モンスターだらけのARKを生き延びろ   作:あるこばれの

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Version17.1:草食島

 俺たちは再び島の大地を踏み締めている。あのバゼルギウスによる惨劇からそう時間は経っていないらしい。その証拠に、焦げ臭い臭いが未だ周囲を漂っており、残り火も燻っている。みんなの眼前には見るも無残な有様の元拠点が倒れている。家屋は燃え尽き、申し訳程度にその痕跡が伺える程度の黒い塊に成り果てている。拠点外周のスパイクウォールや菜園に至っては初めからそこに存在しなかったかのように、跡形もなくなってしまった。そして、ペットたちだった物と思われる黒焦げの肉塊が点在している。分かっていた事ではあるが、実際にその光景を改めて見せつけられると胸が痛くなる。これ以上は直視できない。俺の隣では、秀夫が文字通り膝から崩れ落ち、虚ろな表情を浮かべている。

 

 「二人とも、そう気を落とすな。また頑張ればいいさ。」

 

 隆翔が俺たちの肩を掴み、慰めの言葉を絞り出している。

 

 「そう言うお前が一番ショックを受けてる癖に。」

 

 俺は知っている。こういう時、一番脆いのは隆翔なのだ。その証拠に今も隆翔の目からは滝の様に涙が溢れている。この数ヶ月粉骨砕身で研究し、維持し続けた畑や蜂の巣が無に帰ったのだ。無理もないだろう。

 

 「みんな悲しんでばかりじゃいられないニャ。夜になる前に寝床やたき火を整えないとまたやられちゃうニャ。」

 

 確かにオリバーの言う通りだ。今はちょうど太陽が天辺にいる時間帯だ。急がなければ日の入りまでに間に合わない。俺は消沈している二人の耳に入るよう、わざらしく大きく手を叩いた。

 

 「みんな聞いてくれ。」

 

 俺が声を張り上げると、二人は顔を上げた。

 

 「暗くなるまでもう時間が限られている。今日の所はここから少しだけ移動して、最低限の準備だけでの野営を行おうと思う。俺と隆翔は木材やわらを集める。秀夫は繊維を集めて、エングラムから服を作ってくれ。オリバーは今夜を凌げるだけの食料を確保して欲しい。」

 

 それから、スイッチが切り替わると、みんなの行動は素早かった。辛うじて生き残っていた導蟲を連れ出し、移動が始まった。安全のため拠点があった位置からは海岸に沿って南下し、赤オベリスクの近くにまで来た。アンジャナフやバゼルギウスの襲来からそう時間も経っていないため一先ず、ケルビの群れが確認できる程の安全な地帯まで退避する事を選んだのだ。そこで俺たちは数本の木を伐採し、四人が雑魚寝できるだけの小さな藁小屋とたき火を拵えた。秀夫は、持ち前の器用さで四人分の着衣を上下用意してくれた。ただ、皮の確保が出来なかったため、靴は作れず、藁を編んだだけの簡易的な草履で代用せざるを得なかった。秀夫の作業の速さには毎度頭が下がる。オリバーは食料となるケルビの肉を確保してくれただけではなく、地中を潜行して森へ赴いて大型モンスターの糞と思しき物を調達してくれた。これを小屋の周囲にばら撒いておけば、ランポスやルドロスといった小型の肉食動物への忌避剤となる。たき火はブナハブラをおびき寄せないために消す必要があるので、こうする他ない。食事中や寝る時に臭いのは辛いが、一晩限りの仮住まいなので辛抱するのが吉だ。ここ最近は安全が確保された拠点で寝起きをしていたので、久しく忘れていた恐怖を思い出す。こうして、再々出発の初日は蒸し暑い藁の床と、香しい臭気に包まれて終わったのだった。

 

 翌朝、無事五体満足で夜を明かせたことに安堵しつつも、俺たちは日も登り切らぬ早朝から行動を始めた。

 

「裕太、取り敢えず俺は移動用のメルノスをテイムしようと思うのだが、問題ないか?」

 

 隆翔が提案する。拠点の場所はどの道移すつもりだ。新たな候補地探しのためにも飛行する手段は是非とも押さえておきたい。早く確保できる程、俺たちにとって有利になるはずだ。

 

 「ああ、任せる。空を飛べるだけで安心感は段違いだからな。それと、拠点の候補地についてみんなの意見を聞きたいんだ。またこの海岸に建てても前みたく壊されるかも知れない。」

 

 「それなら、ここから北東に行った先にある草原がいいんじゃないかな。海岸から見て高台になってるし、見晴らしも良いし。それに、あの辺りはムーファとかモスとかの群れをよく見かけるから安全そうではあるよ。」

 

 確かに秀夫の案は良さそうだ。あの一帯なら土壌も肥えているし、土地も広い。前に散々お世話になった畑を作るにも好都合だ。

 

 「ボクは草原地帯は止めておいた方がいいと思うニャ。」

 

 「どうしてだ?」

 

 「あの辺は時折、草食動物を狙った肉食が現れるニャ。頻度はそんなに高くないけど、リオレイアやリオレウスの狩り場になることもあるニャ。拠点を守るっていう意味では海岸よりも難しいと思うニャ。」

 

 なるほど、やはりそう単純にはいかないか。安全な部類に入る海岸でもあの様だ。再び基盤を確立出来るまで持ち堪えられる立地を慎重に選びたいが、どうしたものか。

 

 「なあ、オリバー。無理を承知で聞くが、どこか穴場的なモンスターが現れにくい場所に心当たりはないのか?」

 

 オリバーはしばし唸った後、絞り出すように答えた。

 

 「無い、事はないニャ。ただ、そこだと前の拠点よりも不便になるニャ。”草食島”って呼ばれる環境生物や草食動物、メルノスとか大人しい生物しか生息してない島があるニャ。記憶が正しければ、地上の肉食生物は来ることは無いし、飛竜の縄張りでもなかったと思うニャ。場所はここから南東に少し沖合に出た場所だニャ。一応、本島から見える位置にあるからそんなに遠く離れてはいないニャ。ただ、泳いで行くのは無理があるニャ。だから、空を飛ぶか、いかだで向かうしかないニャ。」

 

 離島に居を構えるのも、オリバーの言う通り案外悪くない選択肢だと思う。それにしても海、か。前の拠点の時は赴く事はついぞ無かったが、いよいよ本格的に意識する必要が出てきた。正直、この島の海にはトラウマしかない。ラギアクルスに襲われた時の絶望感は昨日の事の様に覚えている。陸棲のモンスターや環境生物ではあれを何とか出来るビジョンは全くと言って良い程浮かばない。移動中に遭遇したらと考えると、それ程恐ろしい事は無い。

 

 「気になったんだが、海のモンスターの危険はどうなんだ?例えばラギアクルスとか。」

 

 「ラギアクルスは南の方の海にはあまり出て来ないニャ。ボクも詳しくは知らないけど、あいつらの巣は海底の洞穴にあるらしいから、この辺なら襲われる危険は少ないニャ。代わりに、ロアルドロスやたまにガノトトスが来るかもしれないニャ。ただ、あの辺りの海域に現れる事は稀ニャ。」

 

 ロアルドロスであれば、上手く地上に誘導できれば環境生物や騎乗可能な生物と協力すれば討伐には持って行けるだろう。しかし、問題はガノトトスの方だ。ガノトトスは、比喩など抜きに魚に脚が生えた生物だ。リオレイアを上回る恵体を持ち、それから繰り出されるタックルや突進は強力の一言だ。さらにその上、ウォータージェットカッターを思わせる高圧の水ブレスを放つ事が出来る。被弾した日には、間違いなく人間の身体どころか鋼の板ですら真っ二つにされる事だろう。おまけに、牙やヒレには昏睡作用のある毒まで持っているという。俺は空の上から遠目でしか見た事は無いが、生半可なモンスターをテイムした処で太刀打ちなど出来やしないのは明らかに見て取れた。

 

 草食島移住に当たっての懸念点は多いが、それは海岸に棲み続ける場合においても変わらないだろう。あんな化け物が出た以上、もはや安全とは言えない。であるなら、一度試してみるのもアリと言えるだろう。

 

 「取り敢えず、メルノスが確保出来たらその草食島って所に行ってみないか?実際に見て判断した方が良いと思うんだ。」

 

 「それなら、一応本島側にも小屋を置いておくのはどうかな?その草食島から見える場所にもう一つ小屋を建てるんだ。あと、今の藁小屋も残しておいて損は無いと思うよ。木製に変えてスパイクウォールで囲んでおけば少しの間は持ちそうだし。リスクを分散するという意味でも複数拠点を持っておくのは理に適ってると思う。」

 

 「秀夫、ありがとう。隆翔とオリバーがメルノスを探してくれている間に小屋の建て替えは俺たちでやってしまおう。」

 

 こうして、俺たちは各々の持ち場に就いた。木の伐採や建材の作製にも慣れたもので、秀夫と二人で作業しているとたちまち簡易的な木造小屋とそれを囲む棘の柵が完成した。我ながら、漂流して来た頃と比べれば見違えた物だと感心する。

 

 「まだ隆君たちが戻るまで時間が掛りそうだから、いかだ作りに取り掛かるよ。」

 

 「なら、俺は収納ボックスとか釣り竿とか必要になりそうな物を作っとくよ。終わったらそっちを手伝う。」

 

 鉄器を扱う事に慣れてしまっていた所為か、石器で木材を削るのは中々に骨が折れた。失ってみると文明の利器のありがたみがひしひしと身に染みる。幸いにも周囲には肉食竜や大型モンスターの気配は無い。呑気に日向ぼっこをする数匹のガーグァとその背中に乗った白い鳥、フワフワクイナのさえずりを背景に、俺は黙々と作業を続けた。三時間ほど掛けて人数分の収納ボックス(小)と釣り竿、さらに一つではあるがすり鉢とすりこぎを用意する事が出来た。秀夫の方に目を向けると、既にいかだとパドルを完成させていた。昨日の内にオリバーにケルビを狩って貰っていたのが功を奏したらしい。皮を用意できたことで、ネックであった帆の部分の作製も円滑に進められたそうだ。現在時刻は正午。俺たちは焼肉とベリーで疲れた腹を満たしたのだった。

 

 しばらくして、隆翔とオリバーが三匹のメルノスを伴って帰ってきた。人数分には一匹足りないが、発見できなかったものは仕方が無い。二人が無事に戻ってくれただけでも御の字だ。それから、ほどなくして草食島へ向かう準備を始めた。今は風向きが悪い。そのため、いかだではなく空路での移動と相成った。俺たちはメルノスに肩を掴ませ、草食島への空路に着くのだった。オリバーは俺の脚にしがみ付いて一緒に飛行している。中々にきつそうな体勢だが、オリバーにとってはそうでもないらしい。全身に当たる風が心地良い。眼下には、水面から顔を出すエピオスや、ジャンプをするローゼルフィンが映る。照り返す陽光と水面に移る色とりどりの魚群の姿も相俟って、幻想的な趣を感じさせる。

 

 あれから特に大きなアクシデントも無く、俺たちは草食島に着陸する事が出来た。島は歪な潰れた三日月の様な形をしており、窪みに当たる部分は入江になっているため、いかだを停泊させるのにも困らないだろう。島の広さも十分だ。俺たちの住居やいくらかの畑を作れ、さらには数匹の大型モンスターを置けるだけスペースは確保できると思う。ただし、ここを拠点にするのなら飛行や遊泳に長けたモンスターを優先してテイムする必要が出る。

 

 島に息づく生物たちも事前の話通り、草食島の名が示す通り穏やかで心癒される面子ばかりだ。カモシワラシやにが虫といった生活に必須な環境生物や、どこから渡って来たのかケルビやムーファといった大人しめな草食動物の姿しか見えない。上空ではメルノスが優雅に飛行している。確かに島全体の探索をするという意味では不便な立地ではあるが、一番安全と言える海岸沿いでさえもあの有様なのだから、もう四の五の言っていられる段階に無いのはよく理解している。まともな戦力が整うまでは、リスクはなるべく避けていきたい。

 

 「ベリーも自生しているし、土壌の質も悪くない。島の主要な場所に行くのに海を渡る必要があることを除けばかなり良い立地じゃないか。」

 

 「見て。僅かだけど鉄の鉱脈もあるよ。ここなら邪魔も入らないし、安全に採掘できそうだね。」

 

 隆翔も秀夫も草食島での生活には乗り気なようだ。この様子なら生活基盤を整えるにもそう時間は掛からないだろう。

 

 「暗くなる前にいかだと資材をここに運び込もう。ここなら夜間でも安全に過ごせるはずだ。」

 

 それから、俺たちは風向きが変わるのを待ち、いかだにベッドやツール類など最低限の生活物資を載せ、草食島まで運び込んだのだった。これからの移動手段は、速度を重視した飛行生物によるものと、積載量を考慮したいかだによるものの使い分けになりそうだ。作業が終わる頃には既に辺りは暗闇になっていた。島の夜は意外にも冷える。俺たちはたき火を囲んで暖を取りつつ、今後の事について話している。この辺りはブナハブラの生息域から外れているので気兼ねなく火を維持できる。むしろ、海から来襲するルドロスへの対策となるため夜を明かすには必須の代物と言える。

 

 目下の目的は居住環境の整備だ。それが済み次第、畑作の準備もしたい。戦闘用の物資の多くが農作物由来である以上、最優先事項ともいえる。それと同時に並行して行いたいのが、草食島から見て対岸の本島に倉庫を建てる事だ。全ての物資を海上輸送するのは手間もリスクも大きい。理想を言えば、重要な物資だけは安全な手元で管理するようにし、探索用の道具や資材などは向こうに置いておくのが良いだろう。それに加えて、テイムした陸棲生物の係留地にもしたい。飛行能力のある生物ならば安全な拠点内で匿う事も出来るが、流石にアオアシラの様な大きな生物をいかだに乗せるのも、泳がせるのも無理がある。ただ、本格的にそういった試みをするのは、戦力が充実してからになるだろう。最低でもアンジャナフぐらいは御せる強さのある生物、欲を言えばバゼルギウスに一太刀浴びせられるモンスターが必要だ。

 

 やる事は山積みだ。明日の朝は早いだろう。俺たちは一日の最後に水で質素な乾杯を交わし、休息についたのだった。




 
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