数年かけてもここまでの生活水準には辿り着けなかったと思う。感謝してもし切れない。

 

 突然だが、島の海岸で採取可能な釣餌は大きく二種類ある。一つは「釣りカエル」と呼ばれるガスガエル類より一回り小さな体躯の赤いカエルだ。日本ではカエルを釣りで使うのは一般的ではないが、この島の魚たちはこのカエルを好んでおり、食いつきは良いらしい。ただ、この釣りカエルには一つ厄介な性質がある。それは、海棲の大型モンスターの多くが好むという点だ。特にこの島には三種類ほどカエルに目が無いモンスターが生息しており、その内の二種はこの周辺の海域でも遭遇する可能性があるという。もし匂いを嗅ぎつけられてしまえば、拠点は大損害を被る。そのため、釣りカエルを餌として使わないよう、オリバーから口酸っぱく言われている。二つ目は「釣りミミズ」だ。これには俺が一人で生活していた時からお世話になっている。ミミズと名が付いているが、見た目は釣具屋で販売されているアオムシに近い。今回もこの釣りミミズを使用する。

 

 

 竿を投げてから、俺は椅子に腰掛けていた。退屈な時間ではあるが、穏やかな風を浴びつつ、リラックス出来るので心地が良い。島に来てからはずっと何かしらの行動をしていたので、日中からこうして何もしない時間があるというのは中々に新鮮だ。竿に芳しい反応は無い。しばらくそんな様子が続くので、俺は陽光の下微睡み始めていた。

 

 「裕君、竿、食いついてるよ。」

 

 夢うつつの中、秀夫の声が後ろから聞こえた。俺は慌てて釣り糸を引き寄せた。糸巻が無いので手繰り寄せるのも一苦労だ。島の魚は有難い事にサイズが全般的に大きい。ただ、食べる時には嬉しいが、こうして釣り上げる時には結構辛いものがあるのも事実だ。糸が切れない様に気を付けながら引き揚げると、後ろに長く伸びた橙の背びれが見事なアロワナの姿が確認できた。俺はその姿を見るなり、急いで釣り針を外してリリースした。今の魚は「バクレツアロワナ」といい、その名の通りというべきか絶命時に爆散するという恐るべき特性を持つ。迅速にちゃんとした処理を施せばそうはならないらしいが、リスクを冒してまでやりたくは無いので、今回は大人しく逃がしたのだ。

 

 「なんか残念だったね。裕君。」

 

 「まあ、気長にやるさ。」

 

 それから、秀夫も加わり二人で釣りに勤しむことになった。今日の俺は運が無いのか、あれから特に大きな釣果は無かった。長靴すらも引っ掛からないのは、我ながら悲しい出来事だった。一方の秀夫は運に恵まれ、サシミウオに小金魚、それと数匹のシラヌイカが連れていた。

 

 小金魚は、リュウキンと呼ばれる品種の金魚の様な見た目をした魚である。それだけであれば、名前通りなのだが、一点だけその名と異なる点がある。それは、大きさだ。小とは付いているが、金魚にしてはかなり大きく、小型の鯉ぐらいのサイズは平気である。キレアジやハレツアロワナの様に目立った特色や用途はこれと言って無い。観賞用として見れば価値は高いのだろうが、今はそんな余裕は無いので、食用にする。大抵塩焼きにして食べる事が多い。味の程は、淡白で良くも悪くも淡水魚といった感じだ。味の強い調味料を作れれば、活用法も広がりそうである。とはいえ、現状食材としては質でも量でもサシミウオに負けているので、何も釣れないよりかはマシと思える程度だ。

 

 シラヌイカは銛の先端の様な形状の外套膜を持ち、赤や緑などのカラフルな光を放つイカだ。食用としては、普通のイカと同じ感覚で利用できる。身が締まっていて、刺身で食べると甘味もあり、何も調味料を付けなくとも非常に美味しい。この島で大豆と米が発見できていないのが本当に悔やまれる。加えて、シラヌイカの墨には血行を促進する成分が含まれているのか、食べると一時的に手足に力が入りやすくなるといった効果がある。ただ、現状ではパスタ等が無いので、効果を得るためにはそのまま墨を飲み込む必要がある。これがまた苦みが強いので、あまり進んで口にしようとは思えない。そのため、食べやすくなる調理を模索する必要がありそうだ。

 

 今日の成果は散々な物ではあったが、秀夫と他愛もない話をしながらする釣りは良い気分転換になった。今日は贅沢にイカそうめんでも食べて明日からの活動に備えるとしよう。海岸が夕日で染まる中俺たちは拠点へと戻って行った。




 今回登場したモンスターは棘竜エスピナスです。MHFシーズン2.0で実装された、実質初の記念すべきオリジナルモンスターで、同作の顔というべき存在です。(シーズン1.0で実装されたヴォルガノスおよびヒプノックはメインシリーズとの共同開発であり、初登場作品もMHP2Gと公式では書かれる事が多いため)
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