モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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Version16.10:奇襲燎原

 アンジャナフを討伐した余韻に浸ってしばらくの時間が経過した。ペットたちはみんな疲れている事だろうし今日はもう休ませてあげよう。取り敢えずはミツムシで傷を治してあげて、それからたらふく餌をあげよう。アオアシラもゲリョスも最初に遭遇した時は恐ろしくて堪らなかったが、今こうして触れ合ってみると頼もしく、そして愛おしく思えてくる。追従の笛を吹いて、拠点に帰ろうとした矢先の出来事だった。

 

 「アオオォーン!!」

 

 突如としてサイレンを思わせる不気味な音が鳴り響いた。この島において、あまりにも異質なその音に、俺は無意識に足を震わせていた。これまで数多くのモンスターを目にしてきて、多少は耐性が付いたつもりでいたが、まだまだこの島には恐ろしい物があるのだろう。それを証明するように、並の大型モンスターの出現では動じる事が無かったあのオリバーが、今では顔面蒼白になっており、普段の頼もしさが消え失せている。その様子から、これはただ事ではないと察せられた。

 

 「ぜ、全滅を覚悟するニャ。」

 

 オリバーは力の無い声色で呟いた。

 

 「それはどういう、」

 

 言い掛けた所、ヒューと花火が打ち上がる時の様な音が次々に響き渡る。

 

 「みんな、伏せるニャ!」

 

 俺たちは訳も分からずその場で蹲った。その次の瞬間には、グレネードなどとは比較にならない音量の爆発音が耳を劈いた。慌てて耳を塞いだが遅く、耳鳴りが止まない。周囲には黒煙が充満し、みんながどうなったのか判別する術が無い。遅れて理解した。俺たちは上空から爆撃されたのだ。まさかこの島で空襲警報が鳴り響くなんて誰が考え付くというのか。

 

 「みんな!無事か?!頼むから返事をしてくれ!」

 

 精一杯、声を張り上げるが虚しく響くだけ。俺の真横にオリバーと思しき影が辛うじて確認できた。

 

 「おい、オリバー!しっかりしろ!秀夫!隆翔!無事ならどうか返事をしてくれ!」

 

 オリバーの身体に触れると生暖かい液体が手に伝ったのを感じた。呼吸も脈も感じられない。胃の中から嫌な物が込み上げてくる。秀夫からも隆翔からも反応は一切無い。突如として訪れた孤独感に心臓は早鐘を打ち、額には汗が噴き出している。今の俺の心境を表した様な呻き声が煙の向こう側から聴こえた。こちらに向かって来るのが分かる。その声の主はなんとアオアシラのヨルンだった。先程の空爆によって全身の甲殻の大部分は砕け、至る所から出血しており、見るも無残な姿に変わり果てていた。そんな地上の惨状などお構いなしと言わんばかりに、上からは更なる爆弾が降り注いで来る。

 

 頭上に迫り来る赤く熱を帯びた物体に、俺は遂に終わりを覚悟した。その時だった。もはや生きているのが不思議な程の重傷を負ったヨルンが、最期の力を振り絞って俺の上へと覆い被さったのだ。それでも爆弾の雨は止まない。数発の炸裂音が鳴り、俺の鼓膜が破れると同時に、ヨルンは力尽きた。力強く、そして頼もしかった両拳は今はもう冷たくなっている。俺たちが一番最初にテイムした大型モンスター。この子のお陰で小型モンスターに敵対される機会はめっきり減った。それだけでなく、こんなにも無力な人間をババコンガやアンジャナフといった強大な生物と渡り合えるようにもしてくれた。最初は大型モンスターのテイムなど絶対に不可能だとばかり思っていたが、この子の存在は俺たちに新たな可能性を示し、島を生き延びるための大きな光を見せてくれた。少し顔は怖かったが、好物のハチミツや魚を食べている時の仕草は愛嬌があって憎めない可愛らしさがあった。お前の勇気に報いる事が出来ない駄目な飼い主ですまない。

 

 俺は只々、その場で崩れ落ちる事しか出来なかった。周囲の音は何も聞こえない。だが、きっと地面は燃えているのだろう。熱気だけは肌に伝わってくる。少しして、地面から衝撃が伝わって来た。それは姿勢を維持できなくなる程の強い風圧をもたらし、同時に充満していた黒煙を払い去って行ったのだった。

 

 俺の目に映ったのは惨憺たる光景だった。ゲリョスのゲンキは全身が焼け焦げた状態で息絶えており、秀夫や隆翔に至ってはもはや原型が判別出来ない程、深刻に損傷している。さらに追い打ちを掛けるが如く、俺の背後に位置する拠点からは火の手が上がっている。この数か月間、みんなで手を取り合ってなんとか維持し続けて来た努力の結晶ともいえる拠点が、たった一瞬で崩壊した。そんな事実は受け入れられない。嘘だ嘘だと、何度言い聞かせても、プラントXに点いた火は消えないし、破壊された家屋も元には戻らない。今度こそは、成し遂げられると思った。この島を生き抜いた先人たちの様に、過酷な自然に屈する事無く脱出まで漕ぎ着けると思った。島に来て最初にリオレイアに襲われた時の様な、アンジャナフに最初の家を破壊された時の様な、ラギアクルスによって希望を託したいかだを木端微塵にされた時の様な、全てを失う悲劇は起こしてなるものかと誓ったのに。今回も駄目だった。仲間も物資も、知識も集まって来て、これからは進歩していくだけだと信じていたのに。

 

 目を閉じても、止まる事は許されない。空気の振動によって発生した圧力は俺を地面に押し倒す。その拍子に俺の目に映ったのは、これまでに出会った種とは大きく異なる異質なワイバーンの姿だった。首の周りと尻尾の先端に赤熱した鱗が垂れ下がるようにして大量に生えている。俺は察してしまった。先程の爆撃は、航空機によるものでは断じてない。眼前の奴こそが、全ての元凶なのだと。ワイバーンは俺の事を視界に捉えたのか、頭を地面に擦り付け、そのままこちらへタックルの様な動きをして迫って来た。

 

 

 終わりを覚悟したが、すぐには訪れなかった。ワイバーンは動作の途中で突然怯んだのだ。ワイバーンと俺は同時に上空へ目を向ける。そこには、なんと先程の爆撃を免れたホルクのホルンが雄々と羽ばたいていたのだ。ホルンは奴の頭頂部を鉤爪で引っ掻き離脱してから、高速でのヒットアンドアウェイの戦法で目にも留まらぬ連撃を叩きこんでいる。ホルンが上空へ移動すると、奴も飛び上がった。有無を言わさずしてドッグファイトが展開される。優勢を保っているのは、意外にもホルンであった。奴との体格差は5倍以上は悠にあるが、それでも持ち前の機動力を活かして何度も攻撃を当て続けている。ホルンの両脚は奴の頭を鷲掴みにした。奴は空中で怯み、墜落こそしないものの制動を短時間とはいえ失ってしまった。ホルンは自身の何倍以上も強大な敵を前にして、臆することなく戦っているのだ。その結果、謎のワイバーンに対してマウントポジションを取れている。

 

 しかしながら、そんな形勢は長くは続かない。なんと奴はホルンがしがみ付いた状態で、急所であろう頭部を自ら爆発させたのだ。それも、奴の身体が爆炎で丸々見えなくなるほどの大きな規模でだ。そんな一撃を貰ってしまえば、幾らホルンと言えどもただでは済まない。ホルンは力なく落下し、そのまま息絶えたのだった。対するワイバーンは顔面で大爆発が起こったというのに、何処吹く風と言った様子で再び地上に降りて来る。

 

 俺は言う事を聞かない脚を無理やり駆動させて、なんとかその場を離れようと走り始めた。ヨルンとホルンの勇気を、忠心を絶対に無駄にしてはならない。必ずや生き延びて、再起を図ってやる。それだけを胸に、俺は再起を誓い、後ろを振り返ることなく足を進めた。

 

 だが、そんな思いを踏み躙るようにして、奴は飛来し俺の目の前に躍り出た。気が付けば俺の周囲には大量の爆発性の鱗がばら撒かれていた。もはや万事休す。それらは無情にも爆発し、俺は再び黒煙の中に吸い込まれてしまった。腹には大きな穴が開いている。もはや立ち上がる事も出来ない。この島はペットの良き飼い主になるという細やかな事さえ許してはくれないらしい。みんな、本当にごめん。俺はみんなの頑張りに応えるどころか、これしきの怪我でも諦めてしまう様な駄目な飼い主だ。それと、ありがとう。こんな俺に、俺たちについて来てくれて。餌とか手入れとか色々と大変な部分もあったけど、過ごした時間は楽しかった。こんな思いを味わうなら、もう足掻かなくても良いのかも知れない。俺はこれで終わり。次こそは本物の屍だ。最後に湧き上がってきた感情は諦めだった。この感情に身を任せれば、本当に俺は終われると直感出来る。もういいだろう。次起きたら、きっと寝馴れた実家のベッドの上だ。

 

 思いが駆け巡ると同時に、インプラントが明滅する。

 

 『サバイバーの人格の損傷を確認。バックアップによる復元を試みます。遺伝子データの存在を確認。解析開始。検体の時代及び国籍の同定に成功。\n Epic:B.C.21cen \n Nation:Japan \n プロセスは正常に開始されました。Error:この検体はバックアップの許可が監督者を上回る高次の管理者権限により無効化されています。コロニー内での修復は不可。プロトコルに基づき、アラットプライムとの通信を開始します。』

 

 最後の最後で煩いなあ。最後の瞬間ぐらい静かにしてくれないものか。それか、エングラムみたいにここから一発逆転できる便利な機能を提供しやがれってんだ。そんな悪態を吐いたのも束の間、熱を帯びたワイバーンの顔が近付く。そして、俺は数回に分けて奴に噛み千切られ、捕食されたのだった。厳つい顔をしておいて、おちょぼ口とは意外なもんだ。他のモンスターと比べると、案外こいつの噛み付きはそこまで痛くないのだな。そんな事を考えていると、視界が暗転し、周囲の空気も分からなくなっていった。

 

 

You were killed by a Bazelgeuse.

 

 

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