モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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 今回で50話目になります。平素よりご愛読下さりありがとうございます。今後も不定期にはなりますが、更新を続けて参りますのでよろしくお願いします。


Version16.7:密林の無法者

 島にはいくつかの山がある。今回は、その中でも最も南にある山岳地帯へと訪れた。危険が一番少なかったのがそこだったのだ。結論から言うと、俺たちは無事に水晶の原石を入手する事に成功した。原石は地中深くに埋まっている、という訳ではなく塊となった鉱石が地表に露出していた。何か作為的な雰囲気を感じたが、意地になっても仕様がない。秀夫お手製の鉄製ピッケルを使えば、簡単に原石の岩を細かく砕き、持ち帰られるサイズにする事ができた。

 

 

 

 

 

 その後は秀夫の主導で原石の研磨が始まった。採取されたばかりの状態では、全くと言って良い程輝きは無く、白くくすんでいるのだ。それではゲリョスは見向きもしない。まず、研磨器具として候補に挙がったのは鋼すら削れるキレアジのヒレだ。だが、秀夫にとっても初めての作業という事もあって、難航した。ツヤ出し自体は出来たものの、研磨時に生じた傷が目立つなどして仕上がりがよろしくなかった。そこで、より高い研磨性能を誇るキレアジの成長した個体であるドスキレアジのヒレを使用することになった。それでも、技術の不足を完全には補えず、目標の質に到達するまで一月近い時間を要した。その間、寝る間も惜しんで石を磨き続けてくれた秀夫には感謝で一杯だ。ちなみに、俺は不器用なので、下手に参加すると足を引っ張るだけの存在になりかねないという理由で、原石の採掘やキレアジの確保に徹していた。ドスキレアジの確保はそれなりにしんどかった。釣りでは引っ掛かる確率が低く、まとまった数を用意するのは難しいためだ。最終的には業を煮やして、アオアシラの「ヨルン」に一網打尽にしてもらう形で他の魚諸共打ち揚げていた。秀夫も材料を集めてくれたことに感謝してくれたし、結果的には良かったと思う。

 

 

 

 

 水晶の準備をしている間、隆翔は有益な環境生物を何種類かテイムしてくれていた。シビレガスガエル、イチモクラブ、そして回復ミツムシの三種類だ。

 

 

 

 

 シビレガスガエルは黄色の皮膚と腹部に神経性の毒ガスを貯める器官をもったカエルだ。サイズとしては、トノサマガエル以上、ウシガエル未満といった感じでこの島の生物としては大人しめだが、毒の効力は一級品だ。放たれるガスを吸引してしまうと、全身に痙攣が発生し、長時間全く身動きが取れなくなってしまう。これは人間だけではなく、大型モンスターにおいても例外ではない。上手く運用出来れば戦闘の流れを一気にこちらに引き寄せられるのは間違いない。だが、シビレガスガエルの能力も万能ではない。この島の生物は毒物への耐性を獲得する能力に優れているらしい。自身の動きを完全に止める程の劇毒でさえも、種によって程度の差はあるが、自然に解毒されたり、さらには毒の効く時間が短くなったりするなど素早い適応を見せるという。そのため、毒ガスの行使は戦局を見極めて、ここぞという場面で使用するのが望ましい。あと、ガスを自分が吸わないよう注意しなければならないため、運用は意外と難しかったりする。

 

 

 

 

 

 イチモクラブは、森林で発見したカニと思われる生物だ。ピンク色の甲殻に包まれており、全体のフォルムは丸っこくて可愛らしい。節足動物の類が苦手な俺でも平気で見ていられるほどだ。一際目を引くのは、背中から生える自身の身体と同等の大きさを持つキノコだ。これは”めだま茸”と呼ばれるこの島独自の種であるらしく、イチモクラブの背に生える事で昆虫などの天敵から身を守り、対価としてイチモクラブに水分や養分を提供するという共生関係にあるそうだ。テイムの際にはこの関係を利用した。キノコに付いた汚れなどを払ってあげるなど、キノコの手入れを行う事でこちらに懐いてくれたという。また、イチモクラブにはキノコの胞子を自身の吐息に乗せて飛ばすという生態があるのだが、この時の風圧が尋常じゃない程に強い。一回の吐出される時間は長くないが、それでも一人の人間が宙に浮く程度の勢いがある。化け物揃いのこの島では、もはやツッコミを入れる気にもならない。この能力は、攻撃の笛を吹くことで任意のタイミングでこちらが利用可能なのが分かっており、高所に一瞬で登れるので結構便利だったりする。が、その真価はそういった用法には無い。真の意味でイチモクラブが活躍するのは、製鉄の際だ。鞴を用いて空気を送らなければならないのだが、人力でやるのは中々に重労働だ。そこで、イチモクラブの気流を利用したのだが、これが必然か偶然か仕上がりがよろしくなる絶妙な塩梅なのだ。このお陰で鉄製の道具を些事においても気兼ねなく使用できるようになったので非常に助かっている。

 

 

 

 

 

 

 

 回復ミツムシには何度も窮地を救われているが、成分を作り出すために必要な回復ツユクサを供給できなかったため、テイムを行えなかった。だが、最近になって隆翔がその栽培を成功させたので、晴れて4匹のミツムシを仲間に加えられたのだ。定期的に蜜を採取し、木製の容器に入れておけば遠征や緊急時のために保管が出来る。これが出来るだけでも、出歩く際の安心感は大菊なる。隆翔は回復ツユクサの栽培を他の作物や米虫の養殖と並行して行っていたので、こちらはこちらで作業量が膨大で忙しくしていた。俺も植物の剪定や土壌の管理などに関しては手伝っていた。

 

 こうして、拠点はまた広くなり、次の大型モンスターをテイムする準備も完了した。

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 深夜なのか早朝なのか判断に困る時間帯、俺たちはゲリョスのテイムを行うため、生息地である沼地へと陸路での移動を開始した。今回は戦闘が発生する事を見越して、いつもの翼竜による移動を採用しなかった。主力はアオアシラのヨルンだ。さらに、サポート要員としてホルクのホルン、加えて肩に乗せて運べるシビレガスガエル、マルドローン、新たにテイムしたエンエンクをそれぞれ俺、秀夫、隆翔が持っている。そして、長くなる旅路に備えた物資を運ぶ役割としてアプトノスのラッキーを伴っている。

 

 

 

 

 

 俺たちは代わる代わるラッキーやヨルンの背中に跨りながら、沼地への道を進んだ。普段は空路ですぐに駆け抜けてしまうためあまり感じる事は無かったが、意外にも歩いてみるとその道のりは険しい。ただ、そんな道中においてもヨルンの存在はとても頼もしい。以前は川を渡るのはいつ引きずり込まれるか分からず、非常に恐ろしかったが、ヨルンがキガニアやルドロスを蹴散らしてくれるお陰で慌てずに通過する事が出来るのだ。俺たちは道中特に、アクシデントなど無く沼地の入り口付近までたどり着けたのだった。

 

 

 

 もう既に日は昇りきっており、空の様子ははっきりと確認できる。

 

 

 

 「ニクイドリの群れニャ。こっちに向かってるからみんな注意するニャ。」

 

 

 

 オリバーは空を見上げながら言った。ニクイドリは黒い羽毛に全身を覆われた猛禽類の様な見た目をした鳥だ。群れを成して飛行する様は、カラスの様にも見える。彼らは生態系においてはいわゆる掃除屋的なニッチにおり、自ら狩りをすることは少ない。その代わりに、彼らは大型モンスターの上空を飛行するという性質を持ち、追従している大型モンスターが狩りを行い獲物を仕留めると、その亡骸のお零れを貪る。こうした生態は俺たちが大型モンスターと遭遇しないための目安になるので、彼らの同行には日頃から注意を払う様にしているのだ。今ニクイドリが確認されたという事は、この近辺に大型モンスターが接近しているという事に他ならない。しかも、運が悪い事に沼地からこちらの方向へ向かって来ているのだ。俺たちは休憩もそこそこに、急いでラッキーの積荷から武器や爆薬を取り出し、臨戦態勢へ移行した。

 

 

 

 木々は揺れ始め、足音が周囲に響き渡っている。いよいよ接敵する瞬間が訪れようとしている。俺は唾を飲み込んだ。その瞬間、何かが俺の下へピンポイントに着弾した。

 

 

 

 「うっわ。くっせ。何だこれ?」

 

 

 

 俺に直撃した物体の正体は糞だった。それも全身に飛散する程の量の。鼻から息を吸うのが難しくなるレベルの想像を絶する悪臭が漂う。服の上ならともかく、顔やら手やらにも付着してしまった。みんなも鼻を抑えて顔を顰めている。そして、立て直す時間すら与えずに、この喧騒の元凶が姿を現した。現れたのは、この緑溢れる地に似つかわしくないピンク色の体毛に包まれたゴリラの様なモンスターの群れだ。最前列にいるボスの体格はアオアシラよりも一回りほど小さく、その背後にはより小さな子分と思しき個体が控えている。ボスの頭部の毛は逆立っており、鶏冠の様な見た目になっている。腹部はアルマジロの皮膚と似た質感をしており一見堅そうではあるが、ヨツミワドウ程ではないが中年男性を思わせる肉付きであるため真偽は不明だ。そして、尻尾は先端が指と同じように曲がる構造となっており、黄色のキノコが握られている。

 

 

 

 「あれはババコンガかニャ。どうするニャ?この頭数なら何とかなりそうだニャ。」

 

 

 

 「ここは戦おう。逃げても振り切れなかったら厄介だ。」

 

 

 

 そう言って目配せすると、みんな頷いてくれた。ラッキーを後ろに下がらせ、同時にヨルンを前に出す。群れの子分であるコンガの数は4匹。だが、奴らの所作からはランポスの群れの様な軍隊然とした絶対的な統率は感じられない。案外、付け入る隙はあるのかも知れない。遭遇したのは運が悪かったとしか言いようがない。大方、縄張りを巡回していた所にタイミング悪く当たってしまったのだろう。こう大勢でいると目を付けられるのも仕方が無い事だ。

 

 

 

 「一旦、子分の方を始末してしまおう。敵の頭数が減ればこちらが有利になる。」

 

 

 

 隆翔が呼びかけると、秀夫はマルドローンをババコンガに向けて放った。マルドローンはババコンガ顔の周りを付かず離れずの絶妙な塩梅で飛行している。ババコンガは不快になったのか、前脚を振るってどうにか叩き落とそうと試みているが、その度に寸での処で回避されている。それが、余計に神経を逆撫でしたようで、ババコンガは完全にマルドローンに釘付けになっている。俺はこの隙に乗じてヨルンにコンガへの攻撃命令を出した。ヨルンは立ち上がり、堅牢な甲殻と鋭い爪の生えた前脚を振り回しながら進んでいる。ヨルンが引っ搔くと、コンガは血しぶきを上げて吹き飛んでいく。今の一連の攻撃で2匹のコンガを仕留められた。それから、追撃と言わんばかりに、ホルンが1匹のコンガに上空から攻撃を仕掛けた。ホルク特有の鋭利な鉤爪による攻撃を滑空の勢いに乗せて放ったことで、コンガは背中から首筋にかけて大量に出血している。とどめを刺すまでには至っていないが、かなりぐったりとしており、もはや虫の息と言った様相だ。そんな有様を嗅ぎ付けたのか、上空を飛行していたニクイドリの群れが手負いのコンガに群がり、貪り喰い始めたのだ。生きながらに肉を引き千切られるのは敵ながら凄惨なもので、この世の物とは思えないコンガの悲痛な呻き声が響いている。残った最後の1匹は、形勢を不利と見てか、逃げ出そうとしている。そこへ、オリバーが"グレネード"を1発、2発と投げ込んだ。コンガの足元で小規模な爆発が発生する。だが、流石はモンスターと言うべきか、未だ健在だ。コンガは跳躍し、オリバーへと飛び掛かろうとした。その体型からは想像できない運動能力だが、軍配はこちらに上がる。ヨルンはすぐさまオリバーの元へ駆け付け、落下するコンガにベアハッグをお見舞いした。こうして、ババコンガの取り巻きは全て討伐する事が出来た。

 

 

 

 

 

 ババコンガは体格こそ劣るものの、生態的な地位においてはアオアシラよりも高い位置にいるらしい。そのため、ここから激戦が展開される事が予想される。であるならば、今はニクイドリには助けられる形となったが、こちらが窮地に陥ると逆に首を絞める羽目になってしまう事が考えられる。ニクイドリの群れを追い払うため、俺は火打石を擦って煙幕式のこやし玉に着火した。ニクイドリたちには効いているらしく、一目散に方々へ飛び去って行った。一方、ババコンガは興奮しているからか、はたまた臭気の強い物を扱いなれているからか、こやし玉は効いていないようだ。他のモンスターの様に怯むどころか、息を粗くさせており、むしろ敵愾心を刺激したように思える。

 

 

 

 

 

 ババコンガは先程までと打って変わり、眼前のマルドローンを一切意に返さなくなり、怒りの矛先は部下の多くを倒したヨルンに向けられている。その口からは怒気を感じさせる白い吐息が溢れている。ヨルンとババコンガが向かい合う。先に仕掛けたのはババコンガの方からだった。糞が投げつけられた。少し離れた場所からでも鼻を摘まみたくなる強烈な臭いが届く。それを顔面に直接受けてしまったヨルン顔を歪めて身を縮こませている。搦め手から入り戦闘の主導権を確実に得る辺り、見た目通りに知能が優れているようだ。ヨルンが動けないと見るや、ババコンガは飛び掛かりで距離を詰める。そして、ヨルンの背中に衝突すると同時に首根っこを掴んだ。奴はその状態で自身の顔をヨルンのに近付けると、なんとゼロ距離で直線状のブレスを接射する。ブレスは如何にも汚らしい茶色をしており、見るからに臭そうだ。ヨルンもそれに耐えかねたのか、奴を引き剥がし、両腕で掴んで持ち上げた。だが、ババコンガも大人しくはしない。ヨルンの顔目掛けて茶色く色づいたガスを繰り返し放屁している。もはや鼻呼吸など不可能な程、周囲に臭気が充満している。皆、鼻を抑え無理やり口から息を吸おうとしているのが見える。この状態では飲食や薬の服用などは絶対に不可能だろう。仮に無理やり突っ込んだとしても、嘔吐いて戻すのがオチだろう。それから、ヨルンは激臭に表情を歪めながらも、なんとか地面へと叩き付けた。鈍い音が周囲に響き渡る。衝撃は凄まじかったものの、奴も負けじと受け身を取り、瞬時に復帰した。

 

 

 

 

 

 単純なパワーではヨルンの方が若干ではあるが勝っている。だが、奴にはブレスや投擲といった豊富な遠距離攻撃の手段があり、なおかつアオアシラが苦手とする搦め手としての性能も高い。普段狩っている小型モンスターと違い、力押しが通用しないのは事実だ。ならば、こちらも相手の土俵で戦って上回る他ない。

 

 

 

 

 

 「力比べならこっちが有利だ。動きを止めた状態なら勝機はあるはずだ。俺がシビレガスガエルを使って動きを封じる。そのために秀夫はマルドローンで奴の気を引いてくれ。オリバーはその間に背中に乗って、出来ればドスランポスの時みたいに転倒させて欲しい。」

 

 

 

 俺が呼びかけると二人は頷き、行動に移った。

 

 

 

 「なるべくガスのある所には長居しない様に気を付けろ!ホルンやマルドローンに関してもそうだ。下手したら窒息するぞ。」

 

 

 

 隆翔がみんなに呼び掛ける。俺はその言葉を受けてヨルンに移動笛を吹き、あの汚いガスが薄いであろう場所まで後退させた。ここは一度ヨルンを休ませ、俺はホルンへの指示に専念する。

 

 

 

 マルドローンが最大速度でババコンガの顔面にクリーンヒットした。それと同時にホルンに攻撃命令を出す。奴の背部に自慢の連続攻撃が炸裂した。それによって、ババコンガは怯む。そして、次の瞬間にはマルドローンが再び奴の顔面に攻撃し、今度は見事なアッパーカットを決めたのだった。その効果は覿面だったようで、奴は涎を垂らしながらその場で肩を震わせている。ここに来て明確に疲労の色が見えている。俺はホルンをオリバーの元へ移動させる。それから、待機していたオリバーを掴ませたのだ。ホルンは一度高く飛び上がると、そこから滑空で一気にババコンガの背中に急降下した。オリバーの反応速度は目を見張るものがあり、ホルンが近付いた一瞬の間に見事ババコンガの背中に飛び移ってみせた。オリバーは新調した鉄製のナイフを奴の背中に何度も突き立てる。疲労して満足な抵抗が出来ないババコンガは、いつの間にか地面に横たわっていた。俺はその様子を確認すると、全力の走りで奴の顔先へと向かった。奴に接近した瞬間、俺は手拍子をしてシビレガスガエルにガスを放出するよう催促した。そして、その兆候が見えるや否やカエルは地面に置き、直ちに来た道を引き返した。黄色の気体が発射されると、ババコンガは痙攣を起こし、その場で震え始めた。俺はガスが拡散したのを確認して、急いでシビレガスガエルを回収する。

 

 

 

 

 作戦は成功した。後ろで控えていた隆翔はそれを見届けると、ヨルンに攻撃命令を出し満身創痍のババコンガへ突撃させた。ダッシュで勢いが増したベアハッグが直撃する。それから間髪入れずに、渾身の左フックがババコンガを襲った。奴はその衝撃で後ろに大きく仰け反った。それと同時に痙攣も収まったようで、後退しつつこちらへ威嚇している。奴は大分消耗しているようだ。もう一押し出来さえすれば勝利はこちらの物だろう。

 

 

 

 

 楽観的なムードが漂い始める中、奴は思いもよらぬ行動を取った。二足で立ち上がったかと思うと、大きな腹を前方に突き出し収縮させた。すると、他のモンスターの咆哮に引けを取らない音量の爆音が一帯に木霊した。俺たちはあまりの音圧に耳を塞いで蹲ってしまった。ペットたちも突然の出来事に呆気に取られた様子だ。先程の腹音から群れの危機を感じ取ったのか、木々の隙間からコンガの集団が次々に現れた。その数約10匹。俺たちは囲まれてしまった。趨勢が自らに訪れたの自覚したババコンガは、尻尾に巻き付けていた黄色のキノコを手に取ってボリボリと食べている。先程までの追い詰められた様子とは打って変わり、余裕に満ちた正に群れのボスと思える風格を醸し出している。

 

 

 

 

 コンガたちが迫り来る中、俺たちは鉄槍を構えて応戦の構えを取る。正直俺たち人間の力だけではすぐにジリ貧になるのは目に見えている。かといって、ヨルンを今ババコンガの前から離すのは得策ではないだろう。何かこの状況を打開する方法は無いか。周りを見渡すと、ふと川辺でキガニアが跳ねているのを見つけた。どうにかしてあの飢えた魚たちを利用したい。おびき寄せたとて、大人しく明らかな危険地帯にまではついて来てはくれないだろう。ならば、1匹でも構わない、どうにかして無理やりあそこに落とせないものか。俺たちが膠着している間にも、ホルンは着実に敵を処理してくれている。3匹の個体が既に息絶えている。だが、そろそろスタミナが限界なのか、飛行にぶれが見え始めている。俺は追従の笛を吹き、こちらへ呼び戻した。

 

 

 

 「すまない。もう一頑張りだけしてくれないか。」

 

 

 

 俺は道中で拾っていたスタミナライチュウをホルンに食べさせる。スタミナライチュウはカブトムシの幼虫の様な見た目をした昆虫で、即効性の高い疲労回復作用や強壮作用を持った成分を大量に含んでいる。これでもう少しだけ戦えるだろう。とは言え、先程までの激しい戦闘はもう厳しいだろう。

 

 

 

 

 ああ、そうだ。思い付いた。これならば、川のキガニアを利用できるかも知れない。俺は目の前のコンガ指差してホルンに掴む命令を出した。ホルンは一瞬の間を開けた後、1匹のコンガをその両足に掴んだ。コンガの背中に足の鉤爪が突き刺さり、抵抗するも虚しく上空へと連れ去られて行った。俺はそれを確認すると、ホルンに川への移動指示を出した。そして、そのまま降ろす時の命令を出すと、コンガは川の中へと落下していった。水面から顔を出して、手足をばたつかせながら藻掻いているが、時すでに遅し。瞬く間に飢えた魚類によって水底へと吸い寄せられていった。初めて出す命令だったが、ホルンは見事実行してくれた。これは後でご褒美を弾まないといけないな。

 

 

 

 一連の出来事を目撃したコンガたちは呆気に取られており、動揺したかのような雰囲気が群れを支配している。この機を逃してはならない。

 

 

 

 「秀夫!グレネードを使うんだ!」

 

 

 

 小柄な秀夫は槍の代わりに、グレネードを所持している。グレネードは小型モンスターに対しては十分な威力を誇るが、投げてから爆破までの間に少なくないタイムラグが発生するという欠点を持つ。それ故、素早いモンスターが相手だと爆発までの間に逃げられることが多い。だが、今回に限って言えば、コンガたちの警戒は完全に上空のホルンに向いており、俺たちにまで気を配る余裕を失っている。またしても、ホルンによって1匹の個体が拉致されて行った。それと同時に数発のグレネードが地面に着弾した。爆発音が鳴り響き、煙が棚引く。秀夫が良い位置に投げ込んでくれたお陰で、大多数のコンガを仕留める事が出来た。残るは3匹。生き残った奴らはボスの元へ撤退して行った。

 

 

 

 

 残ったコンガとババコンガはヨルンを囲むようにして陣取っている。ヨルンにも疲労が見える。丁度、先程までとは真逆の戦況となってしまった。ホルンも増援に赴けるほどの余力を残していない。秀夫のグレネードの在庫も残り僅かだ。俺、隆翔、オリバーの三人はお互いにアイコンタクトを送り合い、ヨルンの元へ駆け付けた。鉄の槍でコンガと応戦するが、決定打を与えられない。石槍よりも刺突時の手応えは大きいが、相手の勢いを削ぐには威力が足りない。逆に懐に潜られて、利き腕である右腕を引っ掻かれてしまう始末だ。腕からは4本の筋が入り、血が大量に溢れている。もう槍を振るえそうもない。そして立て直す暇を与えず、コンガは俺に飛び掛かり、馬乗りになってきた。奴が俺の首筋目掛けて爪を突き立てようとする。俺は静かに目を瞑った。

 

 

 

 刹那、俺の側方数メートルの位置から炸裂音が轟いた。間一髪、秀夫がグレネードを投擲したのだ。コンガが気を取られている間にオリバーの槍が奴の胸を貫いた。

 

 

 

 「ユータさん、リュートさん、ここは引き付けるから下がるニャ。」

 

 

 

 コンガの軍団は再び全滅した。だが、その代償も大きかった。俺は見ての通り戦闘不能だし、隆翔もコンガを倒せこそしているが全身から血を流し、膝を着いている。俺は隆翔に肩を貸し、秀夫がいる方へと退こうとした。その時だった。ババコンガは四つ脚で地面を踏みしめ、直線状のブレスを薙ぎ払いつつ放って来たのだ。最初に見た時とは異なる、黄みがかった色をしていた。

 

 

 

 「まずいニャ!!」

 

 

 

 オリバーは俺たちを突き飛ばそうとした。だが、それを自覚するよりも前に、俺の身体は動かなくなった。全身が痺れ、指先一つすら動かせない。俺と隆翔は地面に倒れ伏す事しか出来なかった。オリバーも先程の行動が災いして俺たちと同じ状況に陥っている。ヨルンは倒れてこそいないが、先程シビレガスガエルの一撃を喰らったババコンガと同じ状態になっている。ババコンガはそんな俺たちを尻目に、ヨルンを殴り続けている。その度にヨルンから弱々しく、痛々しい声が零れる。そんな状況を見て何も出来ないのがもどかしい。このままでは俺たちは総崩れになる。

 

 

 

 「お願い、当たってくれっ!」

 

 

 

 渾身の掛け声とともに、秀夫が最後のグレネードを投げた。それは見事に、飛び掛かりの勢いを付けるために後退したババコンガに向けて飛んでいる。しかしながら、奴に慌てる気配はない。グレネードが正に着弾する瞬間、奴は腹を突き出し、あろうことか弾き返してしまった。そして、不運にもその軌跡はヨルンがいる方向に向かっていた。案の定、、グレネードはヨルンを巻き込む形で爆発してしまった。ヨルンはなんとか無事だったが、もう限界が訪れている。俺たちよりも早く痺れから回復したが、もう戦う力は残されていない。ヨルンは背中を見せる事を厭わず足を引きずりながら、この場を離れようとしている。だが、奴も容赦はしない。全力の疾走で追跡するのだ。怒りに満ちたババコンガが満身創痍のヨルンに、今にも追い付こうとしたその矢先だった。

 

 

 

 「グォー!」

 

 

 

 「無、茶だ。やめるん、だ。」

 

 

 

 両者の間にラッキーが立ちはだかったのだ。頼むことなら動いてくれ、この身体。そんな願いも虚しくただ残酷に時は過ぎてゆく。ラッキーは勇敢にも状態を持ち上げ、威嚇をしている。だが、本能には逆らえない様で、踏ん張る後脚には僅かな震えが見て取れる。ラッキーはババコンガに体当たりを仕掛けるも、無情にも受け止められ、さらには組み伏せられてしまった。そして、茶色のガスが充満すると、終いにはピクピクと身を震わせ動かなくなってしまった。

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 それからの記憶は曖昧だ。みんなの話によると、あの後オリバーがもう一度奴の背中に乗って動きを止めた所、ヨルンの全身全霊のクロー攻撃でとどめを刺したという。勝利を得たのに、襲い来る喪失感の前に立ち尽くすしかなかった。秀夫は亡骸の前で「僕の所為でごめんね」と、すすり泣いている。

 

 「秀夫だけのせいじゃないさ。俺たちだってもう少し上手く動けていれば、こうはならなかった。」

 

 隆翔は秀夫の背中をさすって慰めている。ラッキーを失ったショックは大きい。あの子は、俺たちがテイムした初めての乗騎だった。テイムした直後にジャグラスの群れに襲われた時はどうなる事かと思ったが、幸運にも生還した。そこから、ラッキーと名付けたられたのだ。その後も遠征時だけでなく、普段の資材集めでも優れた運搬役として大活躍し、拠点の発展に貢献してくれた。それだけに、思い入れも一入だった。

 

 ペットたちも含め、今回の戦闘で俺たちは全員傷だらけになった。ミツムシのエキスを分け合って最低限の応急処置をする。モンスターにも効果があるのが不幸中の幸いだ。これで全員最低限動けるまでには回復した。

 

 「そろそろ戻らないと、夜になるニャ。」

 

 夜になればより危険なモンスターが跋扈するようになる。血の匂いを漂わせた現状で野宿をするのは自殺行為だ。俺はせめてもの手向けとして、遺品のサドルと遺体の一部を切り取った。拠点にある墓標に埋葬してあげるためだ。それから、俺たちは後ろ髪を引かれながら、無念にも帰路に付いたのだった。

 

 




 今回登場したモンスターはババコンガです。MH2にて登場した初代牙獣種の1匹です。自身の屁や糞を武器として利用し、ゲーム内では食らうと回復アイテム使用不可の異常状態を引き起こします。そんな臭さMAXのモンスターですが、実は数年前に香水がグッズとして販売されていたこともあります。
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