モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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 初めてのリスポーンを経験した裕太君。彼は何を考え、行動するのでしょうか?それでは、本編スタート!


Version2.0:対面

---「ハッ!」

 

 俺は意識を取り戻す。恐ろしい夢を見た。巨大な化け物のような昆虫の群れに貪られ、殺される夢だった。俺は寝ている時の夢を覚えている体質ではない。にもかかわらず、あの夢のことは鮮明に覚えている。あの虫と遭遇したときの恐怖も、毒で痺れた時の無力感も、肉を食い千切られる痛みすらもだ。本当にあれは夢だったのだろうか?夢にしては記憶が鮮明だし、何より現実感があり過ぎる気がする。俺は自分の身体を隅々まで見渡し、触ってみる。傷一つない見事なパンツ一丁だ。おまけに、左腕のひし形も健在だ。この島に来た時の俺と何一つ変わりない。体を食い千切られた痕も無ければ、毒針が刺さった場所にもそれらしき痕跡は無い。やはり、俺の考え過ぎなのだろうか。だが、俺が目覚めた場所が昨日たき火をした場所ではなく、そこから数百メートルほど離れた、俺がこの島で最初に降り立った場所だったことにも疑問が残る。寝ている間に誰かが運んだのか?いや、だとしてもそんな事をするメリットなんてないはずだ。そもそもここに俺以外の人間がいるのかすら怪しい。ともあれ、非常に不気味ではあるが、これについてばかり考えている訳にもいかない。この島に来てから何も食べていないし、火の様子だって気になる。日が高い内に食料探しや周囲の探索なんかも済ませなければいけない。やるべきことは山ほどある。とりあえずは、歩いてたき火の所まで戻るとしよう。

 

 

 少し歩くと焚き火が見えてきた。間違いなく、昨日俺が作ったたき火で一安心だ。ただ、昨日とは少し異なるその場の雰囲気に違和感を感じる。たき火に近づくにつれ、何かが腐ったような強烈な臭いが鼻に突き刺さるのだ。それだけでなく、たき火のすぐそばで誰か人が横たわっている。俺は鼻を摘まんで、なるべく息を吸わないようにしつつ、恐る恐る近づいてみる。

 

 「うわっっあぁぁぁ!!」

 

 

 俺は眼下の惨状に思わず目を背けてしまう。あまりに凄惨な光景に眩暈がし、喉元から込み上げてくるのを感じる。その、人だったものは、酷く全身を食い荒らされていた。首元から脹脛に至るまで何箇所も肉が食い千切られたような痕があり、血が滲んで紫がかっている。さらに、背中には何か太く鋭利な物で刺されたような痕があり、傷口周辺は特に酷く腐敗が進んでいる。俺は耐えられずにその場を離れようとする。しかし、なぜか身体が動かないのだ。何か俺の中の直感のようなものが向き合えと語りかけてくるような気がしてならなかった。それからしばらくの間、俺はそれを視界に入れないため、天を仰ぎながらその場で佇んでいた。この時の俺は、左腕のオブジェクトが眩い光を放っていることに気が付けなった。

 

 

 俺は意を決して、その遺体にもう一度目をやる。その中でも、最も損傷が酷いであろう胸部が目に入ってきた。背中と同じように、刺されたような穴が開いている。腐敗によるものか、液状化している箇所もあり、グロテスクという表現では語りつくせない程に強烈な視覚的不快感を与えてくる。そして直後に、胸に空いた穴からシロアリの卵のような気色の悪い、粒状の物体があふれ出しているのを見つけた。その瞬間、先程から無理やりせき止めていた堤防がはち切れる。俺はその場にうずくまり、嘔吐した。

 

 

 それからしばらく吐き続けた。それが収まるころには、すっかり鼻もこの異臭に慣れて始めていた。そんな俺の目に、遺体の男性の顔が映った。彼の頭部は、食い荒らされておらず、原型をしっかりと留めていた。そして、俺は最悪の事実に気付いてしまっていた。その顔はとても俺にそっくりだった。いや、そっくりなんかじゃない。俺、そのものだったんだ。何度も、何度も、何度も、何度も見返した。その度に、残酷な事実が俺に突き付けられ続ける。昨晩の明晰夢と目の前に転がっている俺の死体、状況があまりにも合致し過ぎている。それは、あの夢が実際に起こった出来事であったことを俺に認識させるには十分であった。昨夜俺はあの化け物昆虫に襲われて死んだんだ!あれは夢なんかじゃなかった。それなら、今ここにいる俺は一体何なんだ?それが頭をよぎった瞬間、さっきまで硬直していた俺の身体は、まるでエンジンが点火したかのように脈動し、俺は一目散にその場から走り去った。恐らく、これまで人生の中で最も大きな速度を伴って。今の俺はあの化け物昆虫から逃げた訳ではない。ましてや、不快な異臭やグロテスクな死体からでもない。俺はもっと悍ましい、真実から逃げたかったのだ。

 

 

 あれから、俺は周囲のことなど一切目に入らない程に夢中で野を駆けた。この島に逃げ場はない。きっと死んでもまた目が覚めるんだ。それに、この島には化け物がいる。これは夢でも幻でもない。きっと俺はこれから何度も殺される。そして、その度に目覚めるんだ。そんな言いようのない絶望感が頭の中を支配する。それはもはや、檻だ。俺は、二度と出られない檻に囚われてしまったんだ。もう死にたくない。もうあんな痛みを味わいたくない。俺はその事実を認められないまま、野を駆け巡り続けた。それから、どれほどの時間が経過したのだろうか。気付けば知らない森の中にいた。俺は衝動に任せて行動したことを本当に後悔した。

 

「ギィギィーギャァーウ」

 

 息も絶え絶えな俺に追い打ちをかけるように、明らかに獣の類と判断できる鳴き声が飛び込んで来た。

 

 




 
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