あと、今回の話の待つ者が登場しますが、口調に違和感があったら申し訳ありません。この辺りは原作の文章が英語なのでどうするか悩んだ結果です。何卒、ご理解ください。
「…きろ。起きろ、裕太。」
身体を揺さぶられる感覚と共に光が目に飛び込んでくる。それは、いつもの目に馴染みやすい自然の光ではなく、寝ぼけ眼に突き刺さる人工光だった。その所為でまともに目を開けていられない。だが、それでも不安感はあまり感じない。隣から聞きなれた声が聞こえてくるのだ。
「良かった。裕君、こっち見える?どこか痛いとことかない?」
視界が回復すると、そこはいつもの海岸でも、拠点の中でもなく、プロジェクターの様な光だけが差す何も無い空間だった。秀夫と隆翔の姿も確認できる。結局、また生き返ってしまったのか。喜びよりも前に、先の見えない不安感と全てを失った際の後悔が押し寄せてくる。ただただ、気が重いだけだ。
「二人とも、ありがとう。身体の調子は大丈夫だよ。」
「ボクもいるニャ。」
俺が言い終えると、足元からオリバーがひょっこりと顔を出した。またこうして全員が集えた事に安堵しつつも、いつもと180度異なる風景にどうも落ち着かない。
「なあ隆翔、ここがどこだか分かるか?」
「すまないが、俺たちにも分からない。みんな目が覚めたらここにいたんだ。」
みんな、俺よりも先に目覚めていたらしい。周囲を見渡すが、扉など出入り口に相当する仕掛けは何処にも見当たらない。それどころか、壁や天井なども確認できないというか、あるかどうかすらも怪しい。ホラー作品の中に迷い込んだかのような不気味さだ。モンスターパニックの次はバックルームか。心の中で悪態を吐く。
「しかし、これからどうするんだ?こんな所じゃ水も食料も満足に確保できないぞ。最悪、飢え死にして生き返っての繰り返しになる可能性だって無いとは限らない。」
俺の口からはそんな弱音が零れてしまう。
「その心配はいらないわ。あなたたちはここには長くはいられない。すぐに島に戻れるわ。」
沢山の青白い光の筋がたなびいたと思うと、それらはいずれ一つに集まり、人のシルエットを形作っていく。この姿形、見覚えがある。かつて俺が遭遇した謎の存在、「待つ者」だ。まったく、一体何の用だと言うんだ。俺は一刻も早くこの無機質な落ち着かない空間からおさらばしたいのだ。そんな俺の心境とは裏腹に、秀夫と隆翔は初めて目にする存在に驚き、目を見開いている。オリバーもまるで幽霊でも目撃したかのように、身を縮こませている。
「そう身構える必要は無いわ。取って食ったりなんてしないから。」
「待つ者」は穏やかな口調を向けてくる。何か危害を加える様な人物?ではない事は理解しているが、彼女の考えは一切掴めず意図は全く読めない。それ故、どこか恐ろしく感じてしまう部分もある。
「取り敢えずは、皆お疲れ様とでも言おうかしら。お世辞でも何でなく、あなたたちはよくやっているわ。」
何か掌の上で動かされている様な気がして癪に感じる部分はあるが、彼女の言葉によって俺に生物をテイムするという発想が浮び、大いに助けられたのは事実なので、あまり強くは出られない。
「新しい生物たちは、私がいた頃の恐竜よりも遥かに強力なのよ。それと対等に戦えるのだから上等よ。島に来たばかりの頃のヘレナは、流石にティラノサウルスと戦おうとはしていなかったから。それ以上の脅威を討ち取れたというのは称賛に値するわ。」
「それでも何もかも失ってしまったら何の意味も無いでしょう。」
そう返す俺や、みんなの面持ちは暗かった。島に戻ればまた無一文の生活に逆戻り。ペットたちだって帰って来る訳もない。もはや何の為に、失って建て直してまた失ってという無意味なループを繰り返さなければならないのか分からない。生返事をしてしまうのも無理はないだろう。
「それでも、残っている物はある。あなたたちの経験や記憶は受け継がれ続ける。だからこそ、か弱い人間は遥か天上の脅威と渡り合えるようになるの。それこそが、あなたたちのインプラントの真価。バゼルギウスは確かに強大よ。クシャルダオラも、ヴァルハザクも。でも、あなたたちの真の敵は、」
言い掛けた所で待つ者は言い淀んだ。
「おっと、これ以上はいけないわね。」
「貴女は俺たちに何をさせたいんですか?そちらからすれば俺たちは古代人も同然でしょう。意図が全く読めない。この時代の情勢は一体どうなっているんですか?」
俺は少し熱くなりつつ捲し立てた。
「そうね、今はまだあなたがそれを知る権利は無いわ。もし、本当に真実を見極めたいのなら島の火口にあるTEK洞窟、あなたたちがコントロールセンタと呼んでいる場所に行きなさい。そこでなら、真実の一端を垣間見る事が出来るわ。」
飽くまでも島で生き続けろと言うことか。どう転ぼうとも、最早モンスターとの闘争は避けられないようだな。結局そこへ行かなければならないのは変わらない、か。
「正直もう疲れました。俺は別に島の生き物への探究心がある訳じゃない。あいつらと渡り合える程の戦闘力がある訳でもない。何の意味も見出だせない、いつ終わるとも知れないこの生活に疲れたんだ。」
気が付けば、俺の頰には涙が伝っていた。同時に走馬灯の様に、失った物が頭の中を駆け巡ったのだった。
「…あなたに厳しい言葉しか掛けられない事を申し訳無く思うわ。その上で、言わせて貰うわ。もう一度挑戦しなさい。」
「そんなこと…」
「今すぐに出来なくても良い。きっと全ての経験はあなたの血となり肉となるわ。失う事は意味の無い出来事ではないわ。あなたはその度に学習して、敵を上回る成長を見せている。そんなあなたの努力はいずれ必ず実を結ぶわ。だから、歩みを止めないで。少しずつでもあなたたちは進めている。」
思い返せば、ジンオウガに倒されたあの時に秀夫たちと再会しなければ、再び生きようとしなければドスランポスやアンジャナフに一矢報いる事もペットたちを可愛がる事も無かっただろう。真実に触れた所で何が待っているのかは分からない。それでも、今の俺たちは信じるしかない。島を超えた先に希望があると。まだ元の時代に戻れる保証は無い。それでも、俺はもう一度その可能性に賭けてみようと思う。それに、あのいけ好かないワイバーン、バゼルギウスにも一発入れてやりたい気持ちも無い訳ではない。辛い道のりにはなるだろうが、それは今までも同じ事だ。疲れ果てるのは、全てが終わってからでも遅くはない。彼女の言葉に少しだけ気付かされてしまったようだ。
「あら、少し話し過ぎたようね。こうして人と会話をするのは久しぶりだったからごめんなさいね。もう時間みたいだわ。もし、モンスターとの戦いやテイムに関して知りたいのならネルヴァや、メイインという女性の記録をもっと探し出してみると良いわ。色々なヒントが示されている筈よ。」
そう語る待つ者はどこか寂しそうな声色だった。彼女が何者かは未だ不明だが、案外苦労人気質なのは見て取れる。俺たちの周囲には青く光る粒子が漂い始め、視界は徐々に白く染まっていく。これがテレポート瞬間か。ある意味で世紀の瞬間に立ち会う事ができ、感慨深い。視界が完全に失われる直前、彼女は思い出した様に言い放った。
「ああ、最後に。あなたたちロックウェルのレシピを使ってたわね。」
ロックウェル、恐らくフォーカルチリの事を言っているのだろう。俺はその問いかけに頷いた。
「これはただのお願いなんだけど、出来ればロックウェルの記録も沢山見つけてあげて欲しいの。”人としての”ロックウェルの、私の友人である紳士で学者だった頃のエドモントのことをどうか理解してあげて欲しいの。」
その言葉が紡がれると、俺たちの視界は一気にホワイトアウトした。次に目を開けると、そこは燦燦と陽光が照らすいつもの海岸だった。