モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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Version16.5:孤島の相撲大会

 ここ数週間の間、俺たちは養蜂を行う体制を整えるのに大忙しだった。まず、ハチが営巣するための小屋の設営を行った。と言っても、土台にして3×3の範囲を柵土台囲み、その上に壁と天井を設置した簡易な建物なので、これにはそこまで苦労しなかった。最も辛かったのは、レアフラワーの入手と栽培の準備だ。レアフラワーは拠点周辺に自生していないので、沼地まで取りに行く必要がある。しかも今回は前回の採取と違って、栽培まで視野に入れているので、まとまった量の種を付けた花を回収しなければならなかった。

 

 

 これがまた大変な工程だった。種が付いた花弁は割合的にそれ程多くはないので、必然的に広範囲を探索しなければならなかったのだ。イーオスやブナハブラの群れを掻い潜りながらのフィールドワークはかなり神経を使わされた。奴らは物音など生物の気配に敏感なので、細心の注意を払っての行動を余儀なくされたからだ。移動は専ら匍匐前進だったし、経路は草が生い茂った場所を選んで進んでいた。羽虫が集って来ても追い払う事も出来ず、帰る頃には服の隙間から侵入されたのか全身を蚊に喰われて痒くて仕方が無かった。ちなみに、オリバーも含め、全員がヴァードベリーを煮出して作られた染料で服や体毛を緑に染色して臨んだので、絵面がとにかく酷かった。ただ、一連の努力の甲斐もあって一応、予備も考慮した十分な数のレアフラワーの種を入手できたのだった。

 

 ただ、物事は上手くは運ばないものでそれから二度大きなアクシデントに見舞われてしまった。一度目は収穫を終えて帰還しようとした際に起こった。「バフバロ」という大型モンスターの襲撃を受けたのだ。バフバロは、アンジャナフよりも一回り程大きな体躯を持つ獣竜で、分厚い甲殻に雪を思わせる白い体毛、そして牛のそれを十倍以上拡大したかの様な巨大な角を携えたモンスターだ。肉食恐竜の側を持った牛というのが第一印象であり、これまで出会った中で、最もパワー系という言葉が似合う生物だと思う。その外見に違わず、バフバロの膂力は凄まじかった。巨大な角を地面に突き立てた状態で、ひとたび突進を始めると、まるでブルドーザーの様に周囲の木々を薙ぎ払っていったのだ。木がその場で倒れるだけならまだ良かったが、その内の一本が俺に目掛けて飛んで来るという事態が起こった。サッカーのシュート並のスピードで、大木が俺の頭上五センチを掠めて行った時は、もう何度目か分からない走馬灯が駆け巡って行った。それから、奴が咆哮を上げようとしたが、寸での処で隆翔が光蟲の閃光を放ってくれたので、翼竜が撃ち落とされずに済んだ。そして、そのまま空を飛んで難を逃れたという訳だ。ちなみに、このバフバロという生物は適応力が高いため非常に生息域が広く、北にある雪山も含め島の全域で確認されるそうだ。出くわす確率が高いというだけでも厄介極まりない。要注意モンスターリスト入りは免れないだろう。

 

 

 二度目のアクシデントは、拠点に戻ってからだった。その日の夜に秀夫が酷い高熱を出したのだ。どうやら、秀夫は巨大なヒルに噛まれてしまっていたらしく、それが原因だと考えられる。防虫剤は酷い臭いを出すので、イーオスに感づかれやすくなると考え使用しなかった。だが、結果的にそれが仇となってしまったのだ。しかも、運が悪い事に秀夫の病気は感染症だったため、俺と隆翔も間を置かず同じ症状に襲われた。高熱に加え、咳や下痢などが合わさり、拠点は地獄の様相を呈していた。現地民のオリバーだけは耐性があったのか、はたまた人間とは身体の構造が異なるからか、無事だった。幸いペットたちにも特に影響は無かった。俺たちの症状は数日続いたが、ある時藁にも縋る思いで、にが虫から分泌されたエキスを服用した事で、症状は和らいでいき事なきを得た。モンスターだけではない沼地の危険性を改めて思い知らされる形となった。同時に、エングラムから作られる物も完璧ではなく、改良の余地があると思い知らされたのだった。

 

 

 こうした不慮の出来事はありつつも、イキオオミツバチの営巣小屋の中でレアフラワーを栽培する事に成功した。その時に隆翔のメモを見せて貰ったのだが、多くの失敗例とその時の温度や気象条件が事細かにが記されており、その試行錯誤の数と思考量に驚かされた。俺では絶対に無理だっただろう。ともあれ、隆翔の努力の甲斐もあり、ハチミツの採取が行えるようになった。

 

 だが、そこに至ってもまだ問題があった。それは、ハチミツの安全性についてのだ。ミツバチをテイムする時、エレメントという幻覚作用を持つ謎の物質に対する物と同じ反応を導蟲が示していた。実際に近くで件のハチを飼育しているがあの時の様な幻覚は全く見ていない。だがそれでも、人間や動物に悪影響があるかも知れないという疑念は払拭できない。そのため適当な小動物をテイムして、言い方は悪いが実験台にさせてもらう。それで問題が無ければ、今度は実際にアオアシラのテイムに移る予定だ。

 

 そんな訳で、この度不幸にも実験台に選ばれてしまった生物はヨリミチウサギだ。ヨリミチウサギは上に長く伸びた耳が特徴的な、きつね色の体毛に包まれた可愛らしい兎だ。体感ではあるが、同じウサギのカモシワラシよりも生息数は若干少ないように感じる。臆病な気質なようだが、多くの環境生物と同様で餌をチラつかせれば、こちらに付いて来てくれた。他の草食動物の例に漏れず、メジョベリーが好物である。折角テイムした生物を実験に使うのは正直、気が引ける部分もあるが、こちらもある意味では今後の進退が掛かっている。だから、ここは心を鬼にして事を進めなければならないだろう。

 

 恐れ半分で始めた実験ではあったが、結果は俺たちが危惧していた物とは正反対だった。最初、ハチミツを与えた被検体には体調への何らかの影響があるのではないかと考えられていた。しかし、餌のベリーにハチミツを混入させて与え続けてみたが、二週間が経過してもヨリミチウサギの身体に悪い変化は無かった。それどころか、与える前よりも筋肉の量は明らかに上がっているし、動きは活発になったように見受けられたのだ。あまり悠長に時間を使いたくなかったのもあって、駆け足な感じは否めないながらも、ハチミツの使用を解禁する運びとなった。俺も意を決して一度口にしてみたが、日本で売られていた物よりも甘くてコクがあってとても美味しかった。その後、誰もあの時の様な幻覚を見る事は無かったので、俺たちの心配はどうやら杞憂に終わったようだ。

 

 余談だが、ヨリミチウサギをテイムした結果思わぬ副産物を手に入れる事が出来た。彼らには、小動物しか通れない大きさの小さな穴や通路を好む生態があり、テイムする際にその穴の中から同時に発見したのだ。発見したのは米粒と同等の大きさのハチノコに似た見た目をした昆虫、「米虫」だ。この米虫、食用とすることが可能なのだ。そして、なんとその味は正に俺たちの勝手知ったる米そのものなのだ。蒸して食べれば、味の面だけで言えばご飯とほとんど差異が無いと言える。ただ、見た目は完全に虫そのものなので、苦手な俺にとってはかなり来る物がある。ただ、それでもまたあの味を食べられるというのは、生粋の日本人である俺たちにとっては喜ばしい事だった。今は隆翔が米虫の養殖に向けて試行錯誤を続けてくれている。贅沢は言わないから、今度は醤油や味噌を体から出す生物が発見出来ないかと、心の中で秘かに思っていたりする。

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 アオアシラのテイムを決行する日になった。イキオオミツバチは身体が大きな分、生産する蜜の量も相応に多い。その性質のお陰で2 [L]程度のハチミツを難なく入手できた。これは金具で固定した木製の容器に詰めて持ち運んでいる。

 

 今日はまず、肝心のアオアシラの捜索から開始する。捜索は二つのチームに分かれて行う。秀夫と隆翔はメルノスに担がれた状態で海岸から森にかけての上空から探す。対して、俺とオリバーは地上から導蟲を利用して痕跡を辿っていく。俺たちの組には非常時の護衛としてホルクの「ホルン」を付けた。お互い有事の際にすぐに駆け付けられるよう骨製の笛を携帯している。ちなみに、餌のハチミツもすぐに使えるように俺たち地上組が持っている。

 

 こうして探してみると、案外見つからない物だ。朝からかれこれ3、4時間は行動しているが一向に見つかる気配は無い。まあ、そう上手くいかないのは承知の上だ。根を詰めすぎてもいけないので、適当な岩場にでも腰掛けて少しの休憩でも取ろう。そう考えた矢先、変化は訪れた。浜辺に打ち上げられたであろう謎の物体に導蟲が反応したのだ。今回は青くなっておらず、未知の物質を警戒する必要は無さそうだ。

 

 「なんだこれ?」

 

 落ちていた物が余りにも場違いな物だったため、思わず素っ頓狂な声が漏れてしまった。縦へ半分に切られたキュウリが流れ着いているのだ。正直、なぜこんな物が海岸にあるのか理解出来ない。俺では特に分かる事は無いだろうが、一応入念に観察してみる。この物体の色合いや表面についたイボ状の突起など形状だけに着目すれば、十中八九キュウリといえる。だが、よく見てみると質感はヌメヌメとしており、なんだかナメクジの皮膚みたいにも思える。余計に分からなくなってしまった。

 

 「それは、”ウリナマコ”ニャ。」

 

 ナマコだったのか。道理で海岸に落ちていたわけだ。ここの海はそこまで波が強くないが、何かの拍子に間違って打ち上げられたのだろう。このナマコにとっては不運な出来事だったことだろう。

 

 「気を付けるニャ。これが落ちてるってことは、アレがこの近くにいる可能性が高いニャ。」

 

 オリバーは警戒した様子で続けた。どうやら目の前のこれは、偶然漂着した物ではなく、ある大型モンスターが食事を行った痕跡であるらしい。しかも、まだ新しい物だから、主はこの近くをうろついている確率が高いという。俺たちの警戒感が否応なしに高まる中、秀夫たちの物と思しき笛の音が響き渡った。音の方角は導虫たちが向かって行った方向と同じだ。俺はオリバーを腕に掴まらせ、急いでホルンを呼び寄せた。

 

 ホルクの最大速度はメルノスのそれよりも速い。そのため、こうした非常時の際には心強いのだ。強風に揺られながらもすぐに二人の下へたどり着いた。とりあえず揃って無事なようで安心できた。

 

 「二人とも無事で良かった。」

 

 「俺たちは大丈夫だ。それよりも下を見てくれ。」

 

 隆翔に促され、俺は地上へと目を向けた。すると、そこにはお目当てのモンスター、アオアシラの姿が確認できた。だが、それとは別にもう一匹見知らぬモンスターの姿も見られる。腹がでっぷりと出ており、カモノハシに似た嘴が特徴的だ。腹の質感は両生類の皮膚を思わせ、どことなくカエルっぽい印象も受ける。背中は亀の甲羅を思わせる甲殻に覆われており、その上には緑色の体毛や苔が蒸している。水辺という景色も相俟って、太った河童の様にも見える。体格はアオアシラよりも一回り以上大きい。

 

 「やっぱり、”ヨツミワドウ”だニャ。あいつは水のブレスを撃てるから、万が一流れ弾に当たらないよう一旦上に退くニャ。」

 

 オリバーの言葉に従い、俺たちはホルクとメルノスに移動の笛を吹いた。このままではテイムどころではない。何かヨツミワドウを追い払うために、策を考えないといけない。だが簡単に思いつく訳も無く、無情にも二匹の姿が段々と小さくなっていく。それとは裏腹に、眼下では大きな戦いが始まろうとしているようだ。

 

 最初に仕掛けたのはアオアシラだった。二足で立ち、前脚を広げて威嚇したかと思うと、目にも留まらぬ速さでヨツミワドウへ突進して行った。グリズリーを軽く超える体格のクマから放たれる一撃だ。いくら体の大きさで勝るヨツミワドウと言えど、食らえば只では済まされないだろう。しかしながら、そんな予想を裏切るようにして、アオアシラは後方へ吹き飛ばされた。ヨツミワドウの腹部を覆う皮膚は、大型車にも迫る膨大な運動量を吸収しうるほどの高い弾性を持つようだ。再び立ち上がったアオアシラは果敢にも、もう一度突撃を敢行した。だが、そんな健闘も虚しく今度はヨツミワドウの両腕に掴まれてしまう。ヨツミワドウの腕力は凄まじく、アオアシラはあっと言う間に頭上まで持ち上げられてしまった。そして、ヨツミワドウは両腕に抱えた巨大な質量を事も無さげに投げ飛ばした。その迫力は相撲の取組などとは比較にならない。横綱すら裸足で逃げ出す貫禄だ。地面に打ち付けられたアオアシラはひっくり返ってのたうち回っている。

 

 「これ以上は不味いな。」

 

 隆翔はそう言うと、メルノスの高度を下げた。そして、次の瞬間には間髪入れずパチンコからこやし玉が発射された。今回使用したのは、最初に作った糞を拡散させずに直接対象に当てるタイプの物だ。間一髪、既に追撃の構えを取っていたヨツミワドウの顔面に直撃した。それから、ヨツミワドウは両手で頭を抱えて、心底嫌そうに表情を歪めている。なんとなく人間味を感じて、憎めない部分もあるが、それとこれとは話は別だ。この期を逃すつもりはない。俺は地上を指さして移動笛を吹いた。ホルンは滑空して急降下した。地上に降り立った瞬間、俺は迅速に攻撃的の笛を鳴らした。ホルンは一瞬の内にヨツミワドウの頭上へと飛び、足の鉤爪を使った連続攻撃を繰り出している。余りの勢いに鈍重なヨツミワドウは追従出来ないでいる様に思える。そんな隙を突く様に、今度はオリバーがジャンプし、奴の背中に飛び乗った。かと思うと、今度は物凄い勢いで飛び降りた。束の間、ヨツミワドウの背中から爆風が発生し、辺りは黒煙に包まれる。

 

 一陣の風が吹き抜けた。それと同時に、視界を遮っていた爆炎は少しずつ、晴れていった。ホルンは俺の横に着陸した。煙の切れ間からは、未だ健在のヨツミワドウが姿を現す。だが、奴の様子は先程までとは打って変わり、大口からは涎が垂れるなどして疲労の色を隠せないでいる。そしてこちらに対し、威嚇したかと思うと、奴はすぐに踵を返して海へと飛び込んでいった。ノロノロと水面から顔を出して泳ぐヨツミワドウの姿は徐々に小さくなり、ついには見えなくなった。思わぬ遭遇ではあったが、なんとか撃退に成功したようだ。

 

 「裕君!後ろ!」

 

 何事も無くヨツミワドウを撃退できた事実に安堵していると、秀夫が珍しく張り上げた大声が聴こえた。咄嗟に俺は背後を振り返る。その刹那、俺の顔の三寸先にアオアシラの顔が映った。目が合うなり、アオアシラは立ち上がった。棘と甲殻に覆われた厳つい前脚を掲げている。その様子を見るなり、死を覚悟した俺の心臓は早鐘を刻み始めた。俺は反射的に後退ろうとするも、流木に足を取られ転んでしまった。それと同時に、両脇に抱えていたハチミツ入りの木箱の一つは、手元を離れて口が開いた状態で砂の上に落ちて行った。ハチミツの甘い香りが周囲を包む。それをいち早く察知したのは、他でもないアオアシラだった。振り下ろそうとしていた前脚を瞬時に引っ込めたと思うと、その場に座り込んだ。そして、木箱を掴むと同時に、ベロベロと舌で舐め始めたのだ。アプトノスやメルノスの場合、こうしてこちらが食べ物を与えた後には、好意的な反応を示してくれるようになるのが普通だった。大型モンスターにも同様の性質があるのかは分からない。だが、試す価値は十分に有る。俺は今にも攻撃しようとしていたホルンに無抵抗の笛を吹いて窘めた。

 

 アオアシラは先程までの殺気立った様子が嘘のように、ハチミツに夢中だ。その顔は何処となく幸せそうにも見える。容器のハチミツが無くなると、アオアシラは座ったままの状態でこちらを見つめてきた。その視線は俺が持っているもう一つのハチミツに注がれている。

 

 「もしかして、欲しいのか?」

 

 俺は恐る恐るの覚束ない足取りで近付き、箱を奴の足元に置いた。すると、アオアシラは勢いよくハチミツに食らい付いた。好感触な反応に安心していると、不意にアオアシラが箱を俺の脚元へ投げてきた。箱の中にはまだ少しハチミツが残っている。奴は箱に視線を送り、顔を上下に揺らしている。その様子は、俺に「食え」と言っている様にも感じられた。正直、気は進まないがこれで本当にテイムが出来るのならば、やらない手は無い。俺は深呼吸し、覚悟を決めた。そして箱を再び手に取り、その中のハチミツを手で掬って食べた。そうして、二、三口ほど食すと検体インプラントから馴染みのある通知が流れて来た。

 

 

 

 

You have tamed an Arzuros!




 今回初登場したモンスターはバフバロ、ヨツミワドウです。バフバロはMHW:Iにて追加された獣竜種のモンスターで、ストーリー中では二番目に戦う大型モンスターです。環境への適応力が高いため、総ての汎用フィールドに登場し、時に乱入でハンターを苦しめています。ヨツミワドウはMHRにて追加された、MH4以来となる両生種の完全新規モンスターです。妖怪がモチーフとなったRise組の例に漏れず、河童がモチーフとなっています。個人的には、マスコット味があって好きなので、今後の作品にも是非登場して欲しいです。
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